発達障害児をもつ家族のライフサイクル Ver.2.0


発達障害児をもつ家族のライフサイクルについてまとめてみました(5年ぶりの改定です)。なるべく一般化しようと試みましたが、いかがなものでしょうか。家族も専門家も、子どもの年齢の増加とともに、今どういう課題を抱えているか、将来どんな課題が登場するのかが整理できていればとても助かりますね。その雛形のつもりで書きました。コメントならびに批評を入れていただけると幸です。

ここでの基本的なスタンスは、

「スマートにあるいはごく当たり前の子育てをいかにスタートするか」から「スマートにあるいはごく当たり前の子育てをいかに終わりにするか」です。


以下のライフスタイルの対象は、自閉症を中心とした広汎性の発達障害児者の両親を想定しています。ここでは便宜的に、子どもの暦年齢にあわせて7つの段階に分割しました。ただし、年齢は厳密なものではありませんし、このような直線的なモデルにぴったり合致する場合は決して多くないかもしれません。

  名称 子どもの年齢
1. 家庭の立て直し時期 1歳〜7歳くらい
2. 基礎的な能力開発の時期 5歳〜10歳くらい
3. 将来を見据えた指導の時期 10歳〜14歳くらい
4. 通所先確保の時期 14歳〜20歳くらい
5. 安定した通所先の調整時期 20歳〜30歳くらい
6. 生活場所の調整時期 25歳〜40歳くらい
7. 権利擁護の譲渡時期 30歳〜50歳くらい

 


ステージ1:家族の立て直しの時期

この時期のトピックス

「発達に何らかの異常があるのでは?」と両親が心配することからこの時期は始まります。地域の小児科や保健所などに相談に出かける、専門医からの診断を受ける、親子教室や通園施設あるいは統合保育(幼稚園)を活用するなど経て、就学先を決定するための就学相談、そして就学先の決定が一般的にこの時期の終了です。

この時期は、「目まぐるしさ」ということばで表現できるのではないでしょうか。とにかく、短期間の間に多くの専門家と会い、多くの機関を訪れ、大きな不安と悩みを抱え、そして矢継ぎ早に結論を下すことがたくさんあるのがこの時期です。

家族の課題

【子どもの行動】

この時期は、障害をもたない子でも、生活の大部分が大人の保護・監督下にあります。当然、日常生活の大部分は親が援助が必要となります。この親の労力に対して、子どもは愛着や依存的な態度を示してくれます。発達障害をもつ子の多くは、この親に対する愛着や依存的な態度の無さに驚き、不安になります。

また、多くの発達障害をもつ子は、この時期、親の想像をはるかに越える奇妙なあるいは困った行動を見せます。たとえば、

人生の中でもっとも社会適応が難しいのがこの時期です。身体がまだ小さいのが大きな救いになります。

【親の状況】

比較的順調に発達した赤ん坊が子どもらしくなることを、すべての両親は期待しているはずです。しかし、「親に甘えない」「なんだか心が通わない」などの子育てに若干の不安をもち、親を困惑させる行動を見せるようになり、このような行動のために多くの母親は、外に子どもを連れ出す機会が減り家の中にいる時間が長くなっているようです。

また、この時期、両親はこれまで出会ったことのない職種の人と話をしたり、経験したことのない機関に通うようにもなります。例えば、次のような人や状況に、ほんの3年〜5年の間に出会うことになるのです。子どもにかかわる専門家の数が最も多いのがこの時期です。同時に、専門家から提供される情報にもっとも一貫性がないのもこの時期なのです。

保健婦、児童精神科医(神経科医)、心理療法士、言語療法士、ケースワーカー(ソーシャルワーカー)、教育相談員など
状況 検診のフォロー、保健婦の家庭訪問、親子教室、療育センター訪問、診断、障害福祉の窓口経験(障害児保育)、通園施設、就学相談(指導)など

子どもの行動や療育に携わる専門家との関係以外にもこの時期の母親には心理的な負担が大きくなる要因がいくつもあります。以下には代表的な例をあげます。

家族の対処

まず、両親が抱えている問題を自分たちで整理しましょう。これまで発達障害をもつ子を大人になるまで育ててきた母親のほとんどが、この最初の時期が「もっとも心理的な負担を感じた」と話しています。しかし、この負担すべてが子どもの発達上の問題に起因しているわけではありません。例えば、次のような状況はどうでしょうか。

心理的あるいは身体的な負担は、どこからきているのかを漠然と理解するために、あるいはその原因に対してどのように対処するかを決定するためにも、両親で話し合うことが大切になります。

もう一つ大切なことは、相性のよい専門家を見つけることです。この時期、さまざまな専門家と会い、さまざまな情報が与えられます。しかし、これらの情報には一貫性がなかったり、時には正反対な意見が出たり、あるいは親の子育ての態度を非難されたりなど、親としてすべての専門家を信用することができないかもしれません。

この時期がもっとも多くの専門家に出会うのです。専門家と話し合うことで心理的な負担を感じることがあるかもしれませんが、逆に、「この時期に相性のよい専門家を見つければよい」と考えるのはいかがでしょうか。話をしっかりと聞いてくれる、具体的なアドバイスを提供してくれる、そして何よりも会っていて安心感をもてる専門家は必ず身近にいるものです。

サポーターの心得

療育の専門家は、病理的な疾患をもつ障害児同様、まず正確な「診断」を下し、それに基づき適切な「治療」を行うモデルに沿ったアプローチを考えています。両親が心配している現在の状況を診断名を用い、説明することは確かに大切ですし、今後両親がどのような知識を必要とし、療育資源を活用し、そしてどのように実際に子どもとかかわっていくかの第一歩として診断名は欠かせないものです。しかし、次の2点を忘れてはいけません。

「診断後の継続的フォロー」と「家庭で有益な療育方法」の他にもう一つ、「家族支援」の発想がこの時期重要になります。専門家は、

が求められるのです。


ステージ2:基礎的な能力開発の時期

この時期のトピックス

学校に通い始めると、これまでのように矢継ぎ早に大きなイベントは迫ってくることがありません。時には、保育園・幼稚園あるいは通園施設に親から離れて通園し始める時期から、このステージに入る両親もいます。逆に、就学先として統合教育の場を選択し、そこでのトラブルが頻繁で、なかなかこのステージに入れない人もいます。

