通所授産施設「ぽこ・あ・ぽこ」の育成プログラム

知的障害者の企業就労を大きな目標とするぽこ・あ・ぽこでは、
さまざまなプログラムを企画・実行しています。
今回は、授産施設という制度上の特性を生かした、
自分の頑張りが自分でわかりやすい仕組みを
目指した取組みを紹介します。

わかりやすいステップアップ

育成プログラムの背景

知的障害者の社会的自立を収入、特に労働により得る賃金からまとめると図1のようになる。授産施設や小規模作業所などの福祉的就労と企業就労(平成5年労働省調査で112,000円平均)の中間的な層は非常に少ないのが実態である。また、この賃金の上昇に伴い、表7に示す他の3つ条件も次第に変化するものと想定される。

図・工賃の分布

図1:就労の場と賃金のモデル

表1:就労へ向けてのステップアップの条件
条件 ステップアップすると.......
勤労収入 少ない(数千円/月) → 多い(10万円以上/月)
仕事の責任 軽い(責任は周りの人) → 重い(自分で品質・納期等の責任をもつ)
実労働時間 短い(数時間/月) → 長い(国民平均労働時間)
対人関係 障害をもつ仲間や福祉の専門職員が多い → 仲間や福祉職員は少ない同じ仕事をする同僚・上司が周囲にいる



モデルの設定

知的障害者の障害特性を考慮すると、「がんばりが目に見えて評価される」「段階をふんで就労に向かう」仕組みは不可欠であると考えられる。施設のパンフレットや事業報告に記載されただけ、日々の指導で「就労を目指して」と掛け声を繰り返すだけで、就労へ向けて自分はどこ段階まで来ているのか、多くの知的障害者は実感できないのではなかろうか。

ぽこ・あ・ぽこでは、一般就労へ向けて表1の4つ条件が明確に変化し、知的障害者にも理解しやすい仕組みとするために、まず賃金(工賃)の範囲と格差を決定した。賃金の範囲は、他の授産施設と一般就労の場の中間を設定した(図1参照)。根拠は、最低額(7,000円)が市内の他の授産施設平均であり、最高額(52,000円)が県内の保護的雇用の場である「ふれあいショップ・ともしびショップ(ウエイトレス業務)」における平均的賃金である。

また、賃金以外の条件も同時に変化するプログラムとした。「仕事の責任」に関しては、作業行程のうち軽易で品質・納期にあまり影響を与えない工程 → 最終工程に近い品質チェックあるいはより多くの作業行程を行う仕事 → 職場実習で最低賃金以上の生産性を求められる仕事へと変化する。「実労働時間」に関しては、作業室で週5日1日6時間 → 職場実習で早出・土曜勤務そして7時間45分勤務へと、「対人関係」に関しては、作業室で施設職員にその都度指導を受ける → 1日単位の書かれたスケジュールに沿って自己管理する → 施設職員が週1回程度の巡回で指導するへとステップアップする仕組になる。


授産契約と売上げアップ:組織的な受注計画

授産施設や小規模作業所などの福祉的就労と一般就労の中間的なプログラムを展開するためには、仕事の継続的な確保が重要になってくる。電機神奈川では、施設設立4年前から、ワーキンググループを設置し各事業所から知的障害者向けとして適当な仕事を調査し、リストアップする作業を行って来た。実際には、電機神奈川傘下の単組・支部を通して、事業所内のあるいは事業所から発注している仕事のうち、

  1. 設備投資が軽易
  2. 物が小さい
  3. 小種・多量 工程が比較的単純
  4. 継続的な発注が可能

などといった条件に合致した仕事の候補を集め、必要ならその事業所ないし契約業者に見学に行き、授産科目の候補を絞り込んで行った(10種類程度)。このリスト作成過程を基に(リスト自体は産業構造の変化からまったく活用できなくなっていた)、ぽこ・あ・ぽこオープン後6ヶ月の間にトライアル、業務契約そして本格的な受注開始という経過をたどり随時授産科目を増やしてきた。現在、毎日コンスタントに7種以上の作業を行っている。


生産性向上の工夫:OB職員を中心とした作業管理

受注の科目を増やしても、施設の生産能力ならびに品質が追いつかなくては、売上げはあがらない。ぽこ・あ・ぽこでは、企業OB職員を中心に、以下の取組みを継続的に行っている。

  1. 作業指示書の確認と独自の業務分析の実施
  2. 作業工程にあわせた用具の選定
  3. 作業工程にあわせたジグの作成
  4. 作業室レイアウトの定期的な見直し
  5. 品質管理チェック体制(職員によるダブルチェック)の徹底
  6. 利用者向け作業指示書の作成
  7. 職員が活用する作業指示マニュアルの作成
  8. 作業工程ならびに出来高チャックシートの作成

図2には、ぽこ・あ・ぽこでの売上げの推移を示す。ちょうど1年が経過した時点で、売上げは目標額に達している。

(単位:百万円)

