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■■ 内田誠のニュース&コラム「遠きより」 
■■                       2004/07/04【011号】
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《第十一号発行に当たって》
■ゴメンね、、、。
  二ヶ月以上にわたって配信をお休みしてしまい、申し訳ありませんでした。さて、
この間、イラク情勢はもとより、「本業」であるところのBSE(狂牛病)問題につい
ても多くの出来事がありました。逐一、何らかのコメントを出し続けるべきでしたが、
すっかりサボってしまいました。お許しください。現在、ハンナンの浅田満元会長逮
捕を受けて、あるテレビ番組で「牛肉偽装事件」の取材を進めています。8月中には、
このメルマガで放送のタイミングについてお知らせできるかと思います。
 これから、この間に起こった出来事を振り返り、私がお伝えしたいと思っている一
つずつの項目に関して現状を整理するため、三回くらいにわたって配信させていただ
きます。お伝えしたい項目は、「BSE問題」、「イラク情勢と”MoAB“(モアブ)」
「三菱自動車問題」です。まず今回は、風雲急を告げてきた「BSE問題」から。
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■「全頭検査」はやめちゃうの?
 昨年末にアメリカでBSE感染牛が発生し、日本がアメリカ産牛肉の輸入を停止し
た問題では、事態が急展開を遂げようとしています。この問題に関心が高い読者は、
「輸入解禁が近い」と感じておられるでしょう。このところ、日米協議の進展の中で、
そうした傾向がはっきりと形を取って見えてきたからです。そろそろ、マスコミが「ま
た吉野家の牛丼が食えるぞ!」と騒ぎ出すかもしれません。

▼こうした変化は半年近く前から予測可能なものでした。私が二月にアメリカを取
材したときには、既にそのような兆候が感じ取れるほどになっていました(「プレジデ
ント誌」の今年3月15日付号と3月29日付号所収の記事に関連する情報を載せま
した)。
当時、アメリカの食肉関連業者や農務省の担当者、マスコミ関係者たちは、日本の
参議院選挙が終わるまで、農水官僚は妥協してこないだろうと情勢を読んでいて、選
挙後に「全頭検査の非科学性」を責め立て、輸入解禁を迫る作戦をたてていました(ア
メリカ側の攻勢はもっと早くから始まりましたが、「実を結ぶ」のは予想通り来月以降
になりそうです)。選挙で与党が大敗するというようなことでもなければ、農水大臣(と
厚労大臣)の交代を含む内閣改造があり、それを契機に全頭検査に対する「見直し」
が行われ、年末あたりに輸入再開にこぎ着ける筋書きだろうと私も予想しています。

▼シナリオから外れる要素もあるのですが、あまり知られていません。例えば、6
月30日までアメリカで開かれていた第二回の日米協議の席上、日本の専門家たちが
「全頭検査の限界を認めた」という風に大々的に報じられましたが、実際には彼らの
多くが今も「全頭検査」に重きを置いているということは、情報として伝わっていな
いのではないでしょうか。また、日本が「全頭検査」を撤回してハードルを低くして
やっても、アメリカはまだそのハードルを跳び越せないかもしれない。実は、本当に
輸入再開の条件として決定的なのは、アメリカが牛の年齢を正確に把握するシステム
を作れるか否かだということも言われている。アメリカが「二歳以下だ」と称する牛
が本当に二歳以下なのか、信じるだけの根拠がないのです。トレーサビリティなどと
いうものがあの国で一朝一夕にできるとも思えません(もしかしたら、流行りの無線
ICタグを「一頭ごとに着ける」などということで誤魔化そうとしているのかもしれ
ません)。そもそも、牛を食べるということに関して、アメリカは相当にアバウトな国
だということを押さえておく必要があります。問題は、「全頭検査」だけではないので
す。

▼にもかかわらず、この間、国内では「輸入解禁」に向けた地ならしが、様々な場
面で繰り広げられてきました。その一つは食品安全委員会のプリオン専門調査会。食
品安全委員会は、BSE問題の反省から、農水省と厚労省にまたがっていた食品安全
行政を一元化すべく作られた最も新しい行政組織で、その設立趣旨は正しいものの、
消費者代表が入っていないなど限界のある委員会です。余談ですが、22年前に火災
で大勢の方が焼死した東京・赤坂のホテル・ニュージャパンがありましたが、委員会
はその跡地に建てられたプルデンシャルタワービルの中に事務所を置いています。