この時期は、「一段落つく」そして「子どもへの積極的なかかわり」ということばで表現できるのではないでしょうか。

家族の課題

【子どもの行動】

ステージ1に比較すると、多少子どもは扱いやすくなります。特に、多くの子どもは食事や排泄、着替えといった身の回りのことは一人でできるようになっていますし、親の簡単な指示や何らかの方法で親に意思表示することもできています。もちろん、両親が子どもの行動特性をかなり理解できていることも扱いやすくなっている大きな要因です。

家の中では少しずつ平穏に過ごせるようになっているものの、学校や戸外でのトラブルはなかなか少なくなりません。生活範囲が広がるにつれて、周囲に迷惑をかけたり、苦情を聞く機会が増える子も少なくありません。また、年齢とともに今までだとあまり気にしていなかったちょっとした仕草が、非常に風変わりに見えたり、目立ちはじめます。

また、多くの場合、子どもの興味の範囲が広がったり、学習する力が飛躍的に増えてきたと感じるのもこの時期です。特に、個別にステップを考えながら設定した課題を習得する力は以前と比較になりません。以前は、机に座って勉強することすらも考えられなかったのに、人がついて適切な課題を提示すれば、コンスタントに学習していくのです。

【親の状況】

毎日、母子分離された昼の通い先ができることで、母親は一息つくことができます。診断名や障害ということばにある程度慣れ、ステージ1で負担を感じていたこともある程度は整理され、心理的な余裕ができるようです。そして、この余裕は、子どもの成長へ向けての試みに拍車がかかることになります。

「子ども能力を最大限伸ばしてあげるにはどうすればよいか?」が、この時期の両親の大きな関心事です。そして、この関心の高さは、時には専門家との意見の衝突に発展する場合もあります。ステージ1の段階では、通所先やどんなサービスを受けるかについて専門家と意見が合わなかったり、専門家のアドバイスの一貫性のなさに憤りを感じることはありましたが、この時期では「どんな方法でかかわることが子どもの成長に結びつくか?」といった指導方法について、親の考えと専門家とで考え方が食い違う場合があるようです。両親は、子どもに対して積極的にかかわり、さまざまな情報収集を行うと、自分の子どもあるいは発達障害全般について精通した専門家が少ないことに憤りを感じるのもこの頃です。

兄弟の対応に対して、現実の問題として悩み始めるのもこの頃です。同じ学校に通学することでの兄弟の負担をどう考えればよいのか、兄弟には障害についてどのように説明すればよいのか、障害のある子の能力を最大限伸ばす努力は兄弟に犠牲を強いないだろうか、などといった新たな心配事が生まれてきます。

家族の対処

1.専門家と協力関係を築く

家族が子どもの能力を伸ばす試みを積極的に行うと、当然、専門家(特に教師)に対しての期待や要望も高くなってくる。そして、この要望の高さが、時には失望や衝突を生み出す。まず最初に、専門家と付き合う際に知っておくべきことは次の通りです。

発達障害児についての知識や経験そして一人ひとりの状態に合わせて適切なプログラムや家族の相談にのれる専門家は確かに理想です。しかし、このようなスーパーマンを現実の世界ですべての専門家に求めるのは、残念ながら不可能です。家族は、専門家の限界を理解しつつ、協力関係を保ち、時には専門家を育てる、あるいはより信頼できる専門家や専門情報にアクセスする努力も必要になります。

2.一般の目に打ち克つ信念あるいは慣れ

家族は、この時期から、普段子どもと接する、障害のある子についての正確な知識を持ち合わせない一般の多くの人との接し方を学ぶ必要がある。障害のない同級生やその親、近所の人、通りすがりの人など、対処すべき対象はたくさんあります。対処の基本は、次の2点です。

とはいっても、これだけでなかなか自分の感情をコントロールするのは難しいのも事実です。障害のある子の親のグループなどと情報交換をしたりリフレッシュできる仲間を大切にすることも重要な対処法です。

3.子どもの経験のチャンスを作る

障害のある子にとってもこの時期は、スポーツ、遊び、勉強など、有料・無料でさまざまな参加可能な資源が存在するようになってきました。子どもの体力や適応の力を無視することは良くありませんが、可能な限りこのような参加や経験の機会を与えることは重要です。

また、学校や家庭などで、一人ひとりにあった、個別のステップアップされる学習プログラムが計画され、それを実施することも重要になります。この広範囲なプログラムの中から、子どもが得意としていることと苦手としていることがわかってきます。

4.兄弟とのバランスを考える

障害のある子の兄弟に対するかかわり方は、まさに多様です。これも基本的な考え方としては、

また、常に兄弟仲よく一緒に過ごすことが良いといった思想に縛られる必要はありません。時には、休日に、障害のある子と兄弟とを両親が二手に分かれて過ごすなどといった、大胆な試みが有効な場合もあります。

サポーターの心得

1.多くの専門家がかかわることへの許容

ひとりの子どもにかかわる専門家の数が少なくなるこの時期では、専門家自身が、「自分ひとりでこの子の療育を支えている」と勘違いする傾向があります。医療や教育、福祉など、さまざまな専門領域の特徴と、一方でこのような専門化資源の調整を家族が行っているといった現状を、専門家自身がしっかりと認識する必要があります。そして、可能なら一歩進んで、専門家同士のより良い情報交換やあるいは情報共有の仕組みをどのように構築していくか検討できれば、こんなにすばらしいことはありません。

2.子どもの包括的な能力あるいは障害特性の評価

標準化された発達検査や知能検査、その他各種のフォーマル・アセスメント方法の結果とそれが意味する事柄についての知識を専門家はもつ必要があります。もちろん、それぞれのアセスメント方法の限界性についての知識も重要です。

