知的障害者の就労支援(連載原稿)

日本てんかん協会東京都支部の会報誌「ともしび」に
2002年4月より1年間、表題のタイトルで原稿を書きました。
非常にシンプルなテーマをあげたつもりです。


4月号:障害者雇用実態調査

【ロクイチ調査】
厚生労働省は、毎年6月1日に障害者雇用の実体を調査しています。6月1日が指定日ですから、通称ロクイチ調査と呼ばれています。平成13年6月1日の調査結果が、数ヶ月前に発表になりました。「企業に雇用されている障害者は全従業員の1.49%。3年連続横這い。法定雇用率(1.8%)未達成企業が56%強と、雇用情勢悪化の中、障害者の雇用も厳しい状況にある」と新聞等で報道されています。

【どうして調査をするの】
私たちの国の障害者雇用は「障害者の雇用と促進等に関する法律」がエンジンとなり推進されてきました。この法律のキーになるのが、法定雇用率です。現在、民間企業で1.8%(公的機関で2.1%)の雇用率が定められています。つまり、従業員が1,000人いる企業では、18人の障害者を雇わなくてはならないのです。この障害者とは、障害者手帳を持つ身体障害者ならびに知的障害者が対象になります。精神保健福祉手帳のみをもつ方は、現在雇用率の対象にはなっていません(一部、助成金の対象にはなります)。
法定雇用率が1.8%ですから、従業員が56人いれば1人障害者を雇用する必要があります。そこで、毎年6月1日に、56人以上の常用雇用労働者がいる企業を対象に障害者雇用の実態の調査を行っているのです。そして、法定雇用率より雇用されている障害者数が少ない場合、一人当たり月5万円の納付金を支払うことになります。その納付金は国の特別予算として、障害者雇用促進の様々な事業に使われます。
現実の障害者雇用率に関しては、業種による除外率や重度障害者のカウント方法など、少し複雑な計算が必要です。ここでは概略だけの紹介とさせてもらいます。
さて、この雇用率調査で、実雇用率が3年続けて1.49%と横這いでした。経済状況が厳しく、多くの企業ではリストラ・職員削減を行っているといった背景が影響しているのは間違いありません。発表データを詳細に見てみると、従業員規模による雇用率の変化に大きな特徴がありました。それは、「100人未満の小さな規模の企業では、かなり急激に雇用率が低下している」「1,000人以上の大きな規模の企業では雇用率が年々上昇している」ということです。
従来、全体的に見ると、障害者雇用は規模の小さな企業が主役となり推進してきたのですが、ここ数年、その主役は大きな規模の企業に移行し始めているのです。
 


5月号:知的障害者の雇用状況概要

号では、毎年行われる障害者雇用率について簡単に紹介しました。今回からは、知的障害者の就労支援に話題を絞ります。
実は、知的障害者の正確な雇用率は、前回報告の調査では明らかになりません。なぜなら、かなりの数の知的障害者は、従業員規模56人未満の会社で働いているからです。普段、就労支援の仕事をしている私たちの実感からは、このより小さな規模の障害者雇用も、同様に厳しい環境になっていると想像されます。

【従来の典型的職場】
これまで知的障害者が働いている職場の大部分は、次のような4つの特徴を持っていると言われています。

1)家庭的な環境の職場
2)単純で反復した仕事が常時ある
3)仕事内容や周辺環境の変化が少ない
4)恩恵的な関わりを持つ雇用主の存在

知的障害者の特性からしても、このような職場が「向いている」と考えられていたのかも知れません。

【どんな手順で採用されたか】
このような職場で知的障害者が働くようになるには、就労支援担当者の努力が欠かせません。わかりやすい例で考えてみます。養護学校高等部の生徒が就職に至る過程で進路指導の先生(就労支援担当者)がどのような関わるかをシンプルに表すと...

