ハンディキャップをもつ子どもたちとキャンプ

1993年に、日本キャンプ協会が発行しているキャンプ情報に関する・
機関紙に掲載された小論文です。当時、朝日新聞厚生文化事業団
主催の自閉症キャンプに毎年参加おり、それをまとめました。


ハンディキャップをもつ子どもたちとは

ハンディキャップという言葉は、障害の所在が人ではなく、その人をとり囲む環境にある場合に使う。たとえば、足が不自由な方に対して「ハンディキャップをもつ」と表現したとする。この時、下肢の運動・生理的な機能の障害や、ひとりで移動できないといった能力の障害を指しているわけではない。「体形や運動特性に合った車椅子がない」「歩道の段差は車椅子による移動を妨げる」「地域に生活を支える十分なボランティアシステムがない」などの状態を言うものである。


キャンプの意図

今、私たちは、障害のあるなしにかかわらず、共に同じ社会で生きていく方向を模索している。自由時間に豊かさを求め、自然と共存する生き方を探るといった個人としての課題も、障害のあるなしにかかわらず大切なものである。キャンプはこの二つの課題に挑戦する具体的な選択肢である。多くのキャンプで障害をもつ人が参加できる場の確保が望まれている。ところが、キャンプのプログラムは障害をもつ人を考慮に入れて発展してきたわけではない。障害をもつ人がプログラムの一部にしか参加できない程度ならよいが、プログラム自体に興味や関心も全く持てないことも少なくない。さらに、プログラムが苦痛をもたらすこともある。プログラムというハンディキャップゆえにキャンプという素晴らしい活動を享受できなくてよいものであろうか。

キャンプにはもうひとつ大きな意図がある。それは、障害をもつ人の課題ではなく、彼らをケアする人(主に家族)のサポートである。残念ながら、今の社会では障害をもつ人を日々ケアしていくには、身体的・精神的に多くの負担を強いる。家族をケアから一時的に開放し、リフレッシュする機会を提供する方法が、最近検討されている。キャンプはこの休息ケアの意味から重要な役割を果たす。


自閉症とキャンプ

自閉症とは中枢神経系に何らかの損傷があると仮定される発達障害である。一般に、a.対人的相互反応の障害、b.言語あるいは非言語コミュニケーションや想像上の活動の障害、c.活動や興味へのレパートリーが限られている、といった症状の分類から自閉症症候群として診断される。最近、専門家の間でこの障害は、社会生活を送るうえで、システマティックで継続的なサポートをもっとも必要とする発達障害のひとつと考えられている。ごく日常的な生活においてもさまざまなトラブルに遭遇する彼らが、非日常的なキャンプを楽しむためには、私たちは多大な創意工夫を用意する必要がある。

サンサンキャンプ

朝日新聞厚生文化事業団は、「朝日臨海キャンプ」の一環として、1988年から自閉症(サンサン)キャンプを開催した。以前から、朝日臨海キャンプでは、障害をもつ子どもともたない子どもが一緒に、相互理解を深め、自立心や社会性を養うことを目的としたキャンプを続けていた。しかし、全体あるいは小グループにしろ、一斉プログラムに全く参加できない自閉症の子が多数出てくる現状は、「キャンプ運営の既成概念を崩して、これまで全く参加できない自閉症の子一人ひとりが楽しめるキャンプを作れないものか」というテーマを生みだした。これが、サンサンキャンプスタート時から、キャンプリーダー、キャンプ長、そしてスーパーバイザーとして参加してきた著者の共通した目標である。

自閉症の特性とキャンプでの問題

サンサンキャンプで出会った問題とそれを予防する対策を表1にまとめる。自閉症という一つの名前をつけられていても、一人ひとりの個性は非常に大きい。また、その個性も専門的知識と豊富な経験がないと、理解できない場合が多い。キャンプという短期間のつきあいで、キャンプリーダーがその個性をつかむことは至難の業である。この個性とプログラムについて、キャンプリーダー、キャンプ長、スーパーバイザーが随時ミーティングをおこなう場を設定、そしてそのミーティングの進め方がキャンプ成功の大きな鍵となる。表1にまとめた対策は、過去5年間のミーティングで話し合われた問題を自閉症の一般的な特性に対応させ、まとめたものである。

