問題行動の理解と対処法マニュアル中級番外編

1994年に安田生命社会事業団発行のマインディックスぷらざ
に掲載されら原稿です。短く、本編のマニュアルとちょっと
ニュアンスを変えて書いてみました。中級編ということで、
まとめ方にちょっと癖があります。


外出中のトラブル

戸外散歩や遠足で,自動ドアを見つけると衝動的に突進していく子がいます.自動ドアを何度も開け閉めするいたずらに,猛烈に執着しているのです.突進に先生が気づき,制止すると,金切り声をあげ道路に寝そべって動こうとしなくなります.先生の頭から,次の2つの難題が離れることがありません.

長期休み明けの長期欠席

毎年,1月中旬,5月中旬,8月後半に長期欠席する青年がいます.施設の職員家族共に,長期欠席にいたる明確な理由を知っています.なぜなら,「正月休み」「ゴールデンウイーク」「お盆休み」の後にかならずそれは起こるからです.

この原因を疑う人は誰もいません.そこで,施設と家庭では長期休暇前に,「休みの間の計画」を検討しています.ボランティアと一緒に外出,地域の障害者団体の行事参加,一時預り制度の活用など,次第に休日の過ごし方のレパートリーは増えてきています.しかし,それでも生活習慣が崩れるのか,欠席がなくなる兆しは見えません.

虫の居所の悪い日

比較的穏やかに過ごしている日があると思うと,次の日は突然,隣りの子を何度も突き飛ばしたり,机を力一杯叩いたりする,あたかも二重人格であるかのような生徒がいます.何か特別なきっかけで(例;嫌な行事のための練習)機嫌を損ねる時もあるのですが,原因が全く予測できない日の方が圧倒的に多いのです.先生は,学校で安心して生活でき,なおかつ楽しめる活動を用意してあげようと悪戦苦闘しています.個別のスケジュール表を作成したり,好みの活動の割合を増やしたり,矛盾した指示が出ないようにしたり,突き飛ばされる子との距離を開けるようなに教室の構造を変えたり,思いつくありとあらゆる努力を行いました.確かに,一つひとつの行動の頻度や強さは,減少しましたが,「日による気分のむら」は全く変らないような印象です.


陥りやすい罠

発達障害をもつ子どもや大人を支える人は,この3つのイラストに近い経験をもっているはずです.時には,同じ様な悩みや課題を抱えていたかもしれません.冷静になって振り返ってみると,その時の対処法やそこにいたった思考パターンの中に,問題行動の持続に貢献した何かを見つけることができます.

反対語の目標

私たちには,際立った行動特徴で人を見立て,名前づけする癖があります.たとえば,「人に対する関心が薄い」「飽きっぽく,注意が散漫」そして「自動ドアへのこだわりが強すぎる」などとと表現します.これは,職員同士の情報伝達としては有効な表現のひとつです.しかし,このことばを単純に反対語に言い直すだけで,具体的な指導目標が完成したと思い込んではいけません.つまり,「人への関心を高める」「注意集中を図る」そして「自動ドアへのこだわりを減らす」は,日々の指導方法を決定する現実的な目標ではありません.より多くの情報収集とブレーンストーミングを行い,有効な指導に結び付く仮説とその検証手続を具体化する必要があります.

問題行動への対処がうまくいっていないと感じたら,まず目標のことばを疑ってみましょう.特徴の短絡的な言い直しになっていませんか?

その子がそばを通る,あらゆる自動ドアを思い浮かべてみなさい.いつ,誰と,どんな荷物をもって,どこへ行く途中に,どこの自動ドアにその子は突進したのでしょうか.例え同じ場所の自動ドアでも,お父さんと手をつないで,プールへ出かける途中で(水着入りのバックを持って)は,突進することがないかもしれないのです.安易な目標(課題)設定は,このような重要な情報や解決の手掛かりを隠してしまいます.図1は,ある仮説を図式化したものです.図・問題行動が大きくなる仮説

困った状態を起こしてから

私たちが「問題行動をなくしたい」あるいは「適切な指導法を知りたい」ともっとも切実に感じるのは,その行動が起こってしまった時,あるいはその直後です.たとえば,自動ドアへの突進を制止されてかんしゃくを起こしている時に,

  1. 自分勝手に集団から離れてはいけないことを覚えて欲しい
  2. 道路で寝そべったり,大声を出してはいけないことを覚えて欲しい
  3. 集団歩行ではみんなから遅れてはいけないことを覚えて欲しい
  4. こういった行動はみんなに迷惑がかかることを覚えて欲しい

と強く感じるものです.ついつい,この時に,何らかの素晴らしい教育的対処を行えば劇的な変化が起こるのではと期待したくなります.しかし,たまたま自分の問題意識が強くなったからといって,これが指導の絶好の機会であるわけではありません.普段だと何の問題もない「立ちなさい」の指示すら受け入れてもらえない時に,先の4つの教育的対処は行えません.

