事例研究:重度の問題行動をもつ発達障害児者の
コンサルテーション・アプローチ

1993年に、小児療育相談センターで勤務している際に、何かの
報告書として使った事例研究です。やたらと、「最新の研究」という
ことばが使われていますが、90年代前半の話しです。それにしても、
最近はこんな難しい論文調の文章、私には書けませ。


はじめに

目的

近年、ノーマライゼーションの思潮の浸透と共に、障害をもつ人が積極的に社会参加できる状況が整備されつつある。一方で、人と話し言葉を使ってコミュニケーションすることが難しく、自傷や周囲への攻撃などの重篤な行動をもつがゆえに社会参加の機会が制限されている発達障害児者も多い。最新の実践研究から、このような問題行動は、周囲がその障害をもつ人の理解できるレベルやニーズを個別的に配慮すれば抑制可能であることが指摘されている。さらに、この個別的な配慮を基本とした療育アプローチが、このような人たちの社会的参加を確かなものにする唯一のアプローチだとも言われている。本事例研究では、発達障害児者の教育・福祉の現場で、最新の行動管理体制がどの程度実施可能であるのかを実践・調査するものである。

重度の問題とは

 問題行動とは、重度の発達障害をもつ人の療育分野で次のように定義されている<1><2>。

自分自身の生命あるいは健康に著しい危険を与える行動 周囲の人あるいは状況に著しい危険ないし混乱を与える行動 自分自身の意味ある活動への参加や学習を著しく妨げる行動 以上3つの条件のうち少なくともひとつに該当する行動が、「問題行動(challenging behaviors)」である。この定義から示唆されるように、問題行動とは、その行動の量的指標(頻度、持続時間、強度など)で決定されるものではない。問題行動を見せる人とその周囲の人的、物理的な資源との関係から決定されるものである。

一般に、このような問題行動は、次のようにタイプ分けされている(表1参照)。表1にあげたもの以外にも、強いこだわりや執着を「固執」といったカテゴリーで問題行動としてあつかう場合がある。しかし、ここでは、その固執が周囲と折り合いがつかなかった時生じる行動も方に注目することとする(例;物の配置にこだわる人がその順序が変えられた時に頭をたたくなら「自傷行動」)。また、「かんしゃく行動」を「パニック」と称する場合もよくみられるが、この用語は恐怖心の存在を暗示するといった誤解をまねきやすいため、ここでは用いない。その他にも、「盗癖」「悪態」「うそ」などが問題行動として扱われる場合が多い。ただし、このような行動は、比較的軽度の知的障害をもつ人のものであり、今回のテーマには含まない。

表1.問題行動の一般的なタイプ分け

自傷行動 自分の頭をたたく、自分の手をかむ、つめをはぐ、髪の毛を引きぬく、壁に体当たりする、頭突きするなど
他害行動 人をたたく、つねる、噛つく、髪の毛をむしりとる、突き飛ばす、蹴飛ばすなど
破壊行動 食器を投げつけて割る、ガラスを割る、家具をひっくり返す、電気機具を棒でたたくなど
異食行動 瓶のキャップや鉛筆、ガラス、石、排泄物を食べるなど
かんしゃく 金切り声をあげる、大声で叫ぶ、泣く、床にひっくり返る、ドンドンと飛び跳ねるなど
常同行動 身体を反復的に前後にゆする、腕を前にあげて手を上下に大きく振る、ピョンピョンと反復的に飛び回る、同じ話しを何度もくり返すなど
その他 逃亡、遺尿、遺糞、嘔吐、異性への抱きつきなど

研究の動向

世界的には、1960年代中頃から自閉症を中心とした重度の問題行動を子どもや大人の療育方法が開発されてきている<3><4>。日本でも、先駆的研究機関で1960年代後半より実践報告がなされている<5>。それ以前には、問題行動とは固有の症病モデルの根源的な原因が表面化したものとしてとらていた。それゆえ、問題行動に直接アプローチすることはなかった<6>。

問題行動に対する初期のアプローチはすべて、学習理論の体系に則った、環境と固体との相互関係を操作する行動論的手法であった。具体的には、強化の理論を強烈な問題行動をもつ人に応用している。「その環境に存在する何らかの強化子により、その問題行動は維持されている」という仮説から「問題行動を維持している強化子を撤去する」ことに注目した。この仮説から、行動論的な手法は、1970年代の中頃までに実践的で有効な技法をいくつも生みだしている。例としてあげると、「タイムアウト法」「計画的無視」「レスポンスコスト法」「オーバーコレクション法」「ショッカーを用いた罰」「感覚消去法」などが代表的である<7><8>。1970年代に入り、北米で重度の問題行動をもつ人が公的なサービスを受ける権利を主張しはじめた頃と同時に、問題行動に対するアプローチに変化が生じている。これまで、「その行動が生じた後の環境因子の操作」だけがテーマであったのに対し、「行動そのもの」に積極的にアプローチするようになった。つまり、問題行動ではないより社会的な行動を積極的に強化することにより、結果的に不適応な行動を減らす手法である。例としては、「他反応分化強化」「拮抗反応分化強化」「代替反応分化強化」があげられる<9><10>。1970年代後半から、どんなに重度な問題行動をもつ生徒もすべて公教育の場で個別に計画された教育を受ける権利を獲得したと同時に、初期の行動論的な手法のいくつかは批判の対象となってきた。実際、特別なトレーニングを受けた治療者が、特別なセッティング(厳格な治療計画の元)だけで使用した手続きであったにしろ、罰やレスポンスコスト法は障害をもつ人に「痛みや苦痛を」与えるものであり、倫理面で疑問が存在する。また、タイムアウト法やオーバーコレクション法といった手法は、学校や地域に密着した施設、あるいは家庭で利用するには多くの問題を内包していた(運用や倫理面で)。この時代の流れは、その後の「非嫌悪的」な行動管理の手法の発展に貢献することとなる<11><12>。

