■■
■■ 内田誠のニュース&コラム「遠きより」
■■ 2003/10/06【臨時増刊号】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
《臨時増刊号発刊にあたって》
9月30日、農水省のBSE技術検討会のもとに組織された「疫学検討チーム」が報告
書を出しました。日本にBSE感染牛が発見されて以来、関係者が待ちに待った、「感染
ルート」に関する報告書です。これまで、衛生課や飼料課の職員、つまり官僚が書いた
感染ルートについての報告書はありましたが、今回は、行政による調査の限界を突破すべ
く、学者が行った「疫学的」検討の報告です。座長の山内一也氏(東京大学名誉教授)
は、かつてBSE上陸を「重大な失政」と断じた「BSE問題調査検討委員会」で主導的
な役割を果たした人物だけに、今回の報告内容にも大きな期待がかけられていました。
私も早速、ネット上に公開された報告書を一読しましたが、非常に重要な指摘もなされて
いる反面、官僚の作文と見間違えそうな部分も含まれていました。残念ながら、全体と
して「画期的」であるとは言い難い内容です。読者の中には「狂牛病」に関心の高い方
が多いと思いますので、この問題について臨時増刊号を配信することにしました。
なお、第二号は少し遅れて、10月10日前後に配信するつもりです。
───────────────────────────────────────────
▼否定された「一次感染」説
日本で確認されたBSE感染牛七頭が「一次感染」によるものか「二次感染」による
ものなのかは、重大問題だった。もしも一次感染なら、あるとき異常プリオンによって
汚染された肉骨粉が輸入され、その汚染された肉骨粉をたまたま摂取した牛が、直接
BSEに感染したというストーリーになる。
その場合、他に同様の感染牛がいたとしても、その範囲は同じ輸入肉骨粉を食べた牛に
限られる。また当然のこととして、国内で感染した牛が肉骨粉となり、新たに別の牛を
感染させるなどの事態は発生していなかったことになる。言い換えれば、七頭は、感染
牛の第一世代であり、第二世代以降は存在しないことになる。
農水省はこれまで、この「一次感染」説にすがりついていた。そうであってくれれば、
日本のBSE感染の実態はそれほど深刻ではなく、小さな問題だったことになるから
だ。農水省には気の毒だが、それは、事実を無視した、一種の妄想に過ぎなかった。
▼イギリスの牛かイタリアの肉骨粉
今回の「報告」は、「一次感染」説を明確に否定した。5人の研究者からなる「疫学
検討チーム」が検討に用いた方法については、報告書かその概要を直接見ていただく
として、ここではごく簡単に要点だけを見ていく。
まず、「感染源」の可能性が高いのは、1982年か1987年にイギリスから輸入
された牛、もしくは1990年以前に輸入されたイタリア産の肉骨粉とした。この間
、ずっと言われ続けていた代用乳説(高崎の科学飼料研究所が代用乳の原料に使った
オランダ産動物性油脂に異常プリオンが混入していて、感染原因になったのではない
かという説)はほぼ否定された。代用乳に動物性たんぱく質が混入していた可能性が
ほとんどないというのがその理由だ。
「感染源」についてのこうした判断は、国内への異常プリオンの侵入が非常に早い
時期に起こっており、七頭が感染するよりも前に、直接感染した牛がいたことに
なる。その感染牛が国内で肉骨粉にされ、他の牛を感染させていく「感染の連鎖」
が成立していたことになる。つまり七頭は「二次感染」で犠牲になった牛の一部と
いうことになる。
報告書のこの部分を見て、農水官僚は顔面蒼白になっただろう。感染牛の裾野が一気
に広がってしまったからだ。七頭より前に、あるいは七頭と並んで、何頭の牛が感染
していたのか、非常に大きな数字を示されても文句が言えない形になったのだ。
しかし、報告書はもう一つの重要な点について、農水官僚が「安心」できる中身に
なっている。それは、「感染経路」に関する「七つの仮説」の検討に関する部分だ。
▼「配合飼料」か「交差汚染」か
報告書が言う、発生原因をめぐる「七つの仮説」とは、?配合飼料中の成分である
肉骨粉、?交差汚染により配合飼料に含まれた肉骨粉、?補助飼料中の肉骨粉又は
肉骨粉の直接給与、?ペットフードに含まれた肉骨粉、?代用乳に含まれた動物性
油脂、?代用乳以外の配合飼料に使用されていた動物性油脂、?その他、だ。
?の配合飼料中の肉骨粉については、これまでほとんど無視されていただけに、第
一番目にあげられたことは注目に値した(私がこの点を最も重視していることに
ついては、拙著『狂牛病は終わらない』の第?部を参照してください)。ところが
、「七つの仮説」のうち、報告書が最重要視したのは?の交差汚染だった。
報告書が「交差汚染」説を支持する理由はいくつかある。一つは、実際に七頭の
食べていた配合飼料の工場で、肉骨粉を配合した鶏豚用の餌を作った後、よく洗浄を
せずに同じ機械で牛用の配合飼料を作っており、肉骨粉混入の可能性が高いこと。
また二つ目は、イギリスで、牛に肉骨粉を与えることを禁止した後に生まれた牛の
中から感染牛が出てきたこと(禁止後出産例:BAB
