インフルエンザについて 2018年度版


 インフルエンザの流行が始まりました。ここでは,できるだけ簡単にインフルエンザについて解説してみます.

インフルエンザはウイルスの一種です.特別なウイルスではなく,世界中のヒトが感染します.インフルエンザウイルスは鳥が運んで来るものなので,冬季は必ず流行します.12月頃から大和川にカモ(マガモ、ヒドリガモ)がやってきますけど、糞の中にウイルスがいるはずです。

↓写真は大和川のヒドリガモ、、たくさんいます。探してみてください。




こっちはマガモ、食べると美味しいらしいです。
ジビエ料理(野生の肉を使った料理)で良く使われます。


 日本列島は渡り鳥の通り道です.昔から日本人はインフルエンザの流行で鍛えられてきたってわけです.だから新型インフルエンザが流行しても日本では米国などに比べて亡くなるヒトがはるかに少なかったのかもしれませんね.

 インフルエンザは最初は鳥から人へ感染します。感染した人の中でウイルスが爆発的に増えて、その後は人から人へとどんどん広がっていくというわけです。




 さて,ウイルスはどこに感染するのでしょうか?インフルエンザウイルスが感染するのは右図の赤丸の部分です.一般のカゼウイルスと同じところです.
 
 鼻から他のインフルエンザに感染したヒトの咳とか鼻汁が飛び散ったものを吸い込むことで感染するのです.ウイルスが手について口や鼻を触って感染することもあります.

 ウイルスって眼に見えないほど小さいので,どこにいるか分かりにくいですね.
でも大多数のウイルスはヒトの体の中にいるってわけです.インフルエンザで咳をしているヒトと同じ部屋にいるとうつってしまいます.満員電車や,学校なんかで感染が広がるわけですね.

 さて,インフルエンザが感染するヒトの鼻の奥は赤くてじめじめしています.
これは,粘膜細胞というのが鼻の中を裏打ちしていて,常に分泌物を出しているからです.粘膜細胞は,体の奥に異物が入らないようにしている番人です.

下の図は粘膜を切り取って拡大したものです.



粘膜は薄いもので,粘膜細胞が規則正しくその上を覆っています.粘膜が赤いのはその下の,血液が豊富に流れている部分の色が見えているからですね.

丸っこい粘膜細胞は常に分泌物を出しています.これを粘液と呼びます.
粘膜細胞は粘液で守られているのです.

ウイルスが入ってきても,通常は粘液でブロックして,不活化したり,外に出したりします.でも,あまりに乾燥していると,粘液が蒸発して無くなってしまいますね.そうなると細胞がむき出しになって,ウイルスの感染を受けやすいわけです.乾燥するとインフルエンザにかかりやすくなるのはそういった理屈からです。.


 インフルエンザウイルスは粘膜細胞の中に入るような特別な蛋白質を持っています.いったん細胞の中に入ると,ウイルスは爆発的に増えることになります.



ウイルスが増えると,一部のウイルスは外に飛び出して,また他の細胞に感染して同じことを起こします.最終的に細胞そのものを壊してしまえば,中で増えたウイルスが一斉に外に出てきます.このようにして,ウイルスは鼻の奥で一気に増えるのです.

※ウイルスが細胞内で増えるとき,体温が37℃付近でもっとも増殖します.体温が上がればウイルスは増えなくなります。だから感染すると体が反応して熱を上げるのです。.


なお,他のカゼウイルスも粘膜細胞内で増えるのは同じですが,インフルエンザは特別に増殖のスピードが速いという特徴があります.ですので,粘膜細胞は慌てて危険信号をいっぱい出して,急速に体温を上げようとします.

インフルエンザはワクチンを接種してもかかってしまうことが多いですね。.これはなぜかと言うと,ワクチンでできる抗体は,基本的には血液の中にしかありません.上の粘膜の図の赤いところは守ってくれますが,粘膜細胞はほとんど守ってくれないわけです。
微量の抗体は粘液に出てきますが,効果のほどは?,,,なかなか難しいですね.ワクチンの効果に期待しすぎないで下さい。多少、かかりにくくなる、という程度です。

※当院の職員も毎年ワクチンやってます。でも、普通に感染します。ですが、何年も勤めている人は全くかかりません。毎年軽くかかってるからなんです。ちなみに院長も10年以上インフルエンザにかかってません。勤めだしたころは何度も熱を出しましたけどね。