1980年台に入り、重度の発達障害をもつ人の対人行動、特にコミュニケーションのプラグマティックな分析が注目を集めだした。この分析では、コミュニケーションを話し言葉や特定のシンボル(サイン言語やコミュニケーションボードなど)といった「言語」の範疇を超た行動としてあつかっている。人の手を引っ張ったり、指さしなどといった、抽象度の低い行動もコミュニケーションとしてあつかい、機能的な分析が行われた。その延長線上に、じだんだを踏んで泣き叫んだり、人の髪の毛につかみかかるといった問題行動のコミュニケーション分析がある。この方法は、問題行動には「逃避・回避」「注意喚起」「要求」そして「感覚刺激」といった機能が存在することを明確にした。この発見は、問題行動に代替する行動に注目しはじめた行動論的アプローチに大きな影響を及ぼすこととなる。つまり、コミュニケーション分析を行うことで、行動の増減を左右する強化子を付加的に施与する必要がなくなる。必要なのは、機能に合ったコミュニケーション行動を問題行動に代用するだけである。このコミュニケーション機能による分析アプローチは、「非嫌悪的行動管理」として急激に広まっていった<13><14>。

以上の学習理論を基礎に発展した対応法とは別に、実践上の知恵ともいうべき、障害をもつ人と環境とのエコロジカルな分析を基本に発展したアプローチも存在する。これまで述べたアプローチは、「障害をもつ人が学習により行動をいかに変容させていくか」に重きを置いている。ところが、定義にもある通り、問題行動とは現在の生活を脅やかしているものである。時間や労力がかかる将来へ向けての変化の前に、現在の環境を障害をもつ人が許容できる(つまり問題行動を起こさない)ものに調整する方がはるかに効果的である。そして、これまで実践上の経験主義だけで成り立っていたこのアプローチも、いくつかの共通したルールや理論的枠組みが明確になってきた<15><16><17>。「物理的構造化」「個別化されたスケジュール」と呼ばれる方法がこの代表である。

このエコロジカルなアプローチは、問題行動の後や行動そのものに注目するのではなく、その行動が起こる直前の環境修正をおこなう。つまり、予防を重視するアプローチである。物理的構造化やスケジュールといった方法は、比較的障害が重く、周囲の状況から適切な手がかりを自分で見つけることのできない人に対して、「今何をすればよいのか」「それが終わったら何をするか」を明確な手がかりとして提示するものである。

これまでの、問題行動を減少させる研究を概観すると、「問題行動の後の対策」から「問題行動そのもの」そして「問題行動の直前の状況」へと次第に視点が移ってきている。また、この分野の研究すべてが、実際の治療効果のデータを明示しており、理論だけでなく実践的な裏づけをもつものである。最近はこのようなアプローチを包括的に使用し、多様な環境で生活しているより多くの障害をもつ人に応用する傾向にある。そして、どれもが、コンサルテーションといった指導形態を重視している<18><19>。コンサルテーションモデルが強調される背景には:

  1. 専門性:多様な理論や方法論が存在するため、個々の障害をもつ人にあった最良の対処法を選択する必要がある。問題が重度であればあるほど、より高い専門性が要求される。
  2. サービスの一貫性:特定の教室や施設内ではなく、広範囲な地域社会全般での生活を援助するため、それぞれのサービス提供者が一貫した方法をもつ必要がある。それには、コンサルテーション形態のミーティングや情報のやりとりが不可欠となる。
  3. 現任者トレーニング:障害が重く理解されないがために問題行動を示していた人の特徴は、まさに個々多様であり、指導者が直接サービスを提供していく過程で「理解のしかた」「対処法」を学ぶことが必要となる。
  4. 包括的サービス:問題行動を示す人は、ほとんどの場合、問題行動だけでなく生活全般に問題解決すべき多様なニーズが存在する。 問題行動、それも自閉症やその他のコミュニケーション障害をもつ人が示す比較的解決が困難な問題行動にたいする最近の研究をまとめると、a)理論や手続きが多様な包括的アプローチを用いる、b)コンサルテーションを中心としたサービス提供者同士の情報交換をもとに指導を計画することである。

わが国での課題

海外の問題行動にたいする最近の研究ならびにその実践は、現実に大きな問題を抱えている福祉・教育の現場にとって大変な励みとなる。しかし、私たちの国では、特定の理論や方法論に依存した研究や特定のサービス場面だけで完結した実践報告しか存在しない。また、米国の全障害児教育法のように、ひとりのケースに対して年間の教育計画を保護者・教師・その他のサービス機関が合同で決定すべきである、とする法的な規制は存在しない。そのため、現実に、ひとりのケースにサービスを提供している多種のスタッフと保護者が一堂に会し、意見を交換する場をもつことが非常に難しい。実際に、障害をもつ人の生活全般をマネージする役割は、家族だけで担っている場合がほとんどである<20>。

そこで、本研究では、コンサルテーションアプローチを用いた3つのケースの事例を紹介し(成人2名、学童1名)、その指導の効果とさらなる課題について検討するものである。


方法

参加者

本研究の参加者は、成人2名と学童1名である。以下には、各参加者の特徴をまとめる。

【ゆみこ(仮名)】

ゆみこは、自閉症と診断された24才の女性である。彼女は現在、母親と兄と一緒に家庭で生活しており、昼は小規模作業所に、公共の交通機関を利用してひとりで通っている。彼女は、養護学校高等部を卒業してから4年間、市内の授産所に通っていた。しかし、その環境で多くの問題行動が見られるようになったため、現在の地域作業所に移っている。