;born after
banと称される)
で、実際に交差汚染が起こっていたことが推定されること、である。
▼理由にならない理由
逆に、「配合飼料」説を事実上否定する根拠は、かなり曖昧だ。論拠は三つあげられ
ている。第一は、「これまでの調査によれば、7例に給与された配合飼料に肉骨粉が
含まれていたとする証拠はない。(7例の発生農家で合計27
種類の配合飼料が使用
されていたが、肉骨粉を含むものはなかった)」というものだ。これは、肥飼料検査
所が行ったホクレンの飼料工場への立ち入り検査で出た「結論」だが、96年当時の
配合設計やその担当者に調査が及んだものではない。この調査のやり方では、「証拠
はない」のが当たり前である。杜撰な調査の結果を使うべきではない。
二番目の論拠は、「1996
年以前においても牛用配合飼料に使用された肉骨粉の量は
少なく、牛用配合飼料原料全体に占める肉骨粉の割合は乳牛用、肉牛用ともに0.01%
以下と非常に少ない(1995
年度及び1996
年度実績:「飼料月報」によれば鶏用で3%、
豚用で1.5%程度)」という点だ。これを読んだ途端、私は、ああ、この委員会もまた
同じ過ちを犯してしまったのかと落胆してしまった。詳しくは拙著(『狂牛病は終わ
らない』)を読んでいただきたいが、これこそ、農水省が統計的な詐術を弄して世間
をだましてきた「安全神話」と同じものだ。わずかな量で感染する可能性があると
いうことは、他ならぬ「交差汚染」説が支えとするところなのだが、なぜか配合飼料に
ついてだけは、量が多くなれば感染しないらしい。では、「非常に少ない」とされる
配合飼料中の肉骨粉の量はどれほどになるとお思いだろうか。強い感染力のある肉骨粉
が海外にばらまかれ始めた90年以降、日本で牛用飼料への使用が禁じられた96年
4月までの6年間、日本の牛が食った配合飼料中の肉骨粉は945トンに及ぶ。この
リスクは、交差汚染で混入した肉骨粉と比べて、とるに足らないものなのだろうか。
全く納得できない理屈が登場してしまった。
三つ目の論拠はさらにひどい。「1996
年以前に製造された配合飼料中の肉骨粉の使用
量をみると、肉骨粉は主に鶏、豚用飼料の原料として用いられており、乳牛用及び
肉牛用配合飼料に使用された量は配合飼料向け肉骨粉全量の0.05%以下と非常に少なく
、乳用牛への使用量は93
年度118 トン、94 年度115 トン、95 年度222 トン、96
年度8
トンであった」。これが、リスクが小さいということの説明として、何か意味を
なす事柄なのだろうか。こんなことを論拠にあげているようでは、学者の名が廃る
ではないか。因みにこの言い方は、農水官僚が繰り返し、日本のBSEリスクが小さい
ことを印象づけようとして口にしてきた常套句だ。鶏・豚は関係ない。大切なのは、
牛がどれだけの肉骨粉を食べたのかだけだ。そしてその量は、危険な時期だけに限って
も、6年間で945トンに及ぶのだ。
三つの理由、いや理由にならない理由をあげつらうことで、報告書は、「牛の口に
肉骨粉が入ったのは<混入>という、非意図的で偶然的な出来事だった」と言いたい
らしい。農水官僚が日本のBSE問題を小さく見せかけるために言い続けてきたフ
ィクションの一つを、この報告書もまた追認してしまったわけだ。「一次感染」を
否定したことに対して、バランスを取ろうとしたのだろうか。結局、この報告は、
官僚の出した結論の中で最も問題のある部分を継承してしまったと評価されても
仕方があるまい。
▼委員会の限界
「混入」が感染経路とされたことにより、肉骨粉の使用を事実上奨励してきた農水省
と実際に肉骨粉入りの牛用飼料を作っていた飼料会社が「免罪」されてしまった。
想像だが、もしも報告書が配合飼料に問題があったと結論してしまったら、ホクレンや
全農が嘘を付いているということになりかねず、それだけは絶対に避けたかったという
ことだったのかもしれない。因みに、ホクレンがこの時期の牛用レシピに肉骨粉を
使っていたかどうかは、農水省が一番良く知っていたはず。各工場は、農水省の
求めに応じて、「飼料月報」という資料に使う配合飼料のデータを出しており、その
原票を見れば、ホクレンが肉骨粉を使っていたかどうかは明白になる。だが、農水省
は、資料は既に廃棄したと言い張っている。
結局、アカデミズムよりもジャーナリズムの方が、この問題を解明するには有効なの
ではないかとも思わせる寂しい結果となった。以上、取り急ぎ、重要と思われる点に
ついて、見解を述べた。
*参照(いずれもpdfファイル)
報告書 http://www.maff.go.jp/soshiki/seisan/eisei/bse/ekigaku.pdf
報告書の概要 http://www.maff.go.jp/www/press/cont/20030930press_3b.pdf
▼──────────────────────────────────────────
■
編集後記
またまた「牛」になってしまいました。恐縮です。だだ、このタイミングを外すわけ
にはいきませんでした。どうぞ、ご了承下さい。次号は、別の話題になります。
メルマガトップへ
サイトトップへ