障害者雇用管理マニュアルの紹介

障害者雇用システム研究会では、知的障害者の雇用を検討している、
あるいは障害者雇用が会社の課題であり知的障害者についても情報を得たいと
考えている、企業の人事担当者向けに「わかりやすい」そして「手軽に読める」
マニュアルを作成しております。障害者雇用の担当者には、まさに必見!
この紹介文を読んだら、さっそく入手されたし。


はじめに

マニュアルの目的

【障害者雇用と知的障害者の雇用】

障害者基本法が平成5年に改正されました。その中の基本的理念として、「すべての障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるものとする」と記されています。この理念を実現する上で、障害者の職業的自立を図るための雇用・就業の場の確保が重要課題となりました。

一方、企業の障害者雇用率は年々改善され、平成8年度調査では1.47%に達しています。ところが、働いている障害者の大部分は身体障害者であり、知的障害者の雇用はなかなか進まないのが現状です。まだまだ、「知的障害者とはどんな人のことを言うのか?」「知的障害者は雇用の対象になるのか?」「知的障害者を雇った場合どんな処遇が必要なのか?」「知的障害者の雇用管理の方法にはどんなモデルがあるのか?」など、企業の人事担当者が知的障害者雇用に踏み込むためには解決しなくてはならない疑問がたくさんあります。

【マニュアルの目的】

このマニュアルは、私たち「障害者雇用システム研究会」が、日頃の議論や活動の中から生まれた成果を、知的障害者の雇用管理上のノウハウとして手短かにまとめたものです。そして、障害者雇用が会社の課題になると想定されている企業、あるいは新たに知的障害者雇用を検討している企業の人事担当者に向けて編集しました。多くの企業で、障害者雇用が円滑に進むことを願っております。


障害者雇用システム研究会とは

「障害者雇用システム研究会」にはさまざまな領域のメンバーがいます。企業の人事担当者、特例子会社の責任者、福祉や教育の就労担当者、医療関係者、行政関係者(労働・福祉・教育)などです。"学際的"などとはとても言えませんが、いわゆる"業際的"な勉強会となっています。

障害者の雇用や就労は福祉や教育関係者の情熱や理念だけでは進展しませんし、また、ひとつの企業内における自己完結的な処遇だけでは多くの課題に対処しきれません。各分野の専門性の尊重と責任の明確化、協調と相互依存があってはじめて彼らの雇用や就労が現実的な色彩をおびてくるのです。私たち障害者雇用システム研究会は、とにかく「いっしょに考えよう」からスタートする会なのです。

私たちは、知的障害者の雇用問題が閉鎖状況を打開できないもっとも大きな理由に、障害者雇用に携わる各領域間のコミュニケーション不足、パートナーシップ不足を掲げております。知的障害者を企業に送り出す福祉や教育サイドには、ノーマライゼーションの掛け声の裏に潜むモンロー主義(一般企業で働かなくても専門家のいる施設で生活したほうが良い)や潜在的に企業行動や経済メカニズムに対する苦手意識があります。一方、企業サイドにも、知的障害者に関しては「わからない」「不安」「腰が引ける」となりがちで、結局は身体障害者雇用にシフトしてきた経緯があります。また、福祉と企業を結びつける役割を担うべき行政の施策もタテ割り行政指導の中で制度疲労と矛盾を露呈しています。

障害者雇用システム研究会では、知的障害者の雇用に関するさまざまな問題を一から見直し、議論を行ってきました。残念ながら、すべての課題がクリアに整理されたわけではありません。知的障害者の賃金体系ひとつとっても一般的な合意を得るのは大変難しい面がありました。また、知的障害者を採用する際の手順についても制度上の不備や矛盾がたくさん出てきました。しかし、このような素朴な議論を通じて、いくつかの特例子会社が誕生しました。もちろん特例子会社の設立は個別企業トップの意思決定にありますが、プロジェクト担当者に対する示唆や助言・励ましは、まさに研究会における議論により行われたのです。

