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■■ 内田誠のニュース&コラム「遠きより」
■■ 2004/10/24【014号】
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《第十四号発行に当たって》
アメリカ産牛肉の輸入再開問題が正念場を迎えつつあります。今回は予定を変更し、
この間の動きを整理する意味も含め、前号に続いてこのテーマでお届けします。
ところで、問題が大きく展開するなか、8月に凄いタイトルの本が出版されていま
した。ドナルド・スタル、マイケル・ブロードウェイ『だから、アメリカの牛肉は危
ない!―北米精肉産業 恐怖の実態―』(中谷和男翻訳・山内一也監修 河出書房新社)
です。
この本は、カンザス大学の教授である二人の著者が「十五年以上にわたって行って
きた精肉・養鶏産業についての調査結果をもとに、アメリカの精肉産業の実態とそれ
が社会にもたらしている影響をきわめて正確に分析して問題点を指摘し、将来への提
言を行ったもの」(監修者による解説より)であり、巨大精肉産業のもとで行われてい
る、あまりに非人間的で不衛生な食肉生産の実態を暴き出しています。原題は
“Slaughterhouse
Blues“ですから、直訳すれば「屠畜場ブルース」となるところを、
敢えてこの書名を選んだところに、出版サイドの強い意図を感じないわけにはいきま
せん。
監修者である山内一也東大名誉教授は、国際的評価を得たプリオン研究の第一人者
であり、食品安全委員会プリオン専門調査会の議論を実質的にリードしてきた人物で
す。例の「二十ヶ月齢以下の牛をBSE検査から除外する」決定に至る経緯のなかで
は、科学者の委員会である専門調査会が、政治的な要求に屈することに強く抵抗して
きた人でもあります。その山内氏がこうしたタイトルの訳書を監修したことは、決し
て偶然ではありません。
私が読んだ感想ですが、一言で言って、アメリカ食肉産業のあまりの状況に驚愕さ
せられました。そして、こんな業界ならば、「対日輸出のために金を払ってBSE検査
をするなんて真っ平ゴメン」だろうし、どんな手を使ってでも農務省を動かし、検査
ナシで輸入を再開させようとするだろう、そう思いました。
最後に、山内氏の解説の最後の一節から、次の部分を引用して、この本の紹介に代
えたいと思います。サラッとした文章ですが、一つ一つの言葉に重みがあります。何
度か味わって読んでいただければと思います。
「欧州連合では、BSE発生の広がりを受けて一九九〇年代半ばから「農場から食
卓」までをキイワードとした食の安全対策が立てられてきた。日本でもBSE発生を
契機に屠畜場での全頭検査と特定危険部位の除去を初めとした安全対策が実施され、
食品安全委員会が設立された。これらの一連の行政対応で国内産の食肉の安全対策は
できてきたとみなせる。日本向け牛肉の最大の輸出国であるアメリカでの生産現場の
実態も、日本の消費者は同様に理解しなければならない。本書はそのための重要な手
がかりになるはずである。」(同書281ページ)
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■迷走するアメリカ産牛肉輸入再開問題〜二重基準と市場混乱の予感〜
9月の内閣改造は、やはりアメリカ産牛肉の輸入再開に向かう一里塚だったようで
す。就任以来、島村農相はなにかと「可能な限り早く解決したい」旨の発言を繰り返
し、政治的意図を隠していません。他方、全頭検査の撤回に反発して多くの県が次々
と「独自検査」を表明してきたことに対しては、国が三年間検査費用を負担するとい
う、驚くべき決着が図られました。産地間競争のただ中にあるそれぞれの地方が全頭
検査を続行したいと考えるのは当然ですし、その背景には全頭検査に信頼を置いてき
た消費者の心理が横たわっています。アメリカの要求には屈服しつつ国内の消費者に
はいい顔をしておきたいという、いかにも自民党的な「解決策」に見えますが、この
ダブルスタンダードは支離滅裂の極み、かえって新たな混乱のタネになりかねません。
さて、輸入再開問題を直接話し合う、日米の局長級会合が終わりました。二日間の
予定を半日延長して出てきた結果は、「玉虫色」というところでしょうか。日本側とし
ては、科学者の意見を換骨奪胎までして作り上げた「20ヶ月齢以下検査不要」論を
もとに、輸入基準の緩和という切り札を用意して臨んだ協議でしたが、日本国内の省
令改正後に輸入を再開する点で「一致した」ものの、アメリカは相変わらず、肉質や
骨格で「20ヶ月齢以下」を判断せよと、無理無体な主張をし続けたようなのです。
本当に妥結する気持ちがあったのでしょうか?