麻しんや風しんなど、血液に感染するウイルスのワクチンを作るのは比較的簡単なのですが、粘膜に直接感染するウイルスを防ぐのは,技術的に非常に難しいわけです.同じように他のカゼのウイルス(RSウイルス等)もなかなかワクチンを作ることができません.
なお,肺の中は血流が豊富です.ですので,血液にある抗体が守ってくれます。老人が罹るようなインフルエンザ肺炎はワクチンによってある程度防ぐことができるのが分かっています。

最近は鼻に噴霧するワクチンができています.このワクチンは,粘液の中に抗体を作るものです.ですので,感染予防効果は高いのですが,現時点では高価なので,接種されるヒトは少ないようです.また年によって効果が違い、ぜんぜんダメな年があります。

さて,インフルエンザに感染するとどうなるでしょうか?

まず寒気がして,体の関節が痛くなるでしょう.これは粘膜細胞がウイルスに感染すると,「大変だ!助けてくれ〜」って色々な指令を出すからです.

ウイルスに対抗するのは,サイトカインという物質です.割と有名なので,名前は聞かれたことがあるでしょう.


 このサイトカインが体温を上げたり,痛みを出したりするものです.
 しんどいですが,いま,ウイルスに感染して大変だから,大人しくしておきなさい!って体に注意警報を出しているのですね.

 ウイルスは続々と他の細胞に感染して増えていきますが,最終的にはサイトカインが勝つので,インフルエンザは自然治癒します.ヒトの体はこういった機構をきちんと持っているわけです.

熱の他に鼻や咳も出ます。熱でウイルスを増えないようにして,鼻や咳で物理的に追い出すわけです.最終的にはウイルスがなくなって,「もう罹らないように!」ってウイルスの型を覚えておくわけですね.覚えるのは主にリンパ球です.治った後はリンパ球が番人になって抗体を作るので,同じウイルスには罹りにくくなります.

ただ,このリンパ球もずっと活躍してくれるわけじゃないのですね.リンパ球は主には血液の中にいるものです。体の奥は守ってあげるけど,粘液までは手が回らないというのが本当のところなのです.粘液の抗体は数ヶ月で消えてしまいます。小児科の職員のように超強力な抗体を持つのは、一般の人ではなかなか難しいようです。

インフルエンザには薬もあります.飲み薬(タミフル)と,吸入の薬(リレンザ、イナビル),点滴の薬です.ウイルスに対する効果はほぼ同じですが,吸入が最も早くウイルスに感染した部位に薬が届きます.飲めない場合には点滴を,吸入ができない場合には飲み薬を,という具合に,体に入りやすい薬を選べば良いと思います.



こういった薬は特効薬のように思われていますが,それほどすごいものではありません.右図の中で,3の部分をブロックするだけなのです.つまり,ウイルスを殺すとか,細胞に入らなくするわけではなく,これ以上他の細胞にウイルスを撒き散らさないようにする作用しかありません.

ですので,効果は限定的です.薬を使うと,少し早く回復するという程度です.
ただ,それでも早く治したいってことはありますよね.つらいのは嫌です.


インフルエンザの薬の中で,一番たくさん処方されているのはタミフルという薬です.粉薬もありますので,子どもさんにも飲ませることができます.

タミフルについて,これまで様々なことが調べられてきましたが
1, A型ウイルスには一定の効果があります.
2, B型ウイルスには,ほとんど効果はありません.
ということははっきりしています。

※当院でも調べてみましたが、B型インフルエンザにタミフルを服用してもらった場合、服用しなかった場合で、熱が下がるまでの期間にはまったく差がありませんでした。もともと、B型はタミフルの感受性が弱いようです。

また、インフルエンザの患者さんの中でも,熱が高い時にはウイルス量も多いので,薬を使った方が早く治るのですが,熱の高くないヒトでは,飲んでも飲まなくてもあまり変わらないようです.熱の高くないヒトは,ウイルスの量も多くなく,元々すぐに治るからです.

わたし個人の見解としては,1〜5歳くらいの子どもさんなら,薬を使った方が良いと思います.飲まなくても治りますが,解熱まで1週間も続くことがあり,家庭での負担が大変だからです.

