ノルウェーで女性重役旋風 私企業にもクオータ制導入の動き
 

<日本経済新聞2002年9月14日「取締役会の4割女性に」記事原稿>  


三井 マリ子 
女性政策研究家
とよなか男女共同参画推進センターすてっぷ館長

写真1 ノルスクハイドロ社初の女性の副社長
      「女性登用は会社の自主制にまかせてほしい」
写真2 ノルウェー産業貿易大臣
       「会社の自主性だけでは100年かかっても無理だ」

 ノルウェー政府は、2002年3月8日の国際女性デーにあわせ、経済界に対して「取締役会の40%以上を女性にせよ」と勧告した。
この世界に類のない勧告は、「国営企業は1年以内、他は3年以内に」という内容だ。もし達成できない場合には、男女平等法を改正してクオータ制(割当制)を導入するという。
 8月、この脅しともとれる勧告から半年を経た同国を訪ねた。
「私は副社長です。わが社の最高経営陣6人の1人です。この上には取締役会があるのですが、ここにも女性が3人います。会社の経営陣に女性を増やすことは大賛成です。でも、法によるクオータ制の強制は妙薬とは思えませんね」
 こう語るのは、ノルスクハイドロ社初の女性副社長アレキサンドラ・ベッケさん(37)。年間総売上2兆4480億円(153billoin NOK)、世界60カ国に展開する本社、支社に約5万人の従業員をかかえる巨大エネルギー会社のナンバー・ツーだ。政府勧告直前の今年1月、人事部長から抜擢された。同時に同社では、取締役会の女性も増やした。それまで9人中1人だったが、今は3人になったのである。
ノルウェーは、日本と違って最高経営者会議の上に取締役会が位置する。取締役会は社長を首にすることもできる。
ノルスクハイドロ社ばかりではない。取締役会の50%を女性にした会社もある。同国の主要50社を調査した経済誌『エコノミスト・レポート』(6月27日)によると、4社に1社は女性取締役がいた。10社中9社は取締役か最高経営陣に女性が必ずいる。250社に調
査対象を広げた結果でも「取締役に女性はいない」と回答した会社は38%にすぎなかった。
 しかし、ノルウェー経済界がはじめから女性幹部登用に積極的だったわけではない。ノルスクハイドロ社社長自ら「当社に見合った実力のある女性取締役を見つけることはきわめて困難」と公言し、女性団体のひんしゅくをかった。1998年夏のことだった。
 男女平等推進役の子ども・家族省は、90年代中半から男女平等法に定められている公的委員会などのクオータ制を産業界にも導入をと提案してきた。
 ノルウェーの政治行政における女性の進出度は世界一、二である。内閣閣僚に占める女性は、1986年以来、政権交替はあっても一度も40%を下回ったことはない。国会、地方議会とも平均3人に1人は女性議員である。
 働く場に目を移すと、従来男性の多かった分野である運輸通信業、鉄工業、農林水産業においてすら3〜4人に1人は女性が占めるようになった。
 子ども・家族省傘下の「男女平等センター」を中心に、1999年から産業界の方針決定分野に女性を増やすキャンペーンが始められた。
センターは、手始めに、「女性人材データベース」を立ち上げた。インターネットのホームページをクリックすると、女性たちの履歴、専門分野、連絡先がズラリと並んでいる。
人材を探す会社は、専門分野とそのポスト名を打ち込むと採用候補者名がたちどころに現れる。登録女性は3000人を超え、その56%が取締役経験者、77%が管理職経験者である。センター事務局長のモーナ・ラーセン・アスプさんは「『トップに見合った実力のある女性はいない』とはもう言わせません」と語る。
 しかし、こうした努力にもかかわらず、女性たちが企業組織の最高峰である取締役室にはいりこむのは難しかった。そして、いらだつ女性たちの声を受けとめるかのように、政府勧告が出された。発表したのは、子ども・家族省ではなくて、産業政策の責任省である
産業貿易省大臣アンスガール・ガーブリエルセンさん(47)だった。金融業界で働いた経験を持つこの保守党出身の男性大臣の発言に、マスコミはおおいに注目した。
 当然、反論する会社もあった。急成長をとげ、メディアに登場することの多いIT会社スーパーオフィス社社長ウーネ・アムンゼンさんは「こんな勧告は無意味だ」と語った。他社も続くかに見えた。
しかし、間髪をいれず子ども・家族大臣が応酬。「真剣に増やそうとしないなら、法で規制するまでだ」とカツをいれた。スーパーオフィス社は、その数ヶ月後の今年5月、取締役会に初めて女性を登用した。
「一生懸命探したら、実にすばらしい女性が見つかったので・・・」とアムンゼン社長は、電話で私に話してくれた。
 ほとんどの会社はこれまで、同業社の社長など身近な業界関係者から取締役の補充をしがちだった。しかし、政府勧告の前後から、より広範囲に候補者を探すようになった。中には海外にまで人材を求める会社も出てきた。
 ノルウェー16000社が加盟する経営者連盟NHOも、全加盟会社に対して、会長名で「取締役会や最高経営陣に、もっと女性を増やそう」という手紙を出し、自主的努力を促した。
 しかし、40%の達成はたやすいことではない。1979年以来ノルウェー社会の男女不平等をチェックしてきた男女平等オンブッド(オンブズマンのこと)のクリスチン・ミーレさんは語った。
「40%はとても難しいと思います。企業のすばやい対応は、立法化されたくないという本音の現われにすぎません。結局、法による強制になると私は予想しています」
 ノルウェーの挑戦は続く。
  

  
参考リンク

女性人材データベース http://www.kvinnebasen.no 
男女平等センター http://www.likestilling.no/ 
男女平等オンブッド http://www.likestillingsombudet.no/ 
子ども・家族省 http://odin.dep.no/bfd/ 
産業貿易省 http://odin.dep.no/nhd/
ノルウェー経営者連盟(NHO) http://www.nho.no/ 
ノルスクハイドロ http://www.hydro.com 
スーパーオフィス http://www.superoffice.no
駐日ノルウェー王国大使館 http://www.norway.or.jp/index.html