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■■ 内田誠のニュース&コラム「遠きより」 
■■                       2003/10/11  Vol.002
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《再び、内容を変更して配信します》
 どうやら、私は牛からは逃げられないようです。6日、茨城の食肉処理場に運び込まれ
ていた一頭の雄牛について、BSE感染が確認されました。たまには「狂牛病」関連の話
題から離れようと思ったのですが、この事態に知らん顔をすることはできません。やはり
「狂牛病は終わらない」のです。ただし、鋭意取材中のことばかりなので、今回の内容は
内田の「つぶやき」とお考え下さい。取材が進めば、訂正を含め、またリポートします。
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■八例目は何をもたらすのか■

▼新聞・テレビが大騒ぎしたように、今回の感染牛発見は異例ずくめ。その理由は、この
牛が、生後23ヶ月と若く、誕生日が非常に近接していたこれまでの七例(65ヶ月
から81ヶ月)と大きく離れていること、誕生した2001年10月は既に一頭目発見
後であり、肉骨粉を含む牛の体組織を使った餌の使用が禁止されていたこと、専門家に
よれば、これまで世界で18万頭以上も発見されてきたBSE感染牛とは、異常プリオン
の型が違っているとされ、「非定型のBSE」とされること、雄のホルスタイン(去勢)
であり、乳用種ではあるが、肉を取るために肥育された牛であること、などです。

▼上記の諸点から、この牛が感染した原因はこれまでの七頭とは全く違ったところにあ
る可能性が出てきました。ひょっとしたら、肉骨粉以外の感染源を考えなければならない
のかもしれない。同様の若い牛の感染が次々と発見されるような状況ではないから、これ
まで積み上げられてきた議論を一からやり直すほどではないけれど、やはり日本のBSE
のイメージをこの牛が大きく変えてしまったことは否めません。「非定型のBSE」に
ついては、これはもう、自他共に「権威」と認める品川森一氏をもってしても、
分からないことだらけ」で、何しろ本当なら世界初ですから、諸外国、特にEUは
既に注目しているといいます。因みに、この品川先生は、今年二月に発見された
「幻の八頭目」(二〇歳の黒毛和牛)のケースといい、このところ「世界初か?」と
いう話が多いのが気にかからないでもありません。ともあれ、この辺りのことまでは
まだ詳しい情報が出てきていないので、簡単に論じることはできないですが、この牛が
もたらす影響は意外に大きいかもしれない。さて、ここまでは、普通のニュースで流れた
ことの延長。この先、ちょっとだけディープな情報を。

▼その一。坂口厚生労働大臣が「通説では若い牛には発生しないとされており、これを覆
すことになる」と事態の重要性を強調した上で、全頭検査について「無意味とも言われ、
見直し論も出ていたが(やっていて)よかった」と評価したそうです。この話を聞いて私
は思わずニヤッと笑ってしまった。これ、かなり危ない話です。

▼全頭検査は、日本で屠畜される牛、つまり国産牛にしか実施されていません。我々日本
人が口にする牛肉のうち、輸入牛肉が占める割合はどれほどになるかご存じでしょうか。
答えは六〇パーセント。で、牛肉輸入先のうち、オーストラリアとアメリカの二国だけで
九四パーセントほどを占めてしまう。大雑把に言えば、日本人の食べる牛肉の四割が
国産、三割がオーストラリア産、残り三割がアメリカ産ということですね。この輸入肉
については、どんな検査がなされているかというと、これが全くなされていないに等し
い。オーストラリアはちょっと除外しておきますが、BSEについて、アメリカは自称
「未発生国」。検査はサーベイランスという少量の抜き取り調査しかしていない。しか
も、アメリカの肉牛は一五ヶ月齢から二〇ヶ月齢くらいで屠畜される若い牛だから安全
だというのがアメリカ及び我が厚生労働省の説明です。もう一度言うと、「アメリカ
にはBSEは出ていない」し「そもそも感染していても検出できないほどの若い牛」
だから、検査をしていない肉でも大丈夫だということなのです。この二つの条件のうち、
一つ目は、今年五月、お隣りのカナダで感染牛が発見されて怪しくなり、二つ目は、
今回の八例目発見でいよいよ怪しくなってきた。輸入牛肉、大丈夫でしょうか?

