知的障害者雇用の推計

「障害者の雇用の促進等に関する法律」ならびに最近の障害者
雇用施策の方向性から、中期的な障害者雇用、それも
知的障害者の雇用数増加を大胆に占ってみました。
各自治体の障害者プラン策定担当者必見です。


1.障害者雇用施策の骨子

平成15年3月末に、厚生労働省のホームページに「障害者雇用対策基本方針」が掲載されました。ここには、よりいっそうの障害者雇用促進へ向けて、いくつかの施策がまとめられています。気になった点をいくつか以下にまとめます。

もちろん、ジョブコーチ制度など職業リハビリテーションの充実や知的障害者向けの就業と生活あるいは福祉と労働との連携などの施策についても記されています。

しかし、法定雇用率未達成の企業名を原則公開する動きや、業種別に存在した除外率の原則撤廃に向けての施策など、企業等にこれまでにない強い指導が行われることは間違いありません。特に、企業名原則公表が実施されれば、その影響として、公的な事業への入札用件に障害者雇用率達成が加えられる可能性もあり、企業等における障害者雇用は、これまで以上に大きな課題になることは間違いありません。

このような施策は、企業等へ就労する障害者を送り出そうとする、障害福祉や障害児教育の担当者にとって願ったりかなったりであり、まさに大歓迎というところです。ところが、これから推計する数字を見てください。企業等へ送りだす側が、本当に準備をしていると言えるのでしょうか。


2.労働人口と障害者雇用数

【障害者雇用数】

平成10年に厚生労働省(旧労働省)が実施した、障害者雇用実態調査では、身体障害者と知的障害者が全国で合計46万5千人雇用されていると発表しています。この時点(平成10年6月1日)での法定雇用率は1.6%で実雇用率は1.48%でした。

 

人数

身体障害者 396,000人
知的障害者 69,000人
合計 465,000人

実雇用率はその後、1.49%〜1.47%と大きな変化がありません。平成10年段階の雇用数は、現在もあまり変わっていないことが予測できます。

【労働人口】

一方、厚生労働省から、産業別の労働人口が発表されています。私たちの国の労働人口は、5,348万人と推計されています。産業別の割合は次のグラフのとおりです。ちなみに、これ以外にも、短時間労働者は1,000万人以上います。

なお、同時に企業規模別労働人口も公表されています(下記グラフ参照)。

【簡単な計算】

上記の「障害者雇用数」と「労働人口」から、簡単な計算をします。主題は、企業名公表や業種別除外率の撤廃などの施策で、新たに障害者を何人雇用する必要があるかです。

労働人口 実雇用率 論理雇用数(1)
労働人口から推計 5,348万人 1.48% 791,504人

論理雇用数(1)は、労働人口に平成10年度時点の実雇用率をかけた数字です。労働人口からすると、約80万人の障害者が雇用されていることになります。

論理雇用数(1) 実雇用数(2) 実雇用割合(3) 誤差:(1)−(2)

791,504人

465,000人 58.7% 326,504人

ところが、実際に46万5千人しか雇用されていません(実雇用数)。これは、論理雇用数(1)の58.7%であり、なんと誤差が30万人以上です。論理雇用数より実雇用数が少ない理由は、a)障害者雇用の義務が発生するのは56人以上(平成10年度当初は58人)の企業でありそれより小さい企業の雇用は進まない、b)除外率が発生する業種が多い、などが考えられ ます。このうち、除外率に関しては撤廃がすでに決定していることから、この 実雇用割合(3)58.7%は、今後より高くなると予想されます。

そこで、次の表では、実雇用率と実雇用割合(3)がそれぞれ上昇すると、障害者の実雇用数がどれくらいになるかをシミュレートしました。

  実雇用割合のシミュレーション
想定雇用率   58.7% 60% 65% 70%
1.48% 465,000人 474,902人 514,478人 554,053人
1.6% 499,717人 513,408人 556,192人 598,976人
1.7% 530,949人 545,496人 590,594人 636,412人
1.8% 562,182人 577,584人 625,716人 673,848人
1.9% 593,414人 609,672人 660,478人 711,284人
2.0% 624,646人 641,760人 695,240人 748,720人

この表からは、実雇用率が1.48%と停滞しても、除外率の撤廃などにより実雇用割合が伸びると、実雇用数がかなり増えることがわかります。たとえば、実雇用割合が65%になるだけで、46万5千人から51万4千人(5万人弱の雇用増)に増えます。一方、実雇用率が増加すれば、実雇用数も増加しています。たとえば、実雇用率が1.8%(法定雇用率)まで上昇すると、実雇用数は56万2千人(9万7千人強の雇用増)に増えます。

