ショートショート   「原っぱのトラブル」




 初夏のさわやかな一日。野山には草花が咲き乱れ、甘い香りが辺り一面に立ちこめていた。
 林をぬって、一陣の風が吹き抜けていく。その風に乗って何やら小さな争いの声が聞こえてきた。私はそっと耳を傾けてみた。


 「そんなに私にからみつかないでください。」
 「まあ、いいじゃありませんか。」

 日当たりのいい野原の一角から聞こえてくる。

 「去年、ここであなたにお会いしたときも言ったはずです。」
 「ええ、それは覚えていますが・・・」
 「それなのに、あなたはかまわず私にまとわりついて来ましたね。」
 「はあ・・・」
 「非常に迷惑をしましたわ。」
 「でも、仕方ないじゃありませんか。たまたま、偶然であなたと隣り合わせになってしまったのですから。」
 「ええ、それは分かりますわ。でも、あなたが私に絡みつくのが許せないのです。」
 「そう言われても・・・、これは私の癖で・・・ね。」

 どうやら、お隣同士の争い事のようだ。しばらく様子を見ることにした。

 「今年もあなたと絡み合っているところを見られたら、きっとあの人笑いますよ。」
 「ああ、あのおばあさんですか。」
 「そうよ。大きな歯のない口を開けて笑うんですから。」
 「あの、ばあさんは生まれつき口が悪いのですから、気にしちゃいけませんよ。」
 「そう言われても、私・・・我慢できないんです。」
 「まあ、私たちの運命としてあきらめなければならないんでしょうね。」

 どうやら、一方が泣き出してしまったようだ。さわさわ、しくしくと悲しい風音が聞こえてくる。
 私は、そっと近づいて覗いてみることにした。すると、

 「だいたい、どうして私たちがこんなに困らなくちゃいけないのでしょうね。悪いのは人間です。こんな名前を付けた人間が悪いのです。ほら、ご覧なさい。今、私たちを覗いていますよ。」

 一瞬、そんな声が聞こえたような気がした。そして、私は辺りに生い茂る草木の視線を感じたのだった。
 私がのぞき込んだ一角には、小さな赤い花を一面に咲かせた1本の草と、その草の茎にとぐろを巻くようにからみついて小さなラッパのような可憐な花を咲かせている草があった。

 ・・・なるほど、これは確かに人間が悪い、と私は思った。

 赤い小さな花を咲かせている草は「ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い)」である。
 ラッパのような可憐な花を咲かせているのは「ヘクソカズラ(屁糞かずら)」である。
 云われはともあれ、確かにこんな名前ではかわいそうだ。この2本が絡み合っていたら思わず笑ってしまうかもしれない。
 それにしても、この2本の仕草を笑うばあさんとは「彼岸花」に違いない、と私は思った。彼岸のころ突然地面から顔を出し、葉っぱも出さずに花だけ咲かせる。これを人呼んで「ハッカケババア」。これも何とも罪作りな命名である。
 
 もう少し、植物の立場というものを考えてやらなくては・・・ですね。
 私は足音を忍ばせながらその場を退散することにした。

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