三年後


「君が好きだ」
「私は白身が好き」

「僕の味噌汁をつくってくれ」
「じゃあ明日のお昼、私の部屋で用意しているから」

「一緒にお墓に入ろう」
「そんな趣味はないわよ」

「給料三ヶ月分のプレゼントが欲しくないかい」
「何で私がプラダのバッグ買いたいのを知ってるの?」


この三年間、心臓が口から飛び出すかという思いでした告白は、
ことごとく不発だった。

始末が悪いのは、彼女が(判っていて)うまくかわしているのか、
単に鈍感で、素にボケているのかが判らないことだ。
今さら、正面きって「結婚しよう」とは言えない。

「ごめんなさい。あなたとはお友達で…」などと言われたら、
立ち直れそうにもない。

そんなわけで、私は一つの仮説をたてるのだった。
「彼女は、私との結婚を望んでいない」

ずっと、内心そうだと思い込んでいた。
二人で花火を見に出かけた、あの日までは。


どーん
どどーん

全身に、重い音の波がぶつかってくるような感覚と、
夜空を彩る鮮やかな光に圧倒される。

ふと、となりを見ると、

少し口をあけて、空を見上げている彼女は、
「幼い」と言っても良いようなあどけない表情をしていた。

「かわいいな」

思わず口から出た言葉は、花火の合い間の静寂で、
しっかりと彼女の耳に届いてしまった。

「……」
少し驚いた表情の後、照れたような顔で言った彼女の言葉は、
特大の花火の音で聞こえなかったが、何と言ったのか私にはわかった。

「蹴ってから言うなよう」


例えきっぱり断られても、いい。

今夜は遠まわしな言葉はやめて、プロポーズをしてみよう。
すねの痛みが消える前に、そう決心した。

花火大会が終わっても、夜はまだ続く。





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