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■■ 内田誠のニュース&コラム「遠きより」
■■ 2003/10/24【003号】
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《第三号発刊にあたって》
16日夜、J−WAVE(81.3メガヘルツ)の「JAM THE WORLD」
にゲスト出演しました。ナビゲーターの高瀬毅さん、リポーターの平尾美保さんの巧
みな進行で、ついベラベラと喋ってしまいました。テーマは「狂牛病八例目」。そこ
でも話しました通り、国内八例目のプロフィールは、予想外のことでした。FMを聴
いてくださった方には一部重複しますが、その後の展開を加え、今回はその八例目の
続報です。このマガジンの題名を、「牧場より」とか「牛より」に変えろという激し
い突っ込みに耐えつつ、今回も「牛」の話、お届けします。次号はいよいよ「新型プ
リウス」について書き始めます、多分。
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■八例目が示すものは?■
▼異例ずくめの「八例目」
前号で書いたとおり、八例目の感染牛は不思議な牛でした。生後23ヶ月と若く、肉
骨粉を使用が禁止されたあとに生まれているので、「肉骨粉以外の感染源があるので
はないか」との憶測を呼びました。
それに、検査をしてみたら、どうも今までの感染牛と違う。結局、「非定型のBSE
」とされ、もしかしたら世界初の事例なのではないかとも言われていました。とにか
くこの牛については、専門家も「分からないことだらけ」だったのです。
▼新種?
しかし、今月12日になって仰天するような情報が飛び込んできました。「非定型」
で「世界でただ一頭だけ」と思われていたこの牛の異常プリオンパターンと同じもの
が、既に、昨年イタリアで二例発見されていたと、ドイツで開かれた国際プリオン病
学会で報告された(という出席者の話があった)のです。
イタリアでは検査体制が強化された2000年以降、これまでに88頭の感染牛が見
つかっています(うち二頭は輸入牛なので、イタリア生まれの感染牛は86頭)。と
いうことは、イタリアでは88頭のうちの2頭が非定型、日本では僅か8頭のうち1
頭が非定型となる。これはもう、俄然、イタリア由来の感染である可能性が高くなっ
たと言わざるを得ません。
この「遠きより」10月6日付臨時増刊号でお伝えした通り、9月30日の農水省・
疫学検討チーム報告も、90年以前にイタリアから輸入された肉骨粉が感染源かもし
れないと言っていて、いよいよその可能性が高まったと誰もが考え始めました。
ところが22日、さらに不可思議な情報が飛び込んできました。イタリアの「非定型
」二例が報告された同じ国際プリオン病学会の報告で、フランスでも、典型的でない
別の型のBSEが見つかっていたというのです。しかも、学会の報告内容を検討した
農水省のBSE技術検討会という学者の会議では、「全く同一」と言われていたイタ
リアのものと日本の八例目とは「同じ型であるとまでは言えない」と修正してしまい
ました。
なんだか複雑な話になってきたのですが、少なくとも、フランスとイタリア、そして
日本で見つかった合計5例については、これまで知られていたものとは違う、そのこ
とだけははっきりしているようなのです。断っておきますが、「学者は新種が好きだ
からなあ」などと嫌みを言ってはダメです。本当に世界的な大発見かもしれないので
すから。
▼肉骨粉を食べた可能性
「八例目」に関して重要なポイントはもう一つあります。この牛が肉骨粉の全面使用
禁止以後に生まれた牛だという点です。農水省が、豚鶏用の餌に対しても肉骨粉の使
用を禁止したのが2001年の10月4日。八例目については、だいたい10月18
日くらいが誕生日(このあたり、正確に判明しているはずなのに、何故かまだ発表が
ない)。丁度、生後一週間に当たる25日くらいから離乳用の配合飼料(普通、スタ
ーターと呼ばれるが、「全農用語」では「人工乳」と称される)を食べていたはず。
普通に考えれば、豚鶏用の飼料であれ肥料用であれ、肉骨粉の使用が全面的に禁止さ
れたあとに生まれた牛が、どうやって肉骨粉を口にしたのか、不思議に思われること
でしょう。しかし、実はこの点、酪農や畜産の現実を知り、農水省の政策の特徴を理
解している人にとっては、何の不思議もないことなのです。
予め確認しておきましょう。2001年10月4日までに作られた豚鶏用の餌には肉
骨粉が使われていました。そして、豚鶏用の餌を作ったあと、十分な清掃をせず、同
じ機械で牛用の餌を作ることによって、牛用の餌にも、僅かであれ肉骨粉が混入して
しまった可能性が一般的にあり、特に学者たちは、これこそが日本のBSE感染経路
だと主張しているものでした。
さて、「八例目」が肉骨粉を口にした可能性は三つあります。「混入」の可能性が二
つ、そしてもう一つが「誤用」(ないし「悪用」)のケースです。
▼「混入」の可能性〜配合飼料ハ回収セズ〜
「混入」の一つ目は、禁止以前に買っておいた配合飼料を農家が食べさせたかもしれ
ないこと。「かもしれない」と書きましたが、そんなことはいくらでもあり得ます。
目の前で牛に与えている餌が、一ヶ月か二ヶ月前に売られたものであることなど、特
別なことではありません。そして、そのような餌であれば、肉骨粉が「混入」してい
た可能性があります。
「混入」の二つ目は、禁止以前に作った牛用の餌が、禁止期日の10月4日以降に売
