余暇支援のための発達モデル

とある本の原稿を書いたときに思いついたものです。内容については、
元の原稿に手が加わっていますので、丁寧だと思います。ただし、
発達モデルの表は、その前の文章をよく読んでから利用してください。


使用上のご注意

知的障害のある人の余暇支援あるいは余暇の指導の重要性が叫ばれるようになってきました。ただし、現状は、高齢者施設等のレクリェーションプログラムや乳幼児教育・保育の指導カリキュラムの導入が余暇のプログラムであると考えている場合も少なくありません。また、行事やグループ単位のお楽しみ会を開催することが余暇支援であると勘違いされていることもあります。「余暇の支援とは、一人ひとりの楽しみや好みにあわせた、まさに個別の対応が必要だ!」と発言する人が増えてきたのは、確かに心強いのですが...

余暇を支援するプログラムの質がなかなか高くならない理由としては、

  1. 余暇(レジャー)の概念ならびにその意義を理解できない
  2. 余暇活動の特性が理解できない
  3. 一人ひとりの障害特性が理解できない

以上の3つに集約されると考えられます。1.余暇の概念については、バブル時代頃から、豊かさを求める風潮に乗って、浸透してきています。特に、30歳台あるいはそれより若い世代にとっては、ごく自然に受け入れられる概念かもしれません。定義については、10年前シリーズ「障害者とレジャー」を差参照ください。

2.余暇活動の特性とは、「活動そのものがモチベーション」「楽しむためにはスキルの学習が必要」「学習だけでなくそれを実行する機会が必要」「とはいっても何をするかは本人が選べる」この4点を忘れてはいけません。特に、教育機関では、「活動そのものがモチベーション」「実行する機会」そして「選択機会」を忘れないように、逆に福祉施設等では、「学習が必要」という特性を忘れてはいけません。

そして、余暇を支援するプログラムには、3.障害特性を正しく理解する必要があります。以下には、この理解を助けるための便宜的なモデルを紹介します。このモデルは、精神的あるいは認知・対人スキルの発達モデルのように見えます。しかし、決して調査実験により基礎データを入手し、検討したものではありません。また、将来そうする意向も計画も興味も私にはありません。この発達モデルが「有効だ!」と直感した読者の方だけが、日常の余暇支援プログラムの作成段階で利用してください。

