ノルウェー女性の過去、現在、未来1  
 
クリスティン・ミーレ (ノルウェー男女平等オンブッド)2

三井マリ子 訳 3


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男女平等とは
 ノルウェーは男女平等の国として知られています。職業生活、家庭生活、政治活動という3分野の大部分を女性と男性で平等に分かち合っている国なのです。
 私は、完全な男女平等というものは、女性と男性が平等の権利と平等の機会を持ち、一個人として尊重され、社会・職場・家庭において、あらゆる仕事が女性と男性で平等に分かち合えることだ、と考えております。
 そういう意味では、いかなる国も男女平等をまだ完全に達成してはいません。長い時を経て、女性の権利や機会が改善されてきたとはいえ、ノルウェーですら、完全な男女平等の国であるとはいえません。いつも今のようだったわけではありませんし、これからの道も、依然として長いのです。
男女平等への道を達成するための多くの重要な要素について、これからお話いたします。

20世紀初めのノルウェー
 20世紀初頭のノルウェーにおける女性たちの権利や機会は限られたものでした。政治の舞台で活躍する女性など誰もいませんでした。女性が参政権を獲得したのは1913年で4 、女性が国会議員に初めて選出されたのは1920年代です5
 女性が家の外で仕事につくかどうかは、社会的地位と家の経済しだいでした。しかし、どんな社会的地位であろうと、女性は結婚したら外の仕事にはありつけませんでした。
 一家の経済は父親の収入にかかっており、父親が家族の支出を支配していました。ですから、女性が、夫と離婚したいと思ったら、多大な経済的社会的困難におちいりました。
多くの女性は、離婚を選ぶことによって巻き込まれる問題の大きさにたじろぎ、離婚よりも苦痛に満ちた結婚生活にとどまる方を選びました。

福祉国家への道6
 第二次世界大戦後、ノルウェーは、国家再建という大事業に立ち向かいました。福祉国家の思想が発達し、戦後、そして、50年代、60年代に実現されました。
 福祉国家の成功の前提条件(必須条件)は、「すべての人」の雇用でした。でも、この当時、すべての人とはすべての男性という意味でした!
 女性に関していえば、政策の目標も、高い地位を得ることの証も、妻子を養ってくれる夫と結婚することでした。ですから職業につく女性は非常に変わり者であり、数も少なかったのです。
 1960年代、女性の人口の20%以下しか雇用されていませんでした。既婚女性となると20%以下どころではなかったはずです。ノルウェー社会は、ヨーロッパのどこの国よりも専業主婦に依存していたのです7
 福祉国家の発展と、経済の向上により、子どもに初等教育以上の教育を受けさせることができるようになりました。子どもといっても、それは主には息子に対してでした。なぜなら、娘は、母親になり専業主婦になる宿命だったからです。しかし、少しずつではありますが、若い女性たちにも高等教育の場が与えられていきました。

社会革命と女性解放運動
 60年代末から70年代初めにかけて、ヨーロッパとアメリカにさまざまな変化が起こりました。学生たちは、規制の社会を攻撃し、政治問題に真剣にかかわる人が増えていきました。多くの国々で、女性の権利や女性の解放が、社会的テーマになりました 8
 同時に、国連9 と欧州連合EU 10において、男女平等、女性の権利、女性の暮らしの改善が政治の焦点となっていきました。ノルウェーでも、また、男女平等の問題が政治的テーマに掲げられました。
 女性団体は、男女平等と女性解放を求めて、20世紀初めから何十年も運動を続けてきたのですが、やっと日があたるようになり、参加者の数も増えました。
 新しい女性解放の組織や、政党の女性部門が新設されました。彼女たちは、社会全体と政党内と、両方をターゲットにしました。男女がともに政治の決定権を握るべきであると主張し、女性差別撤廃の法整備を要求していきました。

男女平等法の萌芽
 1972年、ノルウェーに男女平等審議会11 が創設されました。男女平等審議会の目的は、女性の権利を強化し、男女平等に向けての変革を促進することでした。
 1973年、男女平等法案を提言する委員会が設立され、1975年に法律の原案が提出されました。その法案は、今日の男女平等法と大きな違いはありません。
 当時、政党はすべて、男女平等は重要課題であるという考えでは一致していました。しかし、男女平等のための特別の法律を策定することに、政党によっては多少異論がありました。
 また、もうひとつの争点は、「性に中立な法律にするか」、それとも「女性の差別を禁止するだけものにするか」、という点でした12

