乳児湿疹(乳児アトピー)について

 乳児湿疹は乳児アトピーと呼ばれることもありますが、本質的には同じものです。乳児湿疹の大部分は1歳までに軽快しますので、成人のアトピーとは異なるものです。湿疹がひどくても、本当のアトピーになるかどうかは1〜2歳まで経過を見ないと分かりません。
 そのため当院では1〜2歳まではあえてアトピーとは呼ばず、乳児湿疹と呼ぶことにしています。乳児湿疹だろうがアトピーだろうが、名前が違うだけで対応は同じです。
 湿疹の原因は、“体質的に皮膚が弱いこと”です。正常にある皮膚のバリヤー機能が弱く、すぐにじゅくじゅくしたり、乾燥したりするわけです。また、刺激に弱いので、じんましんが出やすいのも特徴です。

※ネットでは母乳の影響と書いてある物もありますが、ほとんどは関係ありません。母乳を止める必要はありません。

 ここでは乳児湿疹の月齢別の対応を書いておきます。

※皮膚は繊維が網の目のようになった構造です。皮膚が弱い子どもは単純にこの網の目が粗いと考えてください。だから、中からの分泌物が表面に出やすく、逆に乾燥もしやすいのです。年齢と共に網の目はしっかりしてきます。

出生後〜4、5ヶ月頃まで
 この時期はお母さんのお腹にいるときのホルモンの影響で、皮膚の脂肪分が多いため、にきびのような湿疹ができたり(右上写真)、脂漏性湿疹と呼ばれる黄色い湿疹ができることがあります(右中写真)。
 基本はお湯で洗って、皮膚の多すぎる脂肪成分を落としてあげましょう。
 かさぶたは無理に取る必要はありません。
 痒みがある場合にはステロイド軟こうを処方することもあります。掻き毟らないように爪をきれいに切ってあげてください.
 分泌物が多いと細菌感染から湿疹が悪化する場合があります(右下写真)。このくらいになれば治療することをお勧めしています。


 


※この時期の検査検査
 湿疹は皮膚が弱いからですが,卵や小麦などの異物が皮膚から侵入すると,皮膚の下のリンパ球がアレルギー抗体を作ります.
 皮膚でアレルギー反応をどの程度誘導しているかは血液検査でTARCという物質を測定すれば,調べることができます.


※TARCについて少々説明しておきます.
小さい子どもさんの体の中には幼弱リンパ球がいます.リンパ球はその後成長して,正常リンパ球になるのですが,皮膚炎がある子どもさんでは,皮膚の上でアレルギー反応を起こし,アレルギーのリンパ球が作られます.アレルギーリンパ球がどのくらい作られているかを示す指標がTARCです.

TARCは,年齢が大きくなり皮膚が強くなると自然に下がってきます.


※アレルギー検査
 生後4ヶ月頃まで強い湿疹があれば、離乳食を進めるためにもアレルギーの検査を受けておくことをお勧めしています。
 
 代表的な食物アレルギーは、卵、ミルク(牛乳や粉ミルク)、小麦、大豆などがあります。これらを最初に与えるときには、ごく少量から開始して下さい。血液検査で強いアレルギー反応が出ている場合は、負荷試験をしながら離乳食を進めていきます。
 多少のアレルギーが出ていても、2歳頃までにはほとんどの子供さんが食べることができるようになります.

※アレルギー血液検査を過剰に意識しないで下さい!
 赤ちゃんでアレルギーの血液検査を行うと、ほとんどの子どもさんで卵やミルクに軽く反応が出ます。これらは意味のない反応であることが多く、少し大きくなると消えてしまいます。
 

※食物アレルギーの症状
 食物アレルギーの症状は、卵などを食べた後、30分〜1時間以内に口の周りが赤くなったり、じんましんが出たりすることが多いです。また、消化管でアレルギーが起きて、下痢やおう吐などを認めたり、喘息のような症状が出ることもあります。ごく稀にはショックを起こすこともあり、注意が必要です。
 なお、上の写真のような湿疹のほとんどは、食物アレルギーとは関係なく出ているものです。制限食をしても湿疹が改善することはありません。また明らかにアレルギーがある食物を除去しておけば、その他のものを食べさせて湿疹が悪化するということもありません。
 食物アレルギーのサイトも参考にして下さい。

※食物アレルギーを防ぐ
 食物アレルギーは食べさせるからではなく,皮膚から食物が入ってくることで起こります.逆に食べさせることで,食物アレルギーは防ぐことができます.当院では生後4ヶ月頃から,少量食物負荷をお勧めしています.パウダー状にした卵白や小麦を食べさせることで,正常抗体を誘導し,アレルギーを防ぐわけです.

