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■■ 内田誠のニュース&コラム「遠きより」 
■■                       2005/03/27【018号】
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 《第十八号発行にあたって》
  来日したライス国務長官は、やはり牛肉輸入再開の時期を明示しろと強談判に及ん
だようでした。日本側は公式には「時期は明示できないと言った」とされていますが、
小泉政権のアメリカに対する卑屈な対応ぶりの数々を考えれば、それをそのまま信じ
ることはできないでしょう。

  ライス氏は、講演と記者会見の場で「国際的な、科学に基づいた一つの標準」なる
ものをキーワードに、まるでこれまでの日本の対応が「非科学的」であったかのよう
な口振りでした。既に日本政府は屈服させているのだとすれば、この言葉の矛先は、
日本人全体に向けられていると言わなければなりません。アメリカ産牛肉の輸入再開
が「成功」するかどうかは、市民の反発がどのくらいのものになるかに掛かっている
ということが、頭の良い彼女には理解できているのだと思います。

  しかし、アメリカの政治家が「科学」を言い立てるのを真に受ける必要はもともと
ありません。ただ、彼らが「国益」(本当は、市場を独占するアメリカ食肉業界の利益)
を追及するための道具として「科学」をどのように使おうとしているのか、注意して
見ておく必要があると思います。

  それにしても、吉野家の動きが気になります。彼らはその署名運動でも一貫して「3
0ヶ月齢未満の牛の輸入全面解禁」を主張していて、そうでなければかつてのような
牛肉のボリュームを確保できないからなのでしょうが、だとすると、今食品安全委員
会などで進められている「輸入再開」に向けた動きでは、到底、吉野家の要求を満足
させることはできない。仮に、このままの流れで「20ヶ月齢以下」を検査除外して
よいことになったとしても、アメリカ政府はただちに「30ヶ月齢未満」の解禁に向
けて、圧力をかけ直してくるでしょうし、それに呼応して吉野家をはじめとした国内
外食産業業界の動きも出てくることでしょう。別の機会に詳述しますが、「吉野家の主
張」=「アメリカ政府の主張」という関係を分析する必要がありそうです。

