ここでは,できるだけ簡単にインフルエンザについて解説してみます.

インフルエンザはウイルスの一種です.特別なウイルスではなく,世界中のヒトが感染します.
日本列島は渡り鳥の通り道です.インフルエンザは鳥が運んで来るものなので,冬季は必ず流行します.

 太古の昔から日本人はインフルエンザの流行で鍛えられてきたってわけです.だから新型インフルエンザが流行しても日本では米国などに比べて亡くなるヒトがはるかに少なかったのかもしれませんね.

 さて,ウイルスはどこかに感染して増えることで症状が出ます.インフルエンザウイルスが感染するのは右図の赤丸の部分です.一般のカゼウイルスと同じところです.
 
 ウイルスはいきなり現れるわけではありません.他のインフルエンザに感染したヒトの咳とか鼻汁が飛び散ったものを吸い込むことで感染するのです.手についたウイルスで口や鼻を触って感染することもあります.

 ウイルスって眼に見えないほど小さいので,どこにいるか分かりにくいですね.
でも大多数のウイルスはヒトの体の中にいるってわけです.インフルエンザで咳をしているヒトと同じ部屋にいるとうつってしまいます.満員電車や,学校なんかで感染が広がるわけですね.

 さて,インフルエンザが感染するヒトの鼻の奥は赤くてじめじめしています.
これは,粘膜細胞というのが鼻の中を裏打ちしていて,常に分泌物を出しているからです.
 粘膜細胞は,体の奥に異物が入らないようにしている番人です.

下の図は粘膜を切り取って拡大したものです.



粘膜は薄いもので,粘膜細胞が規則正しくその上を覆っています.
粘膜が赤いのはその下の,血液が豊富に流れている部分の色が見えているからですね.

丸っこい粘膜細胞は常に分泌物を出しています.これを粘液と呼びます.
粘膜細胞は粘液で守られているのです.

ウイルスが入ってきても,通常は粘液でブロックして,不活化したり,外に出したりします.でも,あまりに乾燥していると,粘液が蒸発して無くなってしまいますね.そうなると細胞がむき出しになって,ウイルスの感染を受けやすいわけです.ですので,乾燥するとインフルエンザにかかりやすくなります.


 インフルエンザウイルスは粘膜細胞の中に入るような特別な構造を持っています.いったん細胞の中に入ると,ウイルスは爆発的に増えることになります.



ウイルスが増えると,一部のウイルスは外に飛び出して,また他の細胞に感染して同じことを起こします.最終的に細胞そのものを壊してしまえば,中で増えたウイルスが一斉に外に出てきます.
 このようにして,ウイルスは鼻の中で一気に増えます.

※この細胞内で増えるとき,温度が大切です.37℃付近でウイルスはもっとも増殖します.体温が上がればウイルスは増えなくなります.


なお,他のカゼウイルスも同じですが,インフルエンザは特別に増殖のスピードが速いウイルスです.ですので,粘膜細胞は危険信号をいっぱい出して,体の体温を上げます.体温が上がった方がウイルスは増えにくくなるからです.

インフルエンザはワクチンを接種しても感染します.これはなぜかと言うと,ワクチンを接種した時にできる抗体は,基本的には血液の中にしかありません.上の粘膜の図の赤いところは守ってくれますが,粘膜細胞はほとんど守られないわけです.(微量の抗体は粘液に出てきますが,効果のほどは,,,なかなか難しいですね.)

粘膜に感染するウイルスを防ぐのは,非常に難しいわけです.他のカゼのウイルスもなかなかワクチンを作ることができません.
なお,肺の中は血流が豊富です.ですので,老人が罹るようなインフルエンザの肺炎はワクチンによってある程度防ぐことができます.

最近は鼻に噴霧するワクチンができています.このワクチンは,粘液の中に抗体を作るものです.ですので,感染予防効果は高いのですが,現時点では高価なので,接種されるヒトは少ないようです.

さて,インフルエンザに感染するとどうなるでしょうか?
まず寒気がして,体の関節が痛くなるでしょう.これは粘膜細胞がウイルスに感染すると,「大変だ!助けてくれ〜」って色々な指令を出すからです.

ウイルスに対抗するのは,サイトカインという物質です.割と有名なので,名前は聞かれたことがあるでしょう.


 このサイトカインが体温を上げたり,痛みを出したりするわけです.
 しんどいですが,いま,ウイルスに感染して大変だから,大人しくしておきなさい!って体に注意警報を出しているのですね.

 ウイルスは続々と他の細胞に感染して,増えていきますが,最終的にはサイトカインが勝つので,インフルエンザは自然治癒します.ヒトの体はこういった機構をきちんと持っているわけです.

熱が出たあとに,鼻水や咳が出てきます.熱でウイルスを増えないようにして,鼻や咳で物理的に追い出すわけです.最終的にはウイルスを追い出して,「もう罹らないように!」ってウイルスの型を覚えておくわけですね.覚えるのは主にリンパ球です.治った後はリンパ球が番人になって抗体を作るので,同じウイルスには罹りにくくなります.

ただ,このリンパ球もずっと活躍してくれるわけじゃないのですね.リンパ球も主には血液の中にいますので,粘液の中まで守ってくれません.体の奥は守ってあげるけど,粘液までは手が回らないというのが本当のところなのです.粘液の抗体は数ヶ月で消えてしまいます.