られていたために、それを買った農家が牛に与えた可能性があります。メーカーは、
なるほど10月4日で肉骨粉の使用をいっせいに中止したはずですが、それ以前に作
っておいた豚鶏用の配合飼料を回収されることはなく、自由に売ることができたので
す。ましてや、「混入」していたことさえ自覚していない牛用の餌は、禁止期日の前
後に関わらず、なんの販売制限もかからなかったわけです。
それにしても、何故、肉骨粉が入っていることが明らかな豚鶏用の餌だけでも回収す
ることにならなかったのでしょうか。農水省は、大会社である大手飼料メーカーを困
らせるような政策はまず絶対に実行しません。回収というのは、企業にとっては大変
なことで、色々言い訳しては、回避したいと考えたでしょうし、農水省もその意向を
受けたのでしょう。
因みに、10月1日に行われたこの問題での記者会見では、「肉骨粉入りの豚鶏用の
餌は回収すべきではないか」という意味の記者の質問に、当時の武部勤大臣が気色ば
む場面さえありました。痛いところを突かれてしまったのですね。
もしもこの「回収せず」ということが八例目感染の原因だとしたら、ちょっと重大で
す。今、栃木の農家は「八例目」関係でかなりの「風評被害」に遭っているようです
から、責任の所在が農水省とはっきりすれば、これは裁判ものかもしれません。いず
れにせよ、禁止以前に作られた牛用の餌を八例目の牛が食べる可能性はあったことを
確認しておきましょう。
▼「誤用」の可能性
もう一つ、「誤用」ないし「悪用」については、上に書いた牛用の餌に言えることが
そのまま豚鶏用の餌についても言えるわけで、そのような餌が八例目の近くにあり、
間違って食べたか、あるいは考えにくいことですが、誰かが故意に食べさせたかもし
れない。以上、三つの可能性があり、八例目が肉骨粉を食べることでBSE感染牛と
なったことは十分にあり得ます。
もちろん、八例目感染の原因が肉骨粉以外のものである可能性もないわけではありま
せん。「遺伝」「母子感染」「孤発性」などですが、そのような可能性は今後調査が
進むに連れて一つ一つ否定されていくのではないかと、私は予想しています。
やはり、一般的な感染原因である肉骨粉が最も重要で、その可能性がある以上、「最
有力」と考えざるを得ません。そしてその中でも私は、「混入」の可能性が高いと思
っています。八例目に与えられた餌の生産工場が、豚鶏用の餌からの混入を許すシス
テムになっていたかどうか、やがてその結論も出ることでしょう。
▼繰り返された飼料メーカー優遇策のツケ
ところで、2002年3月3日に放送されたテレビ朝日系「サンデープロジェクト」
の「狂牛病」特集をご覧になった方、あるいは拙著『狂牛病は終わらない』を読んで
くださった方はお分かりだと思いますが、肉骨粉を「禁止」しておきながら、肉骨粉
入りのものを回収しないという出来事は、96年4月にも起こっていました。
再確認しておきますが、96年4月11日までは、牛用の餌にも堂々と肉骨粉が使わ
れていました。国の公式データである「飼料月報」の中に、その事実を確認すること
ができます。
96年3月末、「狂牛病」が人にも感染するというイギリス政府の発表があり、続い
てWHO(国際保健機関)は世界各国に対して、牛用の餌に肉骨粉を使用することを
禁止するよう勧告。日本政府も行政指導の形でその勧告に従いました。
しかし、メーカーはどうやらその直前に農水省から内々に情報を得て、肉骨粉入りの
牛用飼料を駆け込み生産したようなのです。そして、生産された肉骨粉入りの配合飼
料は、「回収せず」ということでした。つまり、禁止以後も市場に出回り、牛の口に
入り続けたのです。これまでの七頭の感染原因について、最も疑わしいのは、まさに
この禁止期日を越えて出回った肉骨粉入りの配合飼料だと考えています。
皮肉なことに、ずっと合法的に配合されていた肉骨粉は、禁止直前になり、最も大量
に配合されることになったのです。禁止期日を挟んだ二ヶ月ほどの間、日本の牛がB
SEに感染する危険は、史上最も高くなっていました。ひどい話です。
そろそろ、まとめましょう。肉骨粉は、96年4月16日までは牛用飼料に「配合」
され、その後、2001年10月4日までは「混入」する条件があった。そして、そ
れぞれの禁止期日から一ヶ月くらい後まで、肉骨粉はそれぞれに牛用の餌の中で生き
延びていた可能性があるのです。この「延命」期間を許してしまったことに対し、政
府・農水省には重い責任を感じてもらわなければなりません。
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編集後記
前号との間にかなり時間が空いてしまい、ご迷惑をおかけしました。原因の一つは
「狂牛病」に関係のある情報が次々に出てきて、うまく処理しきれなかったことで
す。やはり「狂牛病は終わらない」という実感を深くしています。それにしても、食
肉業界は凄すぎます。日本ハムとスターゼンがBSE関連対策として牛肉価格支持の
ために行われた事業に関して、それぞれ3000万円と290万円の不当利得を得て
いたことが分かり、返還されました。もう、いつまでこんなことやってるのかなあ。
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■内田誠の書籍のご案内
『狂牛病は終わらない』(旬報社) 2003/10/1刊
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