私たちが1992年より研究会を通じて実感したのは、結局スタート時と同じでした。とにかく「いっしょに考えよう」です。

毎回研究会が終わると9時や10時を過ぎてしまいます。そして軽くアルコールを飲みます。やがて談論風発。なごやかな雰囲気となり、多くの仲間たちとの共感的なコミュニケーションに思わず嬉しさを感じています。


知的障害者とは

【知的障害の定義】

知的障害とは、障害者基本法で定められた障害のひとつで、私たちの国に約41万3千人いる人のことをいいます。法律上は「精神薄弱」という用語が使われていますが、現在、関係者ならびにマスコミも「知的障害」という言葉を用いることが通例です。

知的障害になる原因はさまざまで(発育不全、出産前後のトラブル、乳幼児期の病気や事故、染色体異常など)、主に大脳の機能の一部に支障が生じていると推測されています。多くの知的障害者は、難しい文章を読んだり書いたり理解したり、計算したり、記憶したり、たくさんの情報を整理することを苦手としています。その判定方法は、数種類の知能検査によっています。現在私たちの国では、その検査結果(知能指数:IQ)がおおむね75以下の人が知的障害と判定されています。

コラム

【障害者とは】

  • 障害者基本法では、障害者を次のように定義しています。
  • 「身体障害や精神薄弱、そして精神障害があるために長期にわたり、日常生活または社会生活に相当な制限を受ける者を言う」
  • この定義に該当する人のことを私たちの国では障害者と呼びます。また、障害者はそれを証明する「手帳」をもっています。

【働く知的障害者の特徴】

知的障害者は、障害の程度により最重度、重度、中度、軽度の4つに区分されています(手帳には、A1、A2、B1、B2と書かれている)。戦後、特殊教育が本格的に始まってからは、そのうち中度・軽度(B1、B2)の人たちが就労可能と考えられ、指導されてきました。現在、全国で6万人以上の知的障害者が雇用されています。

働いている知的障害者、つまり中度・軽度の人たちは、以下のような特徴をもっています。

  1. 話し言葉を使った意思伝達は、障害をもたない私たちとまったく変りません。ただし、抽象的で比喩的な表現や婉曲な言回しは苦手です。
  2. 漢字・かな交じりの文章の読みや理解は、簡潔でやさしい表現であれば可能です。ただし、漢字については使い慣れたもの以外、ふりがなを必要とする人も少なくありません。
  3. 交通機関を乗り継いでの移動や日用雑貨の買い物など、基本的で毎日繰り返しとなる生活能力は十分もっています。ただし、はじめての場所を地図を手掛かりに探し当てたり、高額の買い物でローンを組むなど、経験が少ない活動については、人からの手助けを必要とする場合が多いようです。
  4. 明確なきまりやルールを理解し守ろうと努力します。しかし、社内の暗黙の伝統や文化を肌で感じとることを苦手とするようです。たとえば、新入社員が朝礼セッティングをするという伝統は、直接具体的に指示しない限り気づかない場合が多いのです。
  5. 得意な領域と苦手な領域の格差が大きい特徴をもっています。数の確認や計算は非常に正確に行うのに、業務日誌には決まりきった貧弱な内容しか記述できない人もいますし、体力測定では良好な腕力を発揮するのに物を運搬する時には力が入らない人もいます。
  6. 自分を言葉でアピールし売り込むことは苦手としています。たとえば、やる気があるにもかかわらず、言葉足らずで思いの一部も伝えられない人や、些細なことでも断りきれずにいる人が多いのです。

これらの特徴は、中度・軽度の知的障害者は障害が部分的で軽く、損傷を負っている脳の機能が比較的局部的だからだとも言われています。


目次

はじめに

第1章 採用に向けて

  1. 知的障害者はどんなところで働いているか
  2. ジョブデベロップメント
  3. 障害者雇用率の変遷
  4. 特例子会社とは
  5. パートタイム労働
  6. 給料はいくらにするか(基本的な考え方)
  7. 給料はいくらにするか(事例)
  8. どこに就労希望者がいるか
  9. 選考方法
  10. 雇用の助成金制度
  11. 社内プレゼンテーションNO1(ポリシーのまとめ)
  12. 社内プレゼンテーションNO2(具体的な計画案)