5ヶ月〜
 徐々に皮膚の脂肪分が少なくなり、乾燥してきます。特に乳児の皮膚は薄いため、水分が蒸発しやすく、ガサガサしてきます(右上写真)。
 乾燥するために湿疹ができるのですが、掻き毟ったところから黄色ブドウ球菌などの菌が入り込むことでじゅくじゅくすることもあります(右下写真)。
 基本は普段のスキンケアで、皮膚を乾燥させないようにしてください。ワセリンを1日3〜4回塗って、石鹸は皮膚上の菌を死滅させるので、極力使わない方が良いと思います。
 






10ヶ月〜1歳
そろそろ皮膚が強くなってきます。乳児湿疹の大部分は改善してくる頃です。


1歳〜
 もともと乳児湿疹の強かった子どもは、皮膚が弱く、水分がなくなりやすいと言えます。こういった体質は大きくなっても続くため、乾燥したがさがさした肌になりがちです。
 右上の写真は4歳の子どもの脇の下です。皮脂成分がなくなって乾燥性湿疹を作った状態です。右下の写真は乾燥した皮膚を近くから見たものです。皮膚ががさがさして水分がなくなってきているのが分かります。
 特に冬季には、気温が下がることで皮膚の血流が減ること、空気が乾燥することなどで、乾燥肌がひどくなります。乾燥するため、かきむしってしまう子もいるようです。
 皮膚の乾燥を防ぐために、皮膚の血流を増やすローションや、ワセリンなどの油分を塗ってあげてください。保湿剤はどれも大きな差はありません。使いやすく、肌に合うのを使ってあげれば良いと思います。痒みがひどい場合にはステロイド軟こうを塗ってもかまいません。熱いお風呂に入れたり、石鹸でごしごし洗うのは乾燥肌の悪化因子です。汗をかく時期でなければ石鹸は使わないで下さい。
(発展途上国の子どもはお風呂に入らないために体臭が強いですが、アトピーは少ないですね。)
 乾燥肌は小学生くらいで治ります。思春期になって男性ホルモンや女性ホルモンが出る時期になれば皮膚の脂肪分が増えて乾燥することはなくなります。その代わり、にきびができやすくなります。







※アトピーは冬に悪化する?
 実は寒い時期に産まれた子どもは、暑い時期に産まれた子どもよりアトピーが多いということがはっきりしています。また、アトピーの湿疹は冬季に悪化します。これは皮膚の水分がなくなることと湿疹の悪化が密接な関係があることを示しています。乳幼児のアトピーの管理は、皮膚の保湿にあると言えます。
 右の写真は普段はきれいな肌をしている子どもさんですが、寒くなって皮膚の水分がなくなってしまったために、がさがさになっています。
 冬は乾燥に注意しなければならないということが分かってもらえると思います。



治療について

 皮膚が弱いという弱点をなるべく補ってあげるようにすることが重要です。
 ワセリンの主な成分は油ですので、皮膚から水分が出て行くのを防ぎ、皮膚の刺激を抑えてくれるわけです。痒みの強い湿疹があればステロイドを含む軟膏を処方します。
 ステロイドには賛否両論がありますが、指示通りに塗っていただければ大きな副作用はありません。ステロイドを塗っても塗らなくても大きくなれば最終的に治るというのは同じですが、塗らない場合には痒みのコントロールが困難です。わざわざ苦労するよりは、塗ることで赤ちゃんの痒みを抑えて、皮膚のコントロールをやりやすくすることを考えれば良いと思います。
 飲み薬に関してですが、痒み止めの薬(抗ヒスタミン剤)は、効果がはっきりせず、長期に服用するときの副作用も心配なために、当院では小さい子どもさんにはお勧めしていません。また、飲んでも将来のアレルギー体質を抑えることはできません。
 薬で唯一体質を変えることができるとすれば、腸内細菌の薬です。ある種の腸内細菌が多ければ、アレルギーを作りにくくなるということは証明されています。


ワクチンについて
 アレルギーのある人でも、ほとんどのワクチンは安全に接種できます。
アレルギーの子どもさんは感染に対して弱く、カゼを繰り返したりすることも多いのです。
できるだけワクチンを接種して、体を守ってあげてください。

最後に
 乳児湿疹(乳児アトピー)やアレルギーに関しては、多くの人が持論を述べています。ステロイドを使えば治る、使わない方が治る、石鹸は使った方が良い、使わない方が良い、食事制限はした方が良いしない方が良い。なぜ人によってこれほど主張がバラバラなのでしょうか?
 対立した意見をどちらも正しいと述べる人がいるということは、治療に正解はないということです。
 乳児湿疹(乳児アトピー)はほとんどの場合年齢と共に肌が強くなれば治ってくるのです。大きく誤ったことをしなければ、どのような治療、経過をたどっても最終的なゴールは同じです。自然に治ります。
 ただし、皮膚の成長を待たなければいけないので、長い時間が必要です。
湿疹を治療するという観点でなく、体質と付き合うと思ってください。その上で、気長に(気楽に)良くなるのを待てば良いと思います。

