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重症複合免疫不全症に侵された7歳の少年は、学校生活を取り戻すため、ロボットになった

 

7歳のデボン・キャロウ君は、遺伝子の変異により免疫に必要な細胞が産生されない「重症複合免疫不全症」に侵されている。感染が死につながる病気であるため、彼は清潔に保たれた自宅から出られない。 「VGo」と呼ばれるロボットが、そんな彼に登校の機会を与えた。VGoロボットは、彼に代わって授業に参加し、彼の意思どおりに校内を動きまわる。もちろん、同級生とも話すことができる。

重症複合免疫不全症は感染が致命傷となるため、デボン君は人生の大半を清潔に保たれた自宅で過ごすことになる。しかし、それは、彼が学校に行けないことを意味するものではない。

最新のロボット技術が、それを可能にする。VGoロボットが、デボン君の代わりに学校に行くのだ。

約8キロメートル離れた自宅の寝室から、デボン君は学校生活をおくる。ロボットを介して、授業で発言し、クラスメイトとおしゃべりする。

これは、ニューヨーク州のウエストセネカにあるウィンチェスター小学校における実際の出来事である。遠隔操作が可能なVGoロボットは、自宅のデボン君の意思どおりに動くことができる。デボン君を映し出す小さな液晶画面と、対面する人の姿を捕らえるカメラも備えており、テレビ電話のような会話も良好に行える。

デボンキャロウロード-Sperdutiための学校でVGOロボット デボンキャロウロード-Sperdutiための学校でVGOロボット

教室には、デボン君の机と席もある。授業で発言するときには、手を挙げる代わりに、LEDの光を点滅させて先生にアピールする。

母親のルネさんは、「ロボットは5千ドル(約40万円)しますが、それでデボンが学校生活をおくれるのであれば、決して高い買い物ではありません」と話す。「同級生は、VGoと呼ばず、デボンと呼びかける」のだそうだ。

VGoロボットは、デボン君そのものである。まぎれもなくデボン君はクラスの一員であり、他の子と同じように学校生活をおくっているのだ。

実際にはデボン君はそこにいないが、ロボットを使って他の子と同じように行動する。周囲も、特別扱いすることはない。

VGoロボットのカメラは、小学生の目線に合わせて設置されている。セグウェイのような二輪車なので、狭い室内でも自由に移動と旋回を行える。

ニューヨーク州のバッファローにある自宅のパソコンで、デボン君はそのカメラからの映像を見ることになる。先生の姿はもちろんのこと、黒板に書かれる文字も鮮明だ。教室の移動も不自由なく、同級生と一緒に行える。

こうしたVGoロボットの利用は現状では最適な方法だと、母親のルネさんは考えている。

彼女は次のように話す。

「デボンには、たくさんのアレルギーがあります。その発症は、デボンにとっての致命傷となりかねません。その原因となるものは普通に空中を漂っているので、他の子たちとの接触は、デボンを命の危険にさらすことになってしまいます。」

「たとえば、デボンには兄がいるのですが、そのディランが友人を自宅に連れてくるときには、その前に彼らの身体をゴシゴシと入念に洗って清潔にします。」

「彼らには清潔な服も用意します。十分にクリーニングしたものを、彼らに着てもらいます。こうしたことは、すべて、デボンのアレルギーに配慮したものです。」

「デボンは、これまでに3度、集中治療室に入りました。アレルギーが致命的な症状を引き起こしたのです。それほどひどくなるのはまれですが、ずっと入退院を繰り返しています。」

「ちゃんと手を洗ったかどうかなど、学校ではいちいち子供たちにたずねてまわることはできません。ちゃんと歯を磨いたか、うがい薬を使ったかなども、もちろん無理でしょう。彼らが食べたお菓子をいちいちチェックすることもできません。もしかすると、そのお菓子に、デボンのアレルギーを引き起こす成分が含まれているかもしれないのです。」

「そんな現実を考えるなら、安全な自宅から遠隔操作できるVGoロボットは、デボンにとって理想的なツールと言えます。学校生活は、子供時代における貴重な経験ですから。」

実を言うと、デボン君の家では、VGoロボットの利用は、学校が始まるまで話題にすらならなかった。地元の学校から提案されるまで、そうしたロボットのことを知らなかったのだ。

デボン君の通う学校のキャサリン・ブラッチマン校長は語る。「わたしたちは、デボン君の受け入れに躊躇することはありませんでした。 彼のことをすべて知っているわけではありませんが、彼はここにいるのです。たくさんの人が考えているように、わたしたちもチャレンジだと思います。わたしたちの学校でそれが実践されるのは、とても名誉なことです。」

デボン君を担任するジェニファー・スザック先生も言う。「VGoロボットを使えば、デボン君は自由に動いて話せます。芝生に誘えば、彼はちゃんとついてくるでしょう。手を挙げて発言するときには、代わりにLEDを点滅させてくれますから、まったく問題ありません。」

デボンは、生まれて6カ月の頃、アナフィラキシーショック症候群とともに、 呼吸窮迫症候群と喘息を発症した。医師による診断は、好酸球性食道炎の疾患と、食道におけるアレルギー性​​炎症反応、ということだった。

もちろん、学校に行けるはずもない。トウモロコシやリンゴ、ジャガイモなどによる食事制限で、やっと命を取り留めたのだ。

社会福祉士としてデボン君を支援するルネ氏は言う。「彼の症状は、時限爆弾のように、いつ悪化してもおかしくありません。ひどい皮膚アレルギーもあって、簡単に赤くうろこ状に腫れ上がってしまいます。ひびが入ったようになってしまうこともあって、そんなときにはペンすら持つことができません。洗濯用の柔軟剤の香りでさえ、彼の喉を腫らしてしまうことがあります。だから、彼は周囲とほとんど接触できないのですが、できることがあるなら可能な限りやらせてあげたい。生きることの喜びを知ってほしいのです。」

命を落としかねないような、ひどいアレルギー反応がデボン君にあらわれたとき、同級生は「早く良くなってね」カードを彼の家族に届けた。そこには、液晶画面でしか会ったことのないデボン君の顔が描かれていた。彼らが実際に接しているのはVGoロボットだが、その向こうにいるデボン君を彼らははっきりと感じ取っていたのだ。

ルネ氏は続ける。「学校がデボン君を受け入れてくれたことにとても感謝しています。重病の身でありながら、頑張っているデボン君も立派だと思います。」

デボン君の家には、教室を模した部屋が作られている。先生が作ってくれたものだ。

その壁にはホワイトボードがかけられ、デボン君の毎日のスケジュールが記されている。実際の教室と同じに、アルファベットや数字、動詞や副詞などを学ぶための張り紙もある。