その問題行動とは、作業時間中にひっきりなしに自分の服を着替える、突発的なかんしゃく、食器を割るなどの破壊行動である。頻繁な服の着替えは、作業中突然持ち場を離れロッカーへかけ込み、そこで強迫的に何度も服を脱いだり着たりするというものであった。以前通っていた授産所での対応策は、「無断でロッカー室へ入ること」「通所中の着替え」を禁止するといった方法で、最終的にはロッカーにガムテープを貼るという強行手段をとっていた。その結果、自分の作業の持ち場で服を何度も脱ぎ出す、突発的なかんしゃく、帰宅後の睡眠の不安定さや破壊行動の増加がみられ、母親が通所先の変更願いを提出するに至っている。家庭においても、中学校入学前後から、食器を母親の目の前で割る、突然「お皿割ってくる」と宣言して台所にかけ込み食器を割る、大きな花瓶を2階から外へ投げつける、食器棚を倒すといった行動が周期的に見られていた。また、布団を1日に何度も上げ下ろしする、ふすまの開閉のくり返しなどの行動は継続的に見られる。小規模作業所に移ってからも、服の着替えや破壊行動は継続してみられていた。それ以外にも、作業所にある品物を何か一つ抱えて作業時間中に突然散歩に出かけるといった、新たな問題も発生していた。抱える品物は、最初は小さいものであったが、次第に大きいものに変わっていった(もっとも大きな物は3人掛けの会議用机)。

ゆみこは、単語を中心に人とコミュニケーションしている。話し言葉によるコミュニケーションの自発は非常に少ないが、こちらの指示に対する応答は良好である。また、短い文章の読みや指示の理解、作業の学習などは比較的良好なスキルをもっていた。ゆみこのコンサルテーションは、通所先で自閉症についての勉強会の開催をきっかけに、母親と作業所の職員から当センターに申し込まれた。

【けいこ(仮名)】

けいこは、今年成人式を迎えた女性である。就学前に自閉症と診断されており、8才から向てんかん剤を常時服薬している。彼女は、両親と兄と一緒に家庭で生活しており、現在昼間は通所更生施設に送迎バスで登園している。彼女は、毎日の決まったルーチンや特定の好みの活動については単語で要求を伝えることができる。しかし、たいていはひきこもり傾向が強く、コミュニケーションの意図をもたない独語が多く見られる。

彼女の問題行動は、登園拒否、睡眠障害といった生活リズムが大きな崩れが周期的にやってくることである。この問題ゆえに、けいこは中学校の特殊学級卒業後、何度も昼間の通い先(福祉的就労先)を失ったり、短期間の施設入所を何度かくりかえすこととなった。この生活リズムが崩れたときは、「夜間も家の中に入らず玄関前に座り込んだり、うろうろする(外に布団をひいて寝ることもある)」「自分のリズムの日課を強引に変更されると強烈な自傷や他害行動を見せる」といった様子で、家族が24時間体勢で監視し続けなくてはならなくなる。この生活リズムの大きな乱れは、ほとんどの場合長期休暇の後に起こっている(夏休みや冬休み後)。両親は、常に長期の休みを恐れており、その時期が近づくといろんな援助者に相談を求めている。

けいこが現在通っている通所施設は、開園してまだ3ヶ月強経過したところである。当初、行事や作業中に何度か大きなかんしゃくを起こしていたものの、施設内では比較的良好な生活が送れるようになってきていた。家庭では、時々かんしゃくを起こすため、彼女の生活のリズムに家族が合わせていた。具体的には、帰宅後すぐに父親とドライブに出かけ(本人が「ドライブ」と要求)、曜日によって決まった店で何種類かのおかしを買い、帰宅後近くの公園へ散歩に出かけ(冬でも噴水の中に入る)、6時前には雨戸を閉め、夕食をすませて自分の部屋の布団に入るといった生活を規則的に続けており、朝は5時前後に起床し、風呂に入るといった日課である。休日の過ごし方も決まっており、それもまた家族に大きな負担をかけるものであった。

けいこのコンサルテーションは、彼女が幼児期からかかわっているケースワーカーと現在の通所先の担当職員から、家庭と施設とが連携して彼女の生活を援助できる方法がないかと、当センター学習指導室に依頼があり、開始された。

【おさむ(仮名)】

おさむは、両親と弟と一緒に家庭で生活している、7才の自閉症である。昨年の4月より小学校の特殊学級に通いはじめ、6月より当センター学習指導室に定期治療コースに参加し、月2回1時間のセッションを受けることになった。標準化された知能検査の結果は重度の遅れの範囲に入る(田中ビネーIQ33)。絵を見せてその名称をきくと、見慣れたものであればいくつか答えることは可能であった。しかし、話し言葉を使った自発的コミュニケーション(例;話し言葉による要求)は治療室でも家庭でもほとんど見られなかった。言葉による指示理解も、日常のルーチン化されたもの以外は難しい。家庭では、水遊び以外に遊べるレパートリーがほとんどなく、補助つき自転車、バット振りなど比較的好みの活動も、大人の多大な援助を必要とする。また、弟との追いかけっこなども好みではあるが、力のかげんがわからず、家族が目を離すことはできない。学校からも、「追いかけるのが大変」と母親によく報告されていた。

7月始めごろより、学校で泣き、かんしゃくが多くなりはじめた。予定が変更されたときや自由時間に混乱することが特に多いようであった。母親は、朝学校までおさむにつき添い、先生が教室にくるまで当センターで提示された作業課題を与えて、何もやることのない自由時間を減らすよう努力をおこなっていた。おさむのかんしゃくは強くなる一方であったが、夏休みに入ると、平穏な生活に戻った。2学期に入ると再びかんしゃくが頻発し、その上、授業中に学校から逃げ出すようになった。母親の言葉では「本人なりに行きたい所があるが、人に伝えることができないために周囲を慌てさせる」ということになる。