・職場実習先を開拓(自前で開拓か紹介により)
・職場実習の実施
・企業主の雇用意欲の確認
・めでたく就職

となります。キーポイントはふたつです。一般に就職試験や書類選考ではなく、一定期間の「職場実習」を重視し、その期間の様子が採否に大きく影響することです。もう一つは、職場実習先には想定される一定量の決まった仕事が既に存在することです。つまり、より多くの人手が欲しい仕事があり、それを実習と称し知的障害者が手伝い、そして雇用主が「戦力と見込める」と判断した者を雇用していたのかもしれません。
この知的障害者の採用手順は、学校だけではありません。福祉施設や職業センター等においても、呼び名は異なるものの、ほぼ同様の手順が採用されています。

【時代は変わりつつある】
ところが、時代が変わってきました。小さな規模の企業では、障害者雇用が進まなくなりつつあります。家庭的な小さな規模の会社では、「他品種・小ロット」「付加価値が求められる(複雑な)」「商品サイクルが短い」「製造計画等の変更が頻繁」「パートによる短期雇用者が周囲に多い」「恩恵的な余裕がない(経済的事情)」が日常化しているのです。
そこで、都市部では、規模の大きな企業に知的障害者の働く場を求めることになりました。でも「困った」ことがありました。規模の大きな企業で、知的障害者の人手を直ぐにでも欲する、明確な仕事はありません。事実、多くの人事担当者は、「我が社には知的障害者向きの仕事がない」と言います。「まず仕事ありき」からスタートしていた就労支援の技術では太刀打ちできません。仕事がないわけはありません。大きな規模の企業では莫大な仕事の種類があります。でも、知的障害者のために、現在の仕組みで動いている仕事を「切り出したり」「集約したり」といった努力には非常に骨が折れるのです。


6月号:就労支援の変化(実習)

前回は、雇用環境の変化の概要でした。今回は、知的障害者の就労支援方法の変化を取り上げます。もっとも大きい変化は、本物の職場で働く機会を重視しはじめたことです。
職場体験実習は養護学校などを中心にずいぶん前から実施されていましたし、その重要性は誰もが認めていたことです。「何を今更」と思われる方も多いと思いますが、お付き合いください。

【職域開発援助事業】
全国各地に設置されている障害者職業センターでは、平成4年より職域開発援助事業(以下、職域と呼ぶ)を行っていました。これは、職業生活全般にわたり比較的手厚い支援を必要とする障害者を対象に、「本物の職場」で職業準備訓練を行う制度だったのです。
多くの知的障害者は、職業生活全般の支援が必要です。そこで、この制度を活用にはうってつけでした。全国で多くの知的障害者が職域を活用して就職しました。推計データですが、1年に800人程度が職域を利用し、その70%以上が知的障害者だと言われていました。さらに、職業準備訓練を行った事業所にそのまま雇用された人が70%以上いたそうです。つまり、職域を利用した知的障害者が600人、そして就職した人が450人程度になります。
「偽者の職場」より「本物の職場」で職業準備訓練を行った方が、知的障害者にとっては、スムーズに就労に結びつくと言われるようになった、画期的な事業でした。

【トライアル雇用】
職域は、あくまでも職業準備訓練の期間であり、専属の支援パートナーの指導が強調されていました。単なる職場体験実習の機会を提供しただけではなく、より専門的な指導・訓練を行うことで、就労へ結び付けたということです。
本当にそうなのでしょうか。
平成10年末より開始された「障害者緊急雇用安定プロジェクト(通称トライアル雇用)」の実績が公表されています。この制度は、1ヶ月の職場実習、その後3ヶ月の短期雇用を多くの障害者が受けられるよう、障害者本人ならびに受け入れ先事業所に若干の金銭的支援を行うものです。
トライアル雇用は、実に多くの障害者を雇用に結びつけました。約2年半の間に、6千件以上の職場実習、さらに短期雇用期間終了後もその事業所で雇用が継続された人が4千人以上いました。そして、この中には、知的障害者が半数以上存在したのです。単年度の実績で、継続雇用された知的障害者数は何と、1,400人近くになりました。
職域とは異なり、トライアル雇用は単に職場体験実習プラス短期雇用の場を提供しただけのものです。それでも、職域の知的障害者就労実績を3倍以上も上回ったのです。「どうして?」は、多角的に分析する必要があります。でも、指導・訓練の有無に関係なく、職場体験実習の場の創出が大切であることは間違いありません。
今回紹介した2つの事業は、発展的に解消になりました。「職場創出」「ジョブコーチ」をキーワードに新たな仕組みの制度がスタートしています。