男女平等法と男女平等オンブッド
 男女平等法13 は1978年に成立し、1979年に施行されます。施行されたのは、国会に男女平等法案が提出されてから4年後のことでした。そこで初めて男女平等オンブッドが任命されることになります14
 男女平等の推進と男女平等オンブッドの誕生の影に、女性運動団体が重要な働きをしたことは明らかです。男女平等に関する法律を改正する過程においても、女性運動団体の働きが決定的役割を果たしました。
 この男女平等法こそ私の仕事そのものなのですが、この法律は、ノルウェー社会に絶大なる変革をもたらしました。しかし、男女平等法だけではありません。私たち女性が、女性や男性の権利や現状に政治的光を当ててきたこと、法改正の必要性を訴えてきたこと、男女平等に関する意識改革の促進-――――などがノルウェー社会の変革に重要な役目を果たしました。
 男女平等法は、「女性は職場で、男性と平等の待遇を受ける権利を要求できる」という法的根拠を作りました。特に、男女平等賃金と男女平等昇進・登用に法的根拠を与えたのです。
 さらに、男女平等法は、男女平等オンブッドが、他の法律の改正や新法の設定にあたって、「女性と男性間の差別のない待遇」という課題を推し進めることを可能にしました。
 男女平等法は、社会のすべての分野における女性と男性間の差別がターゲットです。したがって、私の仕事に「終わりはない」ということです。

男女平等オンブッドの2大職務
 男女平等法は、男女平等オンブッドに2つの職務を与えています。第一の職務は、男女平等法の条項が守られているかどうかを監視することです。いかなる人でも、いかなる組織、団体でも、性差別を受けていると感じたら、私に訴え出ることができます。
  第二の職務は、社会のすみずみに「男女平等」を促進することです。そこで、男女平等オンブッドは、男女平等に関する一般社会の議論にどんどん参加し、男女平等に関して自らの意見を公にしなければなりません。
男女平等オンブッドは、男女平等法と男女平等オンブッド自身ができるだけ多くの人々に知られるように働かなくてはなりません。
ノルウェーに男女平等法ができてから20年がたちました。その間、男女平等オンブッドは、性差別に関して多くの苦情や相談を扱ってきました。とりわけ多いのが職場の性差別です。
それに加えて、1代目から3代目まで男女平等オンブッドは、全員が、メディアに頻繁に出て、男女平等の広告塔の役目を果たしてきました。 新しい法律ができる時、公的制度が議論になったり提案されたりする時など、男女平等オンブッドはコメントを求められます15

女性と職業
50年前に比べて、女性の現状も地位も変わりました。現在、女性の人口の70%が就業しており、女性は男性への経済的依存から自立できるようになりました。小さな子どもを持つ女性でも仕事を続けている率は高いのです。
 また、女性は、すべての分野の職場にはいっていっています。とはいえ、女性が多数だったり、少数だったりする職場はあります。ですから、ノルウェーの職場は、まだ性によって分断されているといえます。主に女性が多い職場は、公務員で、人の世話や教育の部門です。
 私企業で女性が多い職場は、商品販売部門です。
 女性就業者の半分はパートタイムで働いています。つけ加えますが、ノルウェーでのパートは単に時間が短いだけで、労働条件や福利厚生などの権利は、フルタイムと同じです16 。女性にパートが多いのは、家族や子供の世話がまだ主に女性の肩にかかっているからです。つまり、多くの女性は、「二重労働」をしているのです。その二重労働を両立させるためには、どちらかの仕事にかける時間を減らさなくてはなりません(だからパートをせざるをえない)。

仕事も子育ても
 ノルウェーで、女性がこれほど大勢働きつづけられる理由のひとつは、1960年代に福祉のシステムが導入され、このシステムが近年さらに発展したことによります。ノルウェーは、妊娠出産の際、有給で休暇をとることのできるすばらしい制度を持っています。
 1977年、ノルウェーでは労働者保護と労働環境に関する法律17が施行され、それによって、出産に関連して、有給で休暇をとれるようになりました。両親は、給料の8割給付を受けながら52週間、職場を離れることができます。
 その給付は、国民保険から出されます。52週間のうち、産前3週間と産後6週間の休暇は、母親にのみに与えられている権利です。
 父親は、52週間のうち4週間を強制的にとらなければなりません。父親がその権利を行使しなかった場合、その4週間を母親が代わってとることはできません。残る39週間の育児休業は、両親でどのように分け合ってもかまいません。
 父親に課せられるこの4週間の「育児休業(パパ・クオータ)制度」が新設されたのは1993年です。現在、父親の80%以上がこの権利を使っています18 。実業界で高い地位にある人や、政治家も、このパパ・クオータという権利を使っています。2、3年前、財務大臣は、初めての子どもができた時、4週間のパパ・クオータをとって「主夫」をしました。
 前に申し上げたように、父親は、もっと長期間育児休業をとって、家で子育てに従事することを選ぶことはできます。簡単な手続きなのです。しかし、今なお、主に女性の方が、男性より多く育児休業を取得しているのです。
 「外での有給の仕事と政治活動」そして子育てを両立させることができるということは、若い女性や男性が重要な社会活動に参加できることを意味します。