おさむのコンサルテーションは、当センター学習指導室の定期治療プログラムの一貫として行われた。依頼者は母親であり、家庭を中心としたプログラムとなった。

コンサルテーション

本研究のコンサルテーションは、当センター学習指導室に重度の行動問題により、現在の生活を維持することが困難だと1991年冬から1992年秋までに訴えてきた、任意のケースが対象である。紹介者は、おさむの場合家族が、ゆみことけいこは通所先の職員である。ただし、コンサルテーションには家族が参加することを条件とした。

コンサルテーションでは、参加者のライフスタイル、問題行動についての経過、家族や職員のニーズといった情報収集をもとに、短期的で実現可能なプログラムをその都度設定する。著者らは、このコンサルテーションモデルで参加者に直接対処することはない。コンサルテーションのミーティング時に、目標を設定する、具体的な手続きの調整をする、実施責任を明確にする、そして評価をおこなうといった、コンサルテーションのみの参加である。

ゆみこのコンサルテーションは、現在ゆみこが通っている小規模作業所で、1992年9月より月1回のペースで6回もたれている。参加者は、母親と作業所の職員(1から3名)、ケースワーカー、同じ作業所へ通っているあるいは地域の障害者の親の会のメンバー、地域活動のボランティア、そしてコンサルタントとして当センター学習指導室のスタッフ(1名)が常に参加している。コンサルテーションのすすめ方は、母親と施設の職員から情報を収集し、その行動問題の妥当な機能をいくつか推測し、次回までに家庭ならびに作業所で実施可能な方法を話し合いで決定するといった、約1時間強のミーティングである。

けいこのコンサルテーションは、1991年11月より不定期に6回もたれている。なぜなら、けいこが行動問題を頻発するのは家庭内であり、それも施設の長期休暇と密接に関係しているためである。ミーティングは、けいこの自宅で4回、施設で1回、生活ホームで1回(けいこの両親が世話人をしている)もたれている。参加者は、両親と通所施設職員1名、コンサルタントとして学習指導室のスタッフ1名の4人を中心に、けいこが小さい頃からかかわっているケースワーカーが1ないし2名参加している。コンサルテーションの内容は、両親から家庭での現在の様子と短期的な希望を聞き、妥当なプログラムをいくつか検討し、家庭での役割と施設での援助の方法を合議することが中心となる。

おさむのコンサルテーションは、当センター学習指導室で月に2回のペースで実施された。参加者は母親と学習指導室のスタッフの2名。おさむが通っている学級担任への誘いかけは、「母親が連絡帳でおさむの特徴や現在の課題を記入し反応を待つ」「学習指導室での個別指導場面をビデオテープに録画し母親と一緒に視聴する」などの比較的穏やかな戦術を用いたが協力を得られず、「これ以上学校を巻き込む努力は無駄」といった両親の判断により終結した。コンサルテーションでは、家庭内と学校でのおさむの行動問題を家庭の中だけの対応でどの程度予防できるかが話し合われた。

介入

【ゆみこ】

最初のコンサルテーションにおいて、家庭や作業所における現在の問題行動の種類とその前後の日課や対応についての情報収集をおこなった後、それぞれの環境でもっとも問題となる行動を選択した。最初のターゲットは、「突然物をもって作業所から散歩に出る」「作業所内での着替えのくり返し」である。まず、作業所における行動を中心に介入プログラムを計画した。情報の分析と具体的な介入プログラムについて表2にまとめてある。

行動そのものの早急性から考えると、家庭での食器の破壊や大声をあげるかんしゃくより、最初にターゲットとした行動の方がよりマイルドなものである。しかし、a)問題行動による不適応を理由に授産所から移って来て間もないため、とりあえず安定した通い先の確保が優先されること、b)家庭での行動について母親は変化を望んでいるが、これまでかなり長い歴史があるにもかかわらず、ゆみこを家庭から出すつもりはない、c)作業所の職員が新しい対応法を求めており、それを実行する準備が整っている、といった理由から作業所での行動にまず注目した。2回目のミーティングでは、最初の計画の評価ならびに今後の対応法を毎回確認する形をとっている。

この作業所での2つの行動は、いわゆる非社会的行動であり、場所や方法を整えれば生起してもかまわない行動である。また、彼女のこの行動は、「逃避」あるいは「注目」のどちらの機能とも解釈可能であった。ただし、散歩や着替えが生起する時間帯に必ず決まった活動を実施しているということはなく、また作業所の品物を一つもって出かけるといった特徴から、「注目」の機能に重きを置いた対応をとる必要があった。基本的な方針は、a)現在の行動自体は容認する。つまり、中止や禁止を行わず、むしろ1日のスケジュールに積極的にくみ込むように勧める。b)社会的なルールを加える。たとえば、カーテンで区切られた更衣室で着替える、目立つ品物を持って出かける(出かけるとコミュニケーションできないため、出かける際に周囲に気づかせる)。そして、最も重要な介入は、c)ゆみこと職員とで事前に散歩や着替えの活動をくみ込んだスケジュール表を作成することである。作業所に着いて最初の活動が、このスケジュール表の作成である。これは、あくまでもゆみこ個人のスケジュールであり、本人の希望や現実に即したものである。職員は、時々、曜日によって決まった作業内容について(全体のスケジュール表を指さし確認をとる)と散歩や着替えが抜けた場合積極的に書き込むように促す程度の指導しか行わない。

さらに別の視点からの対策も必要であった。それは、作業所での様子と家庭での様子についてお互いに密に連絡をとりあう方法についての検討である。現在のゆみこの行動問題からすると、母親は「今日作業所でかんしゃくを起こしたり暴れていないか」、作業所の職員は「昨晩はお皿を割ったり、布団のあげおろしをどれくらいくり返していたのか」がお互いに知りたいところである。ところが、ゆみこは1人で作業所に通っており、母親も職を持っており頻繁に作業所に出かけたり、電話で毎日連絡するには負担が生じる。一般的な方法としては、メモ(連絡帳)でのやりとりがある。しかし、この方法は、ゆみこが文章を読むことが可能で、その内容を相当気にするといった理由から、修正を迫られた。結果的に、彼女が作業所について最初に行う一日のスケジュールの組み立てノートの下の欄に、母親と職員がとり決めた記号(暗号)を記入することで情報交換の手段とした。