フォーマルなアセスメントだけではなく、日常生活の過ごし方の観察や家族からのインタビューといった方法から、実態に沿った状況把握を重視することも忘れてはいけません。フォーマルなアセスメントは、非常に限られた環境における子どものパフォーマンスを評価するだけのものです。現実の生活は、周囲のさまざまな環境要因(家族構成、居住環境、経済状況、家族の療育に対する考え方、活用できる社会資源など)が影響しているものです。実際に発達障害児あるいはその家族の支援を行う上には、このようなインフォーマルな情報は非常に重要なものです。周辺環境ならびにその相互作用関して適切に情報入手、整理し、普段の支援に役立てる知識は欠かすことはできません。

自閉症をはじめとする発達障害児の障害特性の理解に欠かすことができない視点として、「構造化」があります。歩行が困難な人にとっての車椅子のように、周囲の社会的なルールややりとりを理解することやコミュニケーションをとることが困難な人には、さまざまな構造化の手法が有効です。継続的な指導や訓練、あるいは日常生活を円滑に過ごすためなど、あらゆる場面で構造化のアイデアが必要になります。構造化の知識は、専門家にとって必須科目です。

3.子どもの状態像を家族と共有化する

包括的な障害に関する評価とさまざまな専門的視点は、当然、家族にも情報提供する必要があります。制限のない情報公開が原則になりますが、専門家は、自分の専門的視点からではなく、誰もが理解しやすいシンプルな表現で、なおかつ家族のニーズに沿った情報提供の方法を考える責任があります。

また、最近では、個別の療育あるいは教育プログラムを計画する段階から、家族をパートナーとする考え方が広がりつつあります。従来の「親指導」という名前のもと、先生と生徒の関係をとるのではなく、明らかに対等な関係が強調されています。この流れは、急速に広がってきています。対等な関係で積極的にコミュニケーションすることこそが、子どもの状態像を家族と専門家とで共有する唯一の方法に違いありません。


ステージ3:将来を見据えた指導の時期

この時期のトピックス

思春期を迎え、急激に大人の身体に変化するのがこの時期です。大きなイベントとしては、中学への進学がある程度で、家族は比較的長いスパンで、ゆっくりと将来について考える時間があります。

発達障害のある子どもを成人まで育てた親の多くは、この思春期を迎える時期を「最初のターニングポイント」と表現しています。「障害の受容」ということばで表現される、子どもの障害特性の総合的な理解と納得が、実感できるのがこの時期なのかもしれません。障害のある子を育てる親の立場を、論理的かつ明確に主張し始める両親もこの頃から急激に増えてきます。

家族の課題

【子どもの行動】

第二次成長期でもあるこの時期に、子どもの身体は日に日に大きくなっていきます。食欲も旺盛になる子が多く、これまでひどい偏食に悩んでいた子が気がついたら障害のない兄弟とかわらない程度の偏食に減ったという話をよく聞くのもこの時期です。逆に、食欲の旺盛さは、スリムな身体を太らせることにもつながります。またこの時期、女の子の場合は、生理に対する対応に苦慮する方もいます。

多くの場合、この時期になると家の中では非常に適応がよく、外でも以前のように頻繁にトラブルを繰り返すことはなくなってきます。また、これまでほとんどみられなかった、感情豊な表情や表現を見せて親を喜ばせたり、安堵させる子も少なくありません。限界はありながらも、慣れ親しんだ人とは良好な意思伝達が可能になってくる子も多くなります。

一方、少数ではありますが、比較的知的な障害が重い子の中で、これまで際立った問題行動もなく扱いやすかった子が、急に人の指示に拒否したり、攻撃的な行動を見せる場合もあります。扱いやすさゆえに、これまで周囲が、障害特性の正確な理解やそれに合わせた構造化された対応を取ってこなかった場合が多いようです。

【親の状況】

前のステージからこのステージに移る際が、多くの両親は精神的な「一区切り」「ターニングポイント」と振り返っています。障害がある子としての先の人生と親の役割について具体的に考え始める人がこの時期多くなります。

この考え方は、子どもに対する教育方針に大きな変化をもたらします。例えば、障害のない子のアカデミックな習熟度(算数や国語の学習単元)を追従することや、ごく一般的な方法でコミュニケーションがもてるようになることへの関心が次第に薄れてきます。逆に、将来役立つ生活方法あるいは今役立つ生活能力に興味が移ってきます。以前、とあるニュースペーパーに、このような意味の記事がのっていました。

同時に、障害特性あるいは一人ひとりの興味や関心の範囲が次第にはっきりとわかってきます。それにあわせて、子どもが得意とすることを生かす方法も、多くの両親は考え始めます。

家族の対処

1.身体の成長に合わせた親子関係や援助の方法を検討する

両親は、これまで保護や指導を通して愛情確認を行ってきていたはずです。これからは、次第に大人になっていくひとりの個人に成長していく時期なのです。しかし、障害のない子のように、自分から次第に親との距離をとり始める発達障害のある子は少ないのも事実です。親の方から、意図的に自尊心やプライバシーについて配慮した対応を考える必要があります。例えば、

2.大人になって役立つことを教えていく

これまで子どもに教えてきた内容は、多分、正常な子どもの発達段階を学者が整理した療育カテゴリー(認知・ことば・微細運動など)や学校の教科学習(国語・算数など)のカリキュラムを参考にしてきたはずです。このような学習の流れはまだ継続しますが、家庭ではいち早く、より実用的な学習を取り入れる必要があります。

具体的には、家庭では自分の身の回りのことだけでなく家族の一員としての役割をもってもらう(例:雨戸の開け閉め、お風呂の水入れ、簡単な調理など)、時計を手がかりに自分ひとりで日課をこなす、家族が家にいなくても過ごせる(数時間・あるいは昼の留守番など)、戸外の活動(通学、買物、散歩など)への挑戦などです。また、将来の就労へ向けて、ある程度の時間、周りからの指示や監視がなくても、ひとりで同じ活動を続ける(例:買物レシートをノートに1時間かけて貼る)といった職業前の取り組みも必要になります。

