ローマ女性センター訪問
女性解放を記録・発展
 
2007.7.23
三井マリ子

オーストラリアからの旅行者
マグノリアの巨木のある中庭で語らう

「女たちの家」にオフィスを置く国際フェミニスト連合

 永遠の都・ローマ。その世界の1等地にある女性センターとは、どういうものなのだろう。2007年7月、私は好奇心にとらわれてローマまでやってきた。

 「女たちの家」(カーサ・デッレ・ドンネ Casa delle Donne)と呼ばれるベージュ色の建物は、テーベレ河そばのヴァチカンとトラステーベレの中間あたりにあった。約4000uの敷地。大きく3つの機能を持つ。1つは、セクハラや夫からの暴力など女性の抱えるあらゆる悩み事への相談と支援の場。2つ目は世界の女性たちの集いの場、3つ目はイタリアの女性解放運動を記録し発展させる場。

 壁のポスターには「あなたの家、みんなの家」。廊下いっぱいに展示されている1970年代の女性解放運動の写真。女性運動家たちが空きビルの占拠に成功した瞬間の風景、目抜き通りを覆う「妊娠中絶を合法化せよ」という巨大な横断幕、「女の革命」の旗がゆれるスペイン広場……。記念すべき白黒写真の数々が、私を迎えてくれた。

 「ここは女たちの長年の夢と闘いの結果、誕生しました。成功と失敗の足跡ともいえます」と広報担当のルイーザ・パパラルドさんは語る。「今も闘いの連続ですが…」と言う彼女は、ここで働く職員25人の1人だ。「イタリアでは、女は台所という伝統が強いのです。私の故郷シチリアなど南イタリアはとくにすごいんですよ」(おや、どこかの国とそっくり)。

 今の女たちの家は、かつて占拠したビルではなくて、その近くにあった元修道院の古い建物だ。17世紀には、世俗から逃れてきた信仰深い女性たちの避難所としての機能があったという。それをローマ市が買い取り、全面改修して、女性たちのための総合センターとして提供することを約束。すでに活動していた何十もの女性グループが連帯して維持・運営することも決まり、2002年3月から本格的に動き出した。つまり、「女たちの家」はローマ市と女性運動家たちの共同作品なのだ。しかし、市に支払う家賃は月100万円ほどで、払い続けるのは容易ではないという。


 私は、大阪府豊中市と福井県武生市の女性センターで館長として働いた経験がある。日本各地の女性センターも見ている。日本の女性センターは、女性の地位向上と男女平等のためという目的は一応掲げているものの、行政の掌で躍らされている感は否めない。だから、真の男女平等に向けて100%の力を出し切って自由に働いているか、と問うと、忸怩たる思いがする。このローマの女たちの家は、運営は大変そうだが、自主性の横溢した伸び伸びとした雰囲気が感じられて、とてもうらやましい。

 中庭「マグノリア」。樹齢数百年というマグノリアの大木が、気温36度の日差しをさえぎる。読書、食事、団らん、待ち合わせ、集会などに使われている最も人気のあるスポットである。庭の一角には、「50対50」というスローガンのポスターに囲まれた署名運動のテーブルがあった。イタリアの法律では一応すべての選挙において候補者の30%を女性にするという、いわゆるクオータ制がしかれているのだが、その確実な実行を求める運動の真っ最中なのだという。

 レストラン「ルーナ・エ・ラルトラ(直訳すると『月ともうひとり』)」。月には“1人の女性”という意味があり、“女性たちが出会う場”という意味なのだとか。屋内とマグノリアの庭の半分が使われ、ランチとディナーが楽しめる。ランチは男性もOKだが、ディナーは女性のみ。

 ホテル「オルサ・マッジョーレ(大熊座)」。シングル、ダブルから4人部屋まで40部屋。泊まれるのは女性のみ。1泊21〜57ユーロ。すべての部屋からマグノリアの庭を望むことができる。旅行客の少ない8月は空きがあるものの、年中満室に近い。「女たちの家」の収入の大部分は、このホテル業によるという。

 60人程度の小ホール、そして130人程度の大ホール。そのほか、10人程度が使える会議室が何室か。会議の際、レストランから出前をとることもできる。私が訪問した日の夜には『魔女』と題されたセミナーが開かれており、小ホールにぎっしりの観客は、予定時間を1時間近くオーバーしても熱っぽく語る講演に耳を傾けていた。

 この家の最大の宝は、イタリアの女性解放運動の資料館である。膨大な図書はもちろんのこと、70年代や80年代のポスターや写真などが保存され、閲覧できるようになっている。

 貸し事務室。現在30ぐらいの女性グループがオフィスとして使っている。最大の団体は「国際フェミニスト連合」で、イタリアのほぼすべての女性解放運動団体がその傘下にあるという。中には、3つのグループで1室を共有し、曜日をわけて使っている部屋もある。「女性のグループはみんな貧乏なんですよ」というパパラルドさんの言葉に私は深くうなずいた。

 ローマ政界は今、右派ベルスコーニ首相時代の悪夢を2度と繰り返すまいと、新しい対抗左派政党結成の動きに沸いている。新党結成に、どれだけ女性の影響力を行使できるか、女性議員を送りだせるか。イタリア女性の力の見せ所だ。

 「政治の世界で女性を増やす、それこそが最重要課題ですね」
ルイーザ・パパラルドさんの言葉に、私は思わず「イグザクトリー(その通り)!」と大きな声で同意してしまった。

中庭からホテルを見上げる
70年代写真から
「ローマ・スペイン広場で行われた“女の革命”のデモ」

関連サイト: 
http://www.casainternazionaledelledonne.org/index.shtml
http://www.udinazionale.org/

(三井マリ子)

出典:http://www.news.janjan.jp/living/0707/0707219505/1.php

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