第2章 働きやすい職場へ向けて

  1. 職場の配置
  2. 仕事がしやすい職場環境(ハード、設備)
  3. 仕事を教える(ソフトとコミュニケーション)
  4. 安全衛生指導(1)
  5. 安全衛生指導(2)
  6. 職場のルールの伝達方法
  7. 指導者の役割
  8. 指導者のミーティング
  9. 健康管理・健康指導
  10. 成長
  11. キャリア管理
  12. 適職配置
  13. 離職危機への対応
  14. 地域の専門機関と生活援助

第1章 <11> 社内プレゼンテーションNo1(ポリシーのまとめ)

全社規模の取り組みへ向けて

知的障害者の雇用を推進するもっとも大きなハードルが、全社規模の最終判断を引き出すことです。もう一度、採用へ向けての手順を振り返りながら、役員・事業所長向けの説得力のあるプレゼンテーションを準備しましょう。


社是と障害者雇用

どの会社にも社是ないし経営方針があります。多くの場合、ここに、「障害をもつ人ともたない人がともに働く」と具体的に記述されていることはありません。また、社是をより具体的にしたビジネス行動規範を決めている会社もあります。これらをよく吟味してみると、素晴らしい経営哲学が発見されます。そして、障害者雇用推進担当者は、この中から障害者が企業の中でともに働くポリシーを見つけ出し、これを旗印として障害者雇用の基本方針を策定すべきです。

下は、B社の経営理念と行動指針の一部です。これが障害者雇用を推進する上で重要な決め手となりました。

【経営理念】
  • 「私たちの使命」 人と情報のかかわりの中で、世の中の役に立つ新しい価値を生み出し、提供しつづける
  • 「私たちの目標」信頼と魅力の世界企業
  • 「私たちの行動指針」自ら行動し、自ら創り出す(自主創造)相手の立場に立って考え、行動する(お役立ちの精神)会社の発展と個人の幸福の一致をはかる(人間主体の経営)

【社員の行動指針】

(2)基本的人権の尊重

B社は、社員等の基本的人権を尊重し、その保護に努めます
  1. 人種、宗教、性別、国籍、身体障害、年齢等による一切の差別を 排除します
  2. 社員等の公民権の行使について、最大限の配慮をします
  3. 社員等のプライバシーを尊重し、保護します

 


企業とノーマライゼーション

企業の中で働く人の顔をみると一人として同じ人はいません。性格や個性をみても誰一人として同じ人はいません。そして、「障害は個性」と言い切る人たちもいます。

個性の違う人たちが集まって企業を構成し、企業文化をつくっているわけですから、そこに働く人の中に障害という個性をもつ人がいても、ごくあたりまえのことであり、同じ職場で一緒に働き、なかよくともに生きていくこともあたりまえのことなのです。

ノーマライゼーションの定義は、「障害のあるなしにかかわらず、それぞれ不完全な要素をもつ人間同士が互いに支えあって、一人ひとりが生活主体として自己を主張し、相互に個性を尊重しあう社会」です。

障害者雇用推進担当者は、まず社是と企業におけるノーマライゼーションという2つをわかりやすくまとめ、事あるごとに社内啓発の源泉として活用することが大切です。


第1章 <12> 社内プレゼンテーションNo2(具体的な計画案)

障害者雇用の現状分析

法定雇用率と自社の障害者雇用率ならびに雇用納付金の額を明示します(10ページ参照)。

私たちの国では、厳しい法律があってもすべての企業や官公庁・団体が、障害者法定雇用率を達成しているわけではありません。しかし、法律を守ることは国民(法人)の義務でありますし、企業においては社会的責務でもあります。

もし、法定雇用率未達成であるならば、この現状分析を強調し、果敢にアクション・プログラムを推進すべきです。


障害者雇用の中・長期計画の提案

【はじめに計画ありき】

社内プレゼンテーションをする場合に、アクション・プログラムの中に障害者雇用の中・長期計画がないと、雇用推進担当者は採用戦術を立てることができません。

実際に中・長期計画を立てる際には、会社の体質というか、経営トップ層の障害者雇用に取り組む姿勢にはいろいろよって立つ思想があることを念頭に置かなければなりません。必ず成功するという計画モデルは存在しません。以下には3つのモデルを紹介します。

