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スタンフォード大学のロボットカー「シェリー」が、自動車用トラックコースでプロドライバーに学ぶ

 

スタンフォード大学は、スポーツカー「アウディTTS」の自律制御に取り組んでいる。「シェリー」と名付けられている、そのロボットカーは、時速200キロ弱で自動車用トラックコースを疾走する。さらなる走りを追求するべく、プロドライバーの脳活動の研究も始められている。

トラックを周回する白いアウディTTSは、アンテナの多さを除けば、遠目には普通のそれと変わらない。米カリフォルニア州、サクラメントの北に位置するサンダーヒル・レースウェイパークでの光景だ。タイヤが悲鳴を上げながら、減速区間であるシケインカーブを高速で通過する。直線では、エンジンがうなり声を上げながら、最高速度の時速200キロ弱を記録した。約5キロのコースの周回には2分とかからない。プロドライバー並みのタイムだ。

注目すべきは、運転する者の姿が見当たらないことである。

それがロボットカーの「シェリー」だ。市販のアウディTTSを完全な自律制御に改造したクルマである。スタンフォード大学の機械工学准教授クリスゲルデス率いるダイナミックデザインラボと、フォルクスワーゲン・エレクトロニクス研究所のコラボレーションによる産物だ。今年の夏、サンダーヒルのコースにこのシェリーを持ち込み、最新のソフトウェアでの高速走行をテストした。高速走行でのハンドルの切り方や、アクセルを踏むタイミングの微調整を行ったのだ。

実際にトラックを周回させることで、シェリーにとっての貴重なデータを収集できる。いつかは、あなたや愛する人を、指定した場所まで安全に送り届けられる、完全な自律型ロボットカーとなる だろう。近い将来においては、サブ運転システムのようなものとしてクルマに搭載されるようになるかもしれない。それは、ドライバーが危険な状況に陥ったとき、そこから脱するのに役立つはずだ。クリスゲルデス准教授たちは、疾走するシェリーの姿を楽しんでいるようだが、本当の目的は限界を見極めることにある。たとえば、最後の周回でブレーキパッドが溶けてしまうかもしれない。そんな危機に瀕しているクルマが、どのような緊張状態にあるのかを把握できるのだ。そして、それが解消されるには何が必要なのかを知りうる。

一例をあげると、舗装された道路でのグリップ力を維持するための計算は、凍った路面で滑っている状態からの復帰にも応用できる。つまり、トラックを疾走するシェリーから、クルマのさまざまなトラブルを検証できれば、凍った路面で起こりうる危険の回避方法も見つけられるのだ。そう、クリスゲルデス准教授は話す。

プロドライバーの走り方との比較にも意味がある。

シェリーのプログラムによるコース取りとの違いは大きく、優秀なドライバーなら、シェリーよりも数秒早く周回する。

「プロドライバーは、とてもスマートに走ります」と、クリスゲルデス准教授は彼らの走りに感心する。シェリーの自律制御プログラムは、当然ながら計算上は最速と考えられるコースを選び、それを実行するための補正を正確に行いながら走る。人の場合には、それを感覚と勘で行うため、1周ごとに走り方が大きく変わる。そして、そのたびに速くなるのだ。

「プロドライバーの走り方が目標です」と、クリスゲルデス准教授は言う。「わたしたちは、それを取り込もうと考えています」

マツダ・レースウェイ・ラグナセカ(米カリフォルニア州)で、8月17日から19日までの3日間に渡って行われたレースイベント「ロレックスモントレー・モータースポーツ・リユニオン」において、それは実際に試みられた。プロドライバー2人に、体温や心拍数などを調べるためのセンサー一式を身に着けてもらい、レースに出場してもらったのだ。レース中のドライバーの脳活動の様子は、頭皮に取り付けた電極で調べられる。

そうして記録したデータは、レースカーからの機械的なデータと組み合わせて分析される。ちなみに、レースカーは1966年製造のフォードGT40。ルマン24時間耐久レースで初の総合優勝を果たしたアメリカ製の自動車だ。それに、ロボットカー「シェリー」と同様のフィードバックセンサーを搭載したのである。

「わたしたちは、すぐれたドライバーが、うまく走る方法を、どのように獲得しているのかを知る必要があります」と、クリスゲルデス准教授は説明する。「どんなに良い性能のクルマであっても、それをどのように走らせるのかということが、とても大切なのです」