5 健康な心、病気にも勝つ心の持ちかた

今までは、外的な要因(細菌など)だけでなく、種々のストレスや私達の性格までもが知らないうちに、自分の健康や病気に密接に関係していることを学びました。ここまで読み進めてきたあなた!自分はストレスが多いとか、性格がガンになりやすいなどとガッカリした人はいないでしょうか?
心配御無用です。それではいよいよ自分のストレスグラフを成長させてストレスに上手に対応し、自分の性格や考え方をより健康的に改善させる方法を勉強しましょう。

■ 悩みがない人間はいない!

四苦八苦の「生・老・病・死」は人間が古来より感じてきた最大の苦悩、そして他に恋愛問題や近親者との死別などは「愛別離苦」、嫁姑、職場の人間関係などは「怨憎会苦」、ブランド品や学歴への欲求、社会に出てからの地位、財産、名誉などは「求不得苦」、肥満や体形などの悩みは「五陰盛苦」。この4苦を含めたものが八苦でした。確かに通常の私たちのストレスや悩みの多くは「生・老・病・死」の四苦よりもむしろ他の四苦に含まれるといってよさそうです。そして現代社会ではこれらの悩みは大人だけの専売特許ではありません、今は物心のついたばかりの子供から受験戦争やいじめ、ファミコンなどの物質欲を刺激される中で多くのストレスをかかえながら成長していかなければならない時代なのです。このように考えると、
恐らく世界中でストレスや悩みが全くないという人はいないはずです。一見恵まれているように思われている先進国、日本に住む私達が本当に幸せかという疑問が沸いてきます。

『みんな違ってみんないい』

現在の偏差値優先の教育も、現代人を必要以上のストレス に追い込んでいる大きな原因と言えるでしょう。阿川弘之さんは高校教育の目的を「小さな完成品を作ることでなく、大きな未完成品を作ること」と述べました、またビートたけしさんも「学校は人生の準備体操をしているだけ、本番は社会に出てから・・・」と言っています。さらに世界的な数学者のピーター・フランクルさんは地方の教育関係者から講演を依頼され、よく「どうしたら日本の子供の個性を伸ばす教育ができるでしょうか?」と質問されるそうです。その時ピーターさんは「日本人も十分に才能はあります、個性を潰すことだけ注意してください。比較は意味がありません、俺がそうだったからというのは止めて下さい。人間を駄目にするのは他の人との比較です。大切なのは今日の自分が昨日の自分より、少し良くなること。モノを持たず、頭と心に財産を持つことをモットーとして下さい・・・」と答えるそうです。これらが本当の個性を尊重した教育の基本的な考え方と思いますがいかがでしょうか。

『ガンジーの7つの箴言』
インドの偉大な指導者、ガンジーは亡くなる前に資本主義社会がこのまま進めば以下のような不都合な事態が生じると予言したそうです。
1. 理念なき政治 2. 労働なき富 3. 良心なき快楽 4. 人格なき学識 
5. 道徳なき商業 6. 人間性なき科学 7. 献身なき信仰
はたして現代はガンジーの予言通りになってしまったようです。よく噛みしめてみたい警告です。

さて、でも教育がいけない、金中心の世の中が悪いからダメだとして、ストレスや悩みをすべて諦めて受け入れなければならないものなのでしょうか?ストレスを解消し、悩みを解決する方法はないのでしょうか?その答えは私たちの心の中にあります。なぜなら人は自分で考え方や日常生活の仕方を変えることによって、今までどうしようもないと思っていた問題も必ず自分の力で解決できるようになる潜在能力を持っているからです。これは先にも述べたように自分のストレスグラフを大きくして今のストレスを健康な緊張の範囲にもっていくということなのです。これから以下の順番で自分の悩みを整理し、解決する練習をしてみましょう。

■ なぜ人は悩むのか?を知ろう!

あなたの悩みの原因はなんですか?まずこれを分析して明らかにすることが悩みを解決する第一歩です。ほとんどの場合、悩みは何か一つの事や、ある考え方にこだわりつづけていて生じることが多いのです。何かの考え方や物事、そして特定の人にこだわりを強く持っていると、行きづまったり、不愉快な結果が生じやすいのです。なぜならあなたと同じようにすべての人は誰でも自分自身のやり方や考え方で満足のゆく結果がえられることを期待しているからです。しかし想像してみてください。すべての人が満足するように自分の思い通りの学校へ進学し、良い会社へ就職し、そして素敵な恋人と結ばれる、そんなうまい具合に物事が運ぶことは可能でしょうか?現実には多くの人々は期待が裏切られ、思うような結果がえられず、そのために悩みや苦しみが生じるのです。結局、何かにたいする過度な期待やこだわりが結果的に現実とのギャップを生じ、これが自分を苦しめているという事実を自覚することがまず解決の第一歩なのです。


  

 
■ 悩みを解決するために!