困った状態が起こってしまったら,その場での教育的な指導は,原則的にあきらめましょう.図1に当てはめると,起こしてからの対処とは,丸が大きくなってしまった一番右にアプローチしているわけです.効果的で教育的な対処は,左の方のつまり,比較的小さな丸に働きかけます.

「学校での日課はすべて個別の絵によるスケジュールで提示する(いつ散歩で,戻ってから何をするかがわかるように)」「どこへ出かけるか伝える(公園への散歩にはそこで遊ぶボールを持たせる)」「その子のペースで速く歩く」「決まった道順を通る」「突進の危険地帯では教師と手をつなぐ」といった対処をとることが,結果として,自動ドアへの突進とその制止で生じる道路での寝そべりは無くなってしまったのです.

図・長期欠席にいたる仮説

一般論の拡大

私たちにとってごく当然と思われる常識が,時には,多方面の情報収集やブレーンストーミングを機能させないことになります.先の長期欠席のイラストがその典型です.図2を見てください.私たちの多くは,「長期休暇中に生活リズムが崩れやすい」→「崩れた生活リズムは休みが明けてもなかなか戻らない」→「欠席」と考えてしまいます.確かに,この因果関係の推理は,多くの場合正しいのです.しかしこのような一般論が全く役に立たない事例は少なくありません.自閉症や遅れの重い知的障害をもつ方には,むしろ,一般論を疑うことからはじめた方がよいかもしれません.

休み明けに長期欠席をしてしまう青年は,確かに長期休暇中に生活リズムが変化します.ただし,もっと大きな問題がありました.彼は,明日は施設に出かける日なのか休みの日なのか,見通しがもてなかったのです.そして,長期休暇はこの見通しのなさを助長し,毎朝の日課を混乱させてしまいました.家の中に今まで存在しなかった新しいシステムを導入することで,長期欠席はなくなりました.それは,家の居間に,1週間分のスケジュールボードを作り,本人と家族がそれを管理することでした.方法は:

【家族の役割】 一週間の終わりに(土曜日の夜),スケジュールボードの出勤日には施設の玄関の写真を,休日にはCDラジカセの写真(休日に一番好んで過ごす活動)を張りつける.

【本人の役割】 一日の終わりに(寝る前に),今日の分の写真(表を向いている一番左の写真)を裏返し,次の日の写真で出勤日か休日かを家族の援助を受けて確認する.


気づかない罠を見つけるには

問題行動の対処で息詰まったら,それはほとんどの場合,自分では気づくことができない罠に陥っているものです.この罠から抜け出す最も確実な方法は,今までと違った「考えるシステム」を導入することです.たとえば,新しいメンバー(例;両親,隣りのクラスの先生,スーパーバイザー)を加えて検討する,検討会の運営方法を変える(例;ブレーンストーミングの手法),記録や情報収集のシステムを変える(例;記録フォームの変更,介添の人と記録を分担する),問題が起こらない場面に注目するなどが考えられます(考えるシステムの変更を助ける具体的な資料として,当通信誌の出版元である安田生命社会事業団の支援で研究を行っているIEP研究会発行の「問題行動の理解と対処法マニュアル」,またはパソコン通信Nifty-Serveの障害児教育フォーラムの2番ライブラリーに登録されている同マニュアルを参照してください).

謎の推理

3つ目のイラスト,日による気分のむらが大きい子には,こんな理由があったのかもしれません.

このような例は,実際に起こりうる例です.誰かがその原因を教えてくれれば,私たちは簡単に納得できるものです.しかし,何の手掛かりもない状況で,自分でこの原因を見つけ出す役割を持たされると,非常に困ってしまいます.このような些細な原因が推理できるということは,常に考えられうる対処を計画的に実行し続ける柔軟な「支えるシステム」が必要なのです.そしてもちろん,一人ひとりを大切に評価していく,個別援助の思想は欠かすことができません.


さらなる理解を求めて

発達障害をもつ人の問題行動の多くは,その人に難しすぎる課題や苦手な活動を提示している場合に起こります.このような原因は簡単に見つかりますし,それに対する方略を企てることは,比較的やさしいものです.今回の特集(次の実践報告も含め)は,これよりも一歩進んだ,いわゆる中級向けのノウハウです.

ことばを使った意思伝達を苦手としている人たちは,問題行動という形で,私たちにいろんなメッセージを投げかけています.彼らにとって有効な支えを提供するには,彼らが何をどのように見,どのように感じ,そして考えているのかを,今以上に理解する必要がありそうです.

(しがとしかず)


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