医療ケアを推薦した理由は、ゆみこは幼児期以来、脳波検査を含めた医療ケアを全く受けていなかったこと、作業所以外の母親の相談場所を確保するためのものである。結果的に、紹介した医療機関の予約を取り、診療を受けに出かけることが、最初のコンサルテーションにおける家族の唯一の役割(責任)となった。

表2.ゆみこの最初のプログラム計画の要約

問題行動 作業所の品物をもって散歩に出る・着替えのくり返し
生起するスケジュール 基本的には作業中、ただし昼食や休憩時間など不定、散歩は1日1ないし2回
機能分析 逃避(作業活動から逃げる)・注目(職員の注目を得るため、作業所の秩序を混乱させるため)
基本方針 2つの行動を積極的に奨励する・社会的なルールを加える
対応
  • 毎日作業所での日課表を本人につけさせる(タイムテーブルにあわせて作業や昼食、散歩と行った活動を記入、散歩が書かれない場合は確認をとる、できれば行き先も記入)
  • 座席に近い場所に着替えてもいい場所を設置する(カーテンで区切られた小さなスペース)
  • より注目される品物をもって散歩に出かけることを奨励する(鉛筆ではなく花瓶)
  • 日課表は家庭に毎日持ち返らせる(日課表に一日の調子の善し悪しを職員が暗号で記入し母親との連絡帳がわりとする)
  • 医療ケアを受ける

【けいこ】

けいこの最初のコンサルテーションは、ビデオを全員で見るころから開始した。ビデオは、朝日新聞厚生文化事業団作成の「教師のためのTEACCHプログラム」である。理由は、a)両親はこれまで専門的で具体的なアプローチを家庭でケイコにたいして実施したことがない、b)通所施設のスタッフならびにケースワーカーもこれから行おうとするアプローチについて十分な知識をもちあわせていないためであり、いわば共通の見通しをもつ必要があったためである。両親は、ビデオに登場してくる自閉症のケースがけいこと似た常同行動を見せていたため、これからのアプローチに動機づけられたと報告している。

ビデオの視聴の後で、けいこの現状の行動や家族の希望から、短期間で達成可能な目標設定を行った。具体的なストラテジーについては、表3に要約してある。問題行動そのものには積極的に対応せず、一日単位のスケジュールとその伝え方を中心に検討を行った。なぜなら、彼女の現在のスケジュールは、施設に通所している以外の時間はすべてけいこの自発的なコミュニケーション行動により決定されており、家族内部での調整が全くおこなわれていなかった。すべてけいこの思いつきの活動に家族が振り回されている形である(家族が許容している)。ただし、けいこの好みの活動レパートリーは決して豊富ではなく、結果的に毎日同じようなルーチンをくり返しており、そのルーチンは社会一般の生活スタイルとかなりかけ離れた固有のパターンであった(例;夕方6時には布団に入り寝る)。また、両親間、あるいは家庭と施設間で異なった指示が出されることも、けいこのかんしゃくに大きく貢献していると予想された。彼女に一貫したスケジュール提示を行わない限り、問題行動の機能分析ができないのが現状である。コンサルテーションでは次の3点を強調し、その哲学から具体的な対応法の検討に入った。

  1. けいこが自分で自分の活動を決定することは、彼女にとって負担であり、安定した生活を保証しない。現在は、彼女の好みを十分反映し、家族が決定した方がよい(将来は自分で決定する機会を加えていく)。
  2. 指示の内容が矛盾するとき、けいこは確実にかんしゃくを起こす(たとえば、母親が「もうおかわりはやめなさい」と言い、父親が「もっと食べていいよ」と言う)。両親間で家庭・施設間で矛盾した指示が出ないような方法が必要。
  3. けいことのコミュニケーションは話し言葉だけに依存すると危険である。彼女は、今目に見える範囲内のことなら言葉の指示が理解できるが、長い文章の指示(〜だから〜しなさい)や連続した指示(〜して〜する)、間接的な指示は難しく、結果的に上の矛盾した指示と同等になる場合が多い。

彼女は写真の命名が可能であり、この写真を「スケジュールの組み立て」や「コミュニケーション方法」として活用することとなった。まず、家族と施設職員が分担し、けいこが現在実行している活動を象徴する写真を撮影することになった(例;おかしを買いに行くスーパー、公園の噴水)。また。このスケジュール提示は、家庭では居間の壁に設置したボード(施設職員が作成担当)を用い、施設ではクリップでとめた単語帳形式のものを用いた。まず、家庭と施設とで確認をとったことは、a)基本的に写真を使って指示を行うこと、b)1日単位で時刻を書き込まないスケジュール、c)家庭のスケジュールは家族のみが、施設のスケジュールは職員のみが指示する、d)スケジュールの各活動は今まで実行して来たものをそのまま用いる(新しいレパートリーはとりあえず増やさない)、e)スケジュールの順番も今まで実行して来た順序から大きく変えない、f)日曜から土曜まで午後3時以降のスケジュールはすべて同じスケジュールにすることである。

表3 けいこの最初のプログラム計画の要約

問題行動 生活リズムの極端な乱れ、かんしゃく、人の髪を引っ張る他害
生起するスケジュール 不定
機能分析 不定
基本方針
  • 家族・職員がスケジュールを決定
  • 矛盾した指示の予防
  • 言葉に依存しないコミュニケーション
対応
  • 写真を使ったスケジュール
  • 一日単位のスケジュール
  • スケジュールを伝える人を固定
  • 新しい活動をスケジュールに組み込まない
  • スケジュールの順番も基本的には変更しない
  • 毎日固定のスケジュール時間を計画する