  そんな中、明日の月曜日になりますが、3月28日、注目の食品安全委員会プリオ
ン専門調査会の会合が開かれます。アメリカ政府筋による輸入再開圧力がどのような
形でこの会合に影を落とすのか、しかと見届けなければと思います。今回は、会合の
開始時刻は明記されていますが、終了時刻は書いてありません。結論が出るまで、と
ことんやるぞということのようです。かつてないほど重要な会議になりそうです。傍
聴記はできるだけ早くお届けしたいと思います。
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■BSEリスク計算の落とし穴
  前号で、昨年9月に東京で開かれた食品安全委員会の意見交換会の席で私が行った
発言について触れました。
  理由は定かではありませんが、この日の発言記録が食品安全委員会のホームページ
上に公開されるまでに、150日以上という異例に長い日数がかかりました。その記
録の中から、今回、私の発言部分を採録することにいたします。
  この日は、同委員会の「中間とりまとめ」が出された直後で、当然ながら「20ヶ
月齢以下の牛のBSE検査除外」に議論が集中しました。私は敢えてその論点を避け、
委員会の最も本質的な仕事である「日本のBSEリスク評価」に関わることとして、
自分の取材に基づいた発言と質問をしました。
  私が指摘したかったのは二点。一つは、死亡牛検査が実施されるまでの間に、ハイ
リスクグループが安楽死などの方法によって抹殺されていたという事実です。安楽死
は全国の牧場で行われ、北海道・十勝地方では生きたままレンダリング工場に大量の
牛が搬送されるという信じがたい出来事がありました。そのことを勘定に入れずに、
これまでに判明した感染牛の頭数だけでリスクを算定するのは間違いだと言いたかっ
たのです。言い換えれば、食肉処理におけるBSE全頭検査(スクリーニング検査)や
死亡牛検査によって判明する感染牛の頭数は、かなり控え目の数字である可能性が高
いのだということです。
  もう一点は、日本で人間に対する変異型ヤコブ病のリスクを考える上で、特定危険
部位が人間の口に入ったのか否かについてのデータが決定的に重要だということです。
食肉処理過程で脳を含む内臓がどのように流通しているかについては、農水省や厚労
省は本来データを持っているべきであり、それを公開させる努力を食品安全委員会が
行ったかどうか、これを質したいと思い、質問しました。
  こうした「意見交換会」では仕方がないことですが、発言時間はわずか2分と限ら
れ、なかなか再質問まで許してもらえない状況で、なんとかぶつけておきたい事実だ
けは出しておくというような作戦でしたので、分かりにくいところがあるかもしれま
せん。その点はどうぞお許しください。
http://www.fsc.go.jp/koukan/risk160916/160916_tokyo_gijiroku.pdf
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○BSEの問題を調べています内田と申します。
  この報告書(「中間取りまとめ」のこと)の中で私が一番疑問に感じておりますの
は、4ページの「はじめに」のところの23 行目の最後から、「これらの検査によって
我が国のBSEの汚染状況が短期間でおおよそ把握されたといえよう」という、この
基本的な評価です。これはスクリーニング検査と死亡牛検査でおおよそのBSEをあ
ぶり出したという評価なのですが、いわゆる死亡牛検査に関しては、ヨーロッパでは、
普通のと畜牛に比べておよそ30 倍の頻度で見つかるという報告があったり、日本で
も、早い時期から死亡牛検査を早くするようにと、きょう、小野寺先生もいらっしゃ
っていますけれども、さまざまなBSEの専門家の方がおっしゃっていました。
  しかし、法律ができたのが1年7カ月後、そこには北海道が含まれないという非常
に問題のある形で死亡牛検査が経過していますね。そこは実はまだ1頭しか見つかっ
ていないわけですね。これが見つからないでおいて、BSEの全体像がわかったとい
うふうな言い方は、評価としてはおかしくて、こういうスクリーン検査あるいは死亡
牛検査を後から始めたにもかかわらず、わからなかったんだというふうな評価が基本
だと思っています。
  それを前提に、人間へのリスクの問題で1つ質問をしたいと思います。それは、日
本にかつて何頭ぐらいの感染牛がいたか、あるいはそれを我々がどう食べたのかとい
うことが、人間へのリスクにかかわるわけですけれども、その場合に一番重要になっ
てくるのは、恐らく特定危険部位を日本人が食べたのか食べないのかということだと
思います。これはいわゆる文化の問題として、日本人は牛の脳を食べないという言い
方で一括されてしまうのですが、厚生労働省はと畜場を管理されています。あるいは、
食肉流通を農林水産省が管理されていますね。こういうところから、日本における脳
を含む内臓の流通といったような問題について、食品安全委員会でそれに調査結果を
求めて、議論された経過があったのかどうか。それこそが恐らくデータの中で一番基
本になるものだろうと私は思っていますので、0.1 とか0.9 とかいう話のひとり歩き
というふうな次元の問題ではなくて、一番重要なそういうことについて調べられた経
過があるのかどうかについてお聞きしたいと思います。

○司会 それでは、小野寺先生、よろしいですか。

○小野寺専門委員 死亡牛の検査に関しては、恐らく今年からある程度100%という
か、講演スライドに吉川座長は1年間に7万頭と書いてありましたけれども、実際は
計算したら意外と多くて、1年間に大体10 万頭ぐらいの数で検査しなければいけな
いということになっています。
  死亡牛検査が、本来はBSEに関する特別立法のあった直後から始めた方がよかっ
たんですけれども、要するに、対策が遅れたというのは、一にも二にも死亡牛を検査
した後、結局、SRMが残っている死体をどう処理するかということだったのです。
それは、実際いろいろ苦慮があったわけですけれども、実際はその死体を全部焼却し
なければならないわけで、それに関して、そのための焼却炉がないとか、いろいろそ
ういうことがあったのです。実際にそれが今年からちゃんとできるようになったとい
うのは、結局、死体をまず死亡牛だけのレンダリングですか肉骨粉化というラインが
できて、肉骨粉化したものを改めて焼却するということで、焼却炉がある程度少なく
ても済むようになったといういきさつがあって、そういう対策に到達するまでなかな
か時間がかかった。もっと早くやればよかったとは私も思っています。

