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■■ 内田誠のニュース&コラム「遠きより」 
■■                       2004/09/29【013号】
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 ■内閣改造とアメリカ産牛肉輸入再開

▼サプライズと「派閥無視」
  小泉内閣の改造と自民党の党役員人事が発表されました。思わず、「ぷっ」と噴き
出してしまいそうな顔ぶれになっています。特に、党幹事長の人選は、「笑いを取るた
めではないか」と思えるほど、意外なものでした。毎日新聞などは失礼にも、「党内が
混乱する郵政民営化議論を控えて首相はあえて実力者を避け」たとか、武部氏の「農
相時代の答弁を聞いていると『この人で大丈夫なの』とこちらが心配してしまいます
よ」という民主党議員のコメントを紹介したりしている。私などは、小泉総理がもう
自民党などどうでもよいと考えている証拠だと思い始めています。

  小泉総理が旧橋本派中心の派閥均衡を無視している点では、ある意味、小気味よく
感じている人も多いことでしょう。幹事長人事の乱暴狼藉では、まるで自民党を破壊
しようとしているようにも見えます。そういえば、2001年4月の総裁選当時、「自
民党をぶっ壊す!」なんて言ってましたっけ。こうなると自民党の各派閥は意味をな
さなくなり、いつか大臣になりたいと願っている議員たちは、あてど無く一本釣りを
待つ魚の心境にならざるを得ません。自民党は小泉専用の「釣り堀」になってしまい
ました(最近の餌は、もちろん「郵政民営化」ですね)。断っておきますが、この間の
事情は「良い悪い」で判断するのではなく、小泉独裁政権の最大与党に相応しい政党
として、新しい自民党が生まれつつあるのだと捉えるべきだ、そんな風に思っていま
す。派閥均衡が良いとは断じて申しませんが、今の自民党の状態はかなり危険なもの
に思えます。

  念のために付け加えましょう。小泉総理が虚心坦懐に「適材適所」を貫いたと判断
するのは、いくら何でもお人好しすぎるというものです。新法務大臣の南野氏は日本
看護連盟、新厚生労働大臣の尾辻氏は遺族会をそれぞれバックにもつ議員です。いや、
「バックにもつ」どころか、「首まで浸かっている」という表現の方が相応しいかもし
れません。この二人に典型的に見られるように、今回の人事では、派閥均衡ではない
にせよ、小泉氏が自分と森派の政治基盤の安定にむけて、なりふり構わぬ人選を行っ
たことも明白です。こうした諸勢力丸抱えの議員たちが大臣の椅子に座ったあと、い
ったい何が起こるのか、私にはまだ想像することさえできません。

▼新農水大臣の支持基盤
  さて、本題です。今回、私が特に注目していたのは、誰が農水大臣になるかでした。
島村宜伸という人は東京都の江戸川区に地盤を持つ議員です。農水省が厚労省ととも
にこれから直面する「アメリカ産牛肉の輸入再開」問題に関しては、大臣が畜産農家
をバックにした人か、都市住民をバックにした人かで、政策変更というハードルの高
さが相当異なってくると思われました。前者であれば高く、後者であれば低い、とい
うことです。もちろん、都市住民の中には「食の安全・安心」に関心の高い人たちも
多いのですが、なかには吉野家の牛丼を早く復活させて欲しいという要望も少なくな
いでしょう。島村氏が選挙で頼りにしてきたのは、当然、「吉野家」派の人たちです。
また、報道に依れば、外食産業の団体が早期の輸入再開を求めて農水省に陳情した際、
島村氏は同行議員の一人だったそうです。過去にも農水大臣経験がある島村氏ですが、
その辺に足場があるのですね。先日の日米首脳会談のなかでも「早期の輸入再開」で
ブッシュ大統領と合意したりしている小泉総理としては、この人事は当然の選択だっ
たことになります。

▼布石は総て打った、あとは決断のみ?
  さて、食品安全委員会が「20ヶ月齢以下の牛は検査をしなくてもよい」という方
向の「科学的」結論を出し、農水大臣も厚生労働大臣も替わりました。選挙もしばら
くありません。「食の安全・安心」をなげうってでも、アメリカ産牛肉の輸入再開を早
期に実現しなければならない日本政府としては、もう後は決断するだけのように見え
ます。しかし、そうでもないようなのです。政府は、国内検査基準の見直しを食品安
全委員会に諮問する時期を、当初予定していた9月末から10月中旬以降に延期する
方針を固めたという報道がありました。なぜでしょうか。

