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■■ 内田誠のニュース&コラム「遠きより」
■■ 2005/08/14【025号】
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《第二十五号発行にあたって》
小泉首相が8月15日の靖国参拝を回避する方向だという朝日新聞の報道があ
りました。自民党サイドからもそのような情報が伝わってきています。本当にそ
の通りなら、嬉しいことに私の予想は「外れ」となりますが、記事の中身を見る
と、どうも見出しが先行しているような感じで、「ホントかね」と訝りたくなりま
す。まあ、結果は明日分かりますから、その後にまた少し話題にすることにしま
しょう。
靖国に関しては、高橋哲哉『靖国問題』(ちくま新書)が非常にまとまった内容
で読ませます。営業的にもかなりの成功を収めつつあるらしく、ストレートにい
えば「滅茶苦茶に売れている」。ただ、売れているのは高橋本だけではない。今、
大型の書店に行くと分かりますが、「靖国コーナー」のようなものができていて、
高橋本は勿論、とにかくタイトルに「靖国」とついていれば売れるだろうという
目論見で書かれたらしき本が堆く積まれています。読者で関心のある方は、一度
覗いてみてください。もしも一冊を選ぶなら高橋哲哉さんの本がベストだと私は
思います。
さて、御巣鷹山事故関連の記事、続きといきましょう。
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《御巣鷹二十年目の夏に(下)》
■「隔壁説に異議あり!」
今から18年も前のことになるが、87年3月9日にニュース・ステーション
の特集として放送された「隔壁説に異議あり!」は、有り難いことに大変な好評
を得た。内容は、パイロットたちが伊豆の山中で機体残骸の捜索を行ったり、実
際に急減圧が起きた別の事故のケースを比較したりということを中心に、「隔壁
説」に対する異論を整理するものだった。VTRのなかには、事故調査委員会
(以下、「事故調」と略す場合がある)の武田峻委員長への「突っ込みインタ
ビュー」も含まれていた。その日の早朝、迎えのハイヤーに乗り込もうとする
武田委員長に対し、私はパイロットたちが感じている「隔壁説」への疑問を次々
とぶつけていった。委員長は総て言下に否定した上、「こんな仕方でしか取材
できないのか!」と声を荒げ、ハイヤーのドアをバタンと閉めた。その直後、
走り去ろうとするクルマの後部座席で、武田委員長が確かに大きく笑ったように
見えたのが、私のなかに小さな疑問として残った。あの笑顔は何だったのだ
ろう。その答えは、放送の二日後にはっきりすることになる。
正確な数字は記憶していないが、視聴率が仮に10パーセントあったとすれば、
日本中でおよそ一千万人の人々が「隔壁説に異議あり!」の放送を見たことにな
る。当時、ニュース・ステーションは番組開始当時の低迷を脱し、スペースシャ
トル・チャレンジャー事故やフィリピン政変(マルコス失脚)をきっかけに高視
聴率番組に成長しつつあったときで、私たちの特集も視聴率10パーセントは間
違いなく超えていただろう。
■歓迎されない取材?
当時、事故調の結論と目されていた「隔壁説」に疑問を投げかけることは、タ
ブーとまではいえなかったにせよ、周囲にかなりの波風を立てることにつながっ
た。実際、取材中、奇妙な出来事がいくつもあった。たとえば、企画に参加して
いたディレクターの一人(テレビ朝日社員)は、「運輸省の結論が間違っていると
いう前提の企画には協力できない」と怒りだしてスタッフを降りてしまったし、
別番組を担当する一人の社員が突然私のところにやってきて、猫撫で声で「どん
な内容の特集になるのかなあ」と放送内容を聞き出そうとしてきた。この社員と
言葉を交わしたのはこのときが最初で最後になったが、質問の理由を尋ねると、
「日本航空のなかに知人がいて、放送の内容について心配している」とのことだ
った。テレビ局の社員の中には、複雑な利害を背負った人たちがいるのだなあと
驚いた記憶がある。この企画の取材は、「各方面」の注目を浴びながら、進行して
いった。
■リークの本質と威力
しかし、放送後に起こったことは、取材中の出来事に比べ、遙かに想像の範囲
を超えたものだった。放送の翌々日、3月11日水曜日の朝日新聞夕刊を手にし
た私は、思わず絶句してしまった。一面トップに信じられないタイトルが踊って
いたのだ。
「日航機事故調査委が最終報告書原案 <垂直尾翼、瞬時に破壊>」
記事の冒頭には次のように書かれていた。
「60年8月に墜落した日本航空ジャンボ機事故の原因を調べている運輸省航
空事故調査委員会(武田峻委員長)がまとめた最終事故報告書の原案の内容が1
1日、わかった。事故は、ボーイング社が修理ミスを犯した客室後部の圧力隔壁
に金属疲労によって亀裂が広がり、飛行中に隔壁が一気に破裂し、爆発的な空気
流が音速で機体の後部を襲い、垂直尾翼を瞬時にして破壊し、操縦不能に陥った、
としている。」
記者がこういう書き方をするとき、それは例外なく権力機関によるリークの産
物と考えてよい。最初の文章をもう一度見て欲しい。「最終事故報告書の原案の内
容が11日、わかった」とある。事故調の関係者が朝日の記者をこっそりと呼び
だし、他のマスコミ各社に気付かれぬよう、「報告書原案」のコピーを密かに手渡
している光景が容易に想像されるではないか。事故調は、朝日の記者を使って〈報
告書は「隔壁説」でいく〉という宣言をしてみせたのだ。二日前にテレビ朝日が