小学校以上であれば,薬を使うかどうかはケースバイケースでしょうか.解熱まではそれほど変わらないかもしれませんが,薬を飲んだ方が後々の鼻汁,咳嗽などの鬱陶しい症状は早くなくなります.

※「薬は使いたくない!」みたいな、こだわりがなければ、大きな子もだいたい処方してます。

成人は,つらければお薬を使ってください.ただ,インフルエンザの時期って病院も混みますので,しんどいのにわざわざ病院に行って,もらうのはその程度の薬ですから,どっちでも良いですよ.家で寝ておくだけの方が楽かも?

困るのは吸入できないくらいの小さいお子さんがB型インフルエンザになったときです。熱は長いし、飲み薬(タミフル)は飲んでも効きません。当院ではメーカー推奨の投与法ではないのですが、リレンザという吸入薬を生理食塩水で溶かして、最初の1日〜2日だけ吸入してもらっています。
乳幼児の初感染のインフルエンザはなかなか手ごわいので、少しでも早く治るようにという気持ちからです。もちろん、自然経過でも最終的には治ります。

※なお、タミフルはB型インフルエンザにも保険適用されています。ですが、保険で使えるのと効果があるかは別なのです。他にも保険は使えるが、実際には効果がないという薬はたくさんあります。

抗インフルエンザ薬の副作用ですが,大きなものはありませんが、異常行動を増やすかもしれないとも言われています.ただ,インフルエンザは高い熱が出るので,もともと異常行動が出やすい病気なのです.異常行動が薬のためかどうかは分かりません.個人的には、おそらく関係はないと思います。もっとも結論を出すのも難しいので,事故が怖いから薬はやめておこうって考えでも構いません.いずれにせよ治るからです.

長くなりました.書くことはたくさんあるのですが,あんまりたくさんになっても理解が難しいと思いますので,,,,ただ,最後にこれだけは知っておいて欲しい,ということを書いておきます.

インフルエンザで一番気をつけないといけないのは?,,,
事故です.

インフルエンザに罹ると高熱が出ます.普通のカゼに比べてサイトカインがたくさん出るからですが,それが脳に影響することがあるのです.一次的に認知症のような状態を作りだすようです.症状は一過性ですが,その間は行動の制御ができなくなります.これが危ないのです.

特に小学生高学年から中高生は,肉体的には元気です.ウイルスに対するレスポンスも良く,勢い良くサイトカインが出るために高熱が出ます.一方,脳には未成熟な部分が残っており,特に行動を制御する回路は完成していません.

ですので,高いところから飛び降りたり,いきなり走り出して,事故にあったりする子どもさんがいます.

こういった事故は,周囲が気を付けることである程度防ぐことができます.
高いところに住んでいるなら,ベランダに出にくいように常に鍵をかけておくとか外出を控えるといった対応は必要でしょう.
また一般の風邪薬の中で眠気の出るようなのは飲まないようにしましょう.
意識低下は異常行動の原因となる可能性があるからです。

もうひとつ知識として知ってもらいたいのは,インフルエンザ脳症です.実は脳症は元々遺伝的因子を持つお子さんがウイルス感染症をきっかけに発症するものです.ですのでインフルエンザ以外にも,脳症を起こすことがあります.ロタウイルス感染も高熱が出ますので比較的多いですね.

脳症に関しては,乳幼児突然死症候群と同じようなものです.どのお子さんがなるのか予測するのは困難ですし,予防も難しいのです.将来は遺伝子診断ができるようになるかもしれませんが,全てのお子さんの遺伝子を調べるのは難しいのと,倫理的な問題があるかもしれません.

脳症のリスクを下げる方法には,できるだけインフルエンザに感染しないようにする,あらかじめワクチンを接種しておき罹患率を減らす.無理やり体温を上げることはしない,アセトアミノフェン以外の解熱剤を使用しない,(他の解熱剤は脳症のリスクをあげてしまいます.)自然のクーリングで体温を下げる,また,脳症は細胞レベルでエネルギーが足らなくなるために起こるので,できるだけ糖分を取ることも大切です.

しかし,できることを全てやっても脳症を完全に防ぐのは不可能です.不幸にも脳症を起こされたお子さんの親御さんもいるかもしれませんが,それは親御さんには決して責任はないということも付け加えておきます.


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