▼一つ断って置きますが、これは「安全」の問題というよりも「安心」の問題に近い。
あるいは、消費者の選択に資するために、キチンと情報を開示するという問題かもしれま
せん。感染牛のものであっても肉は安全だという議論を前提にすれば、肉の安全は屠畜
方法が適切かどうかというところに収斂してしまうので。悪しからず。要するに、感染
牛の肉だと分かって食べる人は、まず、いないだろうということです。

▼その二。八例目の確認から四日経った一〇日、この牛が生まれた農家がようやく特定
されました。それも、DNA鑑定をやった成果だというのです。何故、そんなことをする
必要があったのか。

▼この牛については「生産農場」と「哺育農場」、「肥育農場」、さらに「出荷前一時
けい留農場」の四ヶ所が関係先とされています。前三者は、生まれて、素牛(通例八ヶ
月齢三〇〇キロ体重くらい)になるまで育てられ、最後に肥育されて出荷されるという
通常の流れのようです。ホルスタインの雄ですから、酪農家の農場で生まれ、すぐに売
り払われたのでしょう。去勢されて太らされ、肉にされるという、ごく普通のホル雄の
運命を見るようです。でも、最後の「出荷前一時けい留農場」が曲者です。ここは
南那須町にある、さる大手の畜産会社なのですが、こういうものが絡んでいるところを
見る限り、この牛の所有者は他ならぬこの畜産会社である可能性が高い。

▼この牛が生まれた2001年10月下旬、底値とはいわないまでも、牛の値段は
どんどん下がっていました。既に牛肉離れが起こっていたのです。畜産の業界内では
子牛の値段も暴落しました。二束三文となってしまった子牛を片っ端から大量に買い
付けていく人々が、農村を走り回っていた頃です。この牛も、そうして買われていった
大量の子牛たちの一匹だったのではないか、と思われます。安く買いたたいた牛を
育てれば二年後には市況が回復しているはずなので大儲けできる。実際に、そのよう
な発想で動いた会社がいくつもあったようなのです。ただし、一度のたくさんの子牛
を買っても、自分のところで育てることはできないでしょう。そこで、施設が余って
いる農家に牛を預ける「預託」が広く行われています。おそらく、この「肥育農場」
は畜産会社に牛を預託されて育てていたのではないか。もしかしたら、「哺育農場」
のほうもそうなのかもしれません。もちろん、だから感染したなどというつもりは
全然ありません。BSEのような大きな出来事があると、業界内では「大きいもの」
が「小さいもの」を飲み込む過程が進行する。今回の八例目はそうした動きのただ中
で発見されたというだけのこと。ただ、畜産会社は大きなショックを受けているだ
ろうと思います。

▼あまりにも不確定な事柄が多いので、真相は徐々にしか明らかになっていかないで
しょう。そんな中、感染牛八例目が持ち込まれた茨城の食肉市場で、通常の価格
レベルで取引が再開されたことには、ホッとさせられました。

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■ 編集後記
またまた「牛」になってしまいました。恐縮です。だだ、このタイミングを外すわけ
には行きませんでした。どうぞ、ご了承下さい。次号は、別の話題になります。

■内田誠の書籍のご案内
 『狂牛病は終わらない』(旬報社) 2003/10/1刊

 ※インターネットでのご注文は以下のサイトを参考に。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4845108240/qid=1064666982/sr=1-3/ref=sr_1_2_3/250-8224513-9655464

http://www.jbook.co.jp/product.asp?product=2316778

http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3f4abf61367c50104747?aid=&bibid=02366824&volno=0000

*三つ目のbk1では、表紙カバーの映像を見ることができます。背広を着た牛のキ
ャラクターが描かれていますが、これは気鋭の若手デザイナー、坂野公一氏に委嘱
して創ってもらったものです。是非、ご覧になって下さい。



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