育児休業の充実と出生率
 現在のノルウェーの内閣には女性がたくさん入閣しており、多くの大臣は小さな子どもを抱えています。彼女・彼らは、親としての仕事と、重要な政治の仕事を両立させています。
 この数年間だけ見ても、大臣就任中に、出産し育児休業をとった女性が数人います。こうしたやりかたで大臣の仕事をすることに対し、一般から不満や反対意見はあがってきません。もちろん、20年、30年前なら、このような選択は不可能だったでしょう。
 出産と育児にかかわる休暇の長さは、子育てと仕事を両立させることを可能にしました。これが、前にも増してノルウェーの出産率を高めることにつながっていきました。
 ノルウェーの出生率は最新の統計で1.75です。この数字は、もっとも高い出生率を誇るヨーロッパ諸国のひとつとなっています。
 それに比較し、日本では1.32と聞いています。この数字は、日本の女性が仕事と子供のどちらかを選ばなければならないからではないでしょうか。また、日本の女性がどちらかを選ばなければならないため、家庭を持つころには年をとってしまうからではないでしょうか。

トップへの進出
 ノルウェーの女性が男性と同様に数多く職場に参入してはいても、職場における女性の地位と、男性の地位には、まだ大きな違いがあります。
 民間であろうと、公務員であろうと、トップの地位についているのは男性です。トップの地位についている女性は、民間では6―7%、公務員では20―25%しかいません19
 こうした数字は、教育と経験によるものであると思われています。しかし、苦々しいことに、今、男性よりも女性の方が大学を終了する人数が多いのです。
 さらに、女性は男性同様、長期間職についていますので、経験不足のために女性の管理職がいない、とは言えません。
 では、なぜ、高い地位の女性がこれほど少ないのか。その理由のひとつは、女性の職業的実力(資質)への疑念が消えていないからだといえます。男女平等オンブッド事務所に寄せられる苦情から判断しますと、昇進・登用の際、女性は差別されていることが明白です。件数から見ますと、この昇進・登用の差別に関しての苦情がもっとも多いのです。

クオータ制
 ノルウェーは、政界で女性が多く活躍しているため、男女平等の国と称されています。そのとおりです。実際、現政権(保守中道の連立)の内閣閣僚は、女性8、男性11で、女性が42%を占めています。
 国会議員は37%が女性です。地方政治を見ますと、県議会は42.8%、市議会は35.4%が女性です20
 ここで重要なことは、選挙で選ばれる政治的ポストには法的なクオータ制は適用されていないということです。
では、なぜ女性が政界に大勢進出しているのでしょう。法律による強制とは違うメカニズムが働いているからです。
 中でも、政党における「女性議員を増やす」努力、女性運動団体からの圧力、「女性を当選させよう」という選挙の際の女性の選挙キャンペーン21 を特筆することができます。
 主要政党は、選挙候補者を選定する際、ならびに、党内決定機関の構成員を決める際、少なくとも40%の女性を入れる「クオータ制」を、等の綱領に明記しています。また、1986年以来、首相は、組閣にあたって大臣の40%を女性にしなければならないとする「慣行」を守りつづけています22
 こうした取り決めが重要な役目を果たし、大きな効果をあげていると思われます。