表1 自閉症キャンプにおける問題対策

 

(キャンプの問題)

(対策)
話し言葉を使った人とのコミュニケーションが苦手
  指示が入らない 言葉以外の指示の方法を考える(例;海へ出かけるときは浮き輪を手渡す)
  体調の不調を訴えられない 不調時の様子を家族から綿密に情報入手:看護婦との連携
雑多な環境から適切な情報を自分から探すことが苦手
  まわりの雰囲気から今何をすべきか判断できない 個別の指示(わかる方法で)を忘れずに提示する
  プログラムに一連の流れを覚えられない 一連の流れを視覚的な手がかりとして(絵や文字を使う)提示する
混乱しやすく気が散りやすい
  ひとつのプログラムに参加できる時間が短い プログラムの長さを許容できる時間に変更する(個別のプログラム作成)
  複雑な行動の流れが要求される課題に興味を示さない 単純な行動の流れで完了する活動に修正したり援助の方法を検討する
衝動的でかり立てられるような行動が見られる
  服を着たまま海に飛び込む 散歩の道順を検討する:いつ海に入れるか本人にわかる方法で伝える
  突然人をたたいたり物を投げたりする たたいたり投げる対象を確定しリーダーが事前に阻止あるいは距離を置いた視野に入りづらい場所へ移動
般化させることに極端な問題をもつ
  場面が変わると同じことでもできなくなる リーダーがこの特性を理解する
  指示が入るリーダーと入らないリーダーができる 言葉に依存しない指示の方法を再検討する:リーダーの組み合わせ変更
不均衡な発達パターンを示す
  プログラムにより興味や参加の度合が著しく異なる とりあえず得意なプログラムを基本に全体のプログラムのバランスを組み立てる
常同行動が多く活動レパートリーが少ない
  休憩時間や室内では常に同じ常同行動を見せる 常同行動をやっていてもいい場所や時間を事前に決める
  参加できるプログラムが少ない 参加できるプログラムを短時間に決まったパターンでくり返す

 


おわりに

今回は、自閉症という個性の強い人向けのキャンプをどのように計画するか、一人ひとりのリーダーの対応を中心にまとめた。もちろん、自閉症という障害をもつすべての子どもが、ここに紹介したような問題をもち、そして特別な対処を必要とするわけではない。特別な配慮をまったく必要としなくても、キャンプのすべてのプログラムに参加し楽しめる子どももいる。しかし、話し言葉がなかったり、言葉による指示理解のレパートリーが非常に限られるタイプの自閉症にとっては、表にまとめた対処のいくつかを必ず必要とする。

ハンディキャップをもつ子どものキャンプを計画するには、個々のリーダーの対応以外にも準備すべき点はたくさんある。たとえば、一人ひとりの個人情報をどのように収集し管理するか、服薬の管理体制をどうするか、事前に保護者とどのように打ち合わせをもつかなどは非常に重要な準備である。単年度の課題だけではない。ハンディキャップをもつ子どもがよりスムーズにプログラム参加できた工夫の成果を、次年度以降に生かし、さらに発展させていく方法も検討する必要がある。

何らかの障害をもつ人のキャンプというと、これまでとかく、その障害の根本的治療といった神秘的で崇高な目標を掲げがちであった。この目標は、決して否定されるものではない。ところが、治療効果としての役割はなくても、充実した余暇を獲得する機会としてキャンプは大切な使命をもつ。なぜなら、自然が豊富な場所で、彼らは野外教育を楽しむことは可能なはずである。そして、歩道の段差をなくす努力と同等に、既存のプログラムに潜むハンディキャップを減らす努力が私たちに求められている。もしかすると、ハンディキャップをもつ子がキャンプで求めている活動や興味は、ハンディキャップをもたない子どものそれと全く違ったものなのかもしれない。しかし、この点について私たちはやっと課題を見つけた段階にすぎない。将来、両者に何らかの妥協点を見つけ、一緒に楽しめるキャンプが「ごく自然に」計画できる時代がくることを望んで、いろいろな試みを続けていきたい。

(志賀 利一)


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