報道した中身を100パーセント否定するため、わざわざ朝日新聞を選んでリー
クしたのだろう。「朝日」によって「朝日」を否定させるのが、あの放送の影響力
を減殺させる最も効果的な方法だからだ。因みに、実際に事故調の報告書が提出
されるのは6月19日。その三ヶ月前にわざわざ「隔壁説」を強調する必要が生
じたのは、まさしく私たちの放送が「隔壁説」に大きな疑問を突きつけたからに
違いない。それ以外に理由は考えられない。さらにいえば、事故調には、何が何
でも「隔壁説」を押し通さなければならない政治的な理由があったということだ
ろう。正直言って、「やられた」と思った。
■リーク「する側」「される側」
しかし、リークをもとにした記事を書く場合でも、普通はもう少し批判的な視
点を付け加えるものだが、ひたすら事故調の主張を丸ごと紹介しているだけのこ
の記事には、ジャーナリストが持っているべき羞恥心のかけらも見ることができ
ない。朝日新聞は、情報をもらうことと引き替えに、事故調が要求した相当に窮
屈な条件を呑んでしまったものと想像される。記事はこの後、さらに問題のある
記述に入っていく。
「524人の乗員・乗客のほぼ全員が、山中への激突による衝撃のため全身打
撲、脳損傷、内臓破裂などを受けており、奇跡的に助かった4人のほかは「即死
もしくはそれに近い状況」だったとみている。」
四人の生存者のうち、落合由美さんは、墜落後もしばらくは周囲で人の声がし
ていたことを証言しているし、川上慶子さんは、父や妹と言葉を交わしたと言っ
ている。こうした証言を真っ向から否定するような内容を事故調は「報告書原案」
に書き込み、その内容を朝日新聞は実にストレートに紹介してしまっているわけ
だ。事故調は、救援が遅れた問題を小さく見せかけるために、生存者の証言を意
図的に無視した可能性がある。当時はまだあまり明確になっていなかったが、真
っ先に現場に到着していた米軍ヘリがあったのに、自衛隊の要請によって現場を
去ってしまったということが後に判明している。救出が早ければ、四人以外にも
助かる人がいたかもしれないのだ。
■二十年目の「真相」
今年は事故から二十年の節目にあたるからか、慰霊の登山に向かった遺族も多
かった。また、テレビの特集番組、新聞の関連記事も多数に上った。4ヶ月前に
起こったJR西日本福知山線の脱線事故の記憶もまだ新しく、交通機関の大事故
には視聴者・読者の関心が高いと踏んだこともあったのだろう。だが、日航ジャ
ンボ機が何故墜落してしまったのか、その原因として「確定」したかに見える「隔
壁説」に挑んだものはごく少なかった。そんななか、8月12日付朝日新聞が、
「急減圧なかった」という見出しで、生存者への聞き取り記録をもとに事故調批
判の記事を載せているのを見つけた。私はただ、苦笑するしかなかった。記事内
容のほとんど総てが、18年前に私たちが紹介し主張したこととなんら変わらな
い。記事末尾近くに、こんな記述もあった。
「一方、当時の事故調査委員長だった武田峻さん(83)は『結論には自信を
持っている。ただ、客室の空気の流れなど、圧力隔壁破損という主原因と関係な
いと判断したことについては細かく精査しなかった。それに、証言は証拠より信
用度が低い』。」
■再調査は?
「隔壁説」は今も健在だ。事故調は「事故調査は公式に終了した」と繰り返し、
既に膨大な資料を廃棄処分にしてしまったという(前号でも紹介した米田憲司『御
巣鷹の謎を追う』を参照のこと)。そして、今また、これまで日本航空が保管して
きた残骸や遺品の焼却を目論んでいるようだ。しかし、何年たっても、問題は消
滅することはない。生存者たちの証言を重く見るなら、事故調査委員会は再調査
に着手すべきだろう。この夏、各地で頻発している小規模の事故や不具合が、大
事故になってしまう前に。
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■編集後記
御巣鷹事故に関する配信は前回と今回の二回で終わりです。リーク問題につ
いて何かに書き記す機会があるとは思っても見ませんでしたが、こうしたメルマ
ガに残すことができ、ある種の責任を果たしたような気持ちです。
お気づきでしょうが、今回の記事では「本当の事故原因は何だったのか」とい
う最も重要な疑問には基本的に応えていません。もちろん、「隔壁説」を否定する
以上、事故は尾翼そのものの破壊から始まったと考えるのが当然と言うことにな
ります。内部説、あるいは謀略じみた外部説(米軍のミサイル衝突など)があり
ますが、事故原因に関する継続的な取材を筆者が行ってきたわけではなく、そこ
は敢えて本文での言及そのものを避けました。その点では、何度も紹介する米田
憲司『御巣鷹の謎を追う』がギリギリのところまで迫っていますので、どうかご
覧頂きたいと思います。
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■内田誠の書籍のご案内
※インターネットでのご注文は以下のサイトを参考に。
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3f4abf61367c50104747?aid=&bibid=02366824&volno=0000
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発行者:内田 誠
((有)内田誠事務所)
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