とにかく、今あるいは近い将来のために、現実の生活のどの場面でどのような活動が求められるかを想定した計画的指導が必要になってくるのがこの時期からです。

サポーターの心得

1.将来のライフスタイルを提案あるいは相談にのる

5年後、10年後のライフスタイルについて、家族と話し合う機会を専門家は持つようになります。中学あるいはその後の進学にはどういう選択肢があるのか、さらに先の卒業後の進路はなどです。この時期、多くは、卒業後の進路まで具体的な見通しが立つわけではありません。さまざまな人脈(同僚、同業者、卒業生の保護者など)あるいはその領域の専門知識をもつ組織や人に連絡をとることで、家族が抱える疑問や質問に、ある程度情報を整理して回答する必要があります。

2.実用的な指導カリキュラムの立案・支援

家族が大人になって役立つ指導に重点をおきはじめるのと同様、学校や専門機関でも、将来へ向けての連続性を意図した指導が重要になってきます。最近、教育現場でも「現実の生活を重視」「移行の視点を大切に」した個別教育計画が導入され始めています。「暮らす」「働く」「楽しむ」などといった生活重視の領域分けや、1日あるいは1週間単位の日課を見直したり、本人の自己決定あるいは親の要望をかなり取り入れたカリキュラムなど、これからの新しい特殊教育の流れです。情報収集と実践、そして何よりも一人一人の家族との連携をとることが求められます。


ステージ4:通所先確保の時期

この時期のトピックス

子どもは、中学から高校(養護学校中等部から高等部)そして社会人へと変化していきます。一番のイベントは,学校を卒業し,どこへ通うか決定することです。これは、「就学」と同じくらい家族にとって大きな選択になります。これまで、将来を見据えて地道に指導・支援してきた成人像が現実のものになるのです。

家族の課題

【子どもの行動】

身体は完全な大人です。本人にどのていど意思があるかは別に、性的な行動が気になりはじめます。家庭では非常にいい人、頼りになる人(兄弟よりトラブルが少ない)も多く、家庭でも外でも安定した生活が送れるようになっている場合が多いようです。日常生活上は問題は少なくなったが、就労による生活の糧を確保する能力と考えると新たな課題がたくさん出てきます。少数ながら、重度の障害をもつ人で、行動上の問題をコントロールできずに悩む家族がいるのも事実です。

【親の状況】

子どもの良好な適応に応じ、ケアや子育ての負担は少なくなります。両親が子どもに家庭で指導する内容は、実用性が発揮されるルーチン化されたものだけになる場合が多いようです(例:お風呂洗いは毎日行うなど)。この時期になると、両親は指導者の役割よりも、最良の代弁者・代理人の役割が大きくなります。進路に対して、学校の担任、進路担当者、福祉事務所のワーカー、職業センター、更生相談所、施設・企業担当者などさまざまな意見を聴く機会ができます。卒業後の生活が具体的に見えてくると、学齢時のサービスとの格差に愕然とする場合もあります。

家族の対処

1.より社会化された課題への挑戦

地域資源の活用方法、経済的な収入と消費の方法、リフレッシュや生きがいとなるレジャーの確立など、生活を豊かにする活動へ向けての援助は、継続する必要があります。特に、心にうるおいをもたらすレジャーについては、子どもの特性あるいは自閉症の障害特性にマッチしたものを、子どもと一緒に探していくことは大切になります。以下のリストは、多くの自閉症の成人が好みとするレジャーのリストです。もちろん、これ以外にも、好みとするレジャーのレパートリーします。

旅行 ひとりで小旅行、家族で旅行など 旅行者にパック旅行予約など
スポーツ 水泳、スキー、サイクリング、ボーリング、フィットネスなど
スポーツ観戦 比較的どんな競技でも(特に得点・データがデジタル表示されるもの)
メディア TV、新聞、雑誌、映画、CD、比較的ミーハー情報を好む人多い
ビデオゲーム 各種ゲームソフト
収集 写真、パンフレット、ちらしなど
オタク系 天候(天気予報)、アナウンサー、空き缶(商品ラベル)など
会合 青年学級、ボランティアグループなど

2.通所先の決定

1) 通所先の概要

この時期の最も大きなイベント、それが卒業後の通所先の決定です。自宅から学校の代わりにどこかへ通うか、大きく以下の4つの選択肢が存在します。

a 進学・訓練校(大学、各種専門学校、職業訓練校)
b 一般雇用(雇用契約を結び普通の事業所で仕事をする)
c 福祉的就労(福祉工場、授産施設、小規模作業所)
d デイサービス(更生施設、デイサービスセンター)


aを選択した場合は、再度、b〜cの3つのどれかを選択する時期が来るため、以下、解説から省きます。

「一般雇用」は、障害のない人が働くことと同様のことです。ただし、最近では、就労支援を行う専門家が職場で定着の指導を行ったり、事業所を定期的の訪問し問題解決を行ってくれるなどといった制度・資源ができつつあります。全国の養護学校高等部からは、約3割の人が、この一般雇用を選択しています。

卒業後の通所先として、特に都市部でかなり大きな割合を占めるようになってきたの「福祉的就労」です。やさしくいうなら、「障害の状態に合わせた働く福祉施設等」ということです。現在の社会福祉の法律に則った、福祉工場(平成11年現在で全国に29箇所)と授産施設(平成10年度で通所・入所あわせての授産施設は993個所)、それ以外の小規模の作業所(地域作業所、共同作業所などさまざまな呼び名が使われている)に分けられます。働く場である以上、当然、何らかの労働収入が得られます。知的障害者全体の約半数が、この福祉的な働く場所を選択しています。

一方、働くことよりも、日中のさまざまな生活の指導や楽しみの場を提供することを目的とした福祉施設をここでは「デイサービス」と呼びます。法律に則った更生施設(平成11年現在で通所・入所あわせての更生施設は1,515個所)や自治体独自に展開しているデイサービスセンター(呼び名はさまざま)がこれにあたります。多くは、働くことを主目的にしないため、労働収入は得られないか、非常に定額である場合が一般的です。

なお、地域の福祉的就労ならびにデイサービス機関についての情報は、最寄の福祉事務所ならびに役所の障害福祉担当窓口に問い合わせれば入手可能です。

2) 収入からみた通所先

実は、この「一般雇用」「福祉的就労」「デイサービス」といった分類方法では、ライフスタイルの昼の部を実態に即して表すことはできません。例えば、「一般雇用といっても、スーパーで週に3日間、3時間程度品出しの仕事を知る程度の就労の場合、それ以外の時間はどうするのか?」「作業室に毎日6時間通っているが、仕事が全くなく、収入もほとんどゼロの場合も就労といえるのか?」などといった事例は少なくないのです。

