知的障害者の就労支援を考える

1997年11月11日「総合リハビリテーション大会分科会8:
社会参加を実現する新たな就労」において4番目の話題提供者として
発表した内容の資料をそのまま掲載いたします。
<スライド9枚:時間約25分>


スライド1・タイトル

これから約20分少々の時間で、知的障害の就労支援をテーマに話題提供します。


スライド2・結論

このプレゼンテーションの結論は3つです。

  1. これまでは教育・訓練により知的障害者を完成した一人前の労働者にしようとがんばってきたが、この方法論ではノーマライゼーションが当然の現在の社会の変化にはついていけません。ひとりひとりの障害特性や能力にマッチした就労の場をみつけ、働きながら教育していく・支えていく仕組みが求められています。 → サポートには期限が無く、働いている人を継続的にサポートする仕組みが必要になっているのです。
  2. 障害者福祉が充実し地域で生活することを前提としたサービスが充実すると就労する知的障害者が増えているかというと、現実は逆になっています。(例:香川県では50%以上養護学校高等部より就労、神奈川県では15%程度)。就労することによる社会的自立は重要であると誰もが主張するが、実際個別の問題になると、本人・家族そして援助者にとっても魅力は無くなってきているのかもしれません。 → 本人にとって就労を魅力的な職場にするためには、自分の努力やがんばりがより良い生活スタイルの変化をもたらす仕組みを作る必要があります。 → 援助者は、本人あるいは家族が地域社会でどのような生活設計を立てるかその決定段階で有益なモデルを提案しなくてはなりません。時には、早期の段階からこのような提案は必要です。
  3. 従来知的障害者が働いている職場は、1)単純反復、2)変化が少ない、3)家族的な環境、4)恩恵的な雇用主の存在といった特徴を持っていました。特に、会社が福祉的就労の場に代わって「面倒見のよさ」を発揮してくれることが美徳と語られてきたきらいがあります。この美徳を求めるだけの知的障害者雇用の時代はもう終わりにしましょう。

スライド3・神奈川独自の展開

知的障害者が地域で質の高い生活ができるように神奈川県内では、さまざまな取り組みが行われています。その中の一つである、非常にユニークな地域就労援助センター事業について紹介します。 地域就労援助センターとは、今から30年以上前に設立された発達に問題を抱える子どもを対象にした医療と福祉を一体化させた、当時非常に先駆的な事業を開始した小児療育相談センターで生ま実践が契機で事業化されたものです。知的な障害をもつ人の医療・福祉・教育の選択肢が広がってきたが、大人になった人たちの就労環境は十分とは言えなませんでした。特に、学校を卒業し一旦就労した人あるいは福祉的な就労の場と相性が悪かった人などは、非常に限られたサービスしか受けられずにいました。 このように一般の労働力としては決して十分でない人たちも、働く経験を持つことにより、私たちと同じ生活スタイルで地域で生活で、そのこと自体がいわゆるリハビリにつながるのではないかと考え、ひとりひとりの実態に合った職場の開拓や支援が行われだしました。 この実践が1991年より、神奈川県・横浜市・川崎市の福祉部・局で事業化され、地域就労援助センター事業が開始されたわけです。現在、県内には7個所の地域就労援助センターがあり、職員が21名ほどいます。 地域就労援助センターの事業の目的は次のスライドで紹介します。


スライド4・就労援助センター

4つの目的のうち、この事業の特徴的な点をを取り上げて2点ほど紹介します。

  1. 完成された労働力でなくても、短時間就労や職務の再設計、そして最低賃金除外などを活用しながら、本人と会社とのジョブマッチを積極的に行ってきた点です。我が国の職業リハや進路指導の分野で、初めて「訓練・評価」をさほど重視しない事業展開をはじめています。
  2. そしてもう一つは、職場で働いている人をほぼ半永久的にフォローすることが正規の業務となっている点です。訓練・評価をさほど重視しない関係上、新規措置や新入生に追われる割合が非常に少ないのが特徴です。