7月号:働く障害者のコスト

知的障害者が働く意義について考えます。社会的な意義ではなく、本人にとってのものです。一般に、1)社会的な役割を果たす、2)賃金による経済的基盤をもつ、3)これまでの教育・キャリアを生かすの3つがあげられます。特に、就労支援を行う場合、賃金にまつわる労働条件に関して、適切な知識と判断が求められます。

【雇う側にとっての計算】
賃金とは、労働時間や職務内容以外に、社内あるいは社外の様々な条件から決定されるものです。しかし、どんな賃金水準を設定しようとも、次の非常に単純な計算式を無視する人はいません。

採算ライン > 賃金(手当を含む)+法定福利事業所負担分+間接経費

たとえば、基本給に各種手当て(時間外手当など)を含むと額面上の賃金が15万円の人がいます。この人には、厚生年金や健康保険さらに雇用保険など、事業所負担分が月平均2万円ほど発生します。さらには、仕事場の高熱水費や通信費さらには管理部門(総務・人事等)の職員の人件費負担を考えると、間接経費が低く見積もっても6万円ほどかかっています。つまり、この人が会社に利益をもたらすだけの労働力を発揮するには、月に少なくとも23万円以上の利益をあげる必要があります。それ以下だと、不採算社員になってしまうのです。

【就労支援担当者の計算】
就労し、地域でより自立した生活ができるよう支援する、就労支援担当者は、別の計算式も使います。

手取賃金+障害基礎年金 > 家賃等+食費+交通費+通信費+小遣い

額面15万の賃金の人は、手取が11万円でした。障害基礎年金が2級だと月平均6万7千円程度です。合計17万7千円以上の生活はできません。都市部だと月5万円の家賃に高熱水費を入れても6万円で収まるかどうかです。食費は外食が多いため4万円、交通費が平均1万円で、携帯電話の通話料が1万円、そしてそれ以外の毎月3万円程度を出費していました。支出合計が15万円です。これだと、2万円以上の貯蓄が可能です。

【長期的な計算は難しい】
雇う側も就労支援者も、1ヶ月あるいは2〜3年程度の短期間の生活だけを考えるのであれば、この基本的な計算式を使い推測ができます。でも、これが10年あるいは数十年となると非常に難しくなります。
雇う側は、勤続年数が増えるごとに賃金をどれくらい増やしていけば、採算ラインを割らないだろうか考える必要があります。知的障害者は、職場でどれだけ様々なノウハウを蓄積し、高付加価値の業務をこなせるのだろうか? 体力的に60歳を定年にして大丈夫なのだろうか?
就労支援の担当者は、別の心配があります、健康的で安心した生活を行うために、ホームヘルパーや日常金銭管理サービスなどを利用する費用は払えるだろうか? 将来に向けての貯蓄はどれくらい必要だろうか? そういえば定年後、障害基礎年金をもらっていると厚生年金分はもらえないのでは?
就労支援の仕事には、そろばんも必要になります。


8月号:在職者の調査結果より(1)

在職者はどんな生活をしているのか?

