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人の心が置き去りにされる−殺戮ロボット開発への警鐘

 

ロボット兵器は、急速に発展し、普及し始めている。戦場において、人に取って代わろうとしているのだ。一部の専門家は、こうした状況を危惧する。ロボット兵器は、ターゲットの選択と排除をすべて自動で行う「殺戮ロボット」へと変貌するおそれがあるからだ。そして、その殺戮ロボットは20〜30年以内に開発される、と予測する。

現在のところは、殺傷力の高い武器の使用は、人の意思決定によって行われていると、軍当局は説明する。しかし、それはあくまでも現時点での話だ。近い将来、ロボット自身がそうした意思決定までも行えるようになるかもしれない。Human Rights WatchIHRC(Harvard Law School’s International Human Rights Clinic)は、それが起こりうると考える。

そんな殺戮ロボットは、国際人道法上、許されるものではない。軍人のみならず、民間人が殺傷される危険性も増すだろう。

だからなのだ。そのような殺戮ロボットが戦場へ投入されてしまう前に、その開発と使用を禁止する措置が必要なのである。

ある専門家のグループは、完全に自律動作する兵器の利点と危険性について、軍関係者や科学者、倫理学者、哲学者、弁護士を交えながら、さまざまな角度から意見交換している。軍事的な効用やコスト、政治的な観点、そして生と死の決定権を機械に委ねることへの倫理面からの視点など が論点である。

フィリップ・アルストン法学教授(New York University School of Law)は、超法規的処刑についての国連特別報告書の中で、次のように述べている。
「人が制御する必要のない自律兵器のための技術開発は急速に進んでおり、そのなかには致命的な能力を備えるものも少なくない。特に問題なのは、人権や人道の立場からのチェックがまったくなされていないことだ」

人の生死を左右する自律兵器の登場は、もはや空想上のものではない。自律兵器の潜在的な利点と脅威について、公に検討するときがきたのである。

 

ロボット技術はこれまでも戦場で少なからず利用されてきた。しかし、最近は、その役割が増してきている。

よく知られているのは、プレデターリーパーなどの、武装できる無人偵察機だろう。これらを使うことで、兵士は安全な場所から、最前線の情報を得られた。手動操縦に切り替えて攻撃することもでき、その際にはターゲットの識別が自動的に行われた。

MQ-1B MQ-9

無人偵察機の利用頻度は高まっている。そのための支出額や政府計画書は、今後ますます軍隊の無人化が進むことを示している。アメリカ国防省では、戦争のための無人システムの研究や開発、調達、運用、およびメンテナンスに年間約60億ドルを費やしており、これからも増え続けることが予想される。

無人偵察機の普及は、殺戮ロボットの時代のはじまり、なのかもしれない。

ロボット兵士の戦争」などの著書で知られるP・W・シンガー氏は示唆する。
「無人偵察機のプレデターは、初の大衆車として広く普及したフォード・モデルTや、航空機の始祖であるライト兄弟のフライヤーのような存在と言えるでしょう」

現在の無人システムは、その自律性能から、いくつかの段階に分類できる。不調の際に基地まで自動的に戻る程度の自律性能は初歩的なものだ。高度な自律性能を備えたロボット兵器なら、ターゲットの識別から、攻撃の実行まで自動的に行うだろう。

幸いにも、現在のロボット兵器では、行動の最終的な決定権は人が握っている。武器の発射は、基本的には人の判断なしには行われない。無人偵察機の場合でも、自動識別されたターゲットへの攻撃の有無は、人が最終的に決定する。

しかし、開発され、導入されようとしているロボット兵器の自律性能は、拡大の一途をたどっている。このままだと、いずれは人の判断をまったく必要としないロボット兵器が生まれるおそれがある。

 

対艦ミサイル防御システム「ファランクス」のような自動防衛システムは、そうした全自動ロボット兵器への第一歩といえる。

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自動防衛システムは、ミサイルやロケットなどの接近を感知すると、それらを排除するべく、自動的に対処するしくみとなっている。人が関与するのは、ほんの数秒での認証、もしくは追認となる。