【おさむ】

おさむのプログラムは、学習指導室の定期療育プログラムの一環として実施されたこと、おさむの年齢が低いこと、実質的なプログラム実施者が両親(2名)だけであることから、かなり綿密なそして学習に重きを置いたものになった。

まず、おさむの問題行動が生起するもっとも典型的なスケジュールは「自由時間」や「活動と活動のつなぎの待ち時間」である。これは、かんしゃく、逃亡の両方ともに当てはまる。機能は母親の報告から、特定の場所での遊び(例;以前通った幼稚園でブランコ)の獲得ではないかと推測される。問題行動生起の記録をもとに分析した結果、他の根拠が確定できなかった。かんしゃく・泣きについては、援助の「獲得」や「注目」、何もやることのない時間からの「逃避」などいろいろな解釈は可能であるが、決定的な根拠は存在しない。

そこで、おさむへの対応として、スケジュールの調整といったエコロジカルな対応を中心にプログラムをくむことにした。おさむが苦手とする時間は、自由時間と活動のつなぎめ、特にスケジュールが急に変更されたときは確実にかんしゃくを起こしている。となれば、1)毎日同じような流れのスケジュールを組む、2)無目的な自由時間を可能な限り減らす、3)好みの活動であれひとつの活動に従事している時間はそれほど長くしないことが基本方針となる。後は、両親や兄弟の生活の質やリズムを崩さず、なおかつ家族に負担にならないスケジュールをどのように組んでいくか、運用上の妥協点を探る。母親は、夏休み期間中のスケジュール調整の必要性を痛感していた。なぜなら、どうしても自由時間の割合が増えると予想できたためである。コンサルテーションで調整した夏休みの典型的な1日のスケジュールは以下のように細切れになっている。

朝食→ビニールプール→勉強→おやつ→自由時間→昼食→ビニールプール→お風呂→おやつ→CDを聴く→散歩または自転車→お風呂→夕食

現在、おさむが1人で比較的長い時間遊んでいられるのは、水遊びと音楽を聴くことだけである。彼の好みを反映したスケジュールには、どうしてもこの活動ははずせない(頻繁にときには30分以上おさまらない泣きや噛みつき、弟の突き飛ばしがあるよりビニールプールの準備の方が家族には負担が少ない)。また、ビニールプールやお風呂をスケジュールに積極的に取りいれているのは、母親の家事や弟の世話をする時間を確保する意図もある。強調した点は、思いつきで活動を切り替えていくのではなく、事前に決定したスケジュールの流れを大体時間に合わせて計画的にこなしていくことである。学校が始まってからも同様に短いスパンのスケジュールを計画した。平日、学校から帰宅してから夕食までの典型的なスケジュールは:

帰宅→自由時間→勉強→おやつ→外(散歩・公園・自転車・買い物)→お風呂→夕食

このスケジュールでも母親の断続的な監視を必要としないのは、お風呂(水遊び)だけである。そこで、勉強時間を利用して、1人で実行できる作業や遊びの学習を平行して実施した。具体的には、ブロックやペグの組み立て、マッチング、ジグを用いたパッキング課題など、どれも視覚的構造化の手法を取りいれた、大人の指示をほとんど必要としない教材の工夫を行ったものである。おさむは短時間ではあるが、こうした作業に強力的に応じることが可能である。この勉強の時間についてコンサルテーションでは、次のように考えている。a)この時間は母親が子どもをコントロールする時間である、b)この課題を通して子どもの正確な力を評価する、c)一日のスケジュールのアクセントとなる活動、d)親子がよい状態でかかわりをもつ時間、e)1人でできる活動レパートリーを増やす時間、f)おさむの協力的行動に注目が向けられ、励まされる機会の提供。

スケジュールの調整ともうひとつのプログラムの柱は、スケジュールをおさむに伝えるあるいはおさむの方から彼の好みを伝える方法を確立することである。一貫したスケジュールは、おさむに見通しをもたらし、結果的に安定した生活が可能となった。しかし、これを長期的に続けていくことは現実的ではない上に、おさむの年齢や成長あるいは生活の面といった見方からも問題が生じる。さらに、おさむの逃亡は「本人なりに行きたい場所があるが、そこへ行ってもよい時間がわからない、そこへ行ってもよいか伝えることができない」ため生じる問題と解釈可能である。そこで、1)帰宅後のスケジュールを絵や写真を使っておさむに提示する(半日スケジュール)、2)「外」の活動は写真を使って自分で場所を選択する、の2点がプログラムとして加えられた。この絵や写真を使ったスケジュールにより、おさむはいつ外出できるか、またどこへ行くのかが視覚的に知ることが可能になった。この新しい視覚的スケジュールは、10月ごろから導入された。

表4.おさむの最初のプログラム計画の要約

問題行動 かんしゃく(泣き)・逃亡
生起するスケジュール 自由時間、活動と活動のつなぎの待ち時間
機能分析 逃亡のみ「獲得」、かんしゃく不定
基本方針 短時間の活動による日常生活のスケジュール、コミュニケーション手段の獲得
対応
  • 1人でできる作業の学習
  • 家庭でのスケジュールの調整
  • 好みの活動の選択とコミュニケーション
  • 視覚的スケジュール提示

評価測度

本研究は、ケース報告の形式をとっており、介入変数を実験的に統制したものではなく、現実に即した多重要素のアプローチをとっている。そこで、従属変数は、各問題行動の量的な測度より、コンサルテーション中にプログラム実施者(施設の職員や家族)が報告している内容の質的な指標を中心とする。質的な指標とは、断定的で一般化した記述を生みだすことはできない。しかし、現実の療育の場で複雑に入り組んだ情報を様々な角度から見通しを提供する一つの有益な方法論である(*)。今回は、a)行動の変容について、b)措置の変化について、c)コンサルテーションのプログラム実施と成果に関する実施者の感想の3点を中心にまとめ、考察したい。