物事がうまく運ばずに悩んでいる時に注意しなければならないのは、自分の過度な期待やこだわりを棚に挙げて、逆に“あの人があの時に自分を助けてくれなかったから”と、その原因を他人のせいにしたり、“すべて自分が悪いんだ”と必要以上に自分を責めてしまうことです。しかしこれは両者とも賢明な考え方ではありません。なぜならこれらは“人は自分自身を100%コントロールすることはできない”という真理に気づいていない考え方だからです。あなたは自分自身を完全にコントロールして生活していますか?誰もが自分自身や自分の子供をさえ完全にコントロールできないように、他人の行動や考え方が自分の思惑どおりにならないのが当然なのです。そうです、相手が自分の思い通りになるように期待するのはどだい不可能なことなのです。もしあなたが自分の悩みの原因をいつまでも他人のせいにしたり、逆に自分自身を必要以上に責めてばかりいたらあなたは悩みから永遠に開放されないでしょう。

旅人と運命の神(イソップ物語)
長い道を歩いた旅人が、疲れきっていたので、井戸のふちに横になって眠っていた。もう少しで井戸に落ちそうになったときに、運命の神様がやってきて、旅人を起こして次のように言った。“おいおい、おまえが中に落ちると、自分がうっかりしていたのだとは思わずに。私のことを悪くいうだろう”。人はよく運が悪かったというが、運が悪かったといって逃げているのだ。    青い鳥を探す心理;加藤諦三より

@あなたが変われば相手も変わる?
相手があなたの期待に答えてくれず、いつもむなしさを感じているあなた、それならあなた自身が変わってみませんか?たとえば大きな声で挨拶をしてみる、余分な体重をへらす、身体を鍛える、身体に悪い習慣をやめる、さまざまな知識を身につけるなどです。人が変わることを待つより、勉強して、自分を変え、成長していくほうが問題解決の近道ではないでしょうか?あなたの態度や表情が変わった時に相手も自然に変化していく可能性が生まれるのです。・・・“他人と過去は変えられない、変えることができるのは自分と未来である。”“賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ”です。

A負けるが勝ち!
何かにこだわっていて、それがうまくいかず、またそれを諦め切れずにストレスを感じているあなた。長い目で見て自分にとってマイナスになりそうなことは思い切ってやめてみませんか?物事には必ず初めがあれば終わりがあるのです。確かにやりかけたことを途中で放棄したくない気持ちはわかります。しかしそれを続けていく場合のメリットと、デメリットを冷静に検討してみてください。よく考えて、もしデメリットが大きい場合には思い切ってやり直す勇気も必要です。

“試験の時にできない問題にかかずらわっていると時間がなくなって、できる問題も解答しないうちに試験終了になる。
試験ではできない問題を飛ばしていく。人生も同じことである”
 青い鳥を探す心理;加藤諦三より

B災い転じて福となす
よくない結果にがっかりしているあなた、物事はいろいろな側面をもっています。“人生万事塞翁が馬”という諺をしっていますか?一見あなたにとって不運な出来事と思っていた事が最後に良い結果に結び付くことも少なくありません。逆に幸運と思われた出来事が最後に悲劇をもたらす場合もよく見られます。たとえば最近の話題を見ていても、学歴、地位、名誉と人がうらやむほど順風満帆にきていた高級官僚が汚職事件に巻き込まれて逮捕されています。不運な出来事にうちひしがれているあなた、物事を判断するときに悲観的な見方ばかりをしていませんか?一度ゆっくりと深呼吸をして考え直してみましょう。長期的な視野にたって目の前の問題を見直してみることも生きていくうえで大切な知恵ではないでしょうか。