アメリカは、そのような自動防衛システムをいくつか開発している。

アメリカ海軍の対艦ミサイル防御システム「ファランクス」は、1980年から配備され、改良されたものが日本を含む同盟国でも使われている。ファランクスは、急接近する対艦ミサイルや敵機を感知すると、6つの銃砲身から毎分3,000〜4,500発の20mmガトリング砲を発射し始める。その弾道をレーダーで追尾し、銃身の方向を修正しながら、ターゲットを破壊するまで撃ち続ける。最新型では、より小型のターゲットにも対応できるようになる。

Counter-RAM(Counter-rocket, -artillery and-mortar)いわゆるC-RAMは、ファランクスの陸軍版である。アメリカ陸軍は、2005年に初めて、イラク戦争の最前線でそれを展開した。伝えられるところによれば、22機のC-RAMは、2,000回以上の警告を発し、100以上のロケット弾や迫撃砲弾などを迎撃したという。ファランクスと同様に、迫り来る砲弾に向けて、6銃身20mmバルカン機関砲を連続発射することができるのだ。C-RAMがターゲットを感知すると、「その後の行動をオペレーターが認証する」しくみになっていると、アメリカ陸軍広報の一人は説明する。ただ、急接近する砲弾を破壊するためには、その判断は瞬時に行われなければならない。

ほかの国でも、同等の防衛システムが開発されている。

イスラエルは、シナイ半島近くのガザ国境寄りとエイラットに、防空システム「アイアンドーム」を導入した。最大射程70キロの短距離ロケット弾や155mm砲弾を感知するためのレーダーを備え、20連装の迎撃ミサイルで武装する 自動防衛システムだ。

イスラエルのアイアンドームに財政支援するアメリカ国防省は、迎撃の成功率は80パーセント以上であり、「2011年4月に配備されて以来、多数のミサイルから、イスラエルの民間人を守った」と評価する。

被弾の恐れを検知した直後、アイアンドームはオペレーターへそれを報告する。オペレーターは、瞬時にその対処方法を決定しなければならない。そうしなければ、アイアンドームによる迎撃は間に合わない。

Flickr - Israel Defense Forces - Iron Dome Intercepts Rockets from the Gaza Strip.jpg

ドイツには、アフガニスタンでの最前線の作戦基地を守るために設計された、自動小銃防衛システム「NBSマンティス」がある。近距離でのターゲットの検出と排除を行う自動システムだ。3キロ以内に侵入したターゲットを4.5秒以内に検知し、それに向けて6銃身の機関砲を毎分千発で連続発射できる。

このNBSマンティスは、自動システムとして高いレベルにある。ターゲットの検出も戦闘行為も完全に自動化されており、オペレーターはそれをモニターで見守るのみとなっている。 詳細は公開されておらず、戦闘行為についての認証の有無は不明だ。

これらの防衛システムは、ターゲットを自動的に検出して迎撃する。人の関与はわずかなものなので、かなり自律的であるといえる。

シェフィールド大学のノエル・シャーキー教授は、自動化されたロボットと、自律型ロボットを次のように区別する。
「自動化されたロボットは、定められた環境下で、一連の動作が事前にプログラムされたものです。たとえば、自動車用のペイントロボットです。」
「自律型ロボットの場合は、そのような自動化されたロボットと似たところもありますが、環境を選ばない点が大きく異なります。プログラムで制御されている点は同じですが、各種のセンサーから必要な情報を得て、それをもとにアクチュエーターが 柔軟に調整されるようになっています。つまり、プログラムは規範であり、それに従ってロボットの動作が自律的に決まるのです。」

 

自律型ロボット兵器に、国際人道法を順守させる方法があるとするなら、それらに人間の資質を持たせるしかない。他者の意図を理解する能力が必要だ。ただ、そのような人の判断をロボットに適用するのは困難である。

自律型ロボット兵器の開発を推し進める者は、そんな人間性の欠如が逆に利点だと考えている。

ロボットであれば、恐怖や怒りなどの感情の影響を受けることがない。そのために判断を鈍らせることはなく、忠実に任務をこなすことができる。また、自らの犠牲を省みることなく、任務を遂行させられる。

しかし、そうした人としての感情こそが、民間人を巻き込まないための、最後の防護壁となっているのは疑いない。人としての感情の欠如は、その壁が崩れることを意味する。