より、実態に近く、そして誰でもが簡単に分けられる方法として、一月あたりの労働収入(賃金・工賃)による分類法を次に紹介いたします。

10万円以上
  一般雇用で、正社員あるいはそれに準じた処遇を受けていれば最低でも月収は10万円を越すことになる。この金額は、ほとんどが一般雇用でしか実現しない数字であり、月収20万円を超える高収入の人も少ないながらいる。ただし、このグループは、現在就いている仕事については、障害をもたない労働者と同等の労働力が求められることになる。
5万円〜10万円
  一般雇用の場合、雇用形態がパートタイム雇用であったり(例:週25時間)、時には最低賃金除外の制度を適用するなどで、月あたりの賃金が10万円未満となる場合がある。福祉的就労でも、福祉工場や高付加価値の作業を行っている授産施設でも5万円以上の工賃を得ている人はいる。つまり、このグループは、月10万円以上と基本的には同程度の労働力が求められるが、労働時間が若干短かったり、福祉の専門家が身近にいる保護的で働いているかどちらかである。
2万円〜5万円
  一般雇用でも、週労働時間が20時間をはるかに下回る場合など、特別な条件で雇用されている場合は、月収5万円を下回ることになる。一方、下請受注や何らかの自主製品を生産している授産施設や作業所においても、仕事が絶えることなく潤沢にある場合は、2万円の工賃を超える。このグループは、一般雇用の場合、職場以外の通い先の調整が必要となり、一方福祉的就労の場に通う人の場合、そこではほぼ1日仕事を行っていることになる。
8千円〜2万円
  授産施設の多くや仕事の確保がうまく行っている小規模作業所では、この範囲の工賃が一般的である。通所中のプログラムに、働くこと以外のレクレーション的な行事や健康増進などといった日常生活の支援活動が含まれている場合が多い。
8千円未満
  小規模作業所や一部の授産施設など、仕事の受注や営業がうまく機能しない所、逆に当初から仕事より日常生活全般の指導をメインに運営している福祉的就労の場では、月の工賃が8千円にも満たない場合がある。更生施設などのデイサービス機関では、労働収入を期待するのは難しい。このグループの日中プログラムは、日常生活全般の支援の中に仕事が含まれるといったスタンスになる。

このように収入で大まかに通い先を分類することで、労働時間と求められる生産性がはっきりとわかります。

地域の通所先についての情報収集と同時に、子どもの能力についても正確に把握することが望まれます。これまでの子どもの評価は、家庭や学校でどのように成長してきたかといった視点でが中心です。しかし、これからは学校を出た社会で、「一人の大人としてどうか?」といった視点が重視されます。特に、就労を選択肢に加えた場合、家庭や学校での評価と社会での評価の違いが大きい点を認識しておく必要があります。可能な限り正確な情報を収集するには、実際の働く場での実習、地域職業センターなどの職業評価結果など、新たな資源の活用が必要となってきます。

サポーターの心得

この時期のサポーターは、以下の2点が重要な役割になります。

また、一般就労を検討しているケースでは、「本人の能力と仕事のマッチング」や「職場の雰囲気」といった視点だけでなく、「賃金や労働条件が労働力を適切に評価されたものかどうか」「長期的な職場の変化を見通してのものか」などといった、労働問題についての視点ならびに権利擁護の視点ももちあわせる必要がある。


ステージ5:安定した通所先の調整時期

この時期のトピックス

卒業後、福祉的就労やデイサービス機関に通い始めた人は、短時間のうちにそこで適応する場合が多いようです。逆に言うと、このような通い先は、日課が非常にシンプルで単調であるのも事実です。この単調な日課は、肥満など健康管理上の問題を含む危険もあります。また、これまでのように進学・進級・クラス替えなどといった一定期間に決まって起こる変化が、成人施設では少ないのです。

一方、一般雇用を選択した場合、事業所は非常に短いサイクルでさまざまな変化が起きます。仕事の内容や部所の変化、同僚や上司の配置換えや入退職など、むしろ変化が日常的な環境です。変化への適応方法を学ぶ必要が生じてきます。

20歳を過ぎた時点で、療育手帳保持者の多くは、障害基礎年金の取得が可能になります。この取得により、本人名義のかなり高額な貯蓄が可能となります。

家族の課題

【子どもの行動】

一般雇用の職場では、対等な一社員としての能力が求められます。最近では、自閉症をはじめとする知的障害者の雇用について障害特性を配慮した人事管理を行っている所も増えてきました。このような職場では、仕事を教える方法や安全管理など、ステップを踏んだ社員教育を行っています。職場で早期の離職の危機を迎える原因は、一般的に次の3点です。

  1. 体力的にきつい:早朝から夕方までの長い時間働きづめ、一日中立ちっぱなしなど、実習期間など終わりのある通所では耐えられたが、実際に就労するとこれがかなり苦痛になる人が出てくる。

  2. 注意・叱られることになれていない:仕事上のミスで損失を出したり安全確認を怠るなどに対しては、上司・同僚は他の障害のない社員と同様に厳しく、注意し叱責することが多い。特殊教育をある程度受けてきた、中軽度の知的な障害をもつ人は、このように一人前として責任が求められる注意・叱責に慣れておらず、就労継続への自信をなくす場合が多い。

  3. 能力以上の評価を得る:そして、意外と多いのが、本人の能力以上の仕事が与えられてしまうことである。特に、上司は、就労した当初それほど期待していなかったのに、勤勉にそして確実に仕事を覚えてくれるため、他の社員と同じテンポで新たな職務、新たな責任を与える場合がある。これが本人には非常に負担になる。

一方、福祉的就労やデイサービスでは、養護学校などと同様、障害について理解ある職員が周囲に存在します。ただし、その職員数は、養護学校のようにたくさん存在するわけではありません。そして、その職員は、一般に、指導や訓練などのプレッシャーを教師ほどかけることはしません。多くは、非常に安定した生活を送り、親の子育てに費やす負担はかなり少なくなる場合が多いようです。