このように、現在でも非常にユニークな活動を展開している就労援助センターではありますが、6年以上経過した現在では新たな課題が生まれてきています。

この大きな事業所規模への就労の取り組み例を次のスライドを使って紹介します。


スライド5・電機神奈川

電機という産業別労働組合の神奈川という地域限定された「電機連合神奈川地方協議会」は、約10万人の組合員により組織されています。この電機神奈川では、ひとりの組合員の子どもが知的障害という個性を持っていたということから、今から25年前の1972年より、障害福祉活動を全県下で展開してきました。 活動を開始した当初、「ともに学び・ともに暮らす」をスローガンに療育や教育の場の充実を目指してきましたが、しだいに社会の課題も大人の生活に重点が移ると同じくして、組合の活動も「ともに学び・ともに働き・ともに暮らす」と変化してきました。 そして、20周年の記念事業として、本格的に障害福祉・それも労働組合の持ち味が発揮できる、就労支援を中心とした事業に参入することが決まりました。具体的には、社会福祉法人を設立し、知的障害者のための通所の授産施設と地域就労援助センター事業を行い、この社会福祉法人と電機神奈川が一体となり「いわゆる福祉と企業との橋渡し」を行うことになったのです。


スライド6・電機神奈川福祉センター

社会福祉法人電機神奈川福祉センターでは、昨年の8月より、50名定員の通所授産施設ぽこ・あ・ぽこならびに横浜南部地区と湘南地区の2個所に就労援助センターの運営を行っています。 そしてこの法人と電機神奈川とが連携して、これまでなかなかできなかった組織的な知的障害者の就労支援活動を展開し始めました。

  1. 労使懇談会:まず、県内電機連合傘下の各事業所の労使代表者の懇談会において、労働組合から知的障害者雇用の問題を提案し、実際に授産施設の見学会などを計画・開催し、各社の採用計画にアプローチしています。
  2. 職場実習:これも労働組合から会社側に、養護学校や授産施設に通っている知的障害者の実習の受け入れを提案し、本人には会社で働く意味合いを学んでもらい、会社には知的障害者の職務の検討ならびに雇用管理のノウハウを学んでもらう機会としています。(昨年度24名実習)
  3. ボランティア講座:障害者が会社で採用された際、社内の理解者の有無が非常に重要です。そこで、授産施設を使い組合員が自発的に知的障害者に触れてもらいまた障害者雇用の問題を知ってもらうためのボランティア体験講座を継続的に開催しています。昨年9月より現在まで約1,000人の参加者があります。 また、授産施設では、授産科目に電機企業からの受注を受けたり、実習の場の協力など連携をとりながら、知的障害者ががんばることにより、「賃金」「労働時間」「仕事の責任」「人間関係」が段階的に変化するシンプルな仕組みを作り上げています。例えば、賃金は、頑張りに応じ月7,000円〜52,000円へと変化し、高額を得るためには作業室から実習環境へでなくてはならないといった単純な仕組みを作っています。 労働組合を中心とした取り組みと連携し、障害者雇用を促進に必要な知識やノウハウの蓄積、または情報提供を目的とした活動も行ってきました。次のスライドです。

スライド7・雇用システム研究会

神奈川で地域就労援助センターが誕生した頃から、「障害者雇用システム研究会」が自主的に発足、スタートしました。参加者は、企業の人事担当者、特例子会社の責任者、職安、就労援助センター、医療・福祉ワーカー、教師などまさに業際的な集まりで、これまで取り上げにくかった知的障害者雇用のさまざまな雇用のシステムについて議論してきいます。具体的には、

  1. 知的障害者を雇用している企業の人事担当者間で、雇用管理のノウハウや採用計画・方法について情報交換されました。例えば、トラブルが起きたときの解決方法や福祉・医療の専門機関の活用方法、採用前に必要な準備事項などです。
  2. 大規模な会社で知的障害者を雇用する際の有力な手法である特例子会社の設立支援を積極的に行ってきました。例えば、会社設立と申請や助成金の問題、会社役員会でのプレゼンテーション内容、障害者を採用する手順、賃金体系などの情報提供と相談です。
  3. 知的障害者の雇用管理全般に関する研究会での議論をまとめ、マニュアルを作成しました。

このマニュアルは次のスライドで紹介する「雇用管理マニュアル」です。


スライド8・雇用管理マニュアル

雇用管理マニュアルは、企業の人事・勤労担当者に、知的障害者の理解と採用から離職までの雇用管理上のノウハウをやさしくまとめたものです。


スライド9・まとめ

まとめは、最初のスライドの結論に戻ります。この3つのキーワードが、これから後の議論に取り上げていただければ幸いです。


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