入門講座:知的障害者の就労支援

機関紙「自閉児教育研究会 Vol 20.」1998年夏発行に掲載されたものです。
テーマは、「総合リハビリテーション大会」で発表したものと同様です。


1. はじめに

今年の7月(1998年)から、改定された「障害者の雇用の促進等に関する法律」が施行されている。今回の改定では、法定雇用率の引き上げとともに、知的障害者が障害者雇用の対象として正式に認められた。ここでは、自閉症を含む、知的障害者の雇用あるいは就労の問題点を簡単に整理し、今後の方向性を考察する。


2. 政策としての障害者雇用

障害者雇用は、労働政策として考えた場合、高齢化が進み減り続ける労働者人口の補完としての位置づけがある。一方、福祉政策として考えた場合、ノーマライゼーション推進に欠かせない地域社会における活躍の場確保としての意味合いがある。日本だけでなく、どの国においても、障害福祉のもっとも大きな根幹の一つに、「障害者雇用の場の確保・拡大」が掲げられている。


3. 現状の問題点

働く知的障害者の実態

現在、日本では知的障害者、つまり療育手帳(愛の手帳など呼び名は自治体により様々)保持者は約41万3千人いる。平成7年に厚生省では、知的障害者成人のうち約12万6千人を対象に就労の実態を調べている。その結果は、表1の通りである。

正規雇用者

パート雇用者

合計

18%

10%

28%

表1.障害者の就労実態調査結果(平成7年・厚生省)

18歳以上の知的障害者は、約30万人いる。この調査結果の割合をそのまま単純に全知的障害者成人に当てはまると、パート雇用ならびに正規雇用者の合計数は約8万4千人と推測される。

一方、労働省は、対象を障害者本人ではなく事業所単位で調査している。平成5年に5人以上雇用している企業を対象に調査した結果を表2に示す。

雇用されている知的障害者数 6万人
知的障害者の平均雇用年数 7年9ヶ月
知的障害者の平均賃金(月収) 11万2千円
事業所規模別による知的障害者の雇用の割合

29人未満

30〜99人

100〜499人

500〜999人

1000人以上

49.5%

34.3%

13.9%

1.3%

1.0%

表2.障害者の雇用実態調査結果(平成5年・労働省)

この結果からは、知的障害者の大部分は比較的小規模の企業で、何年働いても最低賃金程度の収入であることがわかる。

福祉就労の場の実態

学校を卒業した知的障害者の進路をもっとも単純に3つに分けると図1のようになる。これは、昼の通い先だけを図示したものであり、中には、どこにも入らないいわゆる「在宅」の人も存在する。

図1.卒業後の進路先(昼の通い場所)図・卒業後の進路先

一般雇用は実現しなかったが、労働力として何らかの力を発揮できる人に対して、保護的な環境での就労の場が準備されている。それが、図1の中央の「福祉就労」である。具体的には、「福祉工場」「授産施設」「小規模(地域)作業所」の3つがこれにあたる。以下には、このうち授産施設を取り上げ、福祉就労の実態を簡単にまとめる。なお、福祉工場は、全国に19個所しか存在せず、なかなか広がらないのが実態である。また、小規模作業所は、都市部を中心に非常に多数存在するが、福祉就労の場としての問題点は授産施設と似通っている。

授産施設とは、以下の3つを目的に設置された施設である。

このうち、就労支援は、現状ではその機能をほとんど果たせないでいる。知的障害者を対象とした授産施設は全国で869個所、利用者数定員で38,640人だが(平成8年度)、授産施設から一般雇用を勝ち得る人はほとんど存在しない。

また、職能開発や生活支援も、次第にその質が変わってきている。特に、障害者が働く仕事を確保・創出することが非常に困難になっている。受注契約を中心にしてきた授産施設が仕事を確保できなくなった理由はいくつも考えられる。外的な要因としては、1)企業が量産品の製造拠点を海外に求めた、2)流通の発達により在庫を減らし納期の回数が増えたり、時間指定が厳格になる、3)商品サイクルが短くなり短期間で仕様変更する、4)PL法などにより外注業者に求める品質管理が高くなったなどであり、一方内的な要因として、1)職員の製造技術や品質管理能力の向上が難しい、2)新たな設備投資が困難である、3)受注減に対する運営上の危機感の希薄さなどである。受注による下請け仕事が困難になってきたことから、最近では、施設固有の自主製品の開発に力を注ぐ所が増えてきた。しかし、マーケッティング、営業、そして商品開発、部材の調達、製造、在庫管理、顧客管理まですべてを施設内で完結しなくてはならない自主製品は、成果を上げるには受注よりはるかに多くの努力と施設職員の経営手腕が問われる。

