敷金紛争解決手段

 前述したように、敷金返還をめぐる紛争では、やはり話し合いによる解決が最も良い方法です。 まずは可能な限り資料を持ち合い、話し合いによる解決を図るべきです。

 当事者間での話し合いが行き詰まってしまった場合でも、すぐに法的な手段に訴えるのではなく、 第三者の力をかりた解決方法も検討してみましょう。 (ただし、相手方が非協力的な態度をとっているような場合や、お互いの主張や認識に  大きくズレがあるような場合で、もうこれ以上時間を無駄にしたくないといった場合には、  迅速な解決を図るため司法手続をとることも考えられます。)
 第三者機関としては、 宅建協会の相談窓口や 国民生活センターなどが考えられます。 こういった機関は多くの相談事例を蓄えているので、非常に力強いものとなるでしょう。 もう少し踏み込むとすれば、最終的な法的手段に訴える前の準備段階として、 弁護士や司法書士へ相談することも考えられるでしょう。

 そしていよいよ司法手続をとるしかない、といった状態になった場合にも、 すぐに民事訴訟に訴えるのではなく、その具体的な状況にあった司法手続を選択することが大切です。 以下、敷金紛争の解決に適した司法手続であると考えられる民事調停の手続きを見てみましょう。

《民事調停》

 調停手続きは、調停主任をつとめる裁判官と、調停委員と呼ばれる者2名(弁護士・司法書士等の 法律専門家や各種団体の有識者・学者の方など、一般社会の中から選出される)が紛争当事者の間に 入り非公開の場で話し合いを進め、当事者が互いに譲歩しあって合意を形成し紛争を解決する制度です。 少額訴訟の訴額上限が30万円なのに対し、調停手続きでは訴額が90万円(簡裁上限)を超えるものも その対象となります。

 民事調停手続は、法律だけではなく、常識や当事者の心情等その他一切の事情を考慮した 紛争解決が図られるため、話し合いによる解決が望ましい敷金紛争の解決には非常に適した 制度であると言うことができるでしょう。
 この手の紛争に詳しい専門家の方が間に入ることによって、お互いに譲歩をするきっかけができ、 双方納得したうえで、比較的迅速に紛争を解決することも可能です。
 ただし、お互いに主張を譲ろうとしないなど、当事者に話し合いによって妥協点を見つけ出そうとする 積極的な意思がなければ調停は成立せず、この制度による紛争解決も難しくなってしまいます。
 無駄に調停による話し合いを重ねるような結果にならないよう、調停手続を選択する前に 相手方の出方をよく考えてみる必要があります。





 敷金紛争解決のための民事訴訟の利用には、通常訴訟と少額訴訟の二つが考えられますが、 ここでは、最近その役割が最も期待されている少額訴訟制度を見てみることにします。

(なお、一般に時間と費用がかかるとされる通常訴訟ですが、敷金返還をめぐる 紛争であれば比較的迅速な処理がなされることでしょうし、少額訴訟が提起できない ような高額な事例であっても、通常訴訟によって解決を図ることは十分に可能です。)

 敷金返還をめぐる紛争は、少額訴訟においても多くの割合を占めるに至っています。 少額訴訟の判決は強制執行が可能であり、少々怖い感じもあるかもしれませんが、 敷金返還をめぐる紛争は、和解で解決することが多く、当事者間での行き詰まった紛争を 経験を積んだ裁判官や司法委員の方の判断に委ねて解決することができることを考えると、 その役割は非常に大きく、また頼もしい制度であるということができるでしょう。 以下、主な注意点を見ていきます。

 + 訴訟の争点となるのは主に修繕特約と原状回復義務に関するものです。
  当事者はこの特約の有効性と原状回復義務の範囲などをめぐって
  訴訟で争うことになります。

【 原告側の主な注意点 】

1. 訴えを定期する前に、次のことを確認しましょう。
 * 少額訴訟制度での解決に適した事例かどうか。
  例えば、次のような事例の場合は、通常訴訟による解決を考えてみる
  必要があります。
   → 事実関係が複雑、決め手となる証拠が少ない、鑑定等をする必要がある、
     審理当日に証人を呼ぶことができない、請求額が30万を超える可能性
     がある、相手方が通常訴訟での審理を望んでいる、
     徹底的に白黒つけたい、等
 * 契約締結時に敷金として金銭を渡したかどうか。
   → 権利金や礼金の名目で支払った場合は原則として返還されません。
     保証金の名目の場合は、一部返還される可能性があります。
 * 賃貸借契約が終了し、賃借物の明渡しが完了しているかどうか。
   → 明渡しが完了していなければ敷金を請求することはできません(判例)。
 * 契約書等で敷金の返還時期が定められていないかどうか。
 * 賃料の不払いや、自分の不注意による毀損などの債務不履行がないかどうか。
   → あれば敷金から相当額が差し引かれます。
 * 特約の有効性について十分に検討できたかどうか。
   → 4. 各特約について〜参照。
 * もう一度賃貸借契約の内容を把握しておきましょう。
   → 賃料や敷金、賃貸期間等、詳細に訴状へ記載します。

2. 少額訴訟は原則として一日、しかも1〜2時間で審理を終えます。
 審理がスムーズに進められるよう、注意点 1. で検討した事項を含め、
 できるだけ詳細な訴状を作成しましょう。
 訴状は簡易裁判所に定型の訴訟用紙がありますので、
 裁判所の方に書き方を教わって書くようにして下さい。

3. 審理当日に備え、相手方の反論もふまえて自分の主張、立証方法などをまとめ、
  十分なイメージトレーニングをしておきます。訴状を作成し終われば、
  これからの審理をイメージしやすくなるでしょう。



【 被告側の主な注意点 】

1. 被告側は、少額訴訟による審理を拒否し、通常訴訟による審理を求めることが
  できます。まずは少額訴訟での審理を行うかどうかを検討してみましょう。
  少額訴訟では反訴を提起することができません。また判決に不服があっても
  控訴をすることはできず、異議を申立てることのみが認められます。その反面
  迅速な解決が望めるほか、支払猶予判決が認められうるなど、被告側のメリット
  となる点もあります。反訴を提起するつもりもなく、迅速な解決を望むのであれば、
  少額訴訟による審理を選択すべきでしょう。

2. 少額訴訟に応じる場合には、答弁書を書いて提出しましょう。
  届いた訴状に記載された原告側の主張を一つ一つ検討し、裁判所の方の教示も
  受けながら、自分の主張立証を詳細に記載して下さい。

3. 多くの場合、原告側は特約や原状回復義務についての裁判例などを勉強してから
  訴状を作成しているものです。むやみやたらに肯定や否定をするのではなく、
  被告側も裁判例などを調べてみる必要があるでしょう。特約についても、
  契約時の状況などによっては、その有効性の範囲に変化が生じることも
  あり得ます。






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