《第四号発刊にあたって》
 これまでずっと「狂牛病」関連の記事を配信してきましたが、今回からハイブリッ
ド自動車「プリウス」についての連載を開始します。まだ取材が完了していませんの
で、連載といっても不定期になることをお許し下さい。4回か5回は配信する予定で
す。では、何故「プリウス」か。結論から言うと、このクルマ、とくに9月に発売さ
れた新型プリウスは、ここ10年、いや20年先までの日本と世界の自動車のあり方
を決めてしまうほど、大きな影響力を持つ商品だと考えているからです。このクルマ
のことを理解しておくことには重要な意味があります。(宣伝ではありませんので、
悪しからず。)
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■プリウスは「21世紀に間に合」ったか?■

今回発売された新型のプリウスは、大きく分けて第三代目。そもそも初期型のプリウ
スが発売されたのは98年のことでした。世界初の実用ハイブリッド車(モーターと
ガソリンエンジンを併用して走るクルマ)として、驚異的な燃費とクリーンな排ガス
を謳い文句に、「環境対応型」のクルマとして賑々しくデビューしました。宣伝文句
に曰く、「21世紀に間に合いました」。

私がこのプリウスのオーナーとなったのは99年12月、丁度クルマを買うタイミン
グにあたり、一も二もなく選びました。それは、私が「環境に優しい人間」だからで
はなく、ほぼ純粋な好奇心のなせる技、はっきり言って「興味津々」でした。それか
ら5年間、このクルマの良い点も悪い点も実際に体験してきたことになります。

▼圧倒的な燃費と静粛性
公表された初代プリウスの燃費は28キロメートル/リッター(10・15モード走
行)でした(新型は35.5キロ!)。通常の1500ccクラスの乗用車はどう頑
張っても18キロくらいが限界でしょうから、倍近い燃費効率ということになります。

では、実際に使ってみてどうか。高速と一般道を同じくらいの比率で走り、満タン法
(満タンから満タンまでの走行距離を給油量で割る計算法)で測ってみると、リッタ
ーあたり17.5キロメートルという数字をはじきだしました。実際に使用したとき
の燃費として、これは驚異的です。以前に私が乗っていたホンダのアコード(180
0cc)は精々9キロくらいしか走りませんでしたので、それは衝撃的なことでした。

燃費ばかりではありません。プリウスがプリウスたる所以は、バッテリーその他の状
態・条件に合わせてエンジンとモーターの出力比を自動的に変えてしまうことにあり
ますが、原則、発進時にはモーターのみを使い、クルマが動き出してからエンジンを
掛けるのです。また、信号などで停車すると、エンジンを止めてしまいます(自動的
なアイドリングストップ)。どちらも、バッテリーのマネジメントによって様々な例
外があるのですが、基本がそうなっている(いずれ問題になることですが、プリウス
はモーターを主にしてエンジンを補助的に使うという、ハイブリッド車としても特殊
なシステムを採用しています)。

エンジンも1500ccとしてはおとなしい方のエンジンなので、そもそもうるさく
ない。となると、ラジオやCDの音楽が非常に良く聞こえるのです。また、山道など
で窓を開けて走っていて展望の良さそうなところで停車したとします。すると直ちに
エンジン停止。その次の瞬間、小鳥の囀る声が無音の車内に入って来るという具合で
す。これは快適でした。

私にとってのプリウスは、単に行動範囲を広げてくれる乗り物である以上に、リスニ
ングルームでもあったのです。しかも、驚くほど燃費がよいし、何となく「環境によ
いことをしている」気にさせてくれ、これはもう、良いことずくめのクルマでした。

ここまで読んできて「内田はトヨタの回し者ではないか」と思われた方、どうぞ安心
してください。何であれ、営利企業の作り出すものを無条件で礼賛することなど、私
にはあり得ません。私はこの、快適で画期的なクルマのせいで、危うく死にかけたの
です。

▼悪夢の館山道
プリウスに乗り始めて1年半が経った2001年の5月、ゴールデンウィークも終盤
にさしかかった頃のことです。夜遅い時間の高速館山道・上り車線は比較的空いてい
るようでした。木更津南のゲートをくぐり抜けて徐々に加速、流れに乗って数分走り、
「さて、家に着くのは何時頃かな」などという考えが頭をよぎった次の瞬間、異変が
起こりました。アクセルが効かない感じなのです。どんなに踏み込んでもスピードが
上がらない。エンジン音はいつになく高く、かなりの回転数が出ているようであり
(プリウスに回転計はないので飽くまで音による判断)、まるで悲鳴を上げているみ
たいに聞こえる。「おかしい」。ふと、フロントパネルを見ると、左側に見慣れぬオ
レンジ色の光が点っています。それが、その後運転中に度々見ることになる「亀」の
マークを初めて見た瞬間でした。