福祉的な場での単調な日課、比較的変化の少ないプログラムは、多くの自閉症の人にとって安定をもたらす一方、区切りのない、目的が不明確な生活を送ることにもなります。自閉症の人の多くは確かに急激な変化を苦手とします。しかし、どのような活動もいつかは飽きがきます。「自分の些細な感情の変化をうまく察知できない」あるいは「感情をうまく人に伝えられない」といった障害特性は、「ある日突然、これまで普通にこなしていた活動を行わなくなる」といった急激な行動変化で、周りに混乱を招く場合もあるのです。

健康面では、肥満や高血圧など、生活習慣病の心配が早目に出てくる人もいます。また、少数ながら、てんかん発作や精神化症状など、これまで経験したことのない医療管理を必要とする人もいます。

【親の状況】

通所先と正反対に、この頃、家庭では大きな変化が起きはじめます。例えば、兄弟の結婚・独立、主生計者の定年退職、祖父母の介護などです。

また、両親が、通所先ならびに地域活動の運営にかかわったり、その支援を行う場合も少なくありません。特に、通所先で家族が頻繁に指導・援助を行う環境では、学齢時より子どもの一緒にいる時間が増えることになります。年齢相応の親子のかかわり方を意識した、生活の組立を検討する必要があります。

一般に、学齢時あるいはその卒業前後の時期と比較し、両親は子どもの支援やサービス調整などについて専門家に相談する機会が極端に少なくなります。また、これまでと同じく、通所先の職員や福祉事務所のケースワーカーなど、福祉専門職のスタッフが自閉症の障害特性を理解したり、その知識がないために、憤りを感じることがあります。

一般就労している人の家族の中には、何度か離職の危機あるいは実際に転職を経験した人もいるはずです。職場に出向いたり、就労支援機関の専門スタッフの相談調整を受けたりなど、子ども同様、親にも精神的な負担がかかる場合があります。

家族の対処

1.相談をもち込む場所と人の確保

「サービス提供」と「サービス調整」という2つの福祉専門機関あるいは専門家がいることを覚えておく必要があります。サービス提供とは、通所先で支援・指導を行ってくれる機関やスタッフ、休日の青年学級やそれを支援するスタッフなどを言い、子どもに直接何らかのサービスを提供してくれる機関や専門家のことです。サービス調整とは、活用しているさまざまな資源・サービスが「子どもにとって本当にフィットしているか」について助言や再調整の手助けをすることです。現在、サービス調整の多くは、最寄の福祉事務所等のソーシャル・ケースワーカーが行っています。今後、生活・就労支援センターなど、サービス調整窓口はしだいに増えてきます。昼の通い先やその他の福祉資源だけでなく、個人的な好みやレジャーの視点を加味しながら、定期的にサービス調整を行うことは欠かせません。

サービス調整の専門機関やスタッフがいない、あるいはなかなか家族の意図を汲み取ってくれないなどの場合は、本来は専門スタッフではないが、主治医や医療機関の相談員、親の会の仲間などのアドバイスを受けることで、家族が中心となりサービス調整を行うことになります。もし可能なら、サービス提供・調整機関の専門家が一堂に会して、家族と一緒に将来の方針を決定するミーティングを定期的に開催できれば、非常に効果的な「サービス調整」が可能になります。

2.医療機関の積極的な活用

大人になってからも、精神的あるいは身体的な健康管理のために、定期的に医療機関を活用することは大切です。障害をもたない成人のように、自分の身体あるいは精神状態の微妙な変化を察知して、自ら積極的にダイエットをしたり、リフレッシュすることを自閉症に人に求めるのは困難です。同居している家族の慎重な観察と予防的な意味からも定期的な検診あるいは主事医のチェックが必要になってきます。

3.ショートステイ・体験入居の活用

少ないながら、通所先でうまく適応できない、家庭で問題行動がうまくコントロールできないなど、家族が大きな負担を抱えているケースもあります。当然、専門家を活用しながら、計画的に改善へ向けて地道な対応が必要です。しかし、家族のリフレッシュという視点も忘れてはいけません。多くの地域で、入所施設や病院を活用して、知的障害者のためのショートステイや緊急一時入所のサービスを行っています。

また、将来の自立へ向けて、長く慣れ親しんだ家庭から一定期間はなれる経験をもつことも重要です。家庭を出て行く兄弟や自立生活へ向けて歩みだした先輩の様子を見たり、その話を聞くだけで、自ら自立生活を計画する自閉症の人は少ないのです。どのような場所で、誰と一緒に(あるいは一人で)、どのような方法で生活するのか、その選択肢を実際に自分で体験するこが、自立生活の第一歩になります。グループホームや通勤寮、その他自立生活の訓練施設の利用は、この時期の大切な挑戦です。

サポーターの心得

この時期のサポーターには、以下の2つが重要な役割になります。

通所先を含め、地域生活をおくる上でのバリエーションはたくさんあります。卒業時にいったん選択した生活スタイルが唯一のものではありません。成長や適応の度合いにあわせて、ステップアップしたり、時には無理せずにペースダウンの生活を選びなおす必要があります。そして、これまで両親の経済的支援を前提としてライフスタイルから、次第に独立採算がとれる方法を考える時期なのです。

これまで家族が大部分をになってきた、サービス調整についても、少しずつ専門家が手助けできることを家族に知ってもらう時期です。


ステージ6:生活場所の調整時期

この時期のトピックス

この時期、多くの両親は定年退職をし、第2の人生を歩み始めています。親自身の高齢者としての生活スタイルを考えなくてはいけない時期です。特に、両親のどちらかが病気にかかると、この問題は非常に切実になります。

しかし、多くの自閉症の人は、家族が少なくなった静かな、そして長年親しんできた、生活リズムが変ることのない家庭での生活を非常に楽しんでいます。どこで生活するかが、まさにこの時期の大きなテーマです。