  実は、新たなハードルが二つ見え始めてきたのです。一つは、リスク・コミュニケ
ーションという名前の公聴会での議論です。食品安全委員会の中間報告書を巡り、各
地で既に数回開かれていますが、どこでも批判続出なのです。批判の向かう先は「2
0ヶ月齢以下の牛は検査しなくてもよい」という、周知の結論に集中しています。生
協などの消費者団体や主婦層に限らず、かなり広い立場の人々から、「全頭検査を止め
るべきでない」という強力な反対論が噴出しています。食品安全委員会は防戦一方と
いう雰囲気で、このまま全頭検査撤回をしてしまうと、いかにも「強行突破」という
感じが残ってしまう、そんな状況なのです。

  もう一つのハードルは、もっと深刻なものです。中央政府が全頭検査を止めるのな
ら、自分たちは独自に検査を実施しようじゃないかと、各県が声を上げ始めているの
です。言い出しっぺは岐阜県。全国知事会の会長県です。既に8県ほどで同調する動
きがあり、こういうことになると、「うちは独自の検査を実施しない」と決める方がよ
ほど勇気の必要なことになるわけで、やがて「自主検査宣言」は日本中に拡がってし
まう可能性が高いのです。何しろ、「国は全頭検査を止めたが、うちの県で屠畜した牛
は一頭残らずBSE検査を受けていますからご安心を」と言えるのですから、少々の
検査費は我慢しようということになるでしょう。厚生労働省も、県独自の検査が「安
全対策」という名目で行われることは許さないでしょうが、「調査」の名目であれば、
これを辞めさせる理由は見つかりません。政府は完全にお手上げ状態なのです。

▼全頭検査撤回後の風景
  国が全頭検査を撤回して、「20ヶ月齢以下」の牛を検査せずに食肉流通に回したと
します。しかし、各県が自主的に検査をするとなれば、国産の牛肉は総て「BSE検
査済み」となります。対する輸入牛肉のうち、オーストラリア・ニュージーランド産
は「BSE未発生国」のものですから、今まで通り未検査のものが流通しますが、こ
れに不安を抱く消費者は少数でしょう。で、問題のアメリカ産牛肉については、おそ
らく輸入されるものは総て「20ヶ月齢以下」とされ、未検査で入ってくるのです。
消費者としては、自分が注文した料理に入っている牛肉がアメリカ産かどうか、是非
知りたいところでしょう。

  店側の対応はどうなるでしょうか。アメリカ産を使っていることを隠せない吉野家
などの牛丼店は必死に「安全」をアピールするでしょうが、オーストラリア産で十分
な外食産業などは、「当店ではオーストラリア産牛肉だけを使用しております」とか、
もっと露骨に「アメリカ産牛肉は一切使用しておりません」などと明示するところが
出てくるかもしれません。こうなれば、日米の当局にとっては、最悪の展開となりま
す。

  折しも、12月からは「牛肉トレーサビリティ法」が完全実施となり、消費者は国
産牛肉の情報をかなりのところまで把握できる体制が出来上がります。「すき焼き屋」
や「ステーキ店」では、客は今食べている牛肉の素性をその場で知ることもできるよ
うになるのです。月齢さえ正確に掴むことのできないアメリカ産牛肉との差は明らか
です。結局、アメリカンビーフは二級以下の商品とならざるを得ません。はっきり言
えば、価値が下がるのです。そのことにアメリカの畜産業と政府が耐えきれなくなっ
たとき、さらなる強い圧力がかけられるのか、それとも、もともとの日本側の主張通
り、輸出分についてBSE検査を義務付けるようになるのか、もはや、そのような展
開を読む段階に突入しつつあります。

  結局、全頭検査によって牛肉への信頼を回復させてきたという事実の重たさを、政
府は完全に見誤っていたということになるのでしょう。
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■編集後記
 食品安全委員会の「中間とりまとめ」の問題点は、アメリカ産牛肉輸入再開の「地
ならし」をしてしまっていること以外に、もう一つあります。それは、日本のBSE
リスクについて、自分たちは正しい評価ができたのだと即断している点です。これは
不遜な見解の表明だと思います。そんななか、注目すべき牛が現れました。奈良県で
見つかった「13頭目」です。次号は、この牛がなぜ注目すべき牛なのか、詳しくお
伝えします。
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発行者:内田 誠 ((有)内田誠事務所)
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