インフルエンザには薬もあります.飲み薬と,吸入の薬,点滴の薬です.ウイルスに対する効果はほぼ同じですが,吸入が最も早くウイルスに感染した部位に薬が届きます.飲めない場合には点滴を,吸入ができない場合には飲み薬を,という具合に,体に入りやすい薬を選べば良いと思います.



こういった薬は特効薬のように思われていますが,それほどすごいものではありません.右図の中で,3の部分をブロックするだけなのです.つまり,ウイルスを殺すとか,細胞に入らなくするわけではなく,これ以上他の細胞にウイルスを撒き散らさないようにする作用しかありません.

ですので,効果は限定的です.薬を使うと,少し早く回復するという程度です.
ただ,それでも早く治したいってことはありますよね.つらいのは嫌です.

 

インフルエンザの薬の中で,一番たくさん処方されているのはタミフルという薬です.
粉薬もありますので,子どもさんにも飲ませることができます.

タミフルについて,これまで様々なことが調べられてきましたが
1, A香港型ウイルスには一定の効果があります.
2, 新型インフルエンザにも一定の効果があります.
3, Aソ連型ウイルスにはあまり効きません.
4, B型ウイルスには,ほとんど効果はありません.

また,インフルエンザの患者さんの中でも,熱が高い時にはウイルス量も多いので,飲んだ方が早く治るのですが,熱の高くないヒトでは,飲んでも飲まなくてもあまり変わらないようです.熱の高くないヒトは,ウイルスの量も多くなく,元々すぐに治るからです.

わたし個人の見解としては,1〜5歳くらいの子どもさんなら,薬を服用した方が良いと思います.飲まなくても治りますが,解熱まで1週間も続くことがあり,家庭での負担が大変だからです.

小学校以上であれば,薬を飲むかどうかはケースバイケースでしょうか.解熱まではそれほど変わらないかもしれませんが,薬を飲んだ方が後々の鼻汁,咳嗽などの鬱陶しい症状は早くなくなります.

成人は,つらければお薬を飲んでください.ただ,インフルエンザの時期って病院も混みますので,しんどいのにわざわざ病院に行って,もらうのはその程度の薬ですから,どっちでも良いですよ.家で寝ておくだけの方が楽かも?

薬の副作用ですが,大きなものはありません.しかし,異常行動を増やすという報告もあります.ただ,インフルエンザは高い熱が出るので,もともと異常行動が出やすい病気なのです.異常行動が薬のためかどうかは分かりません.もっとも結論を出すのも難しいので,事故が怖いから薬はやめておこうって考えでも構いません.いずれにせよ治るからです.

長くなりました.書くことはたくさんあるのですが,あんまりたくさんになっても,理解が難しいと思いますので,,,,ただ,最後にこれだけは知っておいて欲しい,ということを書いておきます.

インフルエンザで一番気をつけないといけないのは?,,,事故です.
インフルエンザに罹ると高熱が出ます.普通のカゼに比べてサイトカインがたくさん出るからですが,それが脳に影響することがあるのです.一次的に認知症のような状態を作りだすようです.症状は一過性ですが,その間は行動の制御ができなくなります.これが危ないのです.

特に小学生高学年から中高生は,肉体的には元気です.ウイルスに対するレスポンスも良く,勢い良くサイトカインが出るために高熱が出ます.一方,脳には未成熟な部分が残っており,特に行動を制御する回路は完成していません.

ですので,高いところから飛び降りたり,いきなり走り出して,事故にあったりする子どもさんがいます.

こういった事故は,周囲が気を付けることである程度防ぐことができます.
高いところに住んでいるなら,ベランダに出にくいように常に鍵をかけておくとか
外出を控えるといった対応は必要でしょう.
また一般の風邪薬の中で眠気の出るようなのは飲まないようにしましょう.
意識低下は異常行動の原因となるからです.

もうひとつ知識として知ってもらいたいのは,インフルエンザ脳症です.実は脳症は元々遺伝的因子を持つ子どもさんがウイルス感染症をきっかけに発症するものです.ですのでインフルエンザ以外にも,脳症を起こすことがあります.ロタウイルスなども高熱が出ますので比較的多いですね.インフルエンザ脳症が有名になったのは,インフルエンザは感染する子どもさんが多く,そのために脳症の患者数も多いからです.

脳症に関しては,乳幼児突然死症候群と同じようなものです.どの子どもさんがなるのか予測するのは困難ですし,予防も難しいですね.将来は遺伝子診断ができるようになるかもしれませんが,全ての子どもさんを遺伝子診断するのは難しいのと,倫理的な問題があるかもしれません.

脳症のリスクを下げる方法には,できるだけインフルエンザに感染しないようにする,あらかじめワクチンを接種しておき罹患率を減らす.無理やり体温を上げることはしない,アセトアミノフェン以外の解熱剤を使用しない,(他の解熱剤は脳症のリスクをあげてしまいます.)自然のクーリングで体温を下げる,また,脳症は細胞レベルでエネルギーが足らなくなるために起こるので,できるだけ糖分を取ることも大切です.

しかし,できることを全てやっても脳症を完全に防ぐのは不可能です.不幸にも脳症を起こされた子どもの親御さんもいるかもしれませんが,それは親御さんには決して責任はないということも付け加えておきます.


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インフルエンザについて 2013年度版