デンマーク初のシェルターができるまで 
 

          
■デンマークのシェルターと性暴力撤廃運動■
デンマークで初めて女性のシェルターは、1981年開設された「ダナーの家」です。コペンハーゲン中央駅から徒歩10分です。
 ダナーの家が誕生した背景は、ミッテ・クヌートセン監督が、ドキュメンタリー「ダナーとその娘」に感動的に描いています。このシェルターは、もともと、19世紀に王妃となった1人の貧しい女性が建てた女性のための安息の場でした。100年を経、オフイスビルに建て替えられようとしていた矢先、本来の目的に戻したのは1970年代の女性解放運動家たちです。
「ダナーの家」不法占拠→募金運動→買収→改造工事→シェルター・オープン。女たちのシェルターづくりへの連帯と行動は社会運動となってデンマーク全土を揺り動かしました。
その後、デンマーク各地に増え続け、現在では40ほどあるとされています。ヨーロッパのシェルターはほとんど女性運動家たちが設立した民設民営ですが、デンマークも同様です。そのうち34シェルターがこの全国連合LOKKに組織化されています。
デンマークは、2000年に世界で最も優れていると評判の男女平等法を成立させ、EU諸国を始め諸外国から視察がやみませんでした。その後、国政選挙の結果、保守中道連立に政権が変わり、2000年の男女平等法も見直されました。しかし、LOKKなどの粘り強い運動があって、この「10月29日、政府は、シェルター増設と充実のため今後4年間、毎年1000万クローネの財源を拠出すると決定」。日本円で6億5200万円(1億6300万円x4年間)。人口が日本の20分の1の国であると考えると、かなりの英断です。
最も男女平等の社会といわれる北欧ですが、英語圏でないこともあり情報は多くありません。下記のデータは、その意味で大変貴重です。デンマークのシェルターの実情が具体的に示されていると同時に、性暴力の実態も垣間見ることができ、今後の日本に参考になると思われます。
講演をすると、「北欧は女性の地位が高いのになぜ性暴力があるのか」というナイーブな質問が飛んできます。しかし、北欧といえども男女間の力関係は完全に対等にはなっていませんし、移民や難民の増加などから派生する問題も多く、性暴力はあとをたちません。むしろ、北欧だからこそこれだけの総合的調査が民間の手でなされたと見ることができ、ここから私たちが
何をくみとるかではないでしょうか。
 おりしも11月25日は国連の定めた性暴力撤廃デー。この日から12月10日まで16日間キャンペーンが各国で行われています。

2002年12月2日  三井マリ子

デンマークシェルター連合2001年報告書
作者 LOKK :National Organization of Shelters and Crisiscenters for Battered Women and Children  
翻訳 三井マリ子 (LOKK幹部Jytte Mejnholt注)より入手した英語仮訳の未発表原稿を三井が日本語に仮訳。未確認事項も多い)

氈@はじめに
2001年、全国34のシェルターに駆け込み宿泊した女性は2012人、子どもは1853人。本調査は、そこで働く職員と駆け込んできた女性へのアンケートによって行われた。

注)インタビューにあたっては、デンマーク在住の通訳ニールセンさだ子さんに交渉その他の労をとっていただいた。

 LOKKについて
LOKKは1987年創設の連合組織。現在34シェルターが加盟している、次の方法によって、フェミニストの視点で女性や子どもへの身体的精神的暴力の防止を求めている。
1)シェルターに駆け込む女性への暴力に関する情報を共有し調整する
2)デンマーク全土、またヨーロッパ内のシェルターや類似組織、NGOと協力しあう
3)共同作業のグループを確立する
4)シェルターへの財源を確保するため、国内の行政機関と交渉し協力する
5)メディアや広報を通じて質の高い議論を継続して行う

34のうち18が自治体と契約を結び、大半が自治体から補助金を受けている。2000年に比較し11増えた。2001年にいくつかのシェルターが閉鎖され、新たに3つのシェルターが開かれたから。34の総収入は、10,925,942EUR(1EUR=120円)。2000年に比較し18%増額。
宿泊者の宿泊料は自治体から支払われることが多いとみなされてきたが、34ヶ所の3分の2が自治体から補助金を受け取ってない。

職員
有給でスーパーバイザー1人を専従で置いているのは、32ヶ所。2000年には29ヶ所だったので3ヶ所増えた。2000年には、161人分のフルタイム職員がいたが、2001年には150人分と下がった。その分、2000年の66人から2001年の81人と、パートタイム職員が増えた。ボランティア職員は、2000年1493人から2001年1456人と減った。1999年から、ボランティア職員数が毎年減っている。

 