結果

ゆみこ

介入手続きを導入してから、1ヶ月の間に作業所におけるゆみこの行動は急激に変化している。突然の散歩は、1日のスケジュールを事前に組むことにより職員が予測可能となり、さらにその行き先についてもかなり正確に予測できるようになった。ただし、2週間ほど経過したある日の事件から、無断散歩はほとんどみられなくなった(スケジュールにも書き込まない)。その事件とは、散歩に出かける際に目立つ持ち物を奨励したために生じたようである。ゆみこは、職場の備品を持って出かけることが奨励されてから、より目立つ、より大きい品物を持ち歩くようになった。そして、その日は、事務用の長机を引きずりながら散歩に出かけた。職員は、この行動も奨励した。さらに、めったに見れない光景であり、次のコンサルテーションの資料になると考え、ビデオ撮影することにした。小柄なゆみこにとって、この長机を運搬することは非常な重労働である。結果的に、作業所から100メートル弱移動したところで彼女はギブアップし、作業所に長机を引きずりながら戻っている。それ以降、しばらく散歩に出かけることはなくなった。

着替えについても、頻度はかなり少なくなった。1ヶ月の間に、ゆみこは全く着替えをしなくても作業所の生活を送れる日ができてきた。もちろん、ほとんどは、1日に1・2度着替えを行っている。カーテンで仕切られた更衣室に自分で出かけてである。

最初のコンサルテーションから、8ヶ月経過した1993年4月時点で、彼女の措置は変更ない。ただし、作業所自体が途中移転しているが、混乱することもなく、通勤・仕事をこなしている。散歩や着替えといった行動は、現在でもみられるが、その回数が少ない状態は維持しており、職員が行動生起を予測することも可能である。スケジュール表は、現在も書き続けられ、ほとんど毎日「状態よし」の暗号が母親に届けられている。家庭では、頻繁ではないまでも、お皿を割ることがある。また、布団の上げ下ろしのくり返しや、ふすまの開閉のこだわりはあまり変化がない。ただし、母親が他の行動に注目するようになってきていること(例;「最近早食いなのが心配」、「毎日子どもが食べるようなおやつを買うのを楽しんでいる」)から、家庭で許容できるレベルを維持していると解釈し、家庭での特別な介入手続きは計画していない。ただし、a)お皿を割ることは制止しない(これまで制止しようとしてもできなかった)、b)落ちつくまで待っている、c)落ちついてから割れたお皿の後片づけを指示、といった消極的で一般的な対応については話し合っている。

現在毎月一回、作業所で開催している勉強会に、母親は毎回参加している(仕事が終わった後での参加)。母親はこの会でのコンサルテーションを、子どもを職員・ボランティア・コンサルタント全員でサポートしていると実感できる場として、そして子どもの行動の新しい見方ができ、母親自身のリフレッシュができる非常によい場だと評価している。

けいこ

スケジュールボード(家庭)とスケジュール帳(施設)を使った生活を開始した直後から、けいこはこの写真を手がかりに活動にとりかかるようになった。両親間あるいは家族・施設間で矛盾した指示が出る危険性は、これにより確実に減った。それだけではない。ほんの1から2週間の間に、家庭でのスケジュール間に休憩時間がとれるようになり、結果的に就寝時間が遅くなった。これまで夕方7時前には確実に布団に入る生活が(家じゅうの電気を消して)、短期間の間に、次第次第に9時から10時の間へと移行し、家族との調和が取れた生活リズムで過ごせるようになっている。さらに、この良好な生活リズムは、冬休みの間も持続し、休み開けの施設通園も全く問題が起きなかった。両親は、「こんなにのんびりできた正月は初めてだ」と言ったほどの変わりようであった。もちろん、突発的なかんしゃくや他害行動も全くみられず、まさに安定した生活そのものであった。ただし、一日のスケジュールはほとんど決まったパターンであり、生活地図上や活動の種類に広がりが出ることはなかった。

ところが、2ヶ月程すぎ、けいこが安定した状態を続けていた頃から、両親は視覚的なスケジュールを利用しなくなった。両親共に「同じスケジュールをただくり返すのはかわいそうだ」「言葉で話せるようになってほしい」といった意見が出るようになり、自主的に写真をボードに貼らなくなった。しばらく安定した状態が続いたが、お風呂の栓を抜けなくてかんしゃくを起こしたり、母親の言葉による指示に髪の毛を引っ張る他害行動を見せたりしはじめた。夏休みの1ヶ月前のミーティングでは、スケジュールの使い方の確認、夏休みの家族での旅行の計画などを確認したが、そのプログラムの実施はほとんどできず、夏休みを過ごす。その間、睡眠障害、家に入ることの拒否(結果的に明けがた4時過ぎに自宅の玄関先に布団をひいて寝る)、そして、夏休み後の登園拒否、長期欠席といった状態になる。現在、けいこは通園施設に毎日通っており(3ヶ月強の長期欠席の後)、また時々かんしゃくを起こすものの、安定した状態を保っている。

家族は、できる限りけいこが家庭で生活できる状態を保ちたいと強く希望している。そして、けいこの調子が悪いとき、あるいは施設の休暇が間近に迫ってきたときに、両親はコンサルテーションを希望している。ただし、家庭内で両親が担うプログラムは長期的に実行することはかなり難しいようである。視覚的な指示より言葉による冗長な指示、事前に決定したスケジュールより思いついた新規の活動への参加を好む、両親の生活スタイルは今後も続くと思われる。