今回は、企業等で働いている知的障害者の実態についてまとめます。
これまで企業等に雇用される知的障害者については、逸話的な事例報告が唯一の情報源でした。
神奈川県では、働く障害者を地域で支える地域就労援助センター事業が、10年前よりスタートしています。私たちの職場である、社会福祉法人電機神奈川福祉センターでは、この地域就労援助センター事業を県内で3ヶ所運営しています。この3つのセンターでは、継続的にフォローしている企業等で働いている障害者が200人を越えています。今回は、この在職者の記録ファイルをまとめてみました(調査対象は193人)。フォローしている在職者の大多数は知的障害です(186人)。

障害の程度:
在職者の障害の程度は、軽度(W度)ならびに中度(V度)が約47%ずつで、重度(U度)が5.5%、最重度(T度)が0.5%でした。重度の手帳を持っている人でも働いている人はいますが、大多数は中軽度の知的障害者ということになります。
仕事内容:
仕事内容は、建物の日常清掃や緑化等を含めた清掃、製品の梱包や組み立てなどの製造業関係の軽作業、小売や流通機関における軽作業、社員食堂等の厨房における仕事、クリーニング等の仕事が上位でした。また、社内郵便の仕事や電気製品等のリサイクル業務についている人もかなりの人数がいました。最近は、単独の仕事というよりも、職場内でいくつもの仕事を受け持っている人が増えています(清掃と事務補助など)。
雇用している企業:
雇用している企業の規模を調べてみました。全体の約8割近くが(78%)従業員規模300人以上の企業等で働いています。もちろん、働いている事業所自体に必ず多くの社員がいるということではありません。300人未満の企業等には、行政の支援により障害者を雇用する喫茶店等も含まれており、以前は多いといわれていた小規模の製造業等で働いている人は、10%もいませんでした。小規模の会社における雇用は減っていると実感してはいましたが、実際に数字にしてみると、驚くばかりの減少でした。
また、特例子会社で働いている人が全体の40%を越えました。特例子会社とは、主に大手企業等が障害者雇用を目的として設立し、法律に定める要件を満たし、厚生労働省より認可された特別な会社のことです。ここ数年、企業規模の大きな会社における知的障害者雇用のひとつの有望な選択肢として期待されている制度です。神奈川県では、特例子会社連絡会などの企業同士の横のつながりもあり、特例子会社で多くの知的障害者が雇用されています。
この企業規模や特例子会社の多さなどは、神奈川県という地域性ならびに私たちの法人の特殊性が色濃く出ていると思われます。しかし、在職者の実態がこのように変化してきたのは、ここ数年の出来事であり、就労支援の担当者自身がこの結果に一番驚いているのです。
次回は、賃金を含めた生活面についてまとめます。


9月号:在職者の調査結果より(2)

前回に引き続き、継続的に支援を行っている知的障害者の実態調査結果を報告します。

勤務時間:1週間の勤務時間でもっとも多いのが週40時間勤務でした。193人の平均勤務時間はだいたい35時間。もっとも短い人で9時間(1日3時間労働を週3日)です。本人の心身の状況ないし希望に沿い、短時間勤務の職場を紹介することもありますが、大多数の人はフルタイムで働いています(全体の72%は35時間以上)。
通勤時間:勤務時間の平均は片道54分でした。1時間以上かけて通勤している人が、全体の61%います。公共交通機関等が発展している都市部では、障害の有無に関係なく、かなり遠距離の職場に通っていることがわかります。
給与:給与は、月12万円程度前後が大多数です。短時間勤務の人で月4万円に満たない人がいる一方で、月14万以上の人もいます(たった2名ですが)。調査時点で、神奈川県の最低賃金は、時給で706円、日給で5,596円となっていますので、知的障害者はほぼ最低賃金レベルで雇用されていることがわかります。
労働条件クロス集計:
22歳以下の24名と35歳以上の28名のデータを労働時間と賃金でクロス集計してみました。結果は次の表のとおりです。

 

平均労働時間

平均賃金(月額)

