男女平等を嫌う反動勢力の実像
〜日本にはびこるバックラッシュ現象〜
 
「WE」 2004年11月号 掲載原稿
三井マリ子(女性政策研究家)

 突如国会で武生市を
 「国会で、三井さんの仕事が攻撃されているわよ」。
 こう友人が教えてくれたのは今年の夏だった。発言者は西川京子衆議院議員だった。議事録を取り寄せた。一読して福井県武生市男女平等オンブッド(オンブズマンのこと)の仕事を攻撃したものだとわかった。
2004年3月2日衆議院予算委員会での彼女の発言はこうだ。

 「特に、武生のパンフレットをいただいたのですが、あらゆる市の行事におけるパンフレット、行政で出すパンフレットに対して一つ一つ細かく、女性に対して男性が大きく写っているとか、あるいは男の子と女の子が、いやに女っぽくスカートをはいている、それ以前の冊子では男の子も女の子もズボンをはいていたとか、本当にびっくりするくらい細かく全部チェックしてあるのですね。
  これが現実に、こういう言葉狩りというのでしょうか、そして、そのパンフレットからどういうものを想像するか、想像するところまで踏み込んで指導しているガイドラインというのが各県でできているんですね。私も正直申し上げて、今回この勉強をして初めて知りまして、びっくりいたしました。もうこれは明らかに言葉狩り、あるいは憲法で保障されている表現の自由を超えている、侵す、抵触するんではないか」

 市の出版物やポスターなどに関して、男女平等オンブッドの私が意見を述べたことはある。ある市民が、市の発行した印刷物を持参し、男女のイラストが性による固定的な役割分担を強調するものが多いので何とかしてほしいと言ってきた。私たちはその他の印刷物も調べた。その結果、市の多くの印刷物に同じような傾向が見られた。そこで、男女平等オンブッドは、調査結果をまとめた「一覧表」を添付して次のような意見を市に対して提出した。
 「表現の自由に抵触しない範囲で、性別による固定的役割やイメージを助長しかねない表現などは避けていただけるよう、よりいっそうの工夫をしてください。単独では、これくらい問題ないと思われる表現であっても、あちこちで同様のイメージがばら撒かれることによって起こる結果を想起していただき、知恵をしぼってください」
 この男女平等オンブッドとしての当然の仕事のどこが問題だというのだろうか。
武生市の男女平等オンブッドは、男女共同参画推進条例の推進役として条例の遵守を監視する職務を持つ。市民からの男女平等に関する声を受け、調査の結果、平等推進を阻む恐れがある場合、意見書を出し改善を求めていく。私たちは、これまでの意見書を市のホームページに載せているが、西川議員はおそらくそれを印刷したものを誰かからもらったのだろう。しかし、彼女の言う「いやに女っぽくスカート・・・」などという表現をしたことはない。
 小さな一地方自治体のこうした取り組みを、「言葉狩り」「表現の自由の侵害」などと国会で言いがかりをつける西川京子議員の行為こそ、言葉狩り・表現の自由の侵害そのものではないか。