アメリカ農務省の代表団は、11月2日の大統領選挙を意識して、アメリカ畜産業
界の要求をそのままぶつけてきた可能性があります。常識で考えれば、牛肉トレーサ
ビリティー制度を作り上げつつある日本に「肉質と骨格による月齢判定」なる怪しげ
なものを承認せよというのは全くの無茶苦茶です。本当は、少なくとも今、彼らの側
にどうしても妥結したいという切迫性がないのでしょう。むしろ、大統領選挙前には
ひたすら強硬姿勢を見せることが支持勢力へのアピールとして重要であり、妥協的な
姿勢など見せられないというだけのことかもしれません。
では、大統領選挙が終わったらどうでしょうか。少しは妥協をして、まともな案を
示してくるでしょうか。その結果、例えばアメリカが月齢を把握している(と主張す
る)350万頭に限って輸入を許可するという線で合意したとしても、それが「肉質
と骨格」によって判断しているということであれば、議論はまた振り出しに戻らざる
を得ないでしょう。新聞は「来春から来夏にかけて輸入再開」という観測を報じまし
たが、そうするため、日本政府はまた一つアメリカに譲歩して、基準を下げようとし
ているのかもしれません。ですが、そうなればただごとではすみません。
もしも比較的早期に輸入再開となった場合、日本の牛肉市場に決定的な混乱要素が
入り込むことを覚悟しなければなりません。
前号でも記しましたが、今年12月に消費段階にも適用される牛肉トレーサビリテ
ィー制度のもとでは、精肉店などで牛の個体識別番号が表示されるだけでなく、牛肉
専門の外食産業である「すき焼き」「しゃぶしゃぶ」「ステーキ」「焼き肉」の店でも、
提供している牛肉の個体識別番号が店内に表示され、客は自分が食べている牛がどん
な牛なのか、知ることができるようになります。私たちは様々な教訓から、牛肉を消
費するに当たっては細心の注意を払うということを決め、その保証として、ヨーロッ
パに倣い、「農場から食卓」まで牛肉の情報を正しく貫き通す、そうした社会を作ろう
としているのです。
他方、その他の外食産業は、提供した料理のなかに入っている牛肉がどのような肉
なのか、消費者からは今以上に厳しい眼で見つめられることになるでしょう。輸入牛
肉の場合、それがアメリカ産なのかどうかは重大な関心事になります。BSE未発生
のオーストラリア産なのか、それとも発生をみているのに未検査のまま輸入されたア
メリカ産なのか。これも前号で指摘しましたが、店のなかには、「当店ではアメリカ産
牛肉は一切使用しておりません」と掲示をするところがでてくるかもしれません。流
通の分野では、アメリカ産をオーストラリア産に偽装するというようなことまで、実
際に起こるかもしれません。
牛丼の業界では、既に松屋が中国産煮沸牛肉と国産牛肉のブレンドを使った牛丼の
再開という離れ業をやってのけ、いわば「脱アメリカ化」に成功しています。「BSE
未検査牛」を使用することになる吉野家は、その点で一種のハンデを抱えることにな
るわけです。吉野家の商品販売力は絶大ですが、消費者の多くがどのような判断をす
るのか、予断を許しません。驚くほどの低廉な価格で牛丼を提供し続けてきた吉野家
は、デフレ時代の庶民の味方ともいうべき存在ですから、個人的には頑張って欲しい
とさえ思っています。しかし、アメリカ政府の代弁者と見まがうばかりの発言を、吉
野家の幹部はしないほうがよいと思いますし、日本のBSEの経緯や「食の安全・安
心」についての人々の考え方を軽視するべきではありません。吉野家には、これから
先、外食産業としての真価が問われる時期がやってくるのだと思います。
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■編集後記
もう間もなくアメリカ大統領選挙の投票が行われます。世界の運命を左右する選挙
だというのに、自分に投票権がないことを不条理に感じている人も多いでしょう。い
っそ、人は日々の生活のなかで様々な選択を繰り返すことにより、不断に「投票行動」
を行ってもいるんだと考えるのはどうでしょうか?こんな、いく分「実存主義的」な
考え方は、40歳代以上の方には馴染みがあるでしょうが、逆に、あらゆる場面で気
が抜けず、疲れてしまうかもしれませんね。
今回予定していた「13頭目の衝撃」、次になります。スミマセン。
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■内田誠の書籍のご案内
※インターネットでのご注文は以下のサイトを参考に。
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3f4abf61367c50104747?aid=&bibid=02366824&volno=0000
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http://www.jbook.co.jp/product.asp?product=2316778
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発行者:内田 誠
((有)内田誠事務所)
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