22歳以下 週37.7時間 111,667円
35歳以上 週32.2時間 98,214円

この結果から、1)知的障害者は年齢に応じて賃金が上がる給与体系で雇用されてはいない、2)加齢により体力等の低下に合わせて緩やかな労働条件に移行している人がいることがわかります。
総収入額:知的障害者の労働賃金は基本的に最低賃金レベルです。これでは、経済的な自立は難しいのが現状です。しかし、多くの知的障害者は障害基礎年金をもらっています。今回の調査では、基礎年金を受けてない人がたった9%(その他不明5%あり)でした。20歳未満の人ないし20歳になり現在申請中の人もこの9%には含まれますので、ほぼ全員障害基礎年金をもらっていることになります。そして大多数の人は2級の年金ですから、年額で804,200円(月額67,017円)です。多くの知的障害者は、月12万円の賃金プラス年金で、18万円から20万円程度の収入があることになります。
とても高収入といえる額ではありませんが、一般の高卒初任給レベルと比較すると、働いている知的障害者の収入は決して低い数字ではありません。
次回もこの実態調査の結果を報告します。


10月号:在職者の調査結果より(3)


働いている知的障害者の実態調査の報告は今回で終了です。

居住場所:在職者の圧倒的多数は親と同居しています(87.6%)。グループホームで生活している人が10%強、単身者は1.5%に過ぎませんでした。
生活支援コーディネーター:地域就労援助センター職員が職場等の様子を報告したり、何らかの問題解決が必要なときに誰に連絡するかをまとめました。圧倒的多数は母親でした(81.%)。次いで、父親、グループホームの世話人、本人、兄弟といった順です。つまり、働いている知的障害者の生活環境について、地域就労援助センターでは、ほとんどの場合、母親と連携をとりながら調整していることがわかります。福祉事務所のワーカーならびに生活支援センターのワーカーを主な連携者としている場合は、それぞれ1ケースしか存在しませんでした。
働いている知的障害者の実態を2つの年齢グループに分けて比較してみました。ひとつは、20歳代の障害者のグループ(117名)でもうひとつは40歳以上のグループです(12名)。
20歳代では、親と同居している人が89%であるのに対し、40歳以上になると若干減って61%になります。逆に、グループホーム利用者が9%から31%に増えています。
生活支援のコーディネーター役については、もっと大きな差が存在します。20歳代の84%は、母親がコーディネーターの役割を果たしていますが、40歳以上になると半分の42%になります。逆に、20歳代では数人しかその役割を果たしていなかった兄弟が、40歳代では50%になっています。
以上3回の内容を簡単にまとめると次のとおりです。

・働いている知的障害者の多くは中軽度の手帳を持っている
・勤務時間は、週35時間以上働いている人が多数
・通勤に片道1時間程度かけている人が大多数
・給与は12万円程度だが、障害基礎年金の2級をほぼ全員が受けている
・両親と同居している人が多く、生活支援の中心には母親の存在が欠かせない

神奈川県内では、比較的早い段階から働いている障害者を継続的に支援する事業として、地域就労援助センター事業を展開してきました。時代の変化とともに、知的障害者が働く環境が変わり、就労援助センターの役割も変わってきました。しかし、働く知的障害者を支える生活環境については、まだまだ家族、それも母親の役割が重視されているのが現状です。一般的には、知的障害者の加齢による体力低下の問題以前に、両親の高齢化による生活支援力の低下が問題になります。今後、改善が期待される分野です。
なお、今回の調査結果の詳細は下記のホームページで掲載されています。

http://www.denkikanagawa.or.jp/
 


11月号:ジョブコーチによる就労支援

知的障害者の就労支援に「ジョブコーチ」というカタカナことばが頻繁に登場するようになりました。これだけ登場するところを見ると、日本全国で、自称あるいは俗称ジョブコーチがたくさんいるに違いありません。その上、地域において就業と生活の一体支援を目指す、国の新しい障害者雇用施策として、ずばり「ジョブコーチ」事業が登場したほどです。

ジョブコーチは、私たち日本人にとって、非常に理解しやすい外来語です。障害者に、仕事(ジョブ)を教える(コーチする)人のことを誰もが思い描けます。
でも、作業所や施設で知的障害者に仕事を教える指導員のいことを、ジョブコーチとは呼びません。仕事をする場所は、障害のない人が働く普通の職場に限定されます。ここまでは、障害者の福祉や教育、ならびに職業リハビリテーションに携わる誰もが共通認識しています。