仕事の確保が困難になると、勤務時間中(作業時間中)に収入に関係の無い仕事(例:学校のような作業教材)を利用者に提供したり、レクリェーションなどの時間が増えたりして、結果的に仕事時間が短くなる。つまり、職能開発の訓練時間とその質が明らかに低下する。

また、当然、授産の売上高が減少する。これにより、利用者一人ひとりに支払われる賃金(工賃)が減る。現在、授産施設の平均工賃は年間で10万円程度である。この額は、障害基礎年金の2級(年間80万円弱)と合わせても、年収100万円に到達しない。つまり、自立生活を支援する金額には、到底到達していないのである。

要約すると、一般雇用が困難な人あるいはその準備段階として、一人ひとりの障害の特性に合わせた仕事を提供し、ある程度の生活を維持するための賃金を保証することを目的とした福祉就労は、現実的にはその役割を果たせないでいる。つまり、更生施設などのデイケア・サービスに限りなく近づいている。

地域福祉の充実と一般雇用

平成5年に障害者基本法が改定され、「すべての障害者は、社会を構成する一員として、社会・経済・文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるものとする」と基本理念に記されている。そして、この理念を実現するために、障害者の雇用・就業の場確保が重要な課題になってきた。当然、学校卒業後の進路として、一般雇用を選択する生徒が増えていなくてはならない。しかし、現実はそうなっていない。表3は、神奈川県内の精神薄弱児養護学校高等部の卒業生が、パートあるいは正規雇用を含めて一般雇用した割合を示したものである。この結果からも、知的障害者の雇用が進んでいないことがうかがわれる。

平成6年度

平成7年度

平成8年度

平成9年度

19.7%

14.9%

16.6%

16.9%

表3.神奈川県内の養護学校卒業生の就職率

昼の通い先として、福祉就労の場の充実や地域生活を支援する様々な制度が誕生している。しかし、労働力としての知的障害者が増えることはない。原因として考察できる点はいくつも存在する。たとえば、1)障害の多様化に合わせて一人ひとりにあった教育プログラムが提供できない、2)就労へ向けての継続的な職業教育の不備、3)職場実習の機会の絶対的な不足と位置づけの問題、4)本人や保護者に就労へ向けての情報提供の不備などが考えられる。しかし、何よりも、本人や保護者にとって就労(一般雇用)が決して魅力的な選択肢となっていないのも事実である。


4. 3つのパラダイムシフト

知的障害者の就労(雇用)は、政策として重要な課題である。しかし、現実には、上記のような問題点が存在する。そして、この問題解決には、基本的な発想の転換が必要である。以下には、現時点で求められる、パラダイムシフトを3つのキーワードでまとめる。

完成した労働者を求めるのではなく働きながら教育

特殊教育においても福祉就労の場においても、訓練・教育により完成された労働者を育て、その後は自分の力で雇用を継続したり転職することを期待していた。これは、比較的軽易な身体障害者を対象とした、従来の職業リハビリテーション・モデルである。しかしながら、知的障害者にこのモデルは通用しない。就労時点で職業人として完成された労働力を知的障害者に期待するのは非現実的であり、もしこの幻想を求めるなら、訓練機関は誰も知的障害者を就労させようとしなくなる。また、就労した後、本人の力ならびに雇用した企業の努力に任せっきりでは、知的障害者の雇用の場が拡大することはあり得ない。

就労時点で何らかの不十分なところが存在しても、その後の継続的な教育あるいはサポートによりそれを補い、就労を継続し、社会的自立を実現するモデルこそが求められている。

働くことを魅力的にするために

学校卒業後、障害基礎年金と家族の経済的な支援を加え、就業時間が短く、レクリェーション活動が豊富で、障害特性を理解する職員が常に親身に対応してくれる、福祉的な通い場所が増えることは、地域福祉を推進していくうえで非常に重要である。そして、多くの知的障害者本人や保護者にとって、これは非常に魅力的である。何よりも、離職のリスクが少なく、長期的な安定と見通しがもちやすい。

