職員研修1:作業室における基本的対応

平成13年度より、社会福祉法人電機神奈川福祉センターでは、これまで
川崎市が運営していた福祉授産施設の運営委託を受けることになりました。
それにあわせて、新規の職員を何名か採用しています。今回は、
授産施設で知的障害者に対応する新人職員向けに行った
研修資料を掲載します(連載予定)。


知的障害のある人が困ること

作業室で知的障害のある人が「困ってしまう」ことはたくさんあるはずです。このような時、知的障害のある人はどのような態度・行動をみせるでしょうか? 典型的な例をいくつかあげみます。

まだまだ、たくさんあります。まず、大切なのは、知的障害のある人を支援する私たちは、このような態度・行動を目撃したとき、「困っているんだ」と解釈します。

一般の職場であれば

先ほどあげたような行動は、一般の職場で働く従業員であれば、上司はどのように対応するでしょうか? その典型的な方法を順番にあげてみると、次のようになるはずです。

  1. 上司はその態度・行動に対して口頭で注意する

  2. それでも改善されない場合、始末書・宣誓・覚え書きを書かせる

  3. 当然このようなことが続くと賃金に響く査定を行う

  4. それでも反省の色が無い場合は懲罰の対象とする

授産施設ではどうなるでしょうか?

知的障害のある人が通う授産施設ではこのような手順をストレートにとることはしません。なぜなら、特別な支援がなくて一般の職場に就職できる人は、この施設には通ってこないからです。上記のような一般のルールに則った対応では、うまくいかないからこそ、授産施設に通っているのです。

当然、よりきめの細かい、知的障害のある人に特化した対応をとる責任が施設にはあります。

ところで知的障害とは

知的障害のある人は全国で41万人以上いるといわれています。さらに、私たちの施設に通っているような18歳以上の人は30万人以上います。知的障害のある人で、一般の事業所で働いている、いわゆる一般雇用されている人は成人のうちだいたい5人に1人だといわれています。授産施設など、専門の指導員がいる保護された場所(福祉就労)で働いている人もだいたい5人に1人だといわれています。

この知的障害の定義は、次の3つのすべてが当てはまることをいいます。

  1. 知的な能力が明らかに低い

  2. 社会生活を送るうえで何らかの支援を必要とする

  3. このような状態が18歳未満からある

「できない」「やる気がない」の2つで考えてみると

話しを最初に戻します。知的障害のある人が作業室で「困っている」とき、私たちは、まず非常にシンプルに2つに分けて考える習慣をもつ必要があります。それは、

「できない」とは、求められている作業が全くできない、あるいは安定してできないことをいいます。一方、「やる気がない」は、求められている作業はできるはずなのだが、それをやろうとしない、あるいはやる気になれない状態をいいます。

「やる気がない」と判断する前に

知的障害のある人の支援で大切なのは、「やる気がない」と判断することに慎重をきすことです。私たちは、「できない」のではなく「やる気がない」と判断するのは、以下の場合が多いと想定されます。

  1. さっきまで全く同じ仕事ができていたのに急にやらなくなる

  2. 昨日は全く同じ仕事ができていたのに今日はダメ

  3. 以前は全く同じ仕事ができていたのに今日はダメ

  4. 同じ仕事はできると聞いていたのに全くダメ

  5. ほとんど同じ手順の仕事はできるのに全くダメ

  6. もっと簡単な仕事はできるのに全くダメ

  7. 似たような仕事はできるのに全くダメ

ここで、知的障害の定義を思い出してください。「知的な能力が明らかに低い」とはどういうことを意味するのでしょうか? 知的な能力にはいろんな側面があります。そのひとつに「記憶」の障害があります。昨日までできていた仕事ができないのは、「やる気がない」のではなく「忘れてしまった」つまり「できない」のではないでしょうか? ましてや、数週間あるいは数ヶ月前にできていた仕事を忘れてしまう可能性はもっと高くなります。

知的な能力として、人との会話やことばを使った情報交換が正確に行えないことも含まれます。本人が、「この仕事は前にもやったことはあるし、できるよ」と言っていたからといって、それの意味するのは、「その仕事の一部ならできる」かもしれませんし「見たことがあるからできると思う」なのかもしれませんし「前はできたよ」かもしれません。

また、知的な能力には、物事を類推するといった抽象的な能力も含まれます。ある作業が非常に熟達しているからといって、類似した仕事や、部材が異なるだけで手順が全く同じ仕事ができるという保証はありません。

知的障害のある人を支援する私たちは、彼・彼女たちが「やる気がない」のではと想定される場合でも、本当にそうなのかを慎重に疑います。

「できない」は作業室でいろいろ試みができる

知的障害のある人が「困っている」のは「できない」可能性があると判断した場合、私たちは作業室でいろんな試みができます。例として、

基本的には、1)今の能力で何ができるかを見つける、2)今の能力からほんのわずかだけステップアップした作業を見つける、3)ことばだけに頼らず、作業をやりながら指導する、の3点をおさえておけば大丈夫です。

そして、もうひとつ覚えてほしい点は、「できる」ことを増やすことが、知的障害のある人に「やる気」になってもらう基本だということです。

「やる気がない」は作業室だけでは対応できないことが多い

知的障害のある人が「やる気がない」と判断するのは難しいと同様、それに対する対処も非常に難しいのです。

たとえば、知的な能力の障害には、人の感情の移り変わりが理解できない、人との関係の距離感が難しい、などが原因となり、結果的に自分の感情をうまくコントロールできない場合が多いようです。

社会人として働いている人は、昨晩家族と喧嘩したからといってそれだけで仕事を休むことはありませんが、知的障害のある人にとっては決して珍しいことではありません。知的障害のある人が「やる気がない」理由を探したり、それを調整するためには、現在の作業室内の問題だけでなく、過去のこと、帰宅してからのこと、家庭内のこと、時には医療機関の治療状況など、さまざまな条件を考える必要があります。

私たちは、「やる気がない」利用者に対してどのような対応をとるかは、1)毎日の職員ミーティングで議論する、2)必要なら個別の詳細なミーティングをもつ、3)必要なら家族あるいはケースワーカーなどの外部機関と調整するなどといった手順を踏むことにします。


まとめ

知的障害のある人の対応について、「できない」と「やる気がない」といった2つのことばをキーワードに説明しました。私たちが、施設の中で日常支援するには、まず「できない」を疑うことを基本とします。さらに、できることが増えることは、やる気になる前提条件でもあるのです。「やる気がない」に対応するには、職員同士あるいは外部の人と綿密な情報交換や調整が必要になります。

実は、この「困ってしまう」状況は、仕事の場面だけではありません。朝の通勤、着替えや体操、休憩時間、昼食時間、後片付けと帰宅の準備など、施設の生活でも同じことが起きます。むしろ、仕事より生活の方が、難しい技能を要求されたり、判断が必要とされます。これについても、考え方は同じです。


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