オレンジ色の「亀」が出たまま、どんなにアクセルを踏み込んでも、プリウスは時速
65キロメートル以上の速度を出しません。連休中の館山道です。周りのクルマは控
えめに見ても時速120キロメートルは出している。後ろから急追してくるクルマに
何度も激しいクラクションを鳴らされ、幾度と無くパッシングを掛けられ続けました。
そして、轟音と風圧を残し、次々に私のすぐ脇を抜き去っていくクルマ。全身から冷
たい汗が吹き出してきます。

それでも、異変のショックからなんとか立ち直った私は、教習中のような正しい姿勢
でハンドルを握り、注意力の半分くらいを後方に向け、走り続けました。ここで停ま
ってしまうことは最も危険であり、また、追突されることはあっても追突することは
まず無いと考えたからです。もちろん、左側走行車線を走っていたのですが、路肩に
入らない範囲でできるだけクルマを左に寄せ、思い切ってハザードも付けました。な
んとか、他のクルマに、こちらの異常を知らせないと、いつか追突されてしまう。必
死でした。

インジケーターをエネルギー表示モード(バッテリーの状態やエネルギーの流れをリ
アルタイムで表示する)に切り替えてみると、普段は「緑色」に表示される駆動用の
バッテリーが弱々しい「黄色」に変わっています。初めて見る色です。しかも、溜ま
っている電気の容量がひどく少なくなっています。直感的に、これはバッテリーが壊
れたのかもしれないと思いました。しかも「亀」です。スピードが出せないと言いた
いのでしょう。「くそ、なにが『もしもし亀よ』だ!亀なんか出すなよ!」。命の危
険を感じているときに見せられるこういう下手なギャグセンスには無性に腹が立ちま
した。とにかく事故が怖い。身体をガチガチに硬直させたまま、5分も走ったでしょ
うか。ふと見ると、あの忌まわしい「亀」が消えています。バッテリーの表示も「緑
色」に戻りました。プリウスは再びバッテリーも使いながら、通常の走行に戻ってい
ました。助かったのです。

その日、家に帰り着くまでに「亀」は合計、三回出現しました。その都度、クルマは
スピードが出せない状態になりましたが、幸い、既に高速を降りており、事なきを得
ました。

▼「出力制限警告灯」
取扱説明書には「亀マーク」についての解説がありました。正式名称は「出力制限警
告灯」と言うのだそうです。「ハイブリッドシステムの高負荷が続いた場合や駆動用
電池の充電量が低下した場合、外気温が低い場合に点灯します。点灯中はハイブリッ
ドシステムの出力が制限されます」と、書いてありました。予め読んでいたのですが、
記憶に残っていませんでした。例外的なことと高をくくってしまったのかもしれませ
ん。いや、この「亀マーク」が点灯することがどういうことを意味するのか、全くイ
メージできなかったというのが本当でしょう。説明書は親切にも「アドバイス」まで
してくれています。「点灯中は、速度を控えめにして走行してください、、、」。こ
れには呆れました。私はアドバイスを見ていたとしても、「控え目に走行しよう」と
は断じて考えなかったでしょう。違います。私の意思とは無関係に、65キロ以上は
絶対に出なくなっていたのです。トンでもない欠陥車を買ってしまったのではないか、
正直、そう思いました。

しかし、ディーラーのメカニックの対応は、不自然なほどに冷静なものでした。私は
それこそ、口角泡を飛ばして、館山道の恐怖体験を説明するのですが、先方は「ああ、
亀ですか。説明書に書いてあったでしょ?そりゃ、お気の毒に」といった感じなので
す。彼らの説明によれば、「亀」が出たということは、「それ以上バッテリーから電
気を放出し続けると、回復できないところまでいってしまう」とコンピューターが判
断し、一時的に放電をストップしたことを示している。そうすると、プリウスはエン
ジンだけで走ることになるが、もともと、駆動用のバッテリーなどという代物を積み
込んでいるせいで、プリウスの自重は1.3トンもあり、しかも意図的にパワーのな
いエンジンを積んでいるから、そりゃ、スピードは出ませんね、ということになる。

「亀」が出ることは、確かに不都合な出来事ではあるが、マニュアルにも書いてある
くらいのことであり、プリウスにとっては「あり得ること」であって、欠陥ではない
、、、メカニックの対応はそのような前提に基づいているようでした。しかし、こと
はそう簡単ではなかったのです。この「亀」こそが、初期型プリウスの決定的な問題
を示していた、そしてプリウスは、「21世紀に間に合」っていなかったのです。
(続く)
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■ 編集後記
 今思い出しても冷や汗が出ます。免許を取ってざっと20年。色々怖い思いはしま
したが、館山道の一件は今も「ベストワン」です。さて、来週は総選挙の投票日です
ね。テレビやラジオで、政党のコマーシャルを見聞きすることも多くなりました。ス
マートな宣伝をしようとすればするだけ、党首の顔がファシストに見えてくるのは私
だけでしょうか。次号は、メディア自身の問題に関して、少々自説を述べることにな
るかもしれません。
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 『狂牛病は終わらない』(旬報社) 2003/10/1刊

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