女性が自分の人生を自分でデザインできる国ノルウェー
 

 

「HYGGE ヒュ−ゲ VOL.3」 (スカンジナビア政府観光局 2001.9.1) より

 三井マリ子
 とよなか男女共同参画推進センターすてっぷ館長







 凍てつく寒さの中、夫と子どもを捨てて家を出た『人形の家』のノラは、その後どうしただろう。ハッピーな人生を送れただろうか。19世紀のノルウェー女性は、高等教育を受けることも政治に参加することも許されなかった。「女性は一人の人間たりえなかった」と、文豪イプセンも書いている。

 しかし、現代のノラはまったく違う。政財界に、学界に、性の境界を飛び越えて大活躍である。とくに際立った変化は、政策決定の場に女性が増えたことだ。地方議員の3人に1人、国会議員や国家公務員管理職の10人に4人を女性が占めている。閣僚は約半数が女性だ。こうした変化は、政策の優先順位を変えた。「子どもを生み育てやすい環境づくり」が国家の最重要政策になった。

 この大変革の恩恵を受けているのはもちろん女性たちだ。私の友人を3人紹介しよう。
オスロ大学法学部の学生ヘッレさん(23歳)。
未婚のまま子どもを2人生み、今、子育てをしながら弁護士をめざす。これを可能にするのは、こんな制度があるからだ。
 学生用家族アパートに簡単に安く入居できる。出産・医療費はほとんど無料。育児休業手当に加え、ひとり親への手厚い保障もある。 
 シングルマザーの法学生である彼女は、月7000クローネの育児休業手当を1年間、その後、月9000クローネの特別補償を5年間受ける権利があるのだという。子どもは学内保育園にすぐ入れ、しかも入園料も減額される。
 寿司やカラオケに目がない日本びいきの彼女だが、昨秋の来日時、私に言った言葉は日本人には痛烈だった。
「日本ならこうはいかなかったでしょう。ノルウェーに生まれてとってもラッキーだわ」

 企業家ボーデルさん(38歳)は、今、3人の子どもを1人で育てながら働いている。ルクセンブルグ人と結婚し、彼の国で銀行員をしていたが、離婚を機にノルウェーに戻ってきた。
数年間の雌伏期間を経て、今年、自治体の起業支援金を受けて旅行会社を新設し、社長に就任した。
帰国を選択した決め手は、「ノルウェーには働く女性を応援するベストの社会福祉サービスがあるから」だという。

 3人目はグレーテさん(46歳)。ジャーナリストで元大臣。男女平等推進の責任省でもある「子ども家族省」の大臣に就任した時、第1子はまだ乳飲み子だった。そのうえ、また妊娠。在任中に妊娠出産した同国史上初の大臣として話題を振りまいた。
子育てと大臣の仕事を両立できた最大のポイントは、9ヶ月もの育休を会社勤めの夫がとって「専業主夫」をしたことだ。つまり、女親のみならず男親も育児のために会社を休める職場の体制が整っているのである。

 3人の女性は、子どもを生み育てながら、なおかつ自分の進みたい道をまい進している。
こんな女性の生き方を可能にするノルウェーは、フィヨルドやオーロラの大自然美よりも私を引きつけて離さない。