ちなみに、実雇用割合が65%に増え、実雇用率が1.8%まで上がったとすると、障害者雇用数は625,716人になり、新たに16万人の雇用の場を創出する必要があるのです。最近の障害者雇用施策を考えると、この数字は決して現実離れしたものではありません。

中期的に新たに16万人の障害者の雇用の場が必要・・・(4)


3.知的障害者の雇用増の推計

【計算の延長】

3から5年といった中期的な見通しからは、新たに16万人程度の障害者雇用の場を創出しなくてはならないかもしれないのです。もしそうだとすると、知的障害者は、そのうち 何割を占めるのでしょうか。

毎年、ハローワークにおける障害者の職業紹介状況をまとめたデータからは、新たに雇用された知的障害件数+身体障害件数のうち、知的障害者が占める割合は、だいたい27.4%です(平成9年から平成12年の平均)。推計の根拠として、この27.4%という数字が使えます。

平成11年1月より平成13年3月末まで実施された、障害者緊急雇用安定プロジェクト(通称、トライアル雇用)では、この制度を活用し雇用された障害者の約半数が知的障害でした。新規に雇用の場を創出するには、知的障害向けの職域開発が急務であるとも推測されます。

今回は、障害者雇用の全体に占める知的障害の割合は、この27.4%と50%の間のどこかの割合とします。

新規雇用数(4) 知的27.4% 知的50%
16万人 4.4万人 8万人

すると、知的障害者は、新たに4万4千人から8万人の雇用が必要になります。現在雇用されている知的障害者が、6万9千人であることから考えると、ほぼ倍増です。

中期的に新たに4.4万人〜8万人の知的障害者雇用の場が必要・・・(5)

【妥当性の検証】

この雇用数倍増という数字は、本当に妥当な数字なのでしょうか。別の視点から考察してみます。

厚生労働省の平成12年度基礎調査では、知的障害児者数は456,000人と発表されています。しかし、毎年発表されている、障害者手帳交付台帳登録数では、平成12年度段階で知的障害者が569,618人になっています。さらに、この統計では、18歳以上の知的障害者が438,291人です。もちろんこの中には、60歳を越えた人も含まれています(実数は少ないと想定されますが)。ここでは、大雑把に、成人の知的障害者は40万人とします。

そこで、上記(5)のように、知的障害者の雇用が新たに4.4万人〜8万人必要であったとした場合、成人の知的障害者の何割が企業等で働く必要があるのでしょうか?

  雇用数 就労割合
4.4万人増 113,000人 28.5%
8万人増 149,000人 37.3%

新たに4.4万人知的障害者の雇用が増えれば、11.3万人が就労していることになり、その割合は成人の知的障害者の28.5%です。一方、8万人の雇用が増えれば、就労している数は14.9万人となり、成人の知的障害者の37.3%が働いていることになります。雇用数倍増と考えると、途方もない目標に見えますが、成人の知的障害者の30%前後であるなら、決して不可能な数字ではありません。もちろん、一般就労を目指した障害児教育プログラムや障害者1人ひとりの特性に合った職業選択、さらには環境変化に応じて必要となる集中的な職場での支援(ジョブコーチ)、そして長期的な就業と生活の一体支援と離職・再就職支援プログラムなど、改善を必要とするテーマはたくさんあります。

細かい数字を羅列しただけではインパクトが弱いので、切のいい数字を提案して、終わりにします。

3〜5年の間に、成人の知的障害者の30%、つまり12万人が雇用される時代が来ると予測します。


補足

全国で知的障害者が12万人雇用、つまり新規に5万1千人雇用と言っても、ピンと来ないかもしれません。そこで、自治体の人口規模では、3〜5年後に何人知的障害者の雇用を促進しなくてはならないかを下の表でまとめます(神奈川県内の都市名で)。

人口 雇用数 新規雇用数
350万人(横浜) 3,500 1,488
120万人(川崎) 1,200 510
60万人(相模原) 600 255
38万人(藤沢) 380 162
22万(厚木) 220 94
12万(海老名) 120 51
6万(逗子) 60 26
3万(大磯) 30 13

何と、横浜市では、ここ数年で新たに1,500人の知的障害者が雇用される場を作る必要があります。これまで、新規に何人の知的障害者が一般就労しているかを考えると、各職業リハビリテーション機関の実績を2倍以上にしていかないと達成できない数字です。ちなみに、人口100万人の都市では、新規に500人程度、人口50万人の街では約200人、人口25万人の街では100人と、知的障害者の新規雇用が必要なのです。各自治体の従来型の就労支援方式では、この数字は非常に困難です。

もう少しミクロな視点から、就労支援事業のモデルを考察した報告は、別の機会に。

(しがとしかず)


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