ショートショート 
 
 〜 えっ、キミが僕の恋人だって 〜 
 
 '99.6.9 tol


ガシャン。
ブルルルルー。
・・・・

「おはようございます!」
「えっ、あっ、おはよう。キミかあ。」
「そうよ。私よ。忘れないでね。」
「わ、わかっているよ。」
「よろしい!ところで、今日はこれから会社ですか。」
「いや、ちょっとドライブに行こうと思ってね。」
「あら、今日は水曜日ですよ。お休みしたんですか?」
「ああ。たまにはのんびりしなくちゃね。」
「わかったわ。じゃあ、今日1日よろしくね。」
「こっちこそ。頼んだよ。」

今日は、久しぶりの休暇である。ここのところ、残業残業で追いまくられていた。やっと昨日、大きなイベントが終わったので、1ヶ月ぶりに休みがとれた。
しばらく乗っていなかった自家用車で、高速道路を飛ばしてこようと、早々と起き出してきたところだ。
しかし、まだ行き先も決まっていない。

「どこに行こうかな・・?」
「・・・」
「キミはどこに行きたい?」
「・・・どこでもかまいませんが・・・」
「いや、キミの行きたいところに行こう。そうだ、今日は絶対キミの行きたいところに行くぞ!」
「・・・困ったわ・・・」
「何も困ることはないだろう?」
「・・・でも・・・」
「じゃあ、湖にでもいこうか?」
「そうですね。どちらの湖がいいですか?」
「・・・そうじゃないよ。キミが聞いちゃだめ。僕がキミに聞くんだ。どこに行きたい?」
「・・・いじわる・・・」
「いじわる?・・・そうか、キミにはまだ決められないのか・・・わかったよ。じゃあ、富士五湖にしよう。」
「わっ、嬉しい。では、山中湖、河口湖、西湖、精進湖、本栖湖、どちらにしますか?」
「おっと、すらすら出てくるじゃないか。」
「それは、専門家ですからね。任せてください。」
「そうだね。じゃあ・・河口湖にしようか。」
「分かりました。では、出発!」

僕は車を静かに発進した。
向かうは河口湖。とりあえず、中央高速道路の八王子インターに向けてゴー。

「ちょっと、交通情報を聞きたいな。」
「わかったわ。ちょっと待ってね。」
カシャ。
「今、専用放送は入りませんので、AMラジオでいいですか。」
「いいよ。」
「はい、ではどうぞ」

・・・・NHKラジオが始まった。
・・・・ちょうど、朝の8時。ニュースをやっている。
・・・・5分もすると、交通情報が始まった。
・・・・どうやら、平日でもあり、中央道下りはすいているようだ。

「もういいよ。」
「わかったわ。」
「今度は、音楽でもかけてくれる!?」
「はい。いつものでいいですか。」
「いつもの?って何だっけ?」
「CDですよ。あなたの。」
「ああ、あれね。いいよ。それでいいよ。」
「了解しました。」

・・・・懐かしいユーミンの曲が始まった。中央フリーウエイだ。
あと、10分も走ればインターに着く。

「あらいやだわ。そこの道を左に入って!」
「えっ!」

キキキキー。タイヤをうならせながら曲がった。

「もっと、静かに運転してください!」
「何だって!キミが急に曲がれって言うからいけないんだ。」
「あら、そうだったかしら・・。だって、急に事故情報が入ったのよ。」
「事故?」
「ええ、今の道をまっすぐ行くと、30分は余計にかかったんじゃない?」
「へえ。どうして分かったの。」
「データ放送よ。事故情報は早いのよ。」
「へえ。すごいもんだね。」
「そうよ。情報は私に任せてね。では、次の角を右に曲がって突き当たりを左に行けば、すぐにインター入り口よ。」
「了解。キミは頼りになるよ。」

八王子インターに到着。
高速に乗って、一路河口湖へ。
今日はすいている。快適だ。
ちょっとアクセルを踏むと、すぐに速度オーバー。
ここ中央高速は最高速度が80キロである。
でも、制限速度を守っている車など皆無である。
車はどんどん加速し、あっという間に120キロになっている。

「ちょっと、スピードの出し過ぎよ。」
「まあ、いいじゃないか。」
「だめです。事故でも起こしたらどうするの。」
「大丈夫だよ。」
「聞き分けてください。でないと、私が速度を落としますよ。」
「わ、わかったよ。キミは手出しをしないでくれ。」
「分かりました。じゃあ、安全に行きましょう!」

100キロまで速度を落とす。
「関心、関心」と彼女は言って、静かになった。
私はほっと一安心。
しばらく、走ったころちょっと聞いてみた。

「河口湖には、何時頃着くかな?」
「そうですね。この速度を守っていけば・・・あと、73分で河口湖インターに到着します。」
「そうか、ありがと。」
「どういたしまして。どうぞ、何でも聞いてくださいね。」
「そうだね。また、困ったら聞くね。」
「どうぞどうぞ。」

何でもてきぱきとこなす彼女。
ちょっと意地悪をしてみたくなった。

「ところで、キミいくつ?」
「それはヒミツです。」
「へえ。年なしかあ?」
「ヒミツなだけです!」
「じゃあ、彼氏はいるの?」
「私に?」
「そう、キミに。」
「・・・一人だけ。」
「ほう、初耳だね。」
「そうかしら!?」
「で、その幸運な彼は誰かな?」
「・・・あなたです。」
「えっ、驚いたな。僕だって。・・・違うね。それは。」
「・・・・・」
「僕はキミの彼氏じゃないよ。」
「・・・・・」
「キミは口だけだからね。」
「・・・・・」
「あれっ、どうした?何か言ってよ。」
「・・・・・」
「あれっ、あれっ?もしもし?!」
「・・・・・」
「質問。今、何時かな。」
「・・・・・」
「やだなあ。また、か。ちょっと意地悪するとすぐフリーズしちゃう。」

彼女は、最近売り出し中のSOMY社のカーナビだ。
僕はあわてて、リセットボタンを探した。



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