図・授産売上の推移

図2:授産売上推移グラフ


利用者の勤労収入:工賃規定と査定方法

現在、ぽこ・あ・ぽこ利用者の賃金は、基本工賃と手当で構成されている。基本工賃には、「能力給」と「成果給」があり、両者の合計が支払われる。能力給は、ぽこ・あ・ぽこの授産科目から抽出した標準作業チェックリストにより数値化され決定されるものである。成果給は、a)実際に責任ある作業や工程を任され、それをこなしているかどうか、b)勤怠状況や挨拶など施設における生活態度、c)個々に設定されている年間指導目標を順守しているかどうかなどにより決定される。

基本工賃表と実際に50名に対して決定した基本工賃額については、表8に示す。また、本人向けの工賃規定の一部を資料1に掲載する。手当としては、時間外手当(一律30分250円)がある。なお、交通費と昼食代については、法内の施設である関係から、本人負担はまったくない。

【能力給】

1等級

2等級

3等級

4等級

5等級

6等級

7,000円

12,000円

17,000円

22,000円

27,000円

32,000円

【成果給】

1号棒

2号棒

3号棒

4号棒

5号棒

6号棒

0円

4,000円

8,000円

12,000円

16,000円

20,000円

【実態】

基本工賃平均約30,000円

最高52,000円

最低7,000円

表2:工賃表と実態(1997年9月分)

ぽこ・あ・ぽこでは、工賃の査定の方法として、以下のような手順をとっている。

  1. 半期に一度授産の売上げと経費見通しを検討
  2. 4半期に一度職員ミーティングで各利用者の基本工賃決定
  3. 4半期に一度本人と個別査定ミーティング(工賃と仕事の目標決定)
  4. 1年に一度家族を交えて個別面談で工賃額と年間目標を決定
【こうちん(工賃)のがく(額)のき(決)まりかた(方)】
  • ぽこ・あ・ぽこでは、にっきゅうげっきゅう(日給月給)というほうほう(方法)でこうちん(工賃)をき(決)めています。
  • こうちん(工賃)は、みんながいろんなしごと(仕事)をどれくらいこなせるか<のうりょくきゅう>(能力給)とどれくらいせきにん(責任)のあるしごと(仕事)をまかされていたりねっしん(熱心)にはたら(働)いているか<せいかきゅう>(成果給)によって、たくさんで(出)たりすく少なくなったりします。
  • みんなのがんばりによってき(決)まるのうりょくきゅう(能力給)とせいかきゅう(成果給)のランクをごうけい(合計)したきんがく(金額)がこうちん(工賃)のきほん(基本)のがく(額)になります。このきほん(基本)のがく(額)のいちばんうえ(一番上)は52,000円です。いちばんした(一番下)は7,000円です。のうりょくきゅう(能力給)とせいかきゅう(成果給)のそれぞれのランクについてはさいご(最後)のひょう(表)をみ(見)てください。
  • このきほん(基本)のがく(額)は、3ヶ月に1かい(回)みなおし(見直)します。きんがく(金額)がか(変)わるときは、そのりゆう(理由)とがく(額)をみんなにつた(伝)えます。また、ねん(年)にさいてい(最低)1回は、ほごしゃ(保護者)のひと(人)にもこのきほん(基本)のがく(額)のこんきょ(根拠)についてせつめい(説明)します。

 【こうちん(工賃)があ(上)がるときは】

  • こうちん(工賃)は、つぎ(次)のりゆう(理由)であ(上)がります。
    1. さぎょうしつがい(作業室外)のじっしゅう(実習)にで(出)かけたとき。
    2. たくさんのしごと(仕事)をおぼ(覚)えたり、ひと(人)にみと(認)められるほどねっしん(熱心)にしごと(仕事)をしたとき。
    3. ねんかんしどうもくひょう(年間指導目標)へむけてがんばり、しんぽ(進歩)がみ(見)られたとき。
    4. ざんぎょう(残業)をおこな(行)ったとき。

資料1:工賃規定の一部


ステップアップの概要

ぽこ・あ・ぽこでは、責任ある仕事をこなせるようになるに従い、工賃があがるシステムになっている。さらに、作業室で良好な力をコンスタントに発揮できる者については、積極的に実際の企業・職場で実習を行うことにしている。実習では、労働時間、仕事の責任、そして対人関係といった条件が変わるに伴い、工賃も高く設定される。

このように、育成プログラムとして「就労意欲をみせなおかつ力をつける」ことにより、段階的に賃金を含めた多面的な条件が一般の就労環境に近づいていく仕組みを作ることをぽこ・あ・ぽこでは重視してきた。そして、実習と作業室との差、実習に出る条件、比較的短期間での査定面接など、その仕組みが利用者本人にわかりやすいものにする工夫を今後とも改定しつづけていく必要がある。

(志賀 利一)


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