家族の課題

【子どもの行動】

子どもの課題は、前の時期と基本的には変わりません。生活習慣病を中心とした健康面で心配な人がより増えてきます。就労している人にとっても、転職や離職の経験がある人がさらに増えてきます。多くは、昼の通い先でも家庭でも安定して生活しています。中には、家庭における家事労働(食事・洗濯・掃除など)の貴重な戦力に育っている人もいるはずです。当初は、自立に向けて、生活能力の向上を目指して親が積極的に指導し始めたこの家事労働は、この頃には、それなしで家庭が機能しなくなる程に成長してしまっている場合があります。また、これまで障害基礎年金を貯蓄してきた人は、かなりの額がになっているはずです。

【親の状況】

両親が子どもの支援に積極的にかかわれる最後の時期です。さらに高齢になると、身体的にも精神的にも、子どもの支援のために変化を求めることは困難になってきます。逆に、自閉症の子どもにかなり依存した生活を送っている場合もあります。

両親にとって不安なことは、「現在の生活をあと何年続けられるか?」です。そして、「家を離れて生活する方法はあるのか?」を現実の課題として考えることになります。

家族の対処

1.夜間の生活場所

昼の通い先から帰宅する、生活の場所の選択がこの時期の大きなテーマです。有期限で生活訓練等を目的とする施設(通勤寮など)を除くと、一般に、次の4つが夜間の生活場所です。

1) 家族と同居

今までと同じ生活スタイルです。一般に経済的な費用が最も低く、急激な変化も少なく、自閉症の成人にとって安定した生活が期待できる環境です。しかし、親の自立度はしだいに低下してくきます。次のような場面を想定してみましょう。

家族と同居をさらに継続する際には、さまざまな条件を整備する必要があります。

2) 単身(結婚)生活

兄弟と同じように、親元から独立し、単身または新たな家族と生活する場合です。知的障害をもつ人で、完全に独立して生活している人はまだ少ないのが現状です。しかし、今後、ホームヘルパーの利用など、在宅福祉サービスの制度の拡大すると、この選択肢が増える可能性があります。さらに、一部では、入所施設やグループホームなどの支援を受けて単身生活を行っている事例が出てきました。

3) グループホーム

グループホームは、ごく一般的な規模の住宅、あるいは集合住宅を活用し、障害のある人が共同生活するところです。そして、共同生活する人数は比較的小さく(4人程度から)、この生活を支援する専属の世話人が存在し、ホームの運営に何らかの公的な助成制度を活用しています。

少人数といえども、共同生活を行う上でのルールは存在します。また、世話人の援助方針がホームの生活スタイルを決定してしまいます。自閉症の人にとって、ひとりひとりの個性がルールの許容範囲内に収まるか、または援助方針は障害特性に配慮されたものかが大きな課題になります。

4) 入居施設

知的障害者の入居できる施設は、ほとんどが公的な福祉制度に位置づいたものです。例えば高齢者施設のように、頭金を数千万、毎月の経費30万程度支払う任意契約の入居施設を探そうとしても、現実にはなかなか見つかりません。福祉事務所等の窓口に申し込み(待機リスト登録)、入所の審査ならびに措置の決定を待つのが、ほぼ唯一の施設入居の手順になります。

入居施設は、そこでの居住者が多いため、グループホームより共同生活のためのルールが厳格であるのが一般的です。しかし、援助する職員は障害についての理解と対応の訓練を受けています。

この4つ以外にも、将来的には欧米のように「援助つき単身(自立)生活」といった選択肢が加わるかもしれません。また、夜間の生活場所の選定には、経済的な基盤や本人の希望、実際に必要となる援助(介護)の量、週末や夏季・冬季休暇の帰宅の有無、実家との距離などといった要因を検討する必要があります。次には、家族がまず最初に考える必要がある経済的な基盤についてふれます。

2.経済的なプラン

夜間の生活場所を移ろうとする際には、私たちが新たに住宅を購入する時と同様、「初期費用」と「月々(年単位)の収支バランス」を考える必要があります。ごく少数の比較的高収入を得て働いている人を除くと、多くの自閉症の人は、長期間あるいは多額の借入・返済計画がたてられるほどの経済基盤をもっていません。また、仕事のキャリアアップに伴い労働収入が増加する人もかなり少数になります。夜間の生活場所を検討し始めた、その時点での収支を基本に、とりあえず5年あるいは10年単位の経済的なプランを立てていきます。

1) 初期費用

単身生活を行う場合には、住宅の購入費、あるいは賃貸契約に必要な費用が生じてきます。それ以外は、引越し等にかかる費用程度が一般的です。住宅の購入以外は、家族と同居していて、家族が何らかの経済的な支援を行える状況であれば、それ程大きい問題にはなりません。しかし、家族の経済的な支援が既に難しい状況で、なおかつ本人が単身生活を希望する場合など、この若干の初期費用の捻出が大きな課題になる場合もあります。

2) 収支のバランス

月々の支出については、単身生活をする場所、あるいはグループホームの運営方針、さらには本人の望むライフスタイルによって様々です。収入についても同様です。働いている場所や労働条件により収入は大きく異なりますし、公的な年金や手当の有無、あるいは家族が援助している金額もまさに様々です。

ここでは、話を具体的にわかりやすくするために、いくつかのモデル事例を便宜的に紹介します。特に、「家族と同居」「単身生活」「グループホーム」の3つの形態が比較できるように作成しました。措置制度を使っての「入居施設」については、基本的には個人の嗜好品(あるいは嗜好活動)以外に自分のお金を使う必要は無いため、今回のモデルには加えてありません。

【嘱託職員として働き、単身生活しているAさん】

収入

賃金

基礎年金       合計
100,000円 67,000円       167,000円

支出

家賃 食費 光熱水費等 雑費 貯蓄等 合計
50,000円 35,000円 15,000円 30,000円 37,000円 167,000円

転職を何度か続け、40歳を過ぎた現在の体力にあった仕事を嘱託身分で行っているAさんは、月平均10万円の賃金を得ています。障害基礎年金の2級(平成12年4月時点で正式には年額804,200円)とあわせて167,000円が月の全収入です。ただし、基礎年金が受給される銀行口座は兄弟が管理しており、賃金だけで不足する生活費を随時兄弟がAさんに渡しています。毎月だいたい3万7千円程度が貯蓄ならびに予備費として活用できます。

