
| 1〉西洋医学的にみた膣炎 膣炎は西洋医学的には文字どおり「膣」の炎症 であり,感染性の膣炎が沢山ある。また,外陰疾 患は別のものとして取り扱っている。膣炎の症状 としては,帯下,かゆみ,疼痛,出血をあげるこ とが出来るが,これらの症状も診察により発生部 位を特定し,診断を鑑別していく。従って帯下が 多くても,子宮頸管由来の帯下であれば,診断名 は子宮頚管炎となる。膣炎は局所の炎症として診 断・治療し,感染性のものには,抗真菌剤、抗原 虫剤,抗生剤・抗菌剤,抗ウイルス剤など西洋医 学的診療を優先している。 非感染性のものには,ホルモン失調(エストロ ゲンの低下)による膣炎,いわゆる更年期及び更 年期以降の老人性膣炎に代表されるものがある。 西洋医学的には女性ホルモンの補充療法が行われ る。 2)漢方医学的な膣炎 これに村し,漢方医学的には西洋医学で行われ るような厳密な診断はなされない。膣炎という概 念はあまりなく,患者さんの訴えそのものが主体 となる。すなわち,帯下・帯下感,かゆみ・?痒 感,出血,違和感,下垂感といった捉え方になる。 膣炎の症状とは何だろうと考えると,代表的な 症状は帯下(おりもの,こしけ)である。漢方的 な見方からすると,膣炎イコール帯下と考えるこ とが多い。しかし患者側から出てくる訴えは,帯 下,かゆみ,あるいは痛みが多く,その他には出 血・違和感(重い感じとか,焼けるような痛さ, 何かが詰まっている感じ)・下垂感,脱感などが ある。 帯下とは,外陰部に流れ出てくるおりものであ り,最も一般的な膣内からの帯下の他に子宮頸管 部や,子宮内(子宮癌ということもある),さら には卵管や腹腔内からの帯下もある。外陰部から の分泌物・浸出液もある。出血も全く同じに考え られる。かゆみや痛みにしても,膣の中がかゆ い・痛いというように厳密に特定出来るものは少 なく,陰部がかゆいとか,膣の入口がかゆいとか, 外陰部のかゆみ・痛みのほうが一般的である。す なわち,膣炎には,外陰の炎症も含まれると考え たほうが理解しやすい。 以上のように,漢方では婦人科疾患一般といっ ても良いほどの症状を有している。古来中国では, 帯下は婦人科疾患の総称で,婦人科医を帯下医と 呼び,着物の帯から下の病気をさしている。 3)帯下について 漢方医学的には,女性の生殖器官を潤沢する津 液を帯下と呼び,内分泌の影響や加齢による変化, 感染物質の影響,物理的・化学的な刺激,末梢循 環の影響(冷えなど)に対する生体の反応として 出てくる。 帯下と帯下感は必ずしも平行したものではな く,更年期においては帯下が減少しているにも係 らず帯下感を強く訴えることがある。 おりもの(帯下)は,色や性状から白色帯下 (白帯下),黄色帯下(黄帯下),血性帯下〈赤帯 下)など、に分けられる。白帯下は冷えなどによ ることが多く,黄帯下は炎症を伴った帯下であり, 赤帯下は出血を伴ったもので,出血場所は膣壁の みならず,子宮膣部,子宮頸管部,子宮体部,腹 腔内・卵巣卵管などからみられる。 4)更年期と膣炎 更年期と関連づけて膣炎を考えると,西洋医学 的な広い意味での膣炎を合併することはあるが, 主たるものは女性ホルモン(エストログン)の分 泌減少による萎縮性膣炎である。この時期の患者 の訴えの主なものは,帯下・帯下感,かゆみ・癌 疼感,乾燥・ひりひり感,すべりが悪くなった, セックスが痛い,出血・血性帯下である。これら の診断・治療が本題のメインテーマである。 原因は,エストロゲンの分泌低下による膣粘膜, 及び外陰皮膚の萎縮に伴う易炎症性・易感染性に あると考えられ,治療はホルモン補充療法が最も 効果的である。対症的にはクリーム・軟膏類が使 用される。滑りの悪さと痛みに対しては,リュー ブゼリーといった類いの潤滑剤が使用される。 更年期ということで,自律神経失調症的な症 状・訴えが主であり,ホルモン補充療法を行って 効果が出てくると,そういえば下の方の調子も良 くなってきたという具合に初めて局所の訴えが出 てくることが多い。局所症状は,細かく話を開く と出てくる訴えであることが多い。局所の治療に も,ホルモン補充がもっとも効果的である。 