○○事業場何人、□□事業場何人というように、各事業場ごとに雇用率を割り当て、その事業場長に採用権限を与えているところがあります。あるメーカーでは、法定雇用率未達成の事業場から社内雇用納付金を支払ってもらうといったユニークな制度を活用し、雇用促進を行っているようです。

事業場ごとに障害者の採用、訓練、職場環境の整備、施設・設備の改善にかかわるような一切を取り仕切る専任の部長(推進担当者)が1名任命される場合です。人事部においては、この各事業場の推進担当者と採用スペックを念入りに調整し、採用のミスマッチがないように対策を立てることになります。

転勤や仕事上の配置転換にうまく馴染めない知的障害者の特性を考慮し、特例子会社設立による中・長期計画を立てる場合です。採用される者にとっては、転勤がなく、仕事が同じで、いつも同じ指導者といった、職場定着上に非常に大きなメリットが存在します。

どのようなモデルであれ、目標とする雇用率と採用数、そしてコスト面での裏付けを提案する必要があります。

【採用決定権者と障害者雇用推進責任者】

採用決定権がどこにあるのか、権限者は誰かをはっきりしておくことが大切です。これは、助成金の支給対象地を決めたり、申請人資格有無を決めたりする根拠となります。

また、法の定めにより、本社には障害者雇用推進責任者、各事業場には障害者職場生活相談員を配置しておくほか、それぞれの届出義務も課せられます。


障害者の職場と仕事の提案

【仕事を決める】

本章の1〜2を参考に、知的障害者に対して具体的にどんな業種、どんな職種についてもらうかを決める必要があります。仕事の内容によっては、他の事業場や下請けあるいは関連会社との調整が必要な場合もあります。しかし、プレゼンテーションにおいて、仕事の種類ならびにその規模をある程度具体的に提示することは大切です。

【雇用ニーズとスペックづくり】

続いて、仕事の種類や規模に見合った、求人スペックを計画します。具体的には、以下の5つの手順を踏みます。

  1. 向こう3年先までに採用すべき人員を決める
  2. 年齢の幅をおおまかに決める
  3. 学種や訓練校(センター)・専攻の内容を列挙する
  4. 仕事と障害種類、その程度の関係を予測する
  5. 施設・設備の改善箇所を申告する

雇用管理のモデル提案

【内部体制】

内部体制としてまず検討すべきことは、設備等の職場環境の整備についてです。生産設備の導入は、仕事のしやすさや生産性の向上だけでなく、快適でゆとりある職場をつくります。しかし一方で、設備投資の採算性が問われることになります。職場の環境作りには、さらに設備管理や作業レイアウト、安全衛生、防災避難等についても合理的な配慮が必要です。

内部体制のもうひとつの重要な点は、人的支援による職場環境の整備です。キーパーソンとかジョブコーチと呼ばれる人は、「モノ=機械」や「人=働く人」をシステムとして結び付ける役割を担っています。具体的に言うと、障害者の「仕事の訓練」を行い、「職場生活の指導」をし、「作業環境を整え」そして「職場定着のための合理的な配慮」をする人なのです。人員数ならびにその人選の基準についても計画を立て、プレゼンテーションしましょう。

【外部サポート】

知的障害者の雇用を考える際、この外部サポートの仕組を忘れてはいけません。身体障害者と異なり、自ら生活の支援体制を構築することを苦手としている知的障害者は、信頼できる外部のサポート機関を計画に組み込んでおくことが大切です。このような機関は、帰宅後や休日の生活のサポートや突然起きたトラブルの解決、そして離職時の受入などの支援を行うところです。企業のパートナーとして障害者雇用には欠かせない存在です。(第2章14「地域の専門機関と生活援助」を参照)

(雇用システム研究会編著)


「障害者雇用管理マニュアル」は、現在下記のページに全文掲載されています。そちらをご参照ください。

http://www.denkikanagawa.or.jp/employment/


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