。 受付についてのデータ
受付 queries
2001年10,483人の女性から問い合わせなど接触があった。うち14%が、駆け込みを希望するか、カウンセリングや他の支援を受けたいための個人的問い合わせである。警察官、ソーシャル・ワーカー、他の福祉職員、家族や友人からの問い合わせが残る84%。女性からの問い合わせのうち、54%が宿泊できるかどうかの問い合わせ。33%が他の支援とかアドバイスを求めるもの。9%が関連する申請用紙の書き方を教えてほしいなどという他の問い合わせ。

断りrejection
8027人の宿泊希望女性のうち、4154人の女性に対し、空き部屋がないという理由で断らざるをえなかった。2人に1人が受け入れてもらえない現実。
すべて問い合わせは匿名なので、同人物が何度もしている場合もある。
他の断りも含め4829人の女性が断られている。その際、4829人の65%は、他のシェルターを紹介されている。その13%は、異なった支援を探し求め、4%は完全に取り下げた。完全に取り下げた女性の6%は、アルコール、薬物、精神病などの別の種類の虐待によるものであり、12%は他の理由による。

 

「 駆け込んできた女性と子どもの数に関するデータ
2001年2012人の女性、1853人の子どもがシェルターに宿泊した。前年度に比較し、女性74人、子ども54人 の減員。

宿泊期間
女性の平均滞在日数は35日。2000年は31日だった。ちなみに1996年は26日だった。
デンマーク人と外国人different ethnic originとの比較では、外国人638人が33のシェルターですごし、その平均滞在日数は50泊だった。こうした長期滞在の背景には、外国人の場合、家が見つからなかったり仕事が見つからないケースが増えていることがある。この現実は、同一人物が長く滞在することになり、他の人の滞在を断らざるをえないという問題を生みだす。女性と子どもはこれまでの住環境から離れることによる悪影響を受け、とりわけ、子どもは学校や保育園に通常のように通えなくなるという大問題を引き起こす。

 

」 女性と子どもに関するデータ
年齢:3分の1が18歳―39歳までの女性。18歳から29歳まででは、デンマーク人の33%、外国人ethnic woman(以下同じ)47%であり、違いが見られる。
国籍:登録者の63%がデンマーク国籍。32%が外国国籍。2000年に比較し、外国人が2.2%アップ。デンマークで生まれなかった女性となると、40%にのぼる。
2000年では38.6%だったので、1.4%のアップ。
外国籍の女性の中、52%が家族再会の移民と登録され、15%が単に移民、13.6%が難民、3%が亡命希望者。
Kvindehjemmet (コペンハーゲンのあるシェルター)では、シェルター利用者の71%が外国人。Frederikssundでは57%、HilleroodとBoligfondenでは47%。

意味すること
個々のシェルターが持つ資源はきわめて限られているにもかかわらず、外国人の増加により、通訳などの補完追加的仕事が増えてきている。2001年、宿泊希望の外国人の50%が通訳を必要としていた。人員が不十分なため、必要な支援や助けを与えられないなど深刻な支障をきたしているといえる。デンマーク社会に溶け込んでいないことから、近所との付き合いもなく、公的サービスへのアクセスも困難な人が多い。結果として、外国人の女性は、虐待夫やパートナーの所に戻るケースが多い。それがまたシェルターの再訪問という繰り返しにつながる。多くのシェルターは財政事情が逼迫しており、自治体や県と補助金契約のとりつけや、特別なプロジェクトへの予算増の運動など、毎年、経済的自立とは程遠い実情。しかも、こうして得られた財源は限られた期間のみであり、特別のプロジェクトのみにしか使えないという欠点がある。実際、予算不足によって、きわめて必要な女性への支援や長期的展望にたった支援計画の実行ができない状態である。

婚姻の有無
1960人のうち1072にあたる50%の女性が結婚同棲し、こどもがいる。
318人、16%が、子どもなし、パートナーあり。
350人、18%が、シングルマザー、172人(8%)が子どものいない独身女性。

職業
1808人の女性の33.5%が失業者。19.2%が雇用者。8%が退職者、7.5%が教育機関にいる

子ども
2001年、1893人の子どもを連れて、女性がシェルターにやってきた。
2000年より多少数が減っているが、その背景にはベッド不足と、長期間滞在者(とくに外国人=子どもが多い)が増えたことによる。
年齢は、2人に1人は6歳以下。5分の1は7歳―10歳。

 

、 暴力についてのデータ
ケースの85%が一人の個人による暴力である。ケースの6%が複数の個人による暴力。
2%が一人なのか複数なのか不明。3%が回答しないもの
ほとんどが一人の人間から暴力を受けており、その79%が夫か現在のパートナーである。14%が前夫か前パートナー。6%が他の家族や、友人、同僚など。

バタラーの社会的地位
1826人の女性が回答。1167人(63.9%)がデンマーク人。160人(8.8%)が移民。193人(10.6%)が難民。36人(2%)が亡命希望者、90人(4.9%)が家族再会移民。