『人間万事塞翁が馬』
中国、漢の時代、ある国境の近くに塞翁という老人の一家が住んでいました。ある時一家が大切にしていた馬が国境を越えて逃げてしまいました。当時の馬はとても大切な財産です、塞翁はもちろん午を可愛がっていた若い息子は大変がっかりしました。ところがしばらくすると、その馬はもう一頭、他の馬と一緒に戻ってきたのです。2頭の馬をえた一家はその幸せに酔いしれました。しかし新たに一家に加わった馬は気性が荒く、息子が乗っているときに突然に暴れだし、息子は落馬、足の骨を折ってしまったのです。当時は今と違って医療が発達していません、足の骨を折るということは一生歩行が不自由になるということでした。一家は息子の非運を嘆きました。しばらくすると隣の国と大きな戦争が始まりました。村の若者はすべて戦争に駆り出され、ほとんどが戦死してしまいました。しかし足の骨を折っていた塞翁の息子は徴兵から逃れ、その後も一生を穏やかに過ごしたのです。人生、不幸なこと、幸福なことに出会います。しかしその出来事がその人にとって本当に良かったのか悪かったのかは、その時点で簡単に判断することはできないことを教えています。


忍法!! ストレス回避の術!

○○○だけど ○○○だから良かった! ありがたい!!
危険な関係ーストレスと血圧より
杏林大学医学部第2内科教授石川恭三氏 日医ニュース1997.4.20


C失敗は成功のもと!

前にもふれましたが、一生懸命に努力したからといって必ずしもすべてのことがうまくいくとは限りません。しかし何かに失敗したということは、新しい別のやり方や考え方をすべきだということを意味しているのです。失敗はあなた自身の経験を豊かにするもので、人生は試行錯誤によって開かれるものなのです。したがって、ある一つの方法がうまくいかなければ、他のやり方に変えればよいのです。そうすることによって、たとえ一時的に悲しみや苦しみを味わうことはあっても、やがて必ず望ましい結果をもたらすような生き方ができるようになります。“雨ふって地固まる”“艱難汝を玉にす”です。この世の中に失敗を一度も経験したことがない人は誰もいないでしょう。ただし失敗したあとどうするか?その対処法が成功への鍵!なのです。

“完全主義の人は、無駄を嫌いながら、最後には人生そのものが無駄としか思えないような生き方をしてしまう
“焚火にあたろうとするものは、煙を我慢しなければならない”
 青い鳥を探す心理;加藤諦三より

■ 自分を変える時のコツ!

まず現状をあるがままに受け入れて、あなたの考えや行動をよく見つめてみましょう。そうすればあなたの求めている満足感や幸福感の達成を妨げているものが何かが明らかになります。
@まず自分をよく見つめ直そう。

 ア。あなたにとって望ましくないことをもたらすものは何ですか?
 イ。何故、それを変えようとしないのでしょうか?
  変えたあとには悪いことばかりでなく、何か良いことが起こることは期待できないでしょうか?
 ウ。今までとは何か違う新しいやり方はないですか?
  別なやり方で、望ましい結果をもたらし、悪いことが起きないようにはできないでしょうか?


A笑う門には福来る。蒔かぬ種は生えぬ

次に、自分にできそうな新しいやり方を、頭の中に思い描いてみましょう。それが今までの効果的でなかったやり方を補い、よい方向へ変えてくれるかもしれません。次にそのような新しいやり方を実際に行ってみた結果を想像してみましょう。そしてその新しい考え方や振舞い方が、あなたに望ましいものであると判断できたなら、さっそく日常生活で実際に試してみるのです。いつも、幸福な満ちたりた生活を送ることを目標にしましょう。あなたにとって望ましい結果をもたらすことは積極的に行い、望まない結果をもたらすことはしないようにしましょう。

B自立して生きよう!
前向きに行動している時でも常に、自分自身をよく見つめ、自分の考え方や行動を分析し、その結果を冷静に評価する習慣を身に付けましょう。ここで大切なのは、あなたが本当に望んでいるものが何かを、十分に意識するのです。たとえ、人とうまくやってゆくためであっても、自分の要求や希望をすてたり、自分の目的をないがしろにしては長続きしません。人の目ばかり気にしていては自分の気持が萎縮してしまいます。自分の希望を捨てて他人とうまくやることを優先させるのではなく、自分の希望と相手との関係を両立できるように冷静に工夫していくのです。実際に人が自立するということは、他人を無視したり、他人から全く独立した人間になることではありません。自立するということは快適な満ち足りた生活の場を周囲の人々との間につくり出すことができる人間になるということです。なぜなら人は生きていくために誰でも常に周囲の人々から、さまざまな援助や協力、つまり心の支えを得ることを必要としているからです。たとえば悪い生活習慣(睡眠不足、暴飲暴食、喫煙など)をやめて、健康になりたいと思うときなど、まわりの人たちの援助や協力が得られないと、なかなかうまくいかないものです。不規則な生活や、特に喫煙などをやめる場合には、なかなか一人だけの努力でできるものではありません。人は誰でも他の人に見守っていてもらったり、自分の気持ちや考えを理解してくれる人がいる時に、自分の目標や希望をかなえることができるのです。


