「ハンセン病差別の現状    〜長島愛生園での交流を通して〜」

藤澤めぐみ


  「熊本地裁の判決で勝訴した事で、日本の九十年以上にわたるハンセン病差別が明らかにされた。しかし、判決が出たからといって、すぐに差別なる訳ではない。 生ある限り、差別と闘っていきたい…」  
  昨年七月、岡山県の長島愛生園を訪れた時、原告の一人として立たれた方からお聞きした言葉です。この言葉を聞いた時、私は頭をガツンと殴られたようなショックを受けました。  二〇〇一年五月十一日、熊本地方裁判所国家賠償請求訴訟(以下  国賠訴訟)を受けて、国は控訴を断念し、ハンセン病隔離政策における謝罪をしました。原告に立たれた方々が、身を削りながら証言して勝ち得た「勝訴」の結果です。しかし、判決から二年経った今も、ハンセン病に対する偏見差別は終わっていません。現在、愛生園の平均年齢は七五歳。勝訴しても「生ある限り」偏見差別と闘い続けなければならない現実が、ここにあるのです。  一連の国賠訴訟の中では、原告に入った人もあれば入らない人もあります。それから、「入れない」という人もあります。入所者のほとんどは家族や友人・知人との関係を絶たれ、園にしか居場所のない人が多いのが現状です。そのような人にとって、唯一の交流の場である園内の人間関係を考える時、原告には入りたいけれど、入る事を躊躇される方もあるというのが現実なのです。
  このような構造を産んだのは、国のハンセン病に対する誤った「隔離政策」にあります。国は「祖国浄化論」を掲げ、社会に対しては「業病」「天刑病」と説いて恐怖を煽り、療養所入所者には「あきらめ」の思想を植えつけました。   長島愛生園では、開園当初、入所者には真宗・キリスト教・日蓮宗などの四つの宗派宗教からの選択しか認められておらず、それら宗教は「死」を前提とした役割でしかありませんでした。本願寺教団も、初代園長の光田健輔の要請を受け、真宗同朋会の発足と同時に布教を行うなど、開園当初から入所者の方と関わりをもっていました。しかしそこに於て、入所者に「あきらめの業」を植えつけ、差別を温存させてきた事は否めません。   ハンセン病とは、正しくは「らい菌」という細菌によって感染する「感染症」の一つで、現在では極めて感染率が低い事がわかっています。また、仮に感染したとしても、百パーセント治る病気です。ただ、その後遺症から、完全治癒する事がわかっても、国は社会から隔離し、差別してきたのです。
  「ハンセン病」は四種類に分類出来、大別すれば「少菌型」と「多菌型」に分けられます。「少菌型」は後遺症もほとんど無く、自然治癒する事もあります。しかし「多菌型」は、顔がむくんで腫れたり、指先に変形が見られるなどの後遺症が残ります。ですから、ハンセン氏によってらい菌が発見され、特効薬のプロミンが発明されるまで、欧米ではハンセン病を「不治の病」を意味する「レプラ」と呼び、日本でも「疫病」を意味する「癩」という言葉で表現し、平成八年の「らい予防法」廃止まで「ハンセン病」と呼ぶ事はなかったのです。
  この度の国賠訴訟の勝訴を伝える報道では、「ハンセン病元患者」という言葉が多く使われました。その言葉は、現在でも様々な場面で使用されています。しかし、例えば私たちが盲腸で入院し、手術を終えて退院した時、私たちは「元盲腸患者」と呼ばれるでしょうか?風邪をひいた後「元風邪ひき患者」というでしょうか?同じように、「ハンセン病元患者」という言葉は、現在治癒しているにも拘らず、「かつてハンセン病患者であった」という病に対する差別のレッテルを貼っているのに他なりません。
  全国ハンセン病療養所入所者協議会(全療協)では、現在、施設に入所されている方については「入所者」という言葉で統一されています。しかし、病気に対する誤った見解から、本名も名乗る事も出来ず「強制隔離」された入所者の方々にとって「入所者」という言葉も、皆で決めた言葉ではあるけれど、完全に納得できるものではないと、表情を曇らせておられました。
  本願寺教団におけるハンセン病に対する取り組みは、まだまだ一九八六年の「S布教使ハンセン病差別法話」問題以降に始まったばかりといっても過言ではありません。三月現在、四九九名の方が愛生園で生活されていますが、入所者の方々の思いや願いは、一人一人違います。今後も現地交流を通じて「一対一」の関係性の中で話を聞き、病気に対する偏見差別を断ち切っていく事が、私たち浄土真宗のみ教えに生き、御同朋を掲げる真宗僧侶の一人として、責務であると思います。
  「生ある限り差別と闘っていきたい」とおっしゃった入所者の方の言葉のように、私も、新たな差別を生まぬよう、共に考え行動する一人でありたいと思います。

京都の藤澤さんから、宗報5月号の原稿の掲載許可をいただきましたのでアップします。
藤澤さんに感謝いたします。


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