【正規職員として働き、両親と同居しているBさん】

収入

賃金

基礎年金       合計
123,000円 67,000円       190,000円

支出

家賃 食費 光熱水費等 雑費 貯蓄等 合計
0円 40,000円 0円 40,000円 110,000円 190,000円

学校を卒業してから就職してから9年以上たつBさんは、そろそろ1千万円程度の貯蓄があります。卒業してしばらくは、賃金(105,000円程度)から家族に4万円支払、3万5千円程度のこづかいを使った残りの3万円程度を貯蓄に回していましたが。20歳以降、障害基礎年金の申請手続き後、現在のように月10万以上の貯蓄が可能となりました。決して少ない貯蓄ではないものの、今後の仕事の安定性や、家庭を出た後に必要となる金額など、両親はこの1千万という額は十分だとは考えていません。

【パート雇用で働き、グループホームで生活しているCさん】

収入

賃金

基礎年金       合計
60,000円 67,000円       127,000円

支出

家賃 食費 光熱水費等 雑費 貯蓄等 合計
32,000円 35,000円 15,000円 30,000円 15,000円 127,000円

最低賃金の除外ならびに週30時間程度の労働時間で、比較的軽易な仕事をしているCさんは、堅実な生活を送っています。Cさんが生活しているグループホームでは、家賃と食費(2食分)そして光熱費を加えると、ちょうど基礎年金でまかなえる運営を行っています。Cさんは、昼食代、電話代、レジャーや交通費分の賃金があれば十分生活が成り立ちます。現在の月6万の賃金は、十分すぎる額で、若干の貯蓄も可能です。ただし、ここには現れていませんが、週末に必ず自宅に戻っており、そのときの食費や光熱費等は、すべて両親が負担しています。

【授産施設で比較的高額の工賃を得てグループホームで生活しているDさん】

収入

賃金

基礎年金 親の援助     合計
30,000円 67,000円 48,000円     145,000円

支出

家賃 食費 光熱水費等 雑費 貯蓄等 合計
40,000円 35,000円 20,000円 50,000円 0円 145,000円

授産施設でよく働くDさんは、消費意欲が旺盛です。基礎年金と賃金(工賃)をあわせた額が、居住性の良いグループホーム費用にほぼ相当しているにもかかわらず、携帯電話の使用料や週末に出かける小旅行で使う費用などで、毎月親から5万円近くの援助を受けています。

【作業所で働き両親と同居しているEさん】

収入

賃金

基礎年金       合計
5,000円 84,000円       89,000円

支出

家賃 食費 光熱水費等 雑費 貯蓄等 合計
0円 0円 0円 20,000円 69,000円 89,000円

作業所に毎日通い、毎月5千円程度の賃金(工賃)を得ているEさんは、1級の障害基礎年金の受給を受けています(平成12年4月時点で正式には年額1,005,300円)。家庭に特にお金を入れているわけではありませんし、毎日ソフトドリンクを飲む程度のこづかいしか使わないため、貯蓄に毎月7万円弱を回しています。現在の生活の質をそれほど変えずに、さらに両親の援助がそれほど増えなくても、計算上はCさんのようなグループホーム生活が可能です。

サポーターの心得

この時期になると、サービス調整のかなりの部分が家族から専門家・支援者に移行してきます。ただし、本人の判断を超える金銭的な課題、利用サービスの変更など、まだまだ家族の最終判断が必要なものはたくさんあります。専門家・支援者の中には、家族の意見と本人の意見との食い違いの調整に苦労する場合も少なくありません。個別の問題でも、微妙なバランスや調整力が求められます。


ステージ7:権利擁護の譲渡時期

この時期のトピックス

すでに日中だけでなく夜間も家庭外のサービスを利用して場合でも、両親が本人の権利擁護の中心的存在であることには変わりありません。誰もが、高齢になれば何らかの介護を必要としたり、精神的な判断力が低下するものです。この事実が変えられない以上、自閉症の人の権利擁護を中心として行うキーパーソンを、いつから、誰に、どのように譲渡するかが課題になります。

家族の課題

【子どもの行動】

30歳台後半からは、生活習慣病を含めた健康面で心配な人はさらに増えますし、体力的な衰えに合わせて、就労先の変更ならびに早期のリタイアメント(一般雇用をあきらめ福祉的な就労の場に移る)を行う人も出てくる。

【親の状況】

この時期になると、親がひとりだけになったり、兄弟との付き合いが疎遠になったりなど、自閉症の人にとって長い間慣れ親しんできた従来の家族の形態が次第に無くなっていきます。親自身も介護の対象者になるなど、子どもに対して、間接的な支援すら行えなくなる時期が必ず間近にやってきます。

家族の対処

子どもに対する直接的な支援が少なくなっても、両親が責任をもつ範囲はまだまだたくさん存在します。具体的な例を次にあげます。

保護者会参加
  保護者会の出席直接サービス機関との連絡調整サービス利用の苦情を訴えるなど
サービス調整
  新たな資源やサービスの調査検討サービス調整の専門家との連絡調整新たな資源やサービスの利用決定など
金銭的な管理ならびに援助
  経済的な支援日常生活やサービス機関への費用振込み手続きや金額の確認経済的な生活設計と金銭管理の指導など
一時帰宅・リフレッシュ
  週末や休日の一時帰宅家族そろってのリフレッシュの機会など
その他
  長期的なライフスタイルを考える事故や事件に巻きもまれたときの対応(危機管理)財産の活用方法など

このような間接的な援助も両親は次第に行えなくなってきます。財産や日常の金銭管理を代行してくれる機関の活用、時には成人後見人制度の利用を検討する必要が出てくるかもしれません。さらに、平成12年度より高齢者福祉の一環として導入された、ケアマネージャー(サービス調整や計画の専門家)に相当する人材の選定が必要となるかもしれません。もちろん、兄弟世帯を含めた、親族に引き継げるものも検討することになります。

サポーターの心得

1.役割と責任の分担を明確に説明する

 

(志賀 利一)


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