○司会 吉川座長、SRMを食べたのを計算に入れたかどうかということでござい
ますが、いかがでしょうか。

○吉川座長 単純に答えれば、そういう食習慣のバイアスを、何ポイントをどうい
うふうに加算するかということは考えませんでした。実際に先ほどいったように、各
国、最終的に食肉に対しての交差汚染ということを最大のリスク要因として考えてい
たので、日本は、イギリスのような機械回収肉制度はない。しかし、と畜場での交差
汚染は当然ゼロではないという厚労省の研究班のデータもあります。
  そういうものをイギリスに対して日本のリスクポイントをどこまでに絞るかとい
うのは、正式な値を入れれば最も正確になるとは思うんですけれども、実際にあそこ
で単純比例計算したのは、あそこで星印を入れておきましたけれども、機械回収肉の
ような制度がなくて、あるいはフランスのように脳をパテとして食するような食習慣
がなかったので、比例計算はしているけれども、実際に日本のリスクはそれより低い
だろうという注釈をつける格好で全体を解釈して、そういう意味では、あそこでの単
純比例計算は、最大のイギリス並みの危険率を持ったと単純に計算して、補正で0.1
〜0.9 であるという考えです。
  それから、死亡牛検査の件ですけれども、確かに日本は一義的にスクリーニングと
して食肉検査の方を、人へのリスクを最初に最優先したものですから、サーベイラン
スとして全頭の汚染を調べるための死亡牛は随分おくれた。それはそのとおりだと思
います。ただ、僕自身、シナリオの中で最初に計算したように、死亡牛が、小野寺先
生は10 万頭といいましたけれども、120 万〜130 万頭のうちの大体1割弱で、健康
牛に対して死亡牛あるいは異常牛の割合が大体20〜40 倍とEUのが出ているので、
その比例計算でと畜場に回ったのがこの率であるとすれば、検出はできなかったけれ
ども、死亡牛、異常牛に回ったのがこのくらいの率であるということは、次の回転の
リスクの原計算としては入れてあります。

○内田 とてもストレートにお答えいただいてありがとうございました。
  死亡牛検査については、実はおくれた間に、いわゆる96 年3月、4月生まれの、
恐らくこのぐらいが危ないだろうといわれた年齢の牛に対して、日本中で安楽死が行
われて、大量に殺されているという事実があると思います。今まで12 頭出たうち、
実は北海道の十勝地方から1頭も出ていないのですね。取材の経験上、あそこから出
ないはずはないだろうと思っていたんです。これはいろいろ語弊がありますけれども、
非常に組織的に、生きたまま、牛をレンダリング場へ運ぶというようなことが現に行
われましたので、もしかしたらその中に感染牛がいたかもしれない。
  もちろん見つかれば大変な風評被害をこうむったわけですから、農家は必死だった
わけですけれども、そういう経過があって、日本のBSEは見えなくなっている。計
算上、死亡牛の分も出されているというのはよく承知しておりますけれども、その牛
がどういうプロフィールの牛であったかということは、もうわからなくなってしまっ
たわけで、そのことはやはり問題だと思っています。
  それから、いわゆる特定危険部位の流通の問題では、農林水産省は、特に食肉鶏卵
課の食肉流通班などは、恐らく内臓の流通については知っておられると思うんですよ。
それを食品安全委員会あるいはプリオン専門調査会の方で、データを出させたのかど
うかということを実はお聞きしたかった。そういう資料を農林水産省はお持ちだと思
いますので、それはできた仕事だったんじゃないかなと残念に思うものですから、お
聞きしたような次第です。以上です。

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■私の言語能力の未熟さのせいで、どうもピシッとしていませんが、なんとなく言い
たいことがくみ取っていただければ有り難いところです。再質問のところで「とても
ストレートにお答えいただいてありがとうございました」とわざわざ言っているのは、
少なくとも半分はホンネで、やはり「日本人は脳を食べない」という言説を前提にし
てしまって、リスク計算をしていたということが分かったのは収穫でした。
 国内初の変異型ヤコブ病患者の存在が明らかになった今、この問題はいよいよ重要
性が高まったと言えるように思います。勿論、私の指摘は一応「過去のリスク」につ
いてのものですが、人から人への感染の心配から厚労省も献血制限を極めて厳しく改
訂したことに見られるように、国内にどのくらいの感染者がいるかという問題は、「現
在のリスク」にもつながっているわけです。
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発行者:内田 誠 ((有)内田誠事務所)
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