おさむ

夏休み前から頻繁にみられたおさむのかんしゃくは、夏休みに入り(一貫したスケジュールを家庭で組む)明らかに減少した。事実、夏休み中大きなかんしゃくは一度もなかったと母親が報告している。しかし、9月に学校が始まると、次第に泣き叫びが増えはじめた。そこで、再度特殊学級担任に、VTRや連絡帳を使って協力を要請したが、連携には至らなかった。また、授業の隙間や母親と先生とが話し合いしている間に逃亡することが一段と増えてきた(2・3週間ほど担任が療養休暇をとっているあいだ代替の先生とは調整がうまくいき安定している)。そこで、より強力な見通しをおさむにもってもらうため、絵や写真によるスケジュールと外出先の選択を行うプログラムを組み込んだ。このスケジュールに対するおさむの反応は良好で、これまで自発的なコミュニケーションがほとんど観察できなかったおさむが、自分の好みの写真(例;○○公園)をスケジュールに貼るよう母親のところへもってくる行動がかなり頻繁にみられた(活動の要求:10日に2回のペース)。この自発的コミュニケーションは、「夕方遅くや雨の日でも写真をもってくる」といった活動できる時間の弁別といった新たなそして非常に難しい課題を彼に強いることとなるため、ある任意の時間に選択できる写真とそうでない写真を区別して提示する方法をとった(おさむの机の上の箱にある写真は選択可能、その他の写真は目のつかないところで保管)。これ以降、おさむは一度も逃亡していない。同時に、かんしゃくや泣きの回数も完全ではないまでもかなり減ってきている。1993年に入ってから3ヶ月、大きなかんしゃくは全くない。

彼の両親は、1993年度(4月から)養護学校へ移ることを決心した。理由は、新しい年度から特殊学級の生徒数が1名となり、担任との相性から考えると「しかたない」と判断したからである。

コンサルテーションを行った感想について母親にインタビューを行っている。その要約は、表5に示す。母親は、この内容から、母親はプログラムの趣旨を十分理解し、またその効果も大きく、今後も継続的なサポートを望んでいることが示唆される。

表5.プログラムを振り返っての母親の感想

最も大変だった時期 1992年の秋。学校や家から頻繁に逃げだし、どこに行ったかわからず捜索することが多かった。目的地があるはずだが、こちらの予想とはずれることもかなりあった(次第に興味の範囲が広がって行っていたようだ)。
効果的な手続きは 本人の行きたい場所を写真を使って確認したこと。今は、自発的に行きたい場所の写真をもって来る。弟も同じ方法で要求するようになり、ふたりの意見が対立することもある。
サイドエフェクト
  • 待てるようになった。以前は「行く」と決まればすぐに飛び出していたが、今は写真で伝えてあるため、しばらく待たされても「いつかは行ける」ことがわかっているようだ。
  • 父親の家事参加機会が増えた。スケジュール表を組んでいくと、どうしても夕食の準備の一番忙しいときに「外出」がないとかんしゃくを起こしてしまう日が予想できるようになった。以前なら、制止か説得しか方法が考えられなかったが、今はそのくらいの要求はかなえても家庭の生活リズムが崩れず、無理なく調整できることがわかった。結果的に、その時間は父親が食事の準備をする場合が多い。
今後の希望
  • 学校以外の場所で、相談できる場所を確保したい。
  • 長期間生活をみ守ってくれる人材がほしい。

 


考察

本調査研究では、現在の生活を脅やかす問題行動をもつ3人の自閉症のケース報告を中心に、最新の問題行動管理ストラテジーがどの程度現実の生活で応用可能であるかを検証するものである。3人とも、何らかの形で実際の生活場面にこのストラテジーを応用している。そして、すべてのケースが、一時的ではあるにしても、急激な行動変化を見せている。また、3人の内ふたりは現在も危険があった生活場面を今でも確保している。コンサルテーションに対する評価も、程度の差こそあれ、3人の家族には良好な評価を得ている。ただし、今回のコンサルテーション形式のアプローチでは、大きな問題点が存在する。それは、生活全般で一貫したコンサルテーションで決定したストラテジーをとれないことである。

けいことおさむのケースでは、その生活のかなりの部分で、このストラテジーを用いることができなかった(けいこの家庭では一時的な実施のみ、おさむの学校では全く実施不可能)。これは、コンサルテーション自体を福祉や教育の制度に位置づける方法によりかなり解決できる問題かもしれない。しかし、けいこの家族のように、ストラテジーの効果や必要性を実感しており、それ以外の選択肢がないことも感じていても、結果的に継続した使用を選択しない場合も少なくないと思われる。このストラテジーを家族が実施する負担を減らすといった視点とは別の、プログラム参加の動機づけをもたらす戦術が必要なのかもしれない。また、どうしてもプログラム参加を拒否された場合の別の何らかの支援体勢の確保も必要かもしれない。

また、この分野の研究や実践報告の情報の貧弱さもコンサルテーションで行動管理ストラテジーを決定する際に大きく影響してくると思われる。行動管理の技法が、教室や施設といった特定の場面だけでなく、地域で生活するあらゆる生活環境にも応用されはじめたのはつい最近である<18><19>。また、このような実践的な研究は、「独立変数」「従属変数」そしてその因果関係が明確にあらわれる実験を計画することは非常に困難である。現状では、ケース報告を中心に、そのような成果を評価尺度に採用するかが検討されている段階でもある。それでも、私たちの国では、このような実践報告すら皆無であり、手続きの紹介されはじめたところである<21>。今後、さらなる研究や実践報告が待たれるところである。


文献

  1. ベーカー他著・坂本龍生・阿部秀雄監訳 (1983): 「楽しい家庭療育」シリーズ;気になる行動. 学苑社.
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  20. IEP研究会編著 (1992): 第1回調査研究報告書。財団法人安田生命社会事業団. 志賀利一 (1993): 発達障害児者の問題行動;その理解の仕方と対処法マニュアル. 情緒障害児教育研究紀要(北海道教育大学教育学部旭川分校・特殊教育特別専攻科障害児教育研究室), 12, 11-20.

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