問題は、ここから先です。

  1. 就労している障害者を数多く支援しているケースワーカーがいます。この人は、職場によく出向き、障害者ならびに事業所の責任者や同僚と頻繁に意見交換します。場合によっては、障害者に就業生活上のさまざまなアドバイスしたり、事業所の同僚に障害の理解を求める働きかけを行います。でも、仕事を教えることはしません。
  2. 障害者を複数名雇用している事業所で、障害者の雇用管理を中心業務とする職員がいます。この人の仕事の大部分は、一人ひとりに仕事を教え、より高い生産性をあげる方策を考えたり、職場生活等の配慮で労働に対するモチベーションを高めることです。でも、この指導者は、この会社と雇用契約を結んでいます。
  3. ある地方自治体では独自の就労支援事業があり、その職員は、障害者が雇用契約を結ぶ前(採用前)の実習中に、ほぼ毎日のように職場にやってきて、障害者と一緒に仕事をしながら、困難にぶつかる障害者を支え指導していました。しかし、雇用されてからは、職場にほとんど顔を見せません。雇用した後の支援は、本来業務から外れるということです。

わかりやすく、3つの例をあげました。どれが、ジョブコーチで、どれがジョブコーチではないのでしょうか。実は、厳密な意味でジョブコーチの職務の定義はありません。たくさん登場し始めたジョブコーチのうち、日本の労働・福祉の慣習に馴染み、多くの障害者雇用に意味ある役割を果たせる人をジョブコーチと呼ぶ方が大切にも感じます。でも、本来ジョブコーチとはどんな仕事が求められており、どのような技術を取得すべきかについての知識は必要です。それについて、ここで解説するスペースはありません。「ジョブコーチ入門」小川浩著(エンパワメント研究所発行)を購入しましょう。


12月号:就労積極推進派の根拠

「知的に障害をもつのだから、一般の職場で無理をして働かなくても、障害について理解してくれる作業所や施設などで、ゆったりとマイベースに、そして生きがいが持てる活動に従事する方がいいのでは?」

知的障害者を支援する福祉施設や学校の先生、さらには両親から、時々このような話を聞きます。もちろん、「知的障害者は働かなくてもいい」と極論を唱えるわけではありません。ただ、一般就労に対して比較的消極的な意見を持っているのです。

一方、今回の連載は、知的障害者の一般就労を強く推進しています。つまり、就労積極推進派です。もちろん、「知的障害者は全員就労すべき」と極論を唱えるものではありません。
就労の積極推進派と消極推進派が存在するのは事実です。この差は、どこから生まれるのでしょうか。積極推進派の根拠を紹介することで、この差異はどこにあるか、読者の皆さんに考えてもらいます。

【知的障害の多様性】
積極推進派のもっとも素朴で強力な根拠は、現在一般就労している知的障害者の多くが、企業等で戦力になっており、本人も職についていることにプライドを持って生活している事実です。このような知的障害者は、いったんひとつの職場を離職することになっても、再度就職したいと願っています。逆に、就労の消極的推進派は、このような知的障害者は、まったくの少数派だと考えているのかもしれません。

【経済的な自立】
知的障害者の地域生活・自立生活の取り組みは、残念ながら経済的な自立の問題になかなか触れられてきませんでした。事実、単身生活や結婚して家庭を持っている人の支援からサービスが論じられるより、両親あるいは施設等の強力なサポートが前提である場合がほとんどです。現在の社会保障の仕組みでは、生活保護を除くと、一般就労プラス障害基礎年金ではじめて生計の見通しが持てるのです。積極推進派は、この経済的自立に強い関心を示します。