▼食品安全委員会プリオン専門調査会が行ってきたのは、「BSE対策の見直し」
作業です。そこでは、現在の最先端の科学的知見に立って、2年半以上に及ぶ日本の
BSE対策を総括し、新たな対策を組み上げることが目指されています。当然、「全頭
検査」の是非も議論の対象です。ここは「全頭検査」が国内のBSE対策としてどの
ような役割を果たしたかが検証される場であって、本来、「輸入解禁の是非」とは別問
題なのですが、食品安全委員会プロパーの委員からは、「要するに無駄な検査をしてき
たんですよね」と言わんばかりの発言もありました。なんとか、専門家の意見をそち
らに誘導したいという魂胆が見え見えなのです。

 言い忘れましたが、会議に参加している委員には二種類あって、委員会のプロパー
の委員とプリオン問題の専門委員に別れます。前者は政府の意志を体現して「なんと
か早く輸入再開の前提条件を作りたい」とばかり、「全頭検査」を攻撃するのですが、
後者は専門家の立場から、スクリーニングとしての「全頭検査」の意義を強調する。
先月まで、こうしたやりとりは会議の色々な場面で繰り広げられていました。そして
第二回日米協議の場で、専門家委員を中心とした日本側から、「全頭検査の限界」につ
いての発言が出たことの意味は、それなりに大きいと言わなければなりません。ただ、
専門家たちは、「限界」の前に「意義」を語っていますし、仮に「全頭検査」に「限界」
があったとしても、それが輸入解禁には直結しないと考えているはずです。

 ▼ここまでお読みいただいて、「えっ?日本政府は輸入を解禁したいの?」と疑問に
思われた方も多いでしょう。農水省の石原事務次官などは、会見の度に「全頭検査体
制を守る」と言っていますから。しかし、輸入再開を必要としているのは、実はアメ
リカ側だけではないのです。輸入牛肉がもたらす年間1000億円の関税収入(私た
ちが安い輸入牛肉を食べた「罰」として払わされている税金)は、日本の畜産当局が
国内生産者や流通業者にばらまく補助金の原資なのです(実際には膨大な天下り組織
に注がれているだけで、特に生産者にはほとんど届いていないという見方もあります)。
アメリカからの輸入分、年額にして500億円が消えてしまったことで、畜産当局(特
に生産振興担当部局)は慌てているのです。

 農水省内部は一枚岩ではなく、消費・安全局などは、「全頭検査体制」を維持した
いという考えも強いと思いますが、全体としてはそうではありません。それでも「全
頭検査」を簡単に止められない理由は、消費者と市場の反撃が計算できないからです。
「一頭残らずBSE検査をします」と宣言することで辛うじてつなぎ止めることがで
きた牛肉に対する信頼を、一夜にして失う恐怖があるからなのです。でも、上述した
ように、いずれ「全頭検査」は止めないといけない、、、。となれば、これから半年の間、
様々な政治的ポーズや詐術を駆使して、輸入再開が合理的な政策であるという結論に
向かって、「取り繕い」が少しずつ進行していくものと思われます。官僚と政治家が言
葉を微妙に操り変化させながら、「答弁」や「意見表明」を繰り返し、また専門家を利
用しつつ、種々の「会議」や「報告」「会見」を積み重ね、徐々に政策をねじ曲げてい
くことになるのでしょう。

▼因みに、私は今でも「全頭検査体制支持」です。「若い牛の場合、感染を検出で
きない」から、全頭検査は非科学的だとよく言われますが、何も、一頭残らず検出で
きるから全頭検査をしているわけではありません。現状で考えられる最も丁寧な検査
体制で、可能な限りリスクを下げられるのですから、その水準を自ら落としてしまう
のは愚の骨頂です。私たちはまだBSEという病気のことがよく分かっていないので
あって、「ゼロリスク」を求めているわけでもないのです。検査を止めるのは早過ぎま
す。あのアメリカでさえ、消費者の60パーセント近くが、「BSE検査済みの牛肉が
食べたい」と考えているという調査もあります。
ついでに言うと、関税収入の激減は、農水省畜産当局とその天下り組織、さらには
そこに群がる政治家などに直接的な打撃となる問題であって、そうした「政・官・業
癒着構造」を白日の下に晒す良い機会になるかもしれませんね。

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■編集後記
 6月に入ってからアメリカでは「BSE疑い例」が二例でましたが、いずれも確認
検査の結果が「陰性だった」と報告されました。確かに検査員は「検査キットに慣れ
ていない」のでしょうが、時期が時期だけに、疑念が湧いてきます。もちろん、証拠
はないですけどね。そもそも昨年暮れの「一頭目」についても、農務省の発表とは違
い、ダウナー牛(へたり牛)ではなく、ピンピンしていたという証言があります。同
じ程度の小さな「陰謀」があっても不思議ではありません。
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■内田誠の書籍のご案内
  ※インターネットでのご注文は以下のサイトを参考に。
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発行者:内田 誠 ((有)内田誠事務所)
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