オルタナティブな「規制」への途

加筆修正98/09/24
(不正確な事実を訂正)

 

 企業の在り方を変える方途として、自主規制でもなく社会的規制でもない第3の途は存在するのでしょうか。

 現代企業は、「私的なもの」と「公的(社会的)なもの」の矛盾的統一体として存在しています。しかし、その「本質」は「私的なもの」にあります。

 したがって、そのような存在を、「社会的なもの」として、言い換えれば、「組織」として、「存続」させるためには、なんらかのデバイス(device)が必要になってきます。そのデバイスが有効に「機能」しなければ、企業はその「本性」に従って「利潤追求」の「装置」にとどまり続けることでしよう。
 
 企業評価方式の確立はそのようなデバイスの1つと思われます。ヨリ具体的に言えば、現代企業をめぐるステイクホルダ−ごとに、義務(権利)を「評価」に耐えられるような項目としてヨリ具体的に「編成」し直し、それらを、特定の評価方式のなかに、組み込むことによって、ビジネス倫理学的な立場から、現代企業の活動を評価する、方式、を構築すること−−−これが具体的な提案となります。

 別の表現を使えば、企業をモラル主体として見なし、スティクホルダ−との間に各種の権利と義務を相互に請け負った、契約の当事者と想定し、企業の「自由な」活動に一定の制約を課し、そのことによって「これまでとは別の意味で」(⇒「新しい一定のル−ル」の下で)「自由な競争」を展開させること −−− これが現地点で構想している「途」です。

 ただしそのためには、スティクホルダ−との間の権利と義務を明確にする必要があります。だが、現代企業をめぐっては各種のステイクホルダ−が様々な利害関係を有し、自己の権利を主張しているために、その内容は多岐に渡るモノとなるでしよう。しかもそれらはあくまでも(そのような権利もあり得るしまた正当化されることもある、という意味での)「可能性」としての権利(そして義務)であり、当然、提示される責任(義務)には異論がでてくることが予想されます。それ故に、この作業は時間がかかる困難な方向となると思われますが、「たたき台」はすでに存在しつつあります。

 最後にそのような「たたき台」の1つとして、「コ−(Caux)円卓会議」によって、1994年に、提示された企業の行動指針のなかで明示されている原則(各々のステイクホルダ−に対する責任)、を紹介しておきます。但し、以下の引用では、責任を義務に読み替えてあります。
 
株主(オーナー、投資家)に対する義務
・オーナーの投資に対して公正で競争力のある利益還元を保証するために、
 経営のプロとして企業経営に精励する。
・法的及び競争上の制約が許す限り、オーナーや投資家に対して関連情報
 を公開する。
・オーナーまたは投資家の資産を保持し保護し増やす。
・オーナーまたは投資家の要請、提案、苦情、そして正式な決議を尊重する。

従業員に対する義務
・仕事と報酬を提供し、働く人々の生活条件の改善に資する。
・一人ひとりの従業員の健康と尊厳を尊重した職場環境を提供する。
・従業員とのコミュニケーションにおいては誠実を旨とし、法的及び競争上の
 制約が許す限り情報を公開してそれを共有する。
・従業員の提案やアイディア、要請、不満に耳を傾け、可能な限りそれらに
 則って行動する。
・対立が生じた際には誠実に交渉する。
・性別、年齢、人種、宗教などに関する差別的な行為を防止し、平等な待遇
 と機会を保証する。
・適材適所を旨とする。
・従業員を職場において防ぎうる障害や病気から守る。
・適切で他所でも使用できる技術や知識を、従業員が修得するよう奨励し
 支援する。
・企業の決定によってしばしば生じる深刻な失業問題に注意を払い、政府
 並びに被雇用者団体、その他関連機関並びに他の企業と協力して混乱を
 避ける。

消費者(顧客)に対する義務
・顧客の要請に合致する高品質の商品並びにサービスを提供する。
・ビジネス上の商取引のあらゆる場面において顧客を公正に遇する。それに
 は、高水準のサービス並びに顧客の不満に対する補償措置が含まれる。
・私たちの商品及びサービスを通じて、顧客の健康と安全並びに環境の質
 が維持され向上されるように、あらゆる努力をする。
・人間に対する尊厳の精神をもって商品を提供しマーケティング及び広告
 を展開する。
・顧客の文化を尊重しそのままの状態に保つ。

取引・関連企業に対する義務
・価格の設定、ライセンシング(知的所有権の実施許諾)、販売権を含む
 すべての企業活動において公正と正直とを旨とする。
・企業活動が圧力や不必要な裁判ざたによって妨げられることのないよう
 にする。
・仕入先と長期にわたる安定的な関係を築き、見返りとして相応の価値と
 品質、競争力及び信頼性の維持を求める。
・仕入先と情報を共有し、計画段階から参画させる。
・仕入先に対する支払いは、所定の期日にあらかじめ同意した取引条件で
 行う。
・人間の尊厳を重んじた雇用政策を実践している仕入先や協力会社(下請
  け)を開拓し奨励し選択する。
・貿易と投資に対する市場の開放を促進する。
・社会的にも環境保全の面においても有益な競争を促進するとともに、競
 争者同士間に相互信頼の関係を築く。
・競争を有利にするための疑わしい金銭の支払いや便宜を求めたり、関与
 しない。
・有形財産に関する権利及び知的所有権を尊重する。
・産業スパイのような不公正あるいは非倫理的手段で取引情報を入手する
 ことを拒否する。

地域共同体に対する義務
・人権並びに民主的活動を行う団体を尊重し、可能な支援を行う。
・政府が社会全体に対して当然負っている義務を認識し、企業と社会各層
 との調和のある関係を通して人間形成を推進しようとする公的な政策や 
 活動を支援する。
・健康、教育、職場の安全、並びに経済的福利の水準の向上に努力する地
 域社会の諸団体と協力する。
・持続可能な開発を促進、奨励し、自然環境の保護と地球資源の保持に主
 導的役割を果たす。
・地域社会の平和、安全、多様性及び社会的融和を支援する。
・地域の文化を尊重し、そのままの状態に保つ。
・慈善寄付、教育及び文化に対する貢献、並びに従業員による地域活動や
 市民活動への参加を通して「良き企業市民」となる。

 この「コ−(Caux)円卓会議」の事例は、「共生」と「人間の尊厳」という倫理理念に基づいて、「国際的な倫理コ−ド」の確立という観点から、企業行動を評価するために具体的に制定された、「初めての」世界基準であり、ある意味では、「ハイパ−基準」ともいえるものですので−−−当然、個々の社会において「修正」が必要になってきますが−−−参考になるものと思われます。