『ママは大臣 パパ育児---ヨーロッパをゆさぶる男女平等の政治』
三井マリ子著(明石書店、1995)
 日本の女性議員の数のあまりの少なさに疑問を抱いた著者が、ヨーロッパ女性たちの政治参加の原動力を訪ね歩いたルポ。現在オンデマンド版で入手可能
書評・感想
『ママは大臣--- パパ育児 ヨーロッパをゆさぶる男女平等の政治』(明石書店)を読みました。
1995年の著作ですが、今でも通用する問題提起が数多くなされています。

EUでは、その前身の前身のECC発足時から男女同一賃金をローマ条約で規定。その理由は公正な競争条件を設定するという文脈にあるといいます。

EUでは女性が議会に少ないことを「民主主義の赤字」と規定し、これをなくせという運動をEU機関である男女平等機会局でキャンペーンを行っている。日本でいえば、内閣府が総選挙の際、「女性議員を増やそう」と運動しているようなものです。こうした女性議員を増やそうという動きの背景にあるのが、条約批准に国民投票が必要なこと。女性の視点がないままでは国民から背を向けられてしまうのです。

各国の章では、どの国も政治への女性進出促進政策を取っていることが紹介されています。男の顔を女の顔に取り替えたベルギーの啓発ポスター。「女を選べ」というハガキ作戦をするオランダ。デンマークの章では、若干26歳の女性党首が登場。この背景には、若者が政治に参加しやすい環境がある。政党の青年部が盛ん。中高生でも政治活動は当たり前。件の党首は、大蔵官僚とのかけもち。それが可能な勤務時間体制。そして、国会議員を退いた場合、職場に戻れる。立候補したら職場を辞めざるをえず、議員を辞めたら失職という日本とは大違いである。

一方、EU議会の欧州議員でも威張ることはなく、一般人と同じように一人で飛行機に乗り、普通のタクシーを利用する。その上、地方議員はほとんどボランティアです。

さらに著者は、EU非加盟を貫くノルウエーについて、その政治的背景を詳述しています。中学生を含め一般の人が、EU加盟の是非について気軽に話しあい立場を明らかにして運動している。凄いことです。そして、この本のタイトルとなった「ママは大臣、パパ育児」が起きた。大臣となった女性が妊娠出産し、夫が育児休業をとって家事・育児を全面的に担ったのです。

この本全体を通じて感じたのは、ヨーロッパの国々は、民主主義の分野でも、生活点でも生産点でも、使い勝手の良い制度設計を心がけていることです。

ひるがえって日本は理想的な憲法を持ちながらそれを活かす制度設計が出来ていません。雇用形態の多様化を呼号していますが、実は、企業が労働力を使い捨てにするためです。小泉さんや安倍さんに従順な女性議員を少しばかり増やすことで男女共同参画・少子化対策などと唱えても、人々から選択肢を奪っているのですから羊頭狗肉です。

本書が出た1995年から、日本は長期のマクロ経済低迷、地域経済の崩壊、そして格差拡大社会へと変わりました。あるべき改革は、老若男女ともに、自由に人生を送れる社会であったはず。それが、「失業する自由」「フリーターに甘んじる自由」しかないような社会になってしまった。どこで我々は間違えたのか?

お上に異を唱えることが歓迎されない風土は、依然として強い。旧来の野党・労組でさえ、小泉さんによって「批判勢力」から「抵抗勢力」にと表現を変えられ、若者や女性の多くがそれに溜飲を下げてしまっている。古いものをぶっ壊すように見えて実は単なる権威主義なのではないか? 憲法「改正」の国民投票法案も、ノルウエーでのEU加盟の是非の投票とは、言葉は同じでも、内実はまったく異なります。

野党側も、一応女性を大事にしている姿勢は見せるが、中央集権的な組織体質、公開での議論が起きにくい組織体質などがあり、それは即女性の排除となることがわかっていない。本書のフィンランドの章にあった、社民党女性部長が造反して、保守党所属だが女性で人権感覚が優れている候補を推したような状況にはなりえないのです。保革どちらにしても権威主義的色彩が濃い。それを根底から是正していかねばならないでしょう。

皆さん、『ママは大臣 パパ育児』を是非一度目を通していただきたい。その上で、どういう経済・財政政策を採るべきか、総合的な議論を起こしていきたいものです。

Satoh,Shu-ichi さとうしゅういち
地域・平和・人権・環境 広島瀬戸内新聞
http://www.h2.dion.ne.jp/~hiroseto/
日本列島に、本当の民主主義を根付かせる会・広島県本部
http://www.geocities.jp/hiroseto2004/democracy

 




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