発達段階モデル

レベル1:ひとりで活動できるレパートリーの開拓
このレベルは、もっとも年齢が低い、あるいは認知的・社会的な発達障害の大きな人向けの支援です。ほとんどの場合、日常生活の大部分で援助者からの介助が必要で、一日のほとんどの時間に誰かが見守っていなくてはならないのが現状です。
ここでは、対象者の活動を周囲が便宜的に「職業」「身の回りの管理」そして「余暇」と分類することには、あまり大きな意味がありません。まず注目すべきは、直接援助者が監視しなくても過ごせる活動を見つけ、育てることです。その活動時間が、たとえ3分だけであっても、10分程度であってもかまいません。そして、これが周囲から職業に見える、紙作り作業の工程である牛乳パックの紙を手で破る活動であっても、余暇に見える、ベッドでCDを聴く活動であってもいいのです。
現在、彼らは、常に援助者の監視下にあり、日常生活のほとんどの活動で指示・注意・介助などの対人的なかかわりを受け入れなければいけない現状を忘れてはいけません。この段階では、自立の第一歩は、ひとりで安全に過ごせる時間を周囲がみつけることなのです。
レベル2:仕事や課題より休憩時間の過ごし方が難しい
次のレベルでは、決まったいくつかの活動を、ひとりで安全に、時にはかなり生産的にこなすことが可能になっています。学齢期などでは、授業中個別に提示された教材(パズルやシール貼りなど)を決まったゴールまで黙々とこなせたり、成人期では、自分の作業台にあるくり返しの組立作業を時間までこなせます。
しかし、休憩時間は何をするでもなく、部屋の中をぐるぐる回っているだけだったり、イスに座り時々奇声をあげるだけだったり、時には休憩すること無く作業を続けたりなど、余暇の時間にひとりで楽しめるレパートリーが無いのが現状です。またこのレベルでは、グループでのレクレーション活動は参加を拒否するか、ただその場にいるだけで、楽しむことができない場合がほとんどです。
前のレベルと違い、確かに、ひとりで一定時間活動できるようになっています。でも、そのレパートリーは非常に狭く、休憩時間など余暇活動に相当するレパートリーを最初に学習する人は少ないのです。知的に重い障害をもつ人にとって、職業や身の回りの管理に相当する活動より、余暇活動の習得の方が困難な課題になる場合が多いことを忘れてはいけません。余暇の性質に近い、本人が習得可能な活動を見つけ、個別のプログラムを立てた指導・支援が求められます。
レベル3:環境に合ったルールの学習
休日や休憩時間などに楽しめる余暇活動をいくつか習得している人がこのレベルです。しかし、周囲の状況に合せて余暇を楽しむことがうまくいかず、トラブルが生じることもしばしばであります。このレベルでは、自分が楽しめる余暇活動を「いつ始めていいか」「いつ終了しなくてはいけないか」、あるいは「ある場面で適切な活動を選択する」ことが課題になるのです。
たとえば、せっかく好きな雑誌があり、眺めるのが好きであっても、作業所の休憩時間にそれをカバンから出すことをしなかったり、空き缶の収集が好きで海外旅行の帰りに持ち帰ろうとする空き缶が20本以上たまってしまうなどがあります。
余暇の活動そのものより、どのような手がかりで開始・終了するか、特定の場面ではどのような活動がフィットし、逆にどのような活動が不向きなのかを、本人にわかるように伝えるなど、きめ細かな支援が必要になってきます。
レベル4:社会的な対人関係を良好に保つスキルの学習
余暇を一定の社会的なルールに沿って楽しめる人でも、単独の活動中心で、他者との相互交渉を含む余暇活動を享受できない人がいます。また逆に、人とのかかわりがある活動以外の余暇を楽しめず、ちょっとしたことがきっかけで喧嘩になったりグループにトラブルを生じさせてしまう人もいます。つまり、余暇の時間に、過剰に対人関係を求めるタイプとあまりにも対人活動を望まないタイプが、このレベルです。
対人関係のスキルが豊富に求められる余暇活動は多いものです。旅行を例にあげても、仲間と出かける場合は、「事前にどこへ何をしに出かけたいか?」をグループ間で意見調整する必要があります。さらに、旅行代理店で窓口担当者とさまざまな意見の調整を行ったり、仲間同士の日程調整を行ったり、旅行の持ち物を分担したりなど、対人間の行動は非常にたくさん存在します。前のレベルでは、誰に聞いても同じ答えが返ってくるマニュアルを作成することは可能です。しかし、ここで求められる対人関係スキルは、援助者・指導者との相互交渉ではないのです。ひとつのかかわりに対して帰ってくる反応は無数に存在するのです。逆にいうと、この不確実さが楽しめる必要があります。段階的な援助ステップを事前に計画したり、事後の自己評価と失敗したときのフォローなど、話し合い中心の計画的な支援プログラムが求められます。
レベル5:リフレッシュや生きがいとしてのレジャーを享受
社会的なルールや対人相互交渉などのスキルを学習することが、余暇の本来のゴールではありません。職業や身の回りの管理の活動と余暇活動のバランスを保ちながら、地域社会生活をロングタームで送ることが必要なのです。このバランスには、経済的な視点や健康上の問題、そして家族や公的支援などさまざまな要素が関係してきます。知的障害者に限らず、働き盛りのサラリーマンが休日に接待ゴルフが続き体調を崩す(職業に比重がかかり過ぎ)、舅の介護に24時間休める暇が無い主婦(身の回りの管理に比重がかかり過ぎ)など、余暇活動をリフレッシュとして享受できない人は多いのです。また、パチンコにのめり込み自己破産する人もいます(余暇に比重がかかり過ぎ)。
地域生活をしている知的障害者は、当然、誰もがこのようなバランスを崩すリスクを抱えています。このレベルでは、活動そのものに関係する指導や支援はほとんど必要ありません。ひとりひとりの生活の中の余暇といった視点からのアドバイスや相談が必要になります。
このレベルの援助でもっとも大切なことは、いかに軽易でも障害があることを忘れてはいけないと言うことです。たとえば、「仕事に就いたら、これまで続けていた釣りに行かなくなった」といって、積極的に以前と同じペースで釣りに出かけることを強要していいのでしょうか。「一生懸命働き、一生懸命遊ぶ」は確かに理想ですが、これは知的な障害の無い人にとっても難しいテーマなのです。ましてや、彼らは同時にいくつもの課題を抱えることを苦手にしているのです。人生は長いのです。長期的スパンでのライフスタイルをいっしょに考えましょう。

(しが としかず)


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