女性の国籍による暴力の違い
少数民族の女性は、50%以上、複数の相手からの暴力の対象となりやすい。

暴力のタイプ
288人10.5%が身体的暴力、1223人44.5%が身体精神的両方の暴力。このことから身体的暴力を受けている女性は、少なくとも75%になる。347人13%が精神的暴力。146人5.3%が首を絞められた。82人3%が強姦、392人14%が脅迫、127人5%が武器や道具を使っての暴力を受けた
身体的暴力、首を絞める、強姦、暴力的脅迫は33.1%であり、2000年の30.1%より多い。

女性の国籍による暴力のタイプの違い
少数民族の女性ethinic minority womenは、身体的精神的暴力の対象となりやすい。首を絞めたり強姦という暴力にも、より多くあっている。彼らは、10人に1人しか精神的暴力にあっていないが、その主な理由は、この種の暴力について通訳や表現をすることが困難だからと考えられる。また、シェルターに滞在するためには、身体的暴力の方が認められやすいから、そう答えるマイノリティ女性が多いからもあろう。

警察に通報した回数
取材した女性の45%が通報していない。19.4%が通報した。2000年には21.4%が通報したので通報者は下がっている。

バタラーへのイニシアティブ
9シェルターが暴力男性へのイニシアティブを持っている。残り25シェルターはそのようなものはないが、将来、事業化したいと思っている。5シェルターが、「質問の意味がわからない」と回答。家族内の葛藤の解決していくためにさまざまな方法で行われていることがわかる。
12のシェルターの60%が暴力に立ち向かうための試みにそのような方法をとることは、自分たちの仕事ではないと表明している。43%が、バタラーと接触をしたいが、その方法がほとんどつかめない、と回答。50%が、暴力を受けた女性への努力に力を注ぎたいので、バタラーとの接触などは考えてないと回答。暴力の問題を総合的に見るべきであることは認識されてきた。しかし、資源不足に加え、女性と子どもが直面している火急の問題が山積しており、男性と接触することは二の次となっている。

 

・ シェルターを出た後の女性と子どもへのフォローアップ
出た後も女性に支援できているか
34シェルターの23が出て行った後も女性と子どもへの支援をしてきた。2001年、シェルターに宿泊した4人に1人の女性がそのようなヘルプを受けたことになる。シェルターにまた駆け込むことを減らすためにも、そのような支援が重要になることから、今後、そうしたフォローアップ支援を受ける女性がもっと増えてくるに違いない。しかし、ここで問題になるのはまたしても財源不足。女たちがフォローアップ支援を恒常的に受けられるように、シェルターが十分な資源を得られるようにすることが望ましい。

 

ヲ シェルターを出た女性に関するデータ
34のシェルターに宿泊した2012人の女性のうち、301人、15%がシェルターを出てほしいと要請された。理由は、15%がシェルターが満室だったから。24%が精神障害者だったり、薬物中毒患者だったから。20%が、シェルターの規則違反。出て行くように言われた女性の42%は、その他の理由。たとえば、滞在する資格がなかったり、バタラーに発見されたり、他の宿泊場を見つけたり。

どこに引っ越したか
宿泊した2012人の20%が彼女の虐待夫・パートナーの住む家に戻った。10%が、夫やパートナーが住んでいない元の家にもどった。6.5%が、独身の時暮らしていた家にもどった。20%が新しい家を見つけ移り住んだ。10%が他のシェルターか、家族対応センター(family treatment center)に移った。20%がその他異なった場所で、残り10%は不明。2000年と比較し、虐待夫のいる家に戻った女性が多少少なくなり、新しい家に住むことになった女性が増えた。(18% →20.5%)

 

ァ 結論
シェルターは、深い知識、洞察力、資源を必要とされる複雑な仕事に直面している。その主な理由は、外国人の女性とこどもが多数存在しているからである。彼女たちは、虐待されているだけでなく、社会的ネットワーク不足、言葉のハンディなどを持っている。さらに、彼女たちをその家に置いておくことがたいへん難しいため、平均滞在期間は一人につき50日間と長い。ちなみに、デンマーク人は28日。彼女たちの抱える問題に彼女たちが立ち向かうための支援がシェルターに求められている。シェルターと他の福祉機関との積極的建設的な協力関係は必須。
この問題に県や自治体は積極的に協力しようとしていることは重要である。とはいえ2002年3月8日に出された「女性への暴力根絶行動計画」にもかかわらず、いくつかのシェルターは県から必要な財政的支援を受けていない。中には経済的にやっていけなくなり2002年にクローズするところもある。将来、こうしたことのないよう、県や自治体と補助金や経済的契約をどのように発展させてゆくかがきわめて重要。
また、空き室不足のため、毎年、たくさんの女性が断られていることも忘れてはならない。
LOKKの統計は、匿名で調査したため、断られた数に関するデータは正確ではない点もあると断っておく。