逆に、一般雇用を選択すると、離職と離職後に生じる職探しのくり返しなど、見通しが不安定になる。いったん離職した後、「すぐに福祉就労の場が利用でき、少なくとも通い先の不安はない」といった仕組みには現在なっていない。また、リスクに見合っただけの高額な収入が得られるかと言うと、最低賃金が目安になる程度である。

知的障害者の一般雇用を促進するためには、従来型の抽象的な理念だけでなく、「働くことが魅力的であるための」具体的な制度ないし育成のプログラムが必要である。

面倒見の良い会社ではなく普通の会社で雇用

これまで、多くの知的障害者が雇用されている事業所は、以下の4つの特徴をもっている。

  1. 単純・くり返しの仕事がある
  2. 仕事内容の変化が少ない
  3. 小規模で家庭的な雰囲気
  4. 面倒見の良い雇用主・責任者がいる

特に、学校や福祉機関からの事例報告として登場する事業所は、4)の面倒見の良さが強調されてきた。仕事だけに限らず、職場生活から帰宅後の生活までも含めたケアを、授産施設や作業所と同じように期待することすらあった。確かに、この4つの特徴をもつ会社は、今後も知的障害者雇用を促進する上で重要な役割を果たすと考えられる。しかし、産業構造の急激な変化と高付加価値・ソフト中心へと時代が変化していく中で、今まで以上の雇用促進を望むのであれば、a)中手・大手の企業、b)ごく常識的な人事・労務管理の範囲で雇用が可能な仕組みが不可欠である。


5. 求められる変化

新たな発想を基に、知的障害者の就労を支援するために、求められる変化の内容を以下にまとめる。

移行

これは、教育や福祉、職業リハビリ機関から一般雇用へスムーズに移行することを目的とする。具体的なプログラムとしては、次のようなものが望まれる。

  1. 早期からの就労ガイダンス:障害者雇用あるいは知的障害者が働いている職種、生活スタイル、そして障害者雇用を促進する各種制度など、比較的早い時期から進路に関しての適切な情報提供を段階的に行うプログラムが必要である。
  2. 計画的な実習・職場体験プログラム:レクチャーや模擬的な環境での体験でなく、実際の職場で仕事をする経験は、本人にとっても雇用する企業にとっても大切である。しかし、実際に、このような実習のプログラムが継続的かつ計画的に組まれているわけではない。雇用を前提とした実習以外で、学習のカリキュラムの一環として組まれている実習は非常に少ない。そして、多くの場合、労働環境へ移行する際に最も大きく変化する「賃金」という条件を扱えないでいる。
  3. 中間的な労働・収入の場の確保:上の実習同様、学校や福祉機関から一般雇用へと移行するステップを小さく、そして段階的なものにするためには、「賃金」「労働時間」「仕事の責任」「対人関係(障害を理解する人の存在)」などといった条件が、中間的な場所を確保する必要がある。例えば、現在月収1万円弱の授産施設に通っていた人が、最低賃金を越えてフルタイムで働くと月10万以上の賃金を得ることになる。この賃金格差は、当然他の条件の変化も意味する。中間に、月収5〜6万円で、労働時間や仕事の責任の重さなどが少し変化する場面が存在すれば、移行プログラムのバリエーションは豊富になる。

継続的なサポート

これは、いったん一般雇用した人に対して、継続的に提供するサポートのことである。多くの働く知的障害者は、就労してからもさまざまなサポートを必要としている。以下には、就労に直接関係する具体的なサポート内容をまとめる。

  1. 職場のOJT(On the Job Training)や研修プログラムを修正・補完する
  2. 職場生活上の問題解決
  3. 本人・家庭と職場との関係の調整
  4. 離職や転職に関する相談・支援
  5. 家庭生活や財産管理など福祉サービスの専門家との調整

雇用管理ノウハウ

多くの事業所で知的障害者の雇用を促進するためには、企業としての雇用管理上のさまざまなノウハウが必要になる。例えば、a)障害特性に合った職務を見つけたり・集約する方法、b)賃金基準の設定、c)社風に合った人を採用する方法、d)雇用に対する助成金の制度、e)適職配置や設備、f)研修方法、g)職務規律の周知、h)安全管理指導の方法、i)キャリアアップ(キャリアダウン)、j)離職対応などである。多くの企業、特に比較的規模の大きな企業が、知的障害者を雇用できない理由の1つが、この雇用管理上の課題が解決できないからでもある。人事や労務管理の専門家と知的障害者の教育・福祉の専門家が力を合わせて、この課題を一つずつ整理することが望まれる。

(志賀利一)


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