5)更年期の漢方療法 漢方療法が特に必要とされるのは,最近では好 んで漢方療法を第一に選択する患者さんが少なく なく,この場合は勿論,西洋医学的な治療中に副 作用が出現して治療を継続出来ない時には,漢方 療法が一つの選択である。また,簡単に治るけれ どもすぐまた何度も繰り返す時に,漢方診療を考 えてよい。あるいは,西洋医学的には治癒状態に あるのに,患者の訴えが続いている時にも漢方診 療の適応である。 更年期の漢方療法に特別の手法があるわけでは ない。漢方療法の一般的診療におけると全く同じ であるが,特には更年期に良くみられる訴えを細 かく聞き出し,四診をもとに,「証」を見出すこ とであり,「証」をもとにクスリを決めれば,お のずと症状は改善され,同時に更年期に良くみら れる症状および膣・外陰部の症状も軽くなりとれ てくる。更年期障害に対する漢方療法については, 別項で取り上げられているのでここでは触れな い0 漢方療法においても,ホルモン補充療法と同じ 作用の効果が期待出来る漢方薬はとくに有効であ る。陳2)は,八味地黄丸に同様な効果(エストロ ゲン類似物質の存在)があると報告,温経湯,当 帰苛薬散にもホルモンと類似の作用がみられる。 6)帯下の漢方療法 婦人の帯下は,水湿停滞の一つで,胃の痍湿が 溜り,過剰に流れ下り,膀胱に入り,大腸・小腸 から流れ出てくるものと考えられる。湿のうち内 湿・湿阻・湿熱・湿毒などが帯下の原因となる。 内湿は,脾虚で津液の運化が出来なくなり,体内 から生じた水湿は停滞して運ばれず,陽気を阻濁 し,寒湿となる。湿邪が脾胃を障害したことを湿 阻という。湿阻下焦が帯下の原因となる。湿熱は, 湿邪と熱邪が合併しており,湿証と熱証が同時に みられる。湿熱下焦は帯下の原因となる。湿毒は 湿毒の邪が子宮に流れ下り,生殖器官の組織を腐 食破壊し,臭く汚い膿液を排出する。 熱邪には外熱・実熱・熱毒があり,外熱は火熱 の邪に感受して発熱・下血・膿性帯下を起こす。 実熱は邪正の闘争が激しく,帯下病の帯下は多く, 黄色粘桐で臭く汚く,陰部に潰瘍を作る。熱毒で は子宮癌末期の膿血や悪臭の帯下となる。血熱は 陰虚血により出血が止まらなくなる。 脾は湿や帯下において最も重要な臓腑であり, 脾虚による転送機能が失調し,津液集中がおこり, 湿を形成し,女性ではこしけとなる。治療におい ても脾の治療が重要である。 治療は,陰陽・寒熱・虚実の判断が基本であり, 帯下の色調,性状を参考に方剤を選ぶ。補脾剤, 燥湿剤,清熱剤,補腎剤などが有効である。 主な処方は,竜胆潟肝湯は黄帯下,赤帯下を目 標とし,当帰芍薬散・加味逍遥散は水様の薄い白 帯下を目標とする。桂枝茯苓丸は,腹は充実し臍 下部に圧痛(?血)を目安とする。のぼせ,便秘, 左下腹部の庄痛が強ければ,桃核承気湯が良い。 炎症症状強く右下腹部庄痛あれば,大黄牡丹皮湯 を選ぶ。体力低下気味で冷え気味には温経湯を, 出血あり貧血気味には四物湯,のぼせあり下半身 の冷えには桂枝加竜骨牡蛎湯,虚弱で胃腸弱く冷 えには清心蓮子飲や柴胡桂枝乾姜湯が使用され る。更年期症状強く局所症状も強いものには,当 帰考薬散,加味逍遥散,桂枝茯苓丸,八味地黄丸 が良い。 7)かゆみの漢方療法 かゆみの原因は一つは,帯下や,皮膚の炎症に よる刺激によるもので,局所は湿潤している。こ の場合には,当帰芍薬散,桂枝茯苓丸,温経湯, 竜胆鴻肝湯などが用いられる。 もう一つは,皮膚が萎縮し乾燥してかゆいタイ プで,更年期および更年期以後に膣の入口や外陰 部のかゆみを訴えることは少なくない。一般に年 齢が増すとともに,皮膚が乾燥萎縮しかゆみを訴 えるようになる。全身皮膚とともに外陰部のかゆ みを訴えることもあるが,外陰部に限局したかゆ みのみを訴えることが少なくない。治療には抵抗 性で,なかなかかゆみがとれないことが少なくな い。西洋医学的には内服あるいは軟膏類のかゆみ 止めが使用されるが,漢方的には補剤,補腎剤が 用いられる。八味地黄丸,六味丸,牛車腎気丸, 補中益気湯,当帰飲子などが用いられる。 |
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