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ちょっと難解かも?湿疹とアレルギーの関係について
 乳児湿疹(乳児アトピー)と食物アレルギーは別の病気(体質)です。食べさせるから湿疹がひどくなるわけではありません。
 しかし、1歳までに湿疹が強く出ている赤ちゃんは、将来にアレルギーを発症しやすいということも分かっています。湿疹で皮膚が壊れたところから食物やダニなどのアレルギーを起こしやすい物質が体の中に入り、体の中のリンパ球と触れ、アレルギー抗体を作ってしまうと考えられています。アレルギーが湿疹を作るというより、湿疹がアレルギーを増やすということです。
 逆に食物が消化管の中でリンパ球と触れることで、アレルギーと反対の正常抗体が作られやすくなります。
 アレルギー体質を作らないためには、皮膚(特に口の周り)はできるだけきれいに保つ一方で、食べられるものはできるだけ食べさせるという方針が良いようです。
 右写真は口周囲湿疹ですが、ワセリンなどを塗って、食物がなるべく皮膚につかないようにしましょう。

さらに難解かも?皮膚の上の細菌の話
 皮膚の上にはたくさんの細菌がいます。ほとんどの菌は皮膚をきれいに保つために必要な菌です。
(ごしごし洗いすぎるとこういった菌が死んでしまいます。)
 湿疹で壊れた皮膚には必ずと言って良いほど悪玉菌が生えます。悪玉菌の代表的なものは黄色ブドウ球菌です。じゅくじゅくした肌にはほとんどの場合、黄色ブドウ球菌が生えています。この菌が生えることで湿疹が治りにくくなるのです。(右の写真は黄色ブドウ球菌の感染によって急激に悪化した湿疹の例です。)
 乳児湿疹の皮膚にも黄色ブドウ球菌が検出されます。
 赤ちゃんの頃に黄色ブドウ球菌に感染すると、将来のアトピー性皮膚炎になりやすいということが分かっています。実は2歳頃までは免疫を作る時期にも関わらず、ずっと同じ菌に感染していると、そういった菌に対する抵抗力を作りにくい体質ができてしまいます。これは免疫寛容の仕組みと呼ばれています。
 成人のアトピー患者は黄色ブドウ球菌に対する抵抗力が作りにくいことも知られています。これは年少時の免疫寛容の仕組みが将来まで影響することを示しています。黄色ブドウ球菌がずーっと皮膚にいることでアトピーの湿疹が治らないのです。逆にあるとき急に治ることもあるのは、こういった菌に対する抵抗力が成人になってからも付くことがあるからだとも考えられます。
 将来にアトピー性皮膚炎にならないためにも、黄色ブドウ球菌に対する抵抗力をつけることが大切です。黄色ブドウ球菌は、健康な皮膚には生えません。免疫寛容の仕組みを回避するためにも、できるだけ皮膚を健康に保つことが必要です。また、赤ちゃんを触る手が健康でなければ悪玉菌が赤ちゃんの肌に感染してしまいます。お母さんの手はできるだけきれいにしておいた方が良いようですね。

※皮膚の潤いは細菌(善玉細菌)によって作られます。現在の子どもの肌はどんどん乾燥するようになっています。これは幼少時からあまりに清潔な環境で育つからでしょう。細菌というと恐いイメージですが、人の体に住んでいる細菌の99%は体にとって必要なものなのです。体に悪いのはごく一部の病原菌だけです。

皮膚の過敏症について 〜子どもの性格からも湿疹を作ります〜
 激しい湿疹でも痒がらない子どももいますし、軽度の湿疹でもかきむしってしまう子もいます。どうしてこのような差が出るのでしょうか?
 実は、痒みをどのように感じるかは子どもによって様々です。成人でも痛みに対して平気な人、過敏な人がいます。体の感覚を脳でどのように判断するかは、極めて個人差が大きいのです。

 ※ちなみに、筆者は痛がりです。以前に骨折で入院したとき、「痛い!」って唸っていましたが、同じ骨折でもほとんど痛がらない人もいると聞いて驚愕したことがあります。

 さて、皮膚の痒みを人より強く感じる子どもは、ちょっとした乾燥肌でもかきむしってしまい、皮膚が破れたり、湿疹を作ったりします。これを皮膚過敏症と言い、感覚過敏の一つです。
 性格的には、小さいことにこだわりが強かったり、我が強い子どもさんに多いようです。赤ちゃんの時に、ちょっとした物音で起きたりするのも感覚過敏から来ていることが多いですね。
 まだ睡眠リズムができていない赤ちゃんでは、夜中にちょっとしたことで起きて、体をかきむしったりすることもあります。これも感覚過敏から来ていることがあります。
 こういった子どもさんは育てにくく、家族の負担は大きいかもしれません。ただし、皮膚は成長と共に強くなりますし、睡眠リズムができてくると夜間に起きることも少なくなります。根気良く治療を続けてください。