【雇用促進法の承認】
障害者の雇用率がなくても、すべての企業等で障害者が積極的に雇用される仕組みが理想的であることは、誰もが考える理想郷です。しかし、現在の様々な状況では、法定雇用率の制度が知的障害者の就労を増やす原動力になっているのは事実です。そして、この法律により、多くの企業等では、知的障害者の雇用による生産性とコストのバランス、ならびに副次的効果を実務的に検討できる段階になったのです。積極推進派は、雇用促進法の役割の重要性を認識しています。

【福祉サービスのコスト】
一般就労できない(しない)知的障害者の多くは、日中の活動を福祉施設等で行っています。この福祉施設等のサービスには、かなりの税金が投入されています。来年から始まる支援費で試算しても、通所の授産施設に1ヶ月通うコストは、相当低く見積もっても一人16万円程度になります。無尽蔵の財源ではない以上、必要な人に、必要な量や質のサービスが行き渡るためには、必要としない人(就労を希望し・就労可能な人)にこのコストをかけることは大きな問題だと考えます。
 


1月号:離職支援の仕事

仕事をみつけたいと考えている障害者に、企業等で働けるよう支援することが、就労支援の仕事としてもっとも注目されがちです。しかし、実際は、現在働いている人がその会社を辞める、つまり離職時の支援も大切なのです。私たちの職場でも、毎年50人以上の知的障害者が新規に就労していますが、継続支援をしている人のうち何人かは離職しています(毎年10人を越える)。

もちろん、離職の中には企業の倒産あるいは事業所閉鎖による、いわゆる会社都合の離職もあります。しかし、圧倒的に多いのが、本人都合の離職です。

離職時の支援を行う中で、知的障害者に比較的共通するパターンがあることがわかります。ひとつは、会社を辞める2週間以上前に、退職願等を会社に提出し、その時期まで勤務を続けることが困難です。多くの知的障害者は、会社に通えなくなってから、離職の問題を本人ならびに周囲が考えるようになります。

もうひとつは、いったん休職あるいは身分を保証して欠勤を続ける処置を会社がとっても、再度その職場に復帰し、仕事を続けることが比較的難しいことです。

このような課題を解決するために、私たちは雇用ルールの理解や会社への帰属意識、さらには経済的自立の意識に対して、より効果的な支援プログラムを作らなくてはならないのかもしれません。逆に、現行の雇用・退職のルールは知的障害者にとっては、わかりづらい、明文化できない慣行がたくさん存在するのも事実です。

もうひとつ典型的な離職時のパターンがあります。離職した知的障害者にその理由を聞くと、「同僚の○○さんに冷たくされた」「上司の△△さんが怖かった」といった回答がかなり多いのです。従来は、「数ヶ月で仕事にも慣れ、かなり戦力になっていると言われていたから、会社の中の対人面での問題から離職に至った」と結論付けてしまいがちでした。

ところが、就労してからも継続的に会社を訪問し、様々な情報収集を行っていると、労働力としては申し分ないが対人面だけの問題で離職する人は、本当に少ないことがわかります。仕事の変化や多様性になかなかついていけない、一人のパート職員にあまりにも依存的になっている、職場に慣れると同時に自分勝手な判断で仕事をするなど、職に就いた当初とは異なった課題に常に直面し、それを乗り越えられないでいる場合が多いのです。そして、このような職務上の課題を知的障害者本人が適切に把握できないため、直接的なきっかけである「注意された」「叱られた」などの対人面での行動を原因にあげてしまうのかもしれません。

離職し、再就職することは決してネガティブなことではありません。しかし、再就職が決して容易ではない現実は存在します。本人の意思や能力ではなく、雇用管理や継続的支援の方法で離職が予防できるのであれば、それに越したことがありません。就労支援の担当者は、これまで出会った離職支援の事例をしっかりと分析する必要があります。
 


2月号:再びロクイチ調査

年の瀬に、厚生労働省より、平成14年度の障害者雇用率が発表されました。毎年、あまり大きなニュースにはなりません。この連載で、再度紹介させていただきます。

【障害者雇用率は低下】
56人以上の常用雇用労働者を抱える企業を対象に、毎年6月1日時点の障害者雇用率調査が行われます。通称、ロクイチ調査です。民間企業は、1.8%以上の障害者を雇用しなくてはいけないと言うのが、私たちの国の法律に明記されています。しかし、ロクイチ調査で、この法定雇用率に到達したことは一度もありません。それだけか、今年は前年度より実雇用率が低下しています。