解決すべき課題
 ノルウェーは、このように、男女平等に関して一定の目標を達成し、賞賛を受けているとはいえ、取り組むべき課題はまだ残っています。今後立ち向かうべき難題もかかえています。
 たとえば、子育てと家事の主たる責任者は、今なお女性です。たしかに男性も変わってきました。しかし、女性が変わったほどには、男性は変わっていません。男性も、日々の生活の子育てに非常にかかわるようになりましたが、多くの男性は、依然として、自分の主たる仕事は、子育てではなくて外で仕事をすることだと思い込んでいます。仕事と子育てを両立させることは、男性には困難だと、男性は考えているのです。
 現実に即した認識というより、伝統や、性差に起因する先入観などによるものが多いと、わたしは思っています。ノルウェーが男女平等に関してうまくやっていくためには、男性、新しい男性のロールモデルについてもっと力を入れなくてはなりません。
 男女平等オンブッド事務所の経験によると、男性は、子育てや離婚後子供と過ごす時間などに関して、男性の方が差別されていると感じています。離婚後、多くの男性は自分の子どもと連絡がとれなくなったり、母親と同等に子供の世話をできると思われていないと悟ります。


性による賃金格差
 ノルウェーにおいても、男と女で、実質賃金の格差はまだあります。女性の賃金は男性の86%なのです23 。これは、ノルウェーの男性と女性の給与に大きな格差が存在する事を意味しています。
 男女同一価値労働同一賃金は、男女平等オンブッドが、過去何年にもわたってたびたび取り組んできたテーマですが、いまだに、片時も目を離せない課題です。男女の賃金格差を生みだす原因の多くは、男女で違った仕事をしていることによって発生します。
 女性が従来からしてきた仕事は、人の世話や教育の分野が多いのですが、こうした仕事は男性が従来からしてきた仕事よりも賃金が安いのです。これに加えて、女性はパートタイムで働く場合があることが、さらに賃金を低くします。
 さらに、男性と同じ仕事をしていても、女性の賃金が低いことさえあります。男女同一価値労働同一賃金を得る権利は、ノルウェーの男女平等法ばかりでなく、他の多くの国際規定に明文化されているにも関わらず・・・です。
 男女平等オンブッド事務所は、仕事に見合う賃金が男性よりも低いという苦情を女性たちから定期的に受けます。そうした場合、男女平等オンブッド事務所は調査をします。中には、男女平等法違反であると判断し、その雇用主に女性の賃金を増額させたケースがあります。


若者の無関心
 ノルウェーでは、男女平等を達成させるための仕事や関心は、大人の女性のテーマだと思われています。若い女性や男性は、男女平等は古臭いテーマだと考えたり、男女平等はもう達成したのだから、これ以上しなくてもいい、と考えているのです。ですから、男女平等に関する仕事をしている人間なら誰もが、若者にどう男女平等のテーマを届けるかに苦慮しています。


結論
 ノルウェーの男女平等法は、男女平等の機会を獲得するための主要戦略のひとつです。この法律のもっとも重要な点は、法律を遵守させるために、「オンブッド」という機能を法の下に置いたことです。
 オンブッドという機関があって、その利用は無料で、性差別を感じたら、誰でも、そこに訴えることができる。しかも、不平等をなくすための敷居は低い。このことが、差別を目に見えるものにし、それが差別是正へと向かわせるのです。
 ノルウェーにおいては、男女平等を達成するためには、女性の現状だけを強調したり、女性に有利になるように暫定的特別施策をとるだけでは十分ではないとされています。男性の生活や男性の役割も議論のテーマにしていくべきである、とされています24
 男女平等を阻む主たる障害は、人の世話にかかわる仕事への男性の参加が低いことです。ですから、ノルウェーでは、家の中でも外でも、こうした類の仕事に男性を参入させていくことを、強力に推し進めています。

 最近、男女平等大臣は、国会に、「男女平等白書」を提出しました。その中で、彼女は、「パパ・クオータ」を現在の4週間から10週間に延長すべきだという提言をしています。
 こうした変革が、男性の役割を変えることにつながり、それによってノルウェーの男女平等が推進されていくと、私は確信しています。
 現政権のもうひとつの重要な決定は、法律によって、私企業と公営企業の取締役にクオータ制を導入させる新法制定です。
 通産大臣が、昨年3月7日に25 、こう明言したのです。
「企業が2005年末までに取締役会のメンバーにクオータ制を自主的に導入しないのならば、私企業と公営企業の取締役会の構成員を、どちらかの性の少なくとも40%としなければならない、ということを法律で明文化します26
 この新法は、経済界における女性の地位を向上させることになるでしょう。

 ノルウェーにおいて、私たちは、女性と男性間の平等という目標に着実に近づいてきております。しかし、社会のすみずみに男女平等を徹底させることは、終わりのないプロジェクトだと思っております。

                  
(段落、小見出しは三井マリ子)

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