C思い立ったが吉日

あなたにとって望ましいことを今日から積極的にしてみましょう。たとえば散歩や運動をしてストレスを解消したり、ちょっと昼寝をしてさわやかな気分になったり、友達とおしゃべりをしたり、ペットを飼ったり、自分の趣味を楽しむことなどです。もちろん音楽を聞いたりヨーガや気功、呼吸法などもよいでしょう。このようにして気分を転換することによって、自分が不満を感じる状況から心身を遠ざけ、結果的にタバコやアルコール、薬などに頼りすぎることを避けることができるのです。ここで大切なことは、あなたの考えや行動をよく自覚して、あなたを不幸にするような人たちや物事には頼りすぎないようにすることなのです。自分にとってマイナスになるような人や物に頼らず、自分の考えや判断で行動できるようになれば、それだけ自信や意欲がわいてきます。また、もしそのような努力がうまくいかない時があっても、決してあきらめることなく、あなたが納得できる他のよりよいやり方を、さがし求めていけばよいのです。
 

本当の幸せとは

人の一生は不思議なものです。皆、一人一人が自分の幸せを見つけるために必死に悩みながら生きています。ちょっとした幸せに喜び、不幸に涙して。

この世に生を受けたばかりの赤ん坊の時には打算も何もなかった純粋無垢な私達です。しかし、いつの頃からか他人より良い成績をとってよい学校に入ること、よい会社に就職し、裕福な暮らしをおくること、人に誇れるような名誉や地位をえることなど、人生の目的や価値観が形成されてきます。そして実際に社会生活を送るようになると、皆が多くの悩みやストレスにもまれながら必死で生きるようになるのです。そしてその競争に勝ったものは勝者とたたえられ、波に乗りきれない者は落ちこぼれと言われるのです。しかしそのようにして歯をくいしばって得た仕事や地位、家や車、美味しいレストランでの食事や旅行、これらが私達に与えてくれたものは何なのでしょう?本当にそれが人生にとって究極の目的と価値だったのでしょうか?
このような価値観が身に付く前、まだ幼かったころ見た美しい夕焼けや星空、友達と暗くなるまで遊んだ広場、澄み切った小川で小魚をすくった夏の日、母がにぎってくれたおにぎり、たとえ裕福ではなくても毎日が楽しい日々でした。そしてその頃を思い出すと、誰でも不思議に懐かしく幸せな気分になれるものです。あの頃の自分に変えることは不可能なのでしょうか?
  

おわりに、死も生のうち?

人には古来より人種や年齢、さらに生まれた家柄が違っても変わらないものがあります。それは他の動物や植物と同様、人間もこの世に生を受けた瞬間から確実に死を運命づけられているという事実です。いたいけない生まれたての赤ん坊でさえも刻一刻と着実に死へ向かって歩んでいるのです。たとえ私達がいくら死をきらって湯水のごとくお金を使ったとしても、死は誰にでも必ず平等に訪れます。そうです、死は生の最終段階にある現象、生の一部なのです。私達は死を忌み嫌うべきものとして目を背け、それを意識しないで生活しがちです。しかしその結果、逆に大切なことを見失って、本当に貴重な一分一秒、一日一日を無駄に過ごしてはいないでしょうか?実際にけがや病気などを経験して生や死について考える機会を持ったために、健康のありがたさや生きることの素晴らしさに気づき、その後の人生をよりよく生きることができるようになった人々も多いのです。私達に与えられたこのかけがえのない人生をどう生きるかはまさに私達、一人一人の心にまかせられているのです。結果でなく生き方こそ、その人間の誇りです。
さあ、あなたはどう生きますか?


この冊子は東京家政学院大学心理学研究室の 重久 剛 先生が
英国の心理学者 EysenckのBibliotherapy(書籍療法)を翻訳
された文章を参考にまとめなおしたものです。

本田 宏(ほんだ・ひろし)

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