平成13年度 1.49%

平成14年度 1.47%

毎年上昇傾向にあった雇用率が、最近の景気低迷から過去3年は伸び悩み、そしてついに今年は低下してしまったのです。

【その原因】
障害者雇用率の低下については、次のように分析されています。
まず最初に、障害者雇用の実質的な担い手であった小規模企業の体力が低下しており、雇用が維持できなくなっていることです。さらに、景気の低迷と産業構造の変化から、これまた障害者雇用の担い手であった製造業が不振であることです。これを、サービス業等の他の産業では吸収できないと言うのが、第2の理由です。
このように障害者雇用の厳しい現状から、各種制度・行政指導さらには職業リハビリテーションサービス等の努力で、例年以上の新規就労者が生まれています。しかし、障害者が職場にうまく定着できない点も、雇用率が上がらない原因のひとつと考えられています。

【これからスタート】
新たな障害者プランの制定や自立と社会参加へ向けた雇用と福祉の連携など、国の障害福祉の新たな施策が少しずつ明らかになってきています。障害者雇用が重要な施策のひとつに掲げられるのは間違いありません。しかし、現状は、それとは正反対の数字が出てきました。さあ、私たち、この分野に携わる多くの人たちの努力が問われる時代のスタートです。


3月号:就労支援に求められる人材

企業等に雇用された知的障害者は、その職場で要求される様々な仕事やルールを学んでいきます。同時に、福祉施設や養護学校と違い、職場ではひとりの大人として扱われます。この環境は、社会人として地域社会で生きていく技能を習得し、さらに新しい夢をもつようになります。これほど恵まれた生涯発達を促進する環境は、他に創れるものではありません。これぞ、発達保障です。

しかし、現在療育手帳を取得している成人のうち、20%弱の人しか雇用されていません。雇用ステージに上り、活躍できる人は潜在的にもっと沢山いると予想されます。さらに、何十年も雇用ステージに立ち続けることが困難でも、数年程度ならがんばれる人は、もっとたくさんいるはずです。

近年の障害者の雇用促進施策は、知的障害者の雇用を、相当後押ししています。全国に何箇所も新たな就労支援の仕組みが立ち上がり、その地域の知的障害者の就労数は、間違いなく増加しているはずです。

この流れを全国のあらゆる地域に広めるために、どうしても解決しなくてはならない問題があります。それは、地域で就労支援を推進する人材の育成です。就労支援は、事業としてみたとき、「現在企業等で雇用している何名の知的障害者を継続的に支援しているか?」といった数値に表しやすい評価指標が存在します。もし、先駆的な地域に負けない制度を作り上げても、この仕事に対する興味関心が薄く、さらに十分なスキルを持ち合わせていない人材が運営したのでは、実績は上がりません。

就労支援を推進する人材は、次の3つの知識と経験が必要だと考えられます。

1)心理教育の領域
職種や職場においてどの程度の職業能力が発揮できるか予測したり、障害特性に合わせてより効率的な指導方法を選択したり、さらに就業生活の継続を励みとする手立てを考案するなど。

2)ソーシャルケースワークの領域
就業だけではなく地域における自立生活を支える制度や資源の調整を行ったり、長期的な展望を一緒に考えるなど。

3)経営人事の領域
労働条件や労務管理全般について、障害者雇用を行う企業側に適切な助言等を行うなど。

上記すべての領域についての知識と経験を持ち合わせる人材を求めるのは現時点では困難です。当面は、チームで3つのバランスを保つ配置が必要となります。そしてまず何よりも、就労支援の社会的な役割の重要性を認識し、この職務の遂行に生きがいを持つ人材登用が望まれます。
 


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