ショートショート  「夏に涼しくなるお話」シリーズ  98.7.19作



白い男女



私が大学3年の時のことです。
友人と2人で、女友達2人を誘って貸別荘に出かけました。
1泊2日。
浮き浮きした気持ちで出かけました。

別荘といっても、値切ったせいか、山の中にポツンと建つ、寂れた別荘でした。
個人の別荘を借り上げて、貸し出しているようです。
周りにはレジャー施設もなく、あるのはただ森と山。そして、山をぬって流れてくる沢だけ。

でも、初めて女の子と一緒にくる別荘。もう心は浮き浮きでした。

中央高速を飛ばして、昼頃現地着。途中、昼食をとってきたので、夕食までにはまだ時間があります。

昼間といいながら、辺りは鬱蒼と茂る木々で、むしろ薄暗く感じるほどです。
木々の間を抜けてくる、森の風が肌にやさしく感じられます。
真夏とは思えないとてもすがすがしい気候です。

4人とも、初めてきたこの森に、山に、心が浮き立っていました。
とにかく、辺りを散歩してみよう、ということになりました。

軽食をもって4人は出かけました。
どうせなら、道なき道を行こう、と言いだした友人に従い、沢登りを始めたのです。
綺麗な水を湛えた沢にそって、4人は登り始めました。
まず私が先頭に立ち、次に私の彼女。次が相棒の彼女、そして、最後にその私の相棒。

普通の靴を履いてきたので、川に入る事ができません。
川岸を伝って、ときに大岩を迂回し、倒れかかった木を跨ぎ、そして、石を伝って対岸に渡る・・・
険しいところに来ると、彼女の手を取る。これが、楽しい!

そうこうしながら4人は山をぬって、どんどん奥に入っていきました。
この山をずっと登っていくと、甲斐駒ヶ岳。この先はいくら行っても、山しかありません。

20分も登ってきたとき、突然前が開けてきました。
そこには、巨大な砂防ダムがそびえ立っていました。
こんな山の中に、どうやってダンプカーやクレーン車が入り込んで来て、こんなすごい工事をしたのだろうと、不思議に思いました。

4人はここで引き返えそうかと思いました。
でも、この上に行けばきっと視界がいい、ということで登ってみることにしました。
急な山の斜面を木々を支えに、獣道のような細い道(?)を4人は登って行きました。
そこで私は大きな足跡を見つけたのです。
なんだなんだ、とみんなでのぞき込んでみましたが、何の足跡かわかりません。
人でないことは確かです。熊の足跡かもしれません。
でも、だれも確信は持てませんでしたので、そのまま、先に進むことにしました。
先頭の私は、他の足跡を見逃すまいと、辺りを十分観察しながら登っていきました。
でも、もう何の痕跡もありませんでした。

やっとのことで、ダムの上まで登ってきました。
ここからしばらくは平らな沢が続いています。

ダムの横を通り過ぎるとき、私は人の気配を感じ、横を向きました。
すると、こんな山奥なのに、ダムの角に後ろを向いて男女2人が座っているのでした。
ぴったり寄り添って下を向いているようです。2人の背中しか見えません。
2人とも真っ白な服を着ていたのを覚えています。
こんな道無き道を登ってきて、ぴったりくっついている・・・
見てはいけないものを見てしまったような気持ちで、私は直ぐに視線をはずし、先に進んで行きました。

ちょっと遅れて、私の彼女がそこを通りました。
後から聞くと、彼女も2人が座っている後ろ姿を見たとのことです。

でも、その後から来た私の相棒とその彼女は、気が付かなかったとのことでした。
ほんの10メートルくらいのところだったのに。
そして、その男女が座っていたのは、とても見通しのいいダムの端のところだったのに。

ダムから5分ほど歩いたところで、4人は休憩することにしました。
そこは、山から運ばれた白い砂が堆積された、自然の公園でした。
軽食をとりながら、4人は話しました。

私と、私の彼女がさっき見た男女の話をすると、残りの2人はキョトンとしていたのです。
「そんな人いなかったわ。だって、私もダムの方は見たわ。」
「そう、俺も周りはよく見ていたよ。誰もいなかったな。」

まさか、先頭の2人が通り過ぎたあと、あそこから飛び込んでしまった訳でもあるまいに!
半信半疑で、4人は戻ることにしました。
この先には更に険しい山があるだけ。まして、横道もありません。
再び、今来た沢を下ります。

ダムのところに来ると、もうそこには誰もいませんでした。
私は、男女が座っていたところまで行ってみました。
何の痕跡もありません。
下を覗いて見ました。
30メートルくらいの高さがあるでしょうか。ダムの下が見えます。
砂防ダムのため、水量はあまりありません。
とくに2人が飛び込んだということでもなさそうです。

そのまま、4人は沢を下り、別荘まで戻ってきました。
戻ってからも、また、白い服の男女が話題になりました。

どうやってあの2人があそこまで行ったのか。
私たちが登った斜面には、人の足跡は全くありませんでした。
かといって、他に道があるとは思えません。

大体、こんなへんぴなところに若い男女がわざわざ来るのでしょうか?
近くにキャップする場所もなければ、他に別荘もありません。

何で私と私の彼女しか気が付かなかったのでしょうか。
どう考えても気づかない距離ではなかったはずです。
直ぐにその白い2人が降りていったのなら、途中で私の相棒とすれ違ったはずです。

何とも不思議な体験に、改めて4人は考え込んでしまいました。

きっとあれは山の精だったに違いない、とか。
昔、自殺したカップルだった、とか。
白い熊が座っていたのだ、とか。
その夜は、話題が尽きませんでした。

よろしかったら、是非、あなたもあの砂防ダムに行って見て下さい。
あの白い男女に会えるかも知れませんよ。


終わり  tol


前ページへ