 日本中の議会を席巻する攻撃
 武生市は人口7万。女性が置かれている職場での地位は低く、妊娠しても育児休業をとれるような体制は十分とはいえない。昇進昇格や賃金の男女格差は解消されておらず、管理職の女性は極端に少ない。正社員の採用ではまず男性が優先される。パートの圧倒的多数は女性である。夫から暴力を受ける妻、セクシャルハラスメントに苦しむ女性社員はかなりの数に上る。でも、その声が私たちの相談窓口に届くことは極めて稀だった。
 こうした女性の人権の侵害や性による格差が見られるのは武生市だけでない。どこの地方にも当たり前に見られる。だからこそ、今、自治体はこの現状を少しでも変えようとしているのである。そのひとつの試みが、各地での男女共同参画推進条例の制定だ。武生市も2年前に男女共同参画推進条例をつくった。
 条例でもっとも大事な点は、性による役割分担を克服し、女性の人権を保障すべきである、とうたったことである。この二点は、女性差別撤廃条約や男女共同参画社会基本法にももちろん明記されている。
 ところが、こうした男女平等への動きを、一網打尽に始末しようとする動きが日本全土に起きている。西川京子議員の国会質問もその一つである。衆参両院から地方議会まで、男女平等つぶしに執念を燃やす右派議員からの継続的な攻撃。これはすごい。アメリカではバックラッシュ(反動)と呼ばれる現象だ。この勢力の本音は「男は外、女は家」という性による役割分業の死守、すなわち反男女平等だ。
 男女平等攻撃派がいかに日本中を席巻しているかを見てみる。
  2002年6月、山口県宇部市において、市の審議会によって用意されていた男女共同参画推進条例(以下条例)案の内容を変えた条例案が、突然出され制定された。審議会答申にあった「個人の尊厳が重んぜられること」という表現は、制定された条文では「男らしさ女らしさを一方的に否定することなく男女の特性を認め合い、互いにその人格と役割を認めるとともに、尊厳を重んじ合うこと」に変えられていた。「個人の尊厳」が「らしさの尊重」に変えられてしまったのである。
 「泣くなんて男らしくないぞ」「女らしく引っ込んでろ」と、「らしさ」がどれだけ私たちを縛り、また、「らしさ」ゆえにどれだけ多くの才能がどぶに捨てられてきたことか。「こうした性による『らしさ』の押しつけをなくし、自分らしく生きよう」というのが条例の魂である。その魂が抹殺されたのだ。以降、宇部市の条例は男女平等を忌み嫌う勢力のモデルとなった。
 2003年になると、男女平等を攻撃する勢いは一層強まる。
 2月、神道政治連盟が推薦する山谷えり子衆議院議員は国会で、固定的性役割を助長する表現を使わないようにと書かれた岡山県新見市などの条例を「表現の自由の侵害」として槍玉にあげ、責任者を国会に参考人招致すべき、とまで言った。
 3月、千葉県では、性および出産・育児について「自らの意思で決定できるよう」という文言の削除などを一部議員から要求されて議会が紛糾し、条例案が廃案になった。
 4月、新潟県の小学校では、校長が「男女混合名簿などはマルクス主義フェミニズムに基づいており、思想教育に繋がる」と因縁をつけて男女混合名簿を男女別名簿に戻した。
 7月、鹿児島県議会は「ジェンダーフリー教育排除」の陳情を採択した。
 10月、石川県議会は「男女共同参画推進条例を、ジェンダーフリーと称する過激な思想運動に利用されてはならない」という請願を採択した。徳島県議会では「男女の区別を一切排除しようとする立場は誤りとする真の男女共同参画社会の実現を求める決議」が採択された。
 極めつけは同月の東京都荒川区議会だ。区長(最近、汚職で逮捕、辞職)が「形式的、機械的平等論の行く末は、家庭の崩壊、性道徳の乱れ、教育の無力化、伝統文化の否定につながり、ひいては日本社会の崩壊を招きかねない危険な考えを内包している」などと議会で発言。男女平等攻撃の急先鋒の論客を条例案策定の懇談会委員に任命した。
 2004年。3月、長野県岡谷市は「互いの特性を認め合う」などの文言を追加した条例修正案を可決した。同月の衆議院予算委員会では、この文章の冒頭で取り上げた西川京子議員が、我孫子市、武生市、国立女性教育会館での男女平等を進める取り組みを攻撃した。
 6月には、福岡県筑後市議会で「男女の区別を差別と見誤って否定の対象としないように」などの文言を加えた条例修正案が可決された。
 8月、東京都教育委員会は、「ジェンダーフリー」という用語の使用禁止、さらに、「ジェンダーフリー」に基づく男女混合名簿の作成禁止を決めた。
 9月、神奈川県教育委員会は、「男性と女性の違いを画一的に排除する意味で使用するのは適当でない」と、ジェンダーフリーという用語を使用しない方針を決めた。

 「日本会議」と「新しい歴史教科書をつくる会」
 多くの議会をバックラッシュ勢力が支配するには、広範囲なオルグ活動がなければ不可能である。全国にはりめぐらされた組織力とそれを支える資金も必要である。それに呼応する自治体の首長や行政幹部もいなければならない。
 これまでの調査によれば、その背後には、改憲を最終目的とする日本最大の右派集団と称される「日本会議」と、教科書の偏向を攻撃する「新しい歴史教科書をつくる会」がいると考えられる。

 日本最大の右派勢力「日本会議」とは
 日本の戦争責任資料センターの上杉聰事務局長によれば、「日本会議」は、97年創設され、全国9ブロック47都道府県に組織を持つ。三好達元最高裁判所長官を会長に、安西愛子元国会議員、石原慎太郎都知事らを擁する。神社本庁、生長の家、霊友会、佛所護念会、念法真教、崇教真光、モラロジーなどが傘下に入っている。
「日本会議国会議員懇談会」が組織され、麻生太郎、中川昭一、平沼赴夫ほか240人の国会議員を抱える。
「日本会議」は、既存の「日本を守る会」と「日本を守る国民会議」が統合して成立したとされる。「日本を守る会」は、神社本庁、生長の家、モラロジーなどの宗教・修養団体を中心とした団体だ。堀幸雄さんの著書によれば、「日本を守る国民会議」は、改憲潮流の形成を目的とする右翼文化人や旧軍関係者とも共闘する思想団体であり、全国3000市町村に組織を持っていたという。また、同国民会議に連なる人たちは、70年代に沖縄を除く46都道府県議会、2000もの地方議会で元号法制化を求める意見書決議をさせ、79年、国会で元号法を通させた(堀幸雄)。

 バックラッシュ・キャンペーン
 「日本会議」は、機関誌『日本の息吹』によって、2000年ごろから反男女平等の宣伝を始めた。以降、今日まで頻繁に特集が組まれている。
 見出しには、
 「女性を不幸にする男女共同参画条例」
 「仕掛けられた母性崩壊の時限爆弾」
 「行政に食い込む『ジェンダーフリー』思想のもたらす恐るべき実態」
などがある。
 「日本会議大阪」は、「当面のテーマ」7つ中3つを男女平等攻撃に当てている。要するに、憲法改悪の土壌づくりには男女平等や女性の人権は邪魔なのだろう。
 03年には、男女平等攻撃指南本ともいうべき冊子『あぶない!「男女共同参画条例」』を発行。発行は「男女共同参画とジェンダーフリーを考える会」。「日本会議」が出したようには見えない。が、連絡先は「〒153-0042東京都目黒区青葉台3−10-1−601」。「日本会議」事務総局、かつ「日本会議」東京都本部と同一である。
 さらに、「日本女性の会」という右派女性のチャンネルも持つ。西川京子衆議院議員、高市早苗さん、長谷川三千子さん、市田ひろみさんなどが名を連ねる。副会長の西川京子議員は自民党女性局長であり、夫婦別姓反対の急先鋒に立ち、『日本の息吹』や統一教会系新聞『世界日報』に頻繁に登場している。
 一方、「新しい歴史教科書をつくる会」は、歴史教科書という課題に取り組む。主要人物の一人は高橋史朗明星大学教授である。
 子どもと教科書全国ネット21の俵義文事務局長の著作によれば、同会は「現在1万名を超える会員で、全都道府県に支部を設立し、年間4億2000万円を超える収入で活動している」。各県ごとに「教科書議員連盟」を作り、これまた地方議会において活動を進めてきた。「日本会議」と「新しい歴史教科書をつくる会」の地方組織は役員がダブル。
 また、「日本会議」「新しい歴史教科書をつくる会」と密接なつながりを持つ地方組織に「教育再生地方議員百人と市民の会」がある(俵義文)。同ホームページによると、事務局を大阪府吹田市に置き、理事長は北川悟司豊中市議会議員。藤岡信勝東大教授の他、西村真悟、塚本三郎、亀井郁夫などの現・元国会議員に加え、宇部市の広重市郎、東京都の土屋敬之、古賀俊昭など地方議員162人が「参加者」に名乗りをあげている。
 あちこちの議会での発言を読むと、軒並み「ジェンダーフリー」という表現を使って攻撃していることに気づく。「ジェンダーフリー」という用語は、「性にとらわれない」という意味で使われ出した和製英語である。ところが、直訳すると「性のないこと」。男女平等攻撃派は、ここぞとばかりこの言葉の概念のあいまいさにつけ込んだ。そして、「ジェンダーフリーとは、学校でトイレ、更衣室、身体測定などを男子と女子で同じにすることだ」などというデマをつけて攻撃した。

 『日本時事評論』によるデマ
 加えて、男女平等攻撃を煽っている新興宗教のメディアがある。統一教会の『世界日報』『思想新聞』はよく知られているが、宇部市の条例に圧力をかけたのは新生佛教教団系の「日本時事評論社」だと言われている。同教団は山口市に本部を、各地に支部を持つ。週刊紙『日本時事評論』を発行し議員などに無料配布する。
 部落解放運動系出版物によれば、98年、福山市の学校で日の丸・君が代が問題になった時、「突然、山口の右翼が『福山の教育はムチャクチャになっている』と書いた『日本時事評論』という新聞を3〜4万枚福山市内に配り、それを使って右派議員が、9月から県議会で教育問題を議論するようになった」とある。
 また、同紙は、新生佛教教団が今春、石原慎太郎、安倍晋三、西村真悟の3政治家を山口に招き4000人規模の講演会を主催したことを大きく報じている。
 『日本時事評論』の見出しには、こんな表現が並ぶ。
 「家族尊重の民法改正こそ必要―『夫婦別姓』は時代逆行の愚策、自民党の良識が救国の砦」
 「男女共同参画―社会破壊の毒に気付け、規範や秩序を否定し家族解体を促進」
 「“犯罪”先進国スウェーデンに学べ―家族崩壊こそが激増の最大要因!!」
 「男女共同参画は犯罪増加策」「ジェンダーフリー教育に『ノー』」。

 手遅れになる前に
 以上、性差別的で、かつ人権よりも国家の大儀を優先しようとする政治的圧力団体が日本中に形成されていることがわかる。その主力は自民党の議員だが、旧民社系の民主党議員も時には自民党議員以上に男女平等攻撃勢力の尖兵となっている。
 この攻勢に行政は浮き足立っている。
 では、私たちは何をすべきだろうか。
「過ちの一つは、あるいはまだ何か手を打つことができたかもしれないときに、ただ手をこまぬいて事態の推移を見守っていたことである」
 アウシュビッツから生還したオーストリア人で、ナチの犯罪人を追跡するジーモン・ヴィーゼンタールの言葉だ。そう、私たちは手を打たなくてはならない。手遅れになる前に。

 まず、相手を知ろう
 私たちはどんな手が打てるだろうか。
 1. まず相手を知ることが大事だ。情報は力である。たとえば、この本文をコピーして、バックラッシュについて勉強会を持つことなどどうだろうか。バックラッシュ系の団体は、一般には「〜を考える市民の会」などの名前で正体をカムフラージュしており、活動する人物も普通の“主婦”を装ったりする。しかし、パンフレットなどを読むと、相手のねらいがわかる。
 2.男女共同参画に反対するバックラッシュ勢力の主力は議員である。一方、あなたには議員の当落を決める1票がある。バックラッシュの背後には組織化された団体があるものの、実際に国会や地方議会で発言する議員は一握りである。自分の信頼できる議員にバックラッシュの実態を知らせよう。議員がバックラッシュ派なら、次の選挙には投票しないようにしよう。あなたが自分の人生を自分でデザインできるような社会を望むなら。
 3.バックラッシュ攻撃は女性の自立を阻むものだということを、メディア、役所や学校に伝えよう。できたら、仲間を募って。バックラッシュの本音は「男は外、女は家」だ。「子育て期の母親が就労することは子どもに悪影響を及ぼす」とも主張する。こんな主張が通るようでは、子育てしながら外で働くことは不可能だ。
 でも、こうしたバックラッシュに抗議する運動があちこちに現れている。
 全国フェミニスト議員連盟(連絡先:住田景子東京都小平市議)に問い合わせるとあなたの近くで頑張っている人を教えてくれるだろう。一人では難し くても、仲間と一緒ならできる。明るく元気に反撃しよう。

 参考リンク

■俵義文のホームページ http://www.linkclub.or.jp/~teppei-y/tawara%20HP/
■子どもと教科書全国ネット21 http://www.ne.jp/asahi/kyokasho/net21/
■日本の戦争責任資料センター http://www.jca.apc.org/JWRC/index-j.html
■武生市男女平等オンブッド活動報告4
http://www.city.takefu.fukui.jp/office/030/010/danjyo/ombud/danjo_ombud_report4.asp
■日本会議 http://www.nipponkaigi.org/
■新しい歴史教科書をつくる会 http://www.tsukurukai.com/
■教育再生地方議員百人と市民の会 http://www1.ocn.ne.jp/~h100prs/