男尊女尊の国ノルウェー その1
老若男女・親類友人が総出の手作り結婚式
 

くらしと教育をつなぐWe  2005.10

      三井マリ子

写真1 結婚披露宴の会場づくりをする二人
写真2 台所で親類縁者が100人分の料理づくり
 昨年暮れ、ノルウェーの親友から「娘が同棲中のボーフレンドと結婚します。パーティに来て」という便りが届きました。7月初め、仕事をやりくりして急遽ノルウェーに飛びました。ご無沙汰している友人たちに会いたかったこともありますが、男尊女尊の国ノルウェーの結婚式なるものを見たかったからです。

 ノルウェーでは「結婚」は瀕死の状態にあります。現内閣の財務大臣は「自分はゲイで男性と同棲中」と公言しています。前の内閣には、未婚のまま妊娠・出産した石油大臣や、レズビアンであることを公表した法務大臣がいました。国民的人気者の皇太子妃メッテ・マリットは、前の恋人との間にできた男の子を持つ貧しいシングルマザーでした。そもそも、娘の結婚式の便りをくれた親友自身もサンボー(同棲)で、つまり、結婚はしていません。また、私の別の友人の娘はオスロ大学生ですが、未婚のまま3人の子どもを出産し、弁護士めざして勉強中です。新生児のほぼ半数は婚外子です。

 友人宅は、オスロから車で2時間ほど北上したへードマルク県。大自然の懐にあり、見渡す限り山、森、湖、そして畑。主な産業は農林業です。友人オーレ・G・ナルッドも農業経営者。それに加えて議員と大学助教授。3足の草鞋をはいていました。でも、数年前、市長に選出され、さすがに忙しすぎて大学は辞めました。相棒のマグニは、彼が務めていた大学の図書館長。今回、結婚する娘イングビルドは彼女の連れ子なのです。

 友人カップルはバツイチ同士です。正式に結婚はしていないものの、生活を共にしています。一人娘を抱えた父子家庭のオーレの家に、やはり離婚後2人の子を育てていた母親マグニが、いつの頃からか住みつくようになりました。日本と違って、婚姻届けを出しても出さなくても法的権利はほぼ同じなので、あえて結婚をしないカップルが多いともいえます。

 友人オーレは、「空港までマリ子を迎えに来て、息抜きになった」と笑いました。というのも、このところ、朝から晩まで準備に追われていたからです。「どんな結婚式なの?」と聞いたら、「僕にもよくわからない。当日が楽しみだね」。

 家族一同で1年前には日程を決め、若い2人自らが1ヶ月以上も前から準備を重ねてきたそうです。その大プロジェクトには、双方の両親・縁者・友人たちが、仕事を終えた後や休暇をとったりして参画しました。

 庭先にある物置小屋の前に材木で手作りの舞台が造られました。これが結婚式場です。前日夕方に公式結婚立会人を招いてリハーサルです。かつて、ノルウェーの結婚式場は教会か裁判所かの2つでした。昨年、婚姻法が改正されて第3の道が開かれました。それが宗教に全くとらわれない「人道主義結婚」というものです。イングビルドはノルウェーでも目新しいこの結婚式を選びました。

 結婚式といえば神や仏や裁判官の前で挙行しなければならないというのも、考えてみれば妙なものです。公式の無宗教結婚式がリベラルな国に登場したのは、当然のなりゆきかもしれません。(式の中身については次号で紹介します)

 中庭をはさんで結婚式場の向い側にある馬草倉庫はダンス会場に変身しました。カラフルな布で壁を覆い、ステレオセットを運びこみ、飲み物カウンターも作ります。ダンスの曲は、老若男女に関係なくほぼすべてのゲストにあうように準備されていました。曲目がA4版2枚にリストアップされ、CDボックスの横に置かれます。友人オーレの好きなビートルズ・ナンバーの横には「オーレ・G・ナルッド」と書かれています。参加したすべての人が、いい気分になれるよう配慮されているのです。

 結婚式場とダンス会場の間に広がる芝生のスペースには、巨大なテントが張られました。このなかにテーブルと椅子を並べ、100人の晩餐会場ができました。

 私が到着した日には、すでにテントの屋根が張られ、壁に当たる部分の作業中でした。リース会社から借りたものです。テーブルと椅子は大学からの借り物で、こちらはタダ。100人分の椅子を運び込むため、車で引っ張る形のリアカーを使います。家と大学を何度往復したかわかりません。私も手伝いました。下が土と芝なのでテーブルなどがぐらつかないように脚の下に木の切れ端やブロックを敷きます。雨風に備えて外壁部分もしっかりと固定します。新婚の2人と、その男ともだち、女ともだちが汗だくになって準備しました(写真1)。

 テーブルセッティングは純白のテーブルクロスに、真っ赤なナプキンとキャンドル。環境保護運動家であるイングビルドのモットーは無用な消費をさけること。なにもかもが手作りです。鹿の丸焼きをはじめ、料理は自作。台所では、親戚や友人たちが100人分のメニューに腕を振るいます。叔父さんも台所で大奮闘です(写真2)。親戚や友人は、数日間、こうした手伝いに没頭します。夜になると、近くに住む人たちは帰宅し、翌朝またやってきます。遠方の人たちは、近所の農家宅にヤドカリです。キャンピングカーに寝泊まりしている人もいます。

 日本でならプロに頼んでしまうような仕事を、ここでは何十人もの手でつくりあげます。そういえば、ノルウェー人は、自宅やサマーハウスの内装のかなりを自分たちで仕上げます。壁の塗り替えや屋根の張り替えはもちろん、家そのものを作ってしまう人も少なくありません。毎夏、電気も水道もないサマーハウスで何週間も過ごします。こうした生活上の慣れが、この手づくり大プロジェクトの土台になっているような気がします。とにかく、何から何まで心づくしの手作業は感動ものです。しかも男役割・女役割がありません。これに比べて日本の結婚式の、なんと虚飾に満ちたことよ。

 7月16日。結婚式当日。式は午後2時スタートし、3時から晩餐会。両親が離婚経験者のイングビルドには親4人と兄弟姉妹5人がいます。当日は、家族が正装で二人を祝福。晩餐会の後は明け方5時までダンス、ダンス、ダンス……。少し眠って昼ごろに起床し、午後は後かたづけ。

 翌日、つまり結婚式の2日後、二人は晩餐会に使った借り物の食器を洗って、貸してくれた先ごとに卓上に並べ、親に返却を依頼。リース会社に返却する巨大テントの汚れを落とし、たたんで車につめこんで、その足でクロアチアに新婚旅行に出かけました。ジーンズにTシャツにスニーカー、そしてバックパック。貧乏旅行そのものの出で立ちでした。

 ちなみにイングビルドは国家公務員、夫は彼女に扶養される大学生。伝統をちょっと生かしながら、性役割の因習に全くこだわらない、愛情に満ち溢れた結婚式でした。

 一方、日本には、「性役割の見直しは家庭崩壊につながる」という妄言をはく人たちがいます。そういう日本のバックラッシュ勢力の人たちに見せたいような、男も女も共に尊ばれる心地よい風景でした。

 この文章を書いている私の手元に、この日の雰囲気をよく表している歌があります。新婚の2人がゲストの顔をひとりひとり思い浮かべながら作ったという贈り物で、これが唯一の引き出物です。歌詞は、晩餐会席上、お皿の横におかれた歌集にしたためられていました。誰もが知っている歌の替え歌だとのこと。みんなで大笑いしながら合唱しました。



歓迎の歌」(イングビルド&アンダース作詞)

いつもは会えないあなた
小さなあなたに大きなあなた
12歳のあなたに80歳のあなた
髪の毛のたくさんあるあなたに髪の毛がないあなた
よくいらっしゃいました

人一倍食べるあなたにダイエット中のあなた
グラスをグイッとあけるあなたにわたしのグラスに注ぐあなた
よくいらっしゃいました

幸せいっぱいのあなたに幸せを見つけようと思っているあなた
恋を一度もしたことのないあなたにすぐ恋に落ちてしまうあなた
よくいらっしゃいました

恋人といっしょに来たあなたに恋人をつくるためにここに来たあなた
ドレスを借りて来たあなたにあなたが持っているものを全て着てきたあなた
ここに行くなと言われたのに、口実を見つけてやってきたあなた
よくいらっしゃいました

ここに来て、この歌を歌っているあなた
みんなそれぞれが個性的
